第3話

。零がそうなったと聞いたとき、にわかには信じ難かった。だがしかし、零が帰って来た時、それは確証に変わった。零は私のことを覚えていなかったのだ。たしかに会うのは久しぶりではあったが忘れてしまうほど長い間会っていないわけではない。それなのに忘れていたのだ。

私は少しばかり動揺してしまった。覚悟はしていたはずなのに。そのはずなのに、覚えていないという事実を突きつけられた時、ショックを隠すことが出来なかった。

に忘れられるショックというのはそれほど大きなものだった。

「ふぅ…。」

思わず溜息ためいきが出る。

「凜華お嬢様、本当によかったのですか?」

零と京魔が去った後、セレアさんは尋ねてくる。鋭い彼女には動揺を悟られていたようだ。

「問題ないよ。私は・・・。」

零が記憶を失う前は私と零は付き合っていた。

だけど・・・、あの事故、零が記憶を失った事故は私が原因で起きた。

私のせいなのだ。零の記憶喪失は・・・。

「やはり、零には凜華お嬢様との事を伝えるべきでは・・・。」

「ダメだ!零がそれを知ったら・・・、零はまた・・・私のために傷ついてしまう・・・。」

もう私は、零が私のために傷ついて欲しくない・・・。

「凜華お嬢様・・・。」

「本当に大丈夫よ。それより、今日のおやつはミルフィーユが食べたいな。」

セレアさんには笑顔で今日のおやつをリクエストする。

「は、はい。分かりました。」

セレアさんはそれ以上、何も言わなかった。私がこういう時におやつのリクエストをする時はこれ以上何も言わないでという意味があるのを理解しているからだ。

零へのこの想いは、隠さないといけない。私が零のことをどれだけ好きであろうとも・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

secretlove 音切 享楽 @otogiri-kyouraku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ