Epilogue

「何読んでんだ?」

「え?ああ、コレ?前世占いの本だよ」

 卒業式が終わり、未だ騒がしい教室を抜け出し、美羽みうしずくは屋上に来ていた。

「そーだ。しず君の前世占ってあげる。えーと、誕生日は――」

 2人はフェンスに寄り掛かって本を眺めた。

 しばらくすると、いつも騒がしいことで有名なカップルが現れた。

「あ。居た居た!探してたのよ!」

 朱梨あかりは美羽の元へ駈け寄り、本の表紙を見て言った。

「『前世占い』?」

「うん。今ね、しず君の前世を見てたの」

「あんた、そーゆーの好きよねぇ」

「だって気になるじゃん!」

 美羽と朱梨が楽しそうに盛り上がっていると、ひかるが口を挿んできた。

「えー、俺は?俺はー?」

「ひぃ君は……」

 誕生日の一覧表を目で追う。

「ゴキブリだって」

「げっ!ゴキブリ!?マジかよ……。聞かなきゃ良かった……」

「ゴキブリってお前……くくくっ……」

 美羽は能天気な笑顔を見せ、雫と朱梨は必死に笑いを堪えていた。

「朱梨はいいとしても、お前だけには笑われたくねぇ!」

 そう言って輝は雫を指す。

「そーゆー黒部はどーなんだよ!」

「えっ!?」

 雫のあからさまな反応を見て、輝はにやける。

「はは~ん。さては、お前も酷い結果だったんだな。なあなあ、どーなんだ?」

 輝は雫に訊かず、美羽に訊いた。

「ん?しず君はね――」

「ちょ、おまっ!」

 雫は美羽の腕を引き、輝から引き離した。

「絶対に言うなよ!」

「何で?“中世ヨーロッパの貴族の娘”なんて可愛いじゃんっ」

「なっ!!!」

 雫は崩れ落ちた。

「あれ?何で落ち込むの?」

「ふ~ん。“中世ヨーロッパの貴族の娘”なんだぁ……ぷ」

 輝は堪え切れず、噴き出した。

「『雫お嬢様ぁ~』ってか?ぷはははははは!!ぴったりじゃねーか!」

 自分が笑われた分を返すように、輝は腹を抱えて笑った。

 雫は更に落ち込み、フェンスに頭をもたれ掛ける。そんな姿を美羽はキョトンとした表情で見つめていた。

「あんた……その天然さ、凶器になってるわよ」

「え?凶器?どう言うこと?」

 天然を通り越してアホだと朱梨は思いつつ、自分も占ってもらった。

 美羽と朱梨は本を眺め、雫と輝は占いの結果について言い争っていた。

 4人が座って楽しく談笑していると、校舎へ続く扉が開いた。

「あ。居た居た。学校中捜していたのよ。鈴木さんが皆と一緒に写真を撮りたいって言うから樋口さんと前田君にも捜すのを手伝ってもらったのに……」

 瑠依るいは4人の元へ歩み寄ると困った顔を見せる。

 それに続いて、後ろから乙葉おとはが現れた。

「ミイラ取りがミイラに……」

 乙葉は少し怒った様子で4人を見下ろしていた。

「前田先輩、言いましたよね?『俺達に任せろ』って。なのに、こんな所で4人仲良く座って……。私と先生が捜し回っている中、くつろいで……。樋口先輩まで一緒に……」

 乙葉は怒りを通り越して泣きそうな顔で続けた。

「私はまだいいんです。でも、星井先生はもう1人の身体ではないんですよ!」

「鈴木さん、もういいから」

 瑠依は乙葉を宥め、本題に入った。

「とにかく、写真を撮りましょう」

 美羽は短大。雫は大学。朱梨は専門学校。輝は自営業の両親の手伝い。瑠依は産休。それぞれ別の道へ進み、高校に残るのは2年生の乙葉だけだった。

「別にこれが最後ってわけじゃないだろ」

 雫が思わず呟くと、乙葉は、

「先輩達はいいですよね!夢に向かって踏み出すんですから!私は独り淋しく残るんですよ!!?」

 と、怒っているのか泣いているのか分からない態度をとった。

「あー、泣かしたー」

 輝は先程の仕返しをまだしているのか、雫を責めた。

「え?しず君、乙葉ちゃんを虐めたの?」

「はあ?!!」

 輝の言葉を真に受けた美羽は、雫に悲しい顔を向けた。

「う……あー!もう!独りじゃないだろ!来年、俺の弟が入学すんだから!!」

 美羽と輝に責められた雫は自棄になり叫んだ。そんな姿に美羽はキョトンとし、その後ろで朱梨と輝は声を殺して笑った。

「ほら、写真撮りますよ!」

 三脚にカメラを設置し終えた瑠依は生徒達を宥め、タイマーをセットし、5人の元へ駈け寄った。

「はい、チーズ!!」

 カシャ



 6人は思い思いのポーズで撮り、気付けば昼時をすっかり過ぎていた。

 ぐぅ~

 誰かの腹の虫が鳴る。

「時間も時間だし、皆でご飯食べに行こっか?」

 朱梨の提案に皆賛成し、輝が出発の合図を掛ける。

「よーし!じゃあ、瑠依ちゃん先生の奢りで行くかー!」

「おー!」

 瑠依は苦笑しつつも、輝と朱梨の後を追って階段を下りていった。その後に乙葉も続き、美羽も歩き出した。その時、

「天野!」

 雫が引き止めた。

「ん?何?」

 美羽は止まり、屋上には美羽と雫だけが残った。

「あの……さあ……」

 雫は言い淀み、小さな溜息を1つ零し、口を開いた。

「後で話があるから……昼食べた後、時間あるか?」

「ん?大丈夫だよ」

 美羽は笑顔で答え、雫の手を取る。

「!!」

「ほら、早く行こう。皆、行っちゃったよ!」

 そして、雫の手を引いて階段を下りた。

「……はあ、駄目だな、俺……」

 雫は頬を僅かに赤く染めて呟いた。



 美羽と雫は先に校舎を出ていた4人の元へ合流すると、唐突に美羽が話し出した。

「ねえねえ。今、出逢った人同士って、前世とかでも出逢ってるらしいよ!」

「何よ、急に。また前世占いの話?」

 5人を代表して朱梨が言った。

「うん。つまりはね、私達、きっと前世でもお友達だったのかもねってこと」

 美羽が笑顔でそう言うと、皆も釣られて笑顔になっていく。



 ――大丈夫。きっとこれで最後じゃない。また逢えるから。



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