Ⅸ.Ares

 そこは白と黒の入り混じる不思議な空間だった。

 6人が居るのは正しくコロシアムで、中央には最初の試練で造った剣が宙に浮かんでいる。

「お互いに消すことが出来るのはその剣だけだ」

 アイアコスの声がコロシアムに響く。

「今から一時間、その剣を奪い合い、最後まで残った者にエリシオン行きのチケットを与える。消された者は勿論、一時間以内に1人にならなければ皆タルタロス行きだ」

「…………は?」

 アイアコスの言っている意味が理解出来ず、6人はただ立ち尽くしていた。

「どう言う……こと……?」

 べりぃが声を発したが、誰も返さない。各々、理解しようと必死だったのだ。

「嘘……でしょ……!?」

 キリアの口から思わず漏れたが、やはり誰も返さない。

「そんなことって……」

 遂にキリアは崩れ落ちた。

(子供達を殺めなくてはいけないくらいなら……)

 他の5人も戸惑い、動けなかった。

 暫く沈黙が続くと、ローラが最初に動き出した。

(皆をあれで消せばタルタロスに行かなくて済むんだ)

 ローラは中央に向かって歩みを進める。

(別に皆を蹴り落としてまでエリシオンに行きたい訳じゃない)

 ゆっくりだが確実に近付いている。

(でも、だからってタルタロスは嫌)

 手を伸ばせば直ぐに届く距離まで来ている。

(灯りのない場所は嫌!!)

 ガシッ

 ローラは柄をしっかりと握り締めた。

「ローラ?…………っ!!やめて!!お願い!!」

 べりぃは叫び、ローラの元へ駈け寄る。

(躊躇っちゃダメ!!所詮、皆赤の他人なんだから……)

 べりぃの掛け声に柄を握る手が汗ばむ。

「ローラぁ!!」

 ガシッ

 べりぃの手がローラの手を覆った。

「お願い……そんなこと、しないで!」

(躊躇っちゃダメ!!)

 バッ

「ああ!!」

 ローラは振り払う様に剣を握ったまま腕を動かし、べりぃを剣で押し飛ばす。

「べりぃ!!」

 今まで止まっていたれいんがべりぃの元へ駈け寄った。

「大丈夫か?」

「……うん。ちょっと服が破けただけ……」

 6人が造った剣は一応切れるが切れ味は最悪だった。だが、そのお陰で服だけで済んだ。

「……あ」

 べりぃは何かに気付き、思わず漏れた声にれいんもそこを見る。

 破けた服の、本当に僅かな部分だけだったが、光の粒に変化していた。

「貴様……!!!」

 ダッ

「れいん!?」

 れいんはローラの元へ駈けながら手の中に力を込める。それに気付いたべりぃは叫んだ。

「ダメ!!」

 が、遅かった。れいんの手からは黒い炎が放たれていた。

「!!!」

 ローラはその黒い炎を防ごうと剣を構えた。しかし、

「きゃあ!!」

 あまりの速さで剣が弾き飛ばされ、身体も後ろへと持って行かれた。

 カラーン

 飛ばされた剣が音を立てて遠くへ転がっていく。

「ローラ!!」

 光太郎が叫ぶと、ローラは弱々しく身を起こす。その隙にれいんは剣の元へ飛ぶ。

「待てよ!!」

 低空飛行していたれいんの背中に光太郎が覆い被さってきた。

「よくもローラに手を出したな!!」

 ガッ

 れいんの後頭部に思い切り腕を振り下ろした。れいんは地面に叩き付けられ、苦しそうに顔を歪めたが、直ぐさま黒い炎で反撃する。

「ぐっ!!」

 れいんの攻撃を受けた光太郎は数メートル飛ばされた。

「……っめえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 れいんと光太郎の争いは加速し、止められる雰囲気ではなかった。

「なんで……こんな酷いことをしなくてはならないの……?」

 座り込むキリアは力なく呟いた。

 そんなキリアの前に誰かが立ちはだかる。

 キリアはただ弱々しく見上げることしか出来なかった。

「ローラ……」

 そこにいたのはローラ。

 ローラもまた、弱々しくキリアを見下ろし、いつの間にか拾っていた剣を携えている。

「ごめんなさい」

 一言告げると瞳を固く閉ざし、両腕を天高く掲げた。

「ダメ!!」

 ダッ

 べりぃは慌ててローラの元へ駈け寄り、押さえ込む。

「こんなことしちゃダメだよ!!私達、お友達でしょ!?仲間でしょ!!?」

「放して!!」

「いや!!」

 べりぃは必死にローラを押さえ、ローラは必死にべりぃから逃れようとしている。

「なんでこんなことになってしまったの……?」

 キリアの視線はべりぃとローラから離れ、れいんと光太郎の方へと移された。

 2人も今まで仲良くしていたのが嘘だったかの様に、お互いを傷付け合う。

「ローラの邪魔すんじゃねぇ!!」

 ガッ

「くっ!」

 光太郎の打撃にれいんは顔を歪めたが、諦めずに立ち向かう。

「なんで、そんなにローラの肩を持つんだよ!あいつは俺達を消して行こうとしているんだぞ!お前だって例外じゃない!それでも肩を持つのか!?」

「そんなの分かってる!!分かってるけど……」

 光太郎は動きを止め、れいんも合わせて止まる。

「俺はローラの光になるって約束した。もう……見たくないんだ、あいつが闇を恐れて震える姿を。俺はどーなってもいい!でも、ローラだけは光に満ち溢れたエリシオンに行かせるんだ!!」

 そう言うと再び動き出した。

「初めてなんだよ!!誰かに『ありがとう』なんて言われたの。こんな温かい言葉は初めてで……だから守りたいんだよ!!ローラの意志も全て!!」

(俺だって……こんな気持ちは初めてなんだよ……だから、譲れない)

 れいんの目付きが一層険しく変わった。

 光太郎の拳はれいん目掛けて一直線に進む。しかし、当たる事なく宙を貫いた。れいんは今まで手加減していたのか、圧倒的な力で光太郎を地面に叩き付け、押さえ込む。

「くっ……あ……」

 光太郎は苦しそうに声を漏らす。そんな姿に気を取られることもなく、れいんは俯いたまま口だけを動かす。

「それ、違うだろ」

「何……が、だよ?!」

 光太郎は必死に逃れようとするが、れいんの力が強すぎて身動き出来ない。

「本当に大切に想っているなら……」

「は……な……せ……っ」

「……お前、気付かなかったのか?」

「はあ?」

「人を殺ったことがないのはローラだけなんだよ」

「!!!」

「もしかしたら、放火で人を殺してしまったかもしれない。けど、ローラは直接誰かが死ぬところを目の当たりにしていない。だから、殺した意識はない。生前の話でも人を殺したなんて一言も言ってないんだぞ?」

「…………」

「お前なら、殺った時の恐怖は分かるだろ。俺も、あの時は怒りに任せて殺ったけど、今なら分かる。とても恐ろしいことなんだって」

「…………」

「それをローラに味わわせていいのか?」

 何かに気付いたのか、光太郎は抵抗するのを止めた。すると、れいんも押さえ付けるのを止め、光太郎の上から退く。

 光太郎は身を起こし、呟く。

「初めてこんな気持ちにしてくれたローラの為なら何でもしたいって思った。あいつの笑顔を守る為ならって。けど……そーだよな」

 そう言うと、光太郎は立ち上がり、べりぃとローラの方を見た。

 ローラはキリアに向かって剣を振り下ろそうとし、べりぃはそれを押さえている。

 暫くすると動きが止まり、ローラは何やら俯いた。

「本当に恋しかったのは、炎じゃなくて灯り。温かい光……」

 何かを決心したのか、ローラは再び顔を上げる。

「光まであと少しなのよ!!今、ここで殺らなきゃ、もう届かなくなっちゃう!!どうしても邪魔をするって言うなら、先ずあんたから消す!!」

 そして、べりぃを振り払い倒れ込んだべりぃに向かって剣を掲げた。

 バッ

「!!!!」

 べりぃの前に光太郎が飛び出し、立ち塞がる。ローラは思わず止まってしまった。

 れいんはべりぃを庇うように入り、いつでも反撃出来る体制に入っていた。

「……退いて!!」

「…………」

 光太郎は無言でローラを見つめる。

「退かないなら、あんたから消すよ!!」

「…………」

 ローラは睨め付けるが、光太郎は黙ったまま動かない。

「そう……分かった」

 ローラは剣を握り直し、構えた。

「ローラ!!ダメ!!だって、こんなことしたって――」

「俺、言ったよな」

 べりぃの言葉を遮り、光太郎が入る。それにより、ローラの心に迷いが生じ始めた。

「女が傷付き、痛め付けられる姿を見ることに快感を得ていたって」

「はあ?今、私を痛め付けたいってわけ?」

 不気味な笑みと共にローラは言った。

「違う!!」

「!!?」

 光太郎の真剣な否定にローラは思わず怯んだ。

「俺が言いたいのは……」

 間を置いて続けた。

「相手を殺してしまった時、今まで味わったことのない恐怖が湧き上がった。とてつもないことをしてしまったって……」

 ローラは己の迷いを振り払う為に言い放つ。

「暴行してる時点でとてつもないことやってんだよ。気付かないわけ?馬鹿じゃないの?」

「確かに俺は最低な奴だ。けど、ローラに何が分かる!人を殺したことのないローラに!」

「分かりたくもないし」

「なら、それを捨てろ」

 光太郎はローラが握っている剣を指して言った。ローラは視線を剣に向けたが、直ぐに光太郎へ向き直した。

「あんたの言ってる意味、分かんない」

「何で分かってくんないんだよ!!」

「はあ?逆ギレ?アホじゃないの?」

 ローラと光太郎は互いに睨み合い、言い争う。

 皆はそれを見守るしかなかった。

「俺はローラにあんな思いさせたくねぇーんだよ!!」

「あんたに関係ないでしょ!!」

「関係あんだよ!!」

「はあ?意味分かんない。第一、私達既に死んでんだよ!!辛い思いって言ったって――」

「お前が好きなんだよ!!」

「…………え?」

 ローラは光太郎の発した言葉が信じられず、動きが止まってしまった。

「俺、何言って……」

 光太郎も自分の言ったことに驚きを隠せなかった。

「初めて会った時、ただの女でしかなかった。それがどんどん嫌いになって……。でも、こんなにも温かい気持ちは初めてで……」

 ローラは呆然と立ち尽くすことしか出来ず、光太郎は話を続ける。

「自分でもこんなこと言ったってのには驚いてる。嫌っていても、心の底ではそう想ってたから口に出たんだと思う。現に、俺みたいに辛い思いさせたくないって想ってる」

 光太郎の頬は赤く染まっていく。それを隠すように俯き、頭を掻き毟った。

 ローラは何処を見ているのか分からない状態で止まっている。

 光太郎はこの気まずい空気をどうにかしようと、俯いたまま口を開いた。

「この話は忘れていいから」

 顔を上げ続ける。

「とにかく、俺が言いたいのは、少しの間とは言え、俺達仲間だろ?仲間をタルタロスに落としてまでエリシオンに行っても辛いだけだと思う」

 べりぃは光太郎の言葉に頷き、ローラに近付く。ローラはようやく我に返り、光太郎を見た。

 光太郎はローラと目が合うと一度恥ずかしさから目を逸らしてしまったが、再び合わせて言った。

「で、でも、どーしても、俺達を落として行きたいってんなら……ローラになら、俺は……。ローラがそれで幸せだって言うなら……」

 ローラはまた俯いてしまった。べりぃはそんなローラを横から温かく見守る。ローラの瞳からは涙が流れ落ちていた。

(ここまで言われたら落とせるわけないじゃない……っ)

 カラーン

 ローラの手から剣が離れた。

「ごめっ……なさい……っ」

 涙声で謝るローラを見て、光太郎はローラの頭を撫で、れいんやキリアも集まる。

 そんな中、1人だけ動かない者が居た。それはミント。

 ミントは床に落ちた剣を見つめていた。

(皆さん、解ってない。本当の絶望を見たことがないから。“仲間”なんて、“友達”なんて、そんなの本当は存在しない)

 ミントは静かにその剣へと手を伸ばし、しっかりと握る。そんなミントの行動に気付いたのはキリアだった。

「ミント?」

「…………」

 キリアは不審に思い声を掛けたが、ミントは俯いたまま拾い上げるだけで、とても静かだ。

「ミント?」

 べりぃも心配して声を掛けるが、反応がない。

 モニターで監視している審判員も不審に思い、アイアコスが代表するかのように呟く。

「何かが切れた……」

 すると、ずっと黙り込んでいたミントが口を開いた。

「私は……此処で終わりたくない」

「ミント?何言って……」

 べりぃがミントに近付くと、ミントは近付かれるのを拒むように掌をべりぃに向けた。

「え?」

 ドンッ

 一瞬の出来事だった。今まで皆の視線はべりぃとミントに集中していた。しかし、その場にべりぃの姿は無く、ミントの周囲に何かが漂い始めていた。

 れいんは背後に視線を向け、叫んだ。

「べりぃ!!」

 それに気付いた残りの3人も振返る。

 そこにはミントの力で吹っ飛ばされたべりぃが倒れ込んでいて、身体のいたるところから血を流していた。

「え?何?どう言うこと!?」

 ローラは思わず光太郎にしがみついた。

 光太郎やキリアも状況を理解するのに必死で身動き出来ずに居た。

 べりぃの元へ駈け寄ったれいんは、べりぃを抱え声を掛ける。

「大丈夫か!!?」

 べりぃは苦しそうにしながらも、身を起こそうとする。

「……大丈夫。ミント……?」

 べりぃはれいんからミントへと視線を移し、じっと見つめる。その視線はとても悲しいものだった。

「そんな目で見ないでよぉ!!!」

 ミントは何かを解放するかのように叫び、周囲に漂う何かが一層大きく膨れ上がった。

「お友達ごっこなんて、もう、うんざり。所詮、皆自分が一番大切なんだからぁ!!!」

 次の瞬間、ミントの周囲に魔法陣が現れ、そこから光る弾が飛び出してきた。

 弾は360度、色々な方向へ飛び、その一部が光太郎とローラに向かって飛んできた。

「危ねぇ!!」

 ガバッ

 光太郎はローラを自分の胸に抱き寄せ庇った。

「ぐはっ……んっ!!」

 弾が直撃し、数メートル飛ばされた。その衝撃に負けぬよう、光太郎はローラを強く抱きしめる。

 その後も予測不可能な攻撃を躱すことは出来ず、ただじっと収まるのを待つしかなかった。

「光太郎!もういい。もういいからっ!!」

 光太郎はローラに笑顔を見せているつもりだったが、とてもそんな顔ではなかった。苦笑いすら出来ない程の痛みで顔は歪んでいくばかり。

「今度は私が光太郎を助けるから!だから……だから……っ」

 ローラは傷付いていく光太郎を胸の中から見つめることしか出来なかった。

「お願い止めてぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 ローラの叫びにれいんは2人の危機を察し、俯いたまま動かないキリアに声を掛ける。

「皆を一ヶ所に纏めたい。俺が光太郎とローラを連れてくるまでの間、べりぃを頼む」

 しかし、キリアは魂が抜けたかのように無反応だった。

「お前、一番年上だろ!“母”がしっかりしないでどうする!!」

 自分の元へ向かってくる攻撃を跳ね返しつつ、れいんは声を張り上げキリアに話し掛け続ける。不思議な事に、キリアに攻撃が当たることはなかった。

「お前がそうやってても何も変わらない!ただ、皆消えるだけ!お前はそれでいいのか!俺には分かる!独りになった時の辛さ!悲しさ!空しさ!ミントにその思いをさせる気か!?お前、言っただろ!俺達はお前にとって大切な“子”だって!“子”は“親”がいなきゃ生きていけないんだよ!!」

「!!!」

(そうよ。私……何やっていたのかしら……)

 キリアは漸く我に返り、刀を鞘から取り出し構えた。

「キリア……。よし、じゃあ、べりぃを頼む!」

「ええ」

 キリアは頷き、錆びた刀で攻撃を跳ね返しながらべりぃの元へ寄った。

 攻撃を受ければ受ける程、刃の綻びが増すが、決して折れはしなかった。



「光太郎!」

 れいんは攻撃を躱しながら漸く2人の元へ辿り着いた。

「遅ぇーよ」

 光太郎はローラをきつく抱き締めるのを止め、苦笑いを見せる。

「ごめんなさい。私の所為で……」

 ローラが泣くのを宥めるかのように光太郎はローラの頭を撫でた。

「2人仲良くやってるところに悪いけど、べりぃ達の所まで歩けるか?」

 こちらに向かって来る攻撃を跳ね返しながら、れいんは後ろの2人に訊ねる。

「大丈夫。今度は私が光太郎を助ける番!」

 そう言って、ローラは光太郎を抱えて立ち上がる。

「よし、じゃあ行くぞ」

 ローラは頷き、歩き出した。

 れいんは360度あらゆる方向に気を配り、向かって来る弾に黒い炎で応戦した。

 ローラはただただ前に進むことだけに集中して歩みを進める。

「ごめんな……」

 光太郎が弱々しく言うと、ローラは首を振って答えた。

「謝らないで。光太郎は私を庇ってくれただけなんだから。光太郎がこんなになってまで私を庇ってくれてなかったら、動けずに消されるのを待つだけだったと思うから。だから……ありがと」

 ローラの言葉に光太郎は凄い痛みを忘れてしまう程の温かい気持ちに包まれていたが、比例するように、身体が動かないことに対しての悔しさが増す。

「……あ」

「何?」

 光太郎は何かに気付き、思わず声を漏らしていた。

「あー……いや、何でもない」

 こんな時に不謹慎だと思い、心の中だけに仕舞っておこうと思った。

「何よ、気になるから言いなさいよ」

 だが、ローラが掘り返す。

「いや……でも……」

「もう、ハッキリしないわね」

 ローラは光太郎のハッキリしない態度に苛立ちを覚えていた。そんなローラに光太郎はようやく口を開いた。

「殴ったりしないって約束するか?」

「はあ?こんな時に殴るとか……あんた、私のこと何だと思ってんのよ!」

「いや……だって……」

「殴らないわよ。気になるからさっさと言いなさい!」

「うぅ……。この位置からだと……手が……」

「手?」

 ローラは自分の肩に回している光太郎の手を見た。丁度胸の辺りにあった。

「……なっ!!!!」

 思わずそのまま背負い投げしてしまいたくなる衝動に駆られたが、何とか抑え込んだ。

「こ、こんな時に何考えてんのよ!!馬鹿アホドジ変態!!!!」

「そんなに言わなくてもいいだろ!」

「五月蝿い!!怪我人は黙りなさいよ!!」



 べりぃとキリアの元に辿り着いたれいんは4人に固まるよう言い、ドーム状のシールドを張った。

「こんな便利なもんがあんなら、最初っから出せよ……」

 光太郎が弱々しく言うと、

「これも長くは続かない。早くミントをどうにかしないと……」

 れいんの言葉にキリアは頷き、打開策を練る。

「べりぃと光太郎はとても動ける状況じゃないし……れいんはシールドを張るので精一杯でしょ?」

 れいんはその事実を認めたくなかったが、渋々肯定した。

「となると、動けるのはキリアと私だけ……」

 ローラが言うと、キリアは頷く。

「今、ミントに近付くことは難しいわ」

 ミントの周囲には大量の魔法陣が敷かれており、攻撃を躱しつつミントの元へ行くには厳しい状況だった。

「私の炎で気を散らせる程度なら出来るかな?」

 ミントの状態を見る限り、正気を失って暴走しているとしか思えなかった。

「それでも……おそらく、攻撃が弱まることは無いわね。だからと言って、ミントを直接傷付ける訳にはいかないし……。正気に戻すにはどうすれば……」

 考えても考えても打開策は見つからず、時間だけが刻一刻と過ぎて行くばかり。

 そんな状況にれいんは額に汗を滲ませていた。

「大丈夫?」

 べりぃは優しく声を掛けた。

「ああ……」

 れいんの息が上がって来ているのを見て、残された時間はもうそんなにないと判っていた。

「こうしていても仕方ないわ。正気に戻せるか分からないけれど、やってみましょう」

 キリアの意見に皆賛成だった。

「ローラは私の援護をお願い。れいんはべりぃと光太郎をしっかり守るのよ。私はミントに近付いて……」

 キリアは言い淀み、トーンを下げて続けた。

「私、ちゃんと母親になれるかしら……」

 その言葉にべりぃが代表して言う。

「キリアは私達のお母さんだよ」

 べりぃを筆頭に、残りの3人も次々に笑顔を見せる。

「皆……」

 笑顔のローラは一歩踏み出し、口を開く。

「何だかんだ言って、やっぱり、この中で一番ミントを気に掛けてたのはキリアだと思う。その想い、ミントに伝わってると思うし……大丈夫。キリアが声を掛けてあげれば戻って来てくれるよ。さぁ、行こう?」

「ローラ……ええ、行きましょう」

 ローラとキリアはミントに視線を移し、見据える。

 そして、勢いよくシールドから飛び出した。

 キリアを先頭に、ローラは後方から進行の妨げになる攻撃を追撃する。

(私、何も出来なかった)

 キリアはミントが正気を失うまでを振り返っていた。

(べりぃはローラを。れいんは光太郎を。それぞれ“約束”を成し遂げる為、何より仲間の為に行動していたのに、私はただ見つめることしか出来なくて……)

 ローラが追撃しきれなかった攻撃をキリアは躱しつつ、前に進む。

(4人が争っている中、私は自分のことしか考えていなくて……。あの時、ミントはどんなことを考えながら見ていたの?友達に裏切られた時のことを思い出していたの?あの時、私がミントに気を配っていたら、そんな悲しい思い出を蘇らせずに済んだ?私が……私が……)

 ミントにこんな事をさせてしまう前に止められなかった自分を何度も悔やむしかなかった。

(私が行ったところで何も変わらないかもしれない。けれど、この手が届けば……。あの子はまだ母の温もりが必要な年頃なのよ……だから……っ)

「ミントーーーーー!!!」

 キリアが叫ぶと、それを拒むかのようにキリアの元へ集中的に弾が向かってきた。

「!!!!」

 キリアはあまりの数に一瞬怯んでしまった。

 しかし、ローラがキリアの周囲に炎の渦を走らせ、無傷で済んだ。

 そんな連携プレイに邪魔をするなと言わんばかりに、今度はローラに的が集中した。

「ローラ!!!!」

 思わず叫んだべりぃの声にキリアが振返ると、もの凄い爆発音が鳴り響き皆は凍りついた。

「うそ……でしょ……っ?!!」

 キリアの動きが鈍り始めた時、煙の中から服や肌が焦げて黒くなっているローラが現れた。ローラは弾がぶつかる直前に、自分の肌すれすれの所を炎で埋め尽くし、直撃を避けたのだった。

「私なら大丈夫だから早く行って!!!」

 キリアは頷き、ミントの元へ駈け寄った。

 ガシッ

 キリアはミントを抱きしめ、優しく声を掛ける。

「ミント」

「…………」



 ミントは暗闇に居た。

 そこは温かくも冷たくもない、何もない場所。ただの暗闇としかいえない場所。

 ――……?

 背後から何かを感じ振返ると、そこには小さな光があった。

 ――何?

 その光は仄かに温かく、ずっと昔に感じたことがあるような懐かしさがあった。

 ――この温もりは……



「お……か…………さん……」

「!!!……ミント……。そうよ、お母さんよ」

「キリア!!横!!」

「え?」

 一瞬の出来事だった。ミントの言葉に気を緩めてしまった所為か、キリアは横から飛んでくる弾に気付かず無防備な状態で激突された。

 数メートル飛ばされ、その後も数メートル地面を転がる。

「うそ……いや……キリアぁぁぁぁぁ!!!!」

 キリアはべりぃの叫び声にも無反応でピクリとも動かない。

「キリア!!……っ?!!」

 ローラも又、キリアの元へ駈け寄ろうとミントに背を向けた瞬間、横からきた弾に激突された。先程自分の身を守るのに大量の魔力を使った為、なすすべなく飛ばされた。

「嘘だろ!!?ローラ……ローラぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 光太郎は動かない身体を必死に動かそうと上体を両腕で支えるが、足には力が全く入らず、その怒りを地面にぶつけた。

「何で……何でっ!!動けよ足!!ローラのピンチなんだぞ!!……くそっ……くそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ローラとキリアの周りには血が溜まっていた。そして、広がる先が光の粒となり血溜まりがゆっくりと消え始めていた。

「くそっ……どうすれば……」

 れいんは背後に居るべりぃと光太郎の状態を考えると、シールドを破って倒れている2人を助けに行くことは出来なかった。

「れいん……」

 光太郎は俯いたまま声を掛ける。

「ローラを助けてくれ……。俺はどうなってもいい。だから、お願いだ!今動けんのはお前だけなんだよ!!」

「それは……出来ない」

「何でだよ!!」

「俺が助けに行ってる間、お前達は無防備になってしまうから……」

「今、明らかに俺らよりもローラ達の方がピンチだろ?!!」

「…………」

 れいんは答えず、べりぃを見る。

(そんなの分かってる。けど、俺にだって守りたい人が……)

 そんなれいんの心情を察してか、べりぃは口を開いた。

「お願い。ローラとキリアを助けてあげて。このままじゃ、2人共消えちゃう。皆でエリシオンに行くって約束したんだから、1人でも欠けちゃダメなの。だから……」

「それでも俺は……」

 れいんは頑なに動くことを拒んだ。

 確かに約束はしたが、その為にべりぃを危険な目に遭わせたくないから。

 どうしても聞き入れてくれないれいんにべりぃは諦めるしかなかった。

「分かった。そんなに嫌ならもういい。私が行く」

「なっ?!お前、そんな身体であそこまで行けるわけ――」

「行くの!!」

 れいんの言葉を遮ってべりぃは声を張り上げた。

「何があっても、あそこまで行くの!!」

 れいんはシールドの外に出ようとするべりぃの腕を掴んだ。

「放して!」

「だって、お前……」

 心配そうにするれいんに今度は優しく言う。

「れいんは光太郎を守って。私なら大丈夫だから。ね?」

 れいんは何も言い返せず、腕を掴んだまま黙り込んでしまった。

「十分休んだし、この状況で動けるのって私だけなんだから怠けてなんかいられない。だから……ね?」

 れいんはべりぃの言葉に漸く手を放した。

「ありがとう」

 にっこり笑顔を見せ、べりぃはローラとキリアの方を見た。

「べりぃは此処に居ろ」

「え?」

 れいんのさっきまでとは違う制止の言葉にべりぃは振り向いた。

「俺が行く。その代わりに……」

 れいんはべりぃから光太郎に視線を移し続ける。

「ローラを助けに行ってる間は光太郎、お前がべりぃを守れよ」

 光太郎が動けないと分かっていながらも、れいんは光太郎を信じて頼んだ。

「ああ、分かった。そーゆーれいんも、ローラのこと頼んだぞ」

「ああ」

 そう言うと、れいんはシールドを破り、ローラとキリアの元へ飛んで行った。

「べりぃ、れいんとの約束を守る為にも動くなよ」

「え?!!」

 予想以上に驚いた反応をするべりぃに光太郎は嫌な予感がした。

「もしかして、どっか行こうと考えてただろ……」

「…………」

 べりぃは何も答えず、れいんを見つめた。

 れいんは弾が行き交う中を飛んでいた。時々こちらにも弾が飛んでくるが、ミントから結構な距離がある上に、れいんが気を引いてくれているお陰で、そこまで大量には飛んで来ない。

「ねぇ、光太郎。今、私達には何が出来ると思う?」

 べりぃはれいんを見つめたまま、光太郎に顔を見せる事なく質問した。

「何って……」

 少し考え、答える。

「俺には何も出来ない。皆には不思議な力があるけど、俺にはそんな漫画みたいな力はないし……。しかも、足が全く動かない。痛みすら感じなくなってきたから、どーなってんのかも分かんねぇ。ホント……情けねぇ……」

 遣る瀬ない気持ちから、光太郎は地面を叩く。

「そんなことないよ。きっとローラには光太郎の声が聞こえてると思う。私も……」

 れいんからミントに視線を移す。

「……聞こえるかな?」

「まさか、お前……っ?!」

 べりぃは漸く光太郎に顔を向けた。それは穏やか過ぎるくらいの微笑み。

「光太郎はちゃんとローラに声を掛け続けなきゃダメだよ」

 そう言うと、べりぃはミントに向かって飛んで行った。



「大丈夫か?」

 ローラの元へ着いたれいんは声を掛ける。

「…………」

 声は出ていないものの、口は微かに動いていた。

 ローラを抱え、今度はキリアの元へ駈け寄ろうと立ち上がると、視界にべりぃの姿が入った。

「なっ!!?」

 れいんはべりぃを連れ戻そうと動くが、次々に放たれる弾に遮られローラを抱えたままではとても向かうことすら出来ない。

「くそっ……待ってろって言ったのに……」

 れいんは仕方なく、キリアの方へ向かった。



 ――私だけ何処か違う場所に居るみたい。

 真っ暗な世界に燈る小さな光にはローラを抱えながらキリアの元へ歩みを進めるれいんが映し出されていた。

 ――私はどうして此処にいるの。

 キリアの元へ辿り着いたれいんは、キリアも抱え、光太郎の元へ戻ろうとしている。

 ――なんで、れいんさんは皆の為にあそこまでするの。

 今までシールドを張っていた上に、今は女2人を抱えている状況から、れいんの疲労は限界を超えているはずだった。それでも歩みを止めないれいんに、ミントは疑問を抱いていた。

『ミント』

 ――!!!?

 何処からか自分を呼ぶ声が聞こえた。フィルターが掛かっているかのようで、誰の声なのかハッキリとは分からない。

『ミント』

 ――……べりぃさん?

 何となくそんな気がした。

『戻ってきて』

 べりぃと思われる声がする方に手を伸ばしそうになったが、直ぐに引っ込める。

 ――嫌。

 ミントは蹲り、耳を塞いだ。

 ――仲間、友達、友情。そんなの存在しない!所詮、人は皆、誰かを踏み台にして行くんだから!



「な、なんだ?!」

 ミントの放つ弾は勢いを増し、数も倍増していた。周囲を取り巻く不穏な空気もどんどん重くなっていく。

 そんな中、漸く光太郎の元に辿り着いたれいんは最後の力を振り絞って再びシールドを張った。

「くっ……さっきよりも重い……」

 シールドには亀裂が走り、今にも壊れそう。

「お、おい……大丈夫なのかよ?」

 光太郎はローラの手を握り、れいんに訊ねる。

「くっ……」

 れいんは答える余裕がない程、シールドに力を集中させていた。

 ピキッ

 れいんの顔がどんどん歪み、それに比例するかのように亀裂も広がっていく。

「べりぃ……」

 思わず声が漏れたれいんの視線の先には傷だらけのべりぃが居た。

 べりぃの翼は黒く焼け焦げ、痛々しくなっていた。

 それでも歩みを止めず、何度攻撃を受けても立ち上がり、進む。

「……い……や……」

 ミントの口が微かに動いた。

「来ないでぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 ミントが叫ぶと更に魔法陣が現れ、更に大きな弾を飛ばしてきた。

「ぁあ……っ」

 大きな弾はべりぃを掠め、後方のシールドへ衝突した。

「くっ……光太郎……」

 もう耐えられないことを感じ取り、れいんは光太郎に告げる。

「最後は自分で守ってやれよ」

 パリーーーーーーーーン

 れいんが告げ終わると同時にシールドは破られ、中に居た4人はバラバラに飛ばされた。幸い、光太郎はローラの手をしっかりと握っていた為、2人は離れることなく同じ方向へ飛ばされていた。

「みんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 べりぃは思わず弾が飛んでいった方を振り返っていたが、再び視線を戻すとミントは頭を抱えしゃがみ込んでいた。

「ミント……」



 ――心も身体も、何もかもが痛い。

 暗闇の中でミントは震えていた。

 ――所詮、ただの他人なのに。

 ミントは光に映り込んでいるべりぃを見た。べりぃもまた、此方を見ていた。傷だらけで辛いはずなのに、とても穏やかな表情で見られている。

 ――痛い。

 べりぃは両手を差し出す。

 ――痛い。

『ミント、戻っておいで』

 ――痛い!

 そのまま、べりぃは近付いてくる。

 ――何でこんなに痛いの!?

 べりぃが近付いて来れば来る程、痛みが増す。

 ――ああ、そうか。あれが原因。今まで痛くなかったもの。全て、出逢ってから始まってしまったんだ。

 ミントは手に持っていた剣を握り直した。

 ――皆さんを消せば、痛くないんだ。

 そう思った瞬間、視界が晴れ、クリアにべりぃが見えた。

 ミントはべりぃの元へ駈け、剣を振り上げる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 雄叫びを上げるミントに怯むことなく、べりぃは微笑みを向け続ける。

「ミント」

「?!!!」

 あまりにも優しいべりぃの声に、逆にミントが怯んでしまった。

 ミントはべりぃに剣を振り下ろすことが出来ず、ただ突進する形になり、2人一緒に倒れ込んだ。

「……くっ」

 ミントは今度こそと、べりぃに馬乗りになり剣を掲げる。

「ミント」

「っ!!!」

 べりぃはただただミントを優しく見つめるだけで動こうとすらしていなかった。

 ――ミントを信じているから大丈夫。

 そう言っているかのように。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 キーーーーーーーーーーーン

 叫び声と共に剣はべりぃ目掛けて落とされた。

「……何で……何でっ」

 しかし、ミントはべりぃに止めを刺すことが出来ず、剣はべりぃの顔擦れ擦れの所で地面に刺さっていた。

「何で……っ!」

 ミントの瞳からは大粒の涙が流れ出していた。

「何で、止めを刺せないの!!?」

 泣きながら悔しそうに叫ぶミントに、べりぃは優しく声を掛ける。

「ミントは大切なお友達。仲間だもん。皆一緒にエリシオンへ行くって約束したんだから。私達はミントを信じてる」

「うあぁぁあぁぁぁぁぁ……」

 ミントは叫ぶと力尽きたのか、べりぃの胸へ倒れ込んだ。同時に魔法陣が消え失せ、静けさが戻ってきた。

 そんなミントをべりぃは優しく抱きしめる。

「……いっそ……して……」

「ん?」

 あまりにも小さい声で聞き取れなかったべりぃは訊き返した。

「いっそ、私を消して!!」

「!!?」

「痛いんです!!身も心も、全て!!」

「出来ない」

「その優しさが、私にとって凶器なんです……」

 ミントはべりぃから離れ、自分の首に剣を突き付ける。

「ダメ!!!」

 ドンッ

 べりぃは思わずミントを突き飛ばしてしまった。その衝撃からミントは剣を手放し尻餅を付いた。

 予想以上に軽いミントにべりぃは驚いた。

「ご、ごめん……大丈夫?」

 能天気な声に、又もやミントは怯んでしまった。

 その隙に、べりぃは剣を手に入れる。

「ごめんね。私だけじゃなくて皆も多分望んでると思うから……」

 倒れている4人を眺め、べりぃは剣を天高く掲げた。

「何を……っ?!!」

 べりぃはミントに笑顔を向けると、勢いよく剣を地面に叩き付けた。

 キーーーーーーーーーン

「そんな……」

 剣は2つに割れ、光の粒となって消えた。

「何で……」

 俯き静かに涙を流すミントに対し、べりぃは灰色に染まっているだけで何もない天を見上げた。

「何処に居るのか知らないけど、見てるんでしょ!!私達は誰にも消させはしない!!6人揃って行かなきゃ意味がないから!!1人にならなきゃ行けないと言うなら私達は行かない!!例え、タルタロスに落とされても、6人で這い上がってみせる!!」

 べりぃは握り拳を天高く掲げて続けた。

「約束したんだ!!6人で行くって!!私達の絆はこんなことで切れたりしない!!ね?」

 べりぃは天からミントへ視線を移して笑顔で問いかける。

「べりぃさん……」

「……そうだ」

 音は小さいが意志は太くしっかりとした声が聞こえた。

「れいん!」

 れいんは少し上体を上げ、口を開く。

「どんなになろうと、俺達は消えたりしない。誰ひとり消すことは出来ない」

「俺らの絆はそんなに脆くねぇんだよ。な?」

「ええ」

 光太郎の問いかけに傍にいたローラが頷く。

「ミント、貴女は独りではないわ。皆がいる」

 キリアのその言葉に皆が頷く。

 気付くと、倒れていた4人の視線はミントに集中していた。

「皆さん……」

「ほらね。皆、ミントに消えてほしいなんて思ってない。6人揃ってエリシオンに行くの。ね?」

 べりぃはミントの両手を握り、笑顔を見せる。そんな優しさにミントはただ泣くしかなかった。

「……ごめんなさい」

 呟くように言う。

「……こんなことしておいて図々しいかもしれないけど……私、皆さんと一緒に行きたいです」

 とても小さな声だった。けれど、その場に居た5人には確かに聞こえていた。

 べりぃはミントを強く抱きしめると、また天に向かって叫んだ。

「こんな馬鹿馬鹿しい試練、私達から降りてやる!!」

 べりぃの意志に賛同するかのように、ミント、れいん、ローラ、光太郎、キリアも又、天を見上げた。

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