Ⅴ.Apollo and Artemis

 第三の試練――食材集め。期限は日没まで。

 そう言われると、白い空間は別の場所に変わった。

「無人島とか、そういう類のものかしら」

 辺りを見渡しながらキリアが言った。

 そこから見えるのは何処までも続く海と空、迫り来るような緑の森。そして、籠やバケツなど、採ったものを入れる為のものが置いてある。

「とりあえず手分けして探した方が良さそうよね」

 ローラは一歩前に出て仕切る。

「じゃあ……あんたは肉担当」

 光太郎を指して言った。

「なんで俺!?」

「で、れいんは魚」

 ローラは光太郎を無視して続ける。

「私達は森の中で果物とか探してみるわ」

「だーかーらー!なんでオマエが勝手に決めてんだよ!!」

「もう!うっさいわねぇ!そーゆー力仕事は男がやりなさいよ!!」

 そう言うとローラは籠を背負って女3人を引き連れて森へ入って行った。

「なんか……俺ら、尻に敷かれてね?」

「……あ、ああ……」

 残された光太郎とれいんは仕方なくそれぞれの場所に移動した。



「じゃあ、私達も手分けして探そう。私はあっちに行ってみるわ」

 ローラは多少上り坂になっている方を指して言った。

「私もローラと行ってみるわね。べりぃとミントは起伏の少ない道の方をお願いね」

「分かった」

 そう言って2組に別れた。



「ねえ、ローラ」

 べりぃとミントの姿が見えなくなると、キリアはローラに訊ねる。

「男の子達に力仕事を任せるのは私も賛成だけれど……光太郎に対しての態度は……」

「……分かってるわよ」

 先を歩くローラは振返らずに答える。

「押し付けるような態度だって……」

 ローラの呟きにキリアはピンときた。

「やっぱりそう言う事ね」

「何が?」

「いえ、何でもないわ」

「?」



 落ちていた枝を指揮者のように振り回すべりぃの後をミントが付いて行く。その姿は、まるで遠足に来ている小学生のようだ。

「野苺とかあるでしょうか……」

「んー。まあ、歩いて行けば何かあるんじゃないかな」

「そう……ですね……」

 マイペースなべりぃにミントは少し不安を覚えた。

「あっ!見て!」

 べりぃは枝でその先を指し示す。そこには桃の木があった。

「わあ!いっぱい生ってますね!」

 2人はその木に駈け寄り騒ぐ。

「見て!あっちにはキウイが生ってるよ!」

「べりぃさん、こっちには林檎の木があります!」

 その他にも沢山の果物がなる木があった。

「なんだか果樹園みたいだね」

 一気にテンションの上がった2人はそれぞれ実をもぎに行った。

 お互いに実をもぐ事に夢中になり、それぞれが何処に行ったのかも気付かなかった。

「あ」

 べりぃは何かに気付き、その方向へ進む。

「べりぃさん!あっちに苺が沢山……あれ?」

 少し遠くへ行っていたミントが戻ってくると、そこには誰も居なかった。

「ど、どうしよう……はぐれちゃった!?」

 ミントは不安を感じた時にもっと注意しておくべきだったと後悔したが今更遅かった。



 トボトボと成り行きに任せて光太郎は歩いていた。

「肉って……牛とか豚とか……居るのか?!!……鶏肉とか?」

 空を見上げ、鳥を探してみたが見当たらなかった。

「あとは……鹿か?ああ!猪も居たな。そういや羊の肉も食えるんだっけ?……てか、美味いのか?」

 そんな独り言を空しく言っていると、遠くで草が揺れる音がした。

「!!!猪?!!……猪とか鹿なら居そうだもんなっ」

 少しばかりテンションが上がり始めた光太郎は、音のする方へ走って行った。



「調子はどうだ?」

 モニターを見つめるアイアコスにミノスが話し掛けた。

「順調だ」

「そりゃ良かった。こっちは駄目だ」

 幾多ものモニターの中から1つを指して言った。

「なんかさ……」

 部屋に入ってきたラダマンテュスは、2人に話し掛ける。

「折角仲良くなったのに、いつかは裏切るのって……悲しいよね。試練を与えてる僕らが言うのもアレだけどさ……」

 それに対してアイアコスは冷たい瞳で答える。

「仲間を信じられない者に来世を与える価値などない」

「よく言うねぇ。もうちょっと優しくなれよ」

 ミノスがアイアコスの肩に手を置こうとすると、アイアコスはそれを避けた。

「お前は仕事しろ」

「はいはい。了解しましたよー、リーダー」

 嫌味を込めて言うと、ミノスはモニターに目を移した。

 ミノスが自分の持ち場に戻った事を確認し、アイアコスはラダマンテュスに声を掛ける。

「ラダマンテュス、嫌なら別に見なくてもいいぞ。お前はエリシオンの管理もしているんだからな」

 冷たい瞳の奥に温かいものが見え隠れしながらアイアコスは言った。

「いいんだ。僕だって審判員の1人なんだから。それに――」

 今までアイアコスが見ていたモニターを見つめた。

「なんか、このチーム、気になるんだ。きっと、この子達は最後まで来るよ」

「そりゃまあ、簡単な試練ばっかだからな」

 アイアコスとラダマンテュスの話にミノスが茶々を入れる。

「そ、そうだけど、そう言う意味じゃなくて……」

「まあ、中には酒に酔った勢いで仲間に手を掛けるっていう低レベルな奴もいるけど」

「うう……兄さん、酷い……」

「だからお前は仕事しろ!」

 兄弟が戯れる姿を見て、アイアコスはミノスに言った。

「なんで俺だけ?!!」

「お前が居ると仕事をするラダマンテュスまで仕事しなくなる」

「お前、本来であれば3人の中で俺が最高権力者っての分かってねぇだろ」

 アイアコスはミノスの言葉を聞き流し、監視を続けた。

「……まだ傷は癒えないってところか」

「兄さん!!」

「分かってるって」

 ミノスも監視を再開した。



 開けた場所に出たべりぃは、そこに居る黒い影に話し掛けた。

「何か釣れた?」

 べりぃの問いに、海面を見つめたままれいんは答える。

「いや、何も釣れない」

「んー。場所が悪いのかな?」

「かもな」

「…………」

(話が続かない……)

 何か話そうと話題を考えていると、意外にもれいんが話し掛けてきた。

「お前、ここに居て良いのか?食材探して来ないとローラに怒られるんじゃないか?」

「大丈夫!ほら見て。いっぱい見つけたんだよ。そーだ、1個食べる?」

 そう言って、籠から桃を1つ取り出しれいんに渡す。そして自分の分も取り出し頬張る。

「んー。美味しぃ~」

 べりぃが食べるのを見たれいんも食べ始めた。その姿を見たべりぃは笑顔で話し掛ける。

「美味しいね」

「……お前、変な奴だな」

「え?」

「俺は黒い翼で、お前は白い翼。普通、そんな仲良くしようとしない」

「そうなの?私の住んでたところは皆仲良かったよ?」

「…………」

 れいんは海面を見つめたまま動かなくなった。そんなれいんを気にせず、べりぃは語り出した。

「私ね、思うんだけど……。別にそんなの関係ないと思うの。好きなら一緒に居ればいいし、嫌なら離れればいい。“黒い翼だから嫌い”って考えじゃなくて、それぞれ個体で考えないと。……違う?」

「いや……」

「んー。なんか、こう言うのって難しいね。今までそこまで考えて接してきたわけじゃないから」

 苦笑いしつつ答えたべりぃはれいんの隣で一緒に海面を見つめた。

 ちゃぷん

「っ!!」

「ん?どうしたの?」

「……引いてる」

「うそ!?大物かな!!?」



 陽が傾き辺りが茜色に染まり始めた頃、6人は最初に居た場所に集まっていた。

「べりぃさんが居なくなったから凄く心配したんですよ」

「ごめん、ごめん」

「れいんさんと一緒なら別にいいんですけど」

 べりぃとミントが話し合っている中、ローラが仕切りだした。

「で、収穫はどう?」

 まず声を発したのは光太郎。

「ほら、肉!」

 そう言って、光太郎が出したのは亀甲縛りにされている猪1匹。

「苦労したんだぞ」

「あんたさ……それ、そんな風に縛ってる余裕があるなら、もっと捕まえて来なさいよ」

 呆れつつ光太郎の隣りに居たれいんに目をやる。

「……魚、ヒットするまでに時間が掛かって……あまり釣れなかった」

 ローラはバケツを覗き込んだ。

「数は少ないけど、大物ばかりじゃない」

 今度はべりぃとミントに視線を移した。それにミントが答える。

「わ、私達は果物を……」

「ほら見て!こんなに沢山見つけたよー」

 背負っていた籠を前に出し、ローラに見せ付けた。

「うわっ。すごっ……。てか、採れる時季が全く違うものばかりなんだけど……。此処って一体……?」

 考え込むローラに光太郎が声を掛けた。

「てか、他人の事ばっか言うけど、オマエはどーなんだよ」

 その言葉にローラは後方に置いていた籠を前に出し、自慢気に話す。

「私は茸類に芋とか筍だってあるわよ」

 そう言って籠の中から1つ茸を取り出した。

「見てよ。トリュフよ、トリュフ!こんな高級食材まで見つけたんだから。キリアは野菜を見つけてきたわよ。ね?」

「ええ」

 ローラに促され、キリアは採って来たものを前に出した。

 それぞれ採って来たものを見てみると、明らかに光太郎だけ数が少なかった。それを見た光太郎はぐうの音も出ない。

「どーよ。やっぱりあんたが一番少ないじゃない」

「……い、いいんだよ!てか、お前らは逃げる相手じゃないだろ!俺は追い掛けつつ捕まえなきゃいけないんだ!そのことを考えれば、俺が一番の収穫だぁ!!」

 そう騒ぐ光太郎をローラはさり気無く無視した。

「おい!シカトすんなぁ!!」

 光太郎がそう叫ぶと辺りは白く光り、思わず目を閉じてしまった。

 目を開けると予想通り、白い部屋に戻っている。

「お。このチームはベジタリアンか?」

 6人は声のする方を見た。

 そこには審判員3人が食材を眺め、ミノスが物色し始めていた。

「え?!」

 今まで6人は食材を囲むように立っていたが、その食材が少し離れた場所に移動していることに驚いた。

「何よ、此処。何でもアリなわけ?」

 ローラが思わず呟くと、アイアコスは指を鳴らし、食材を光の粒にしてその場から消した。

「合格だ。では次の試練に進む」

 扉の前に着くと次の試練を発表する為に振返る。

「次の試練は――」

「『美しいもの』とは何か、探せ!」

 アイアコスの言葉に割り込み、ミノスが言った。


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