Ⅲ.Hephaestus
呆然と立っていることしか出来なかった。
「あ、あの……」
静寂を破って声を発したミントに視線が集中する。その状況にミントは赤面しながら続けた。
「こ、これから如何すれば……」
「そうね……」
ローラが相槌を打つ。
「剣って言っても、造り方が分からないし……」
悩むことしか出来なかった。5人が治具を眺め悩んでいる中、ただ1人キリアが動き出した。
「悩んでいても仕方ないわ。とりあえずやってみましょう」
そう言って部屋の隅に積み上げられている石を弄り始めた。その姿を見てべりぃは訊ねる。
「造ったことあるの?」
「造ったことはないけれど……実家が鍛冶屋だったのよ。だから、作業工程は見たことあるわ」
キリアは手を止め、5人に向かって言った。
「ちゃんとした物は造れないかもしれないけれど、それでも良いなら手伝ってくれるかしら?」
その言葉に5人の心から希望が溢れ出した。
「勿論!」
べりぃを始め、ミントやローラも動き出し光太郎とれいんも一瞬遅れて動き出した。
「で、如何すればいいの?」
「これを熱して溶かすのよ」
キリアがべりぃの質問に答えていると、ローラが割って入った。
「熱?火なら私に任せて」
そう言うと右手を前に出し集中した。するとそこから小さな炎が現れた。
「おまっ!?」
その光景に光太郎のみ驚いた。
「私、火属性だから火を操るのは得意なの」
「そう……じゃあ、お願いするわ」
「オッケー」
魔法が存在しているのが当たり前のように話が進む中、光太郎だけ付いていけていない。
「『冥界は色々な世界と繋がっている』か……」
呟くように言うと落ち着いたのか、光太郎も皆の輪の中へと戻っていった。
「そうね。こんなものかしら」
集めた石を眺め、キリアは言った。
「これを皆でローラの所へ運びましょう」
そう言って、近くにあった布に石を乗せ5人で運んだ。
ローラの元へ近付くにつれ室温が高くなり、額に汗が滲む。
「ローラ、火の方はどう?」
キリアが訊くと、笑顔でローラは答えた。
「うん。まあまあって感じかな」
「そう。じゃあ溶かしましょう」
キリアが高炉に石を入れるのを見て、見様見真似で5人もどんどん入れる。
石が完全に溶けた事を確認すると、キリアはそれを長方形の型に流し込む為に運び出した。
「大丈夫?私がやろうか?」
熱さのあまり汗だくになるキリアを見て、ローラが言った。
「大丈夫よ。それに危ないから」
そう言って型に流し込む。
「そう言えば、よく汗掻かねぇな」
汗を全く掻いていないローラを見て光太郎が言った。
「熱さ、感じないから」
そう言って掌から小さな火を出す。
「!!!」
先程も同じ光景を見たにも関わらず、光太郎はまた驚いた。
「火を操るせいかな」
ローラは火を潰すように握ると掌から火は消え去り、何事もなかったかのようにキリア達が集まっている机へ向かった。
(アニメ的なことにも慣れなきゃなぁ……)
そう思いつつ、光太郎も机へ向かう。
「これが冷えて固まったら鍛造に入るのだけど……」
光太郎とれいんが居ることを確認したキリアは続けた。
「そこからは光太郎とれいんにお願いしたいの」
「え?俺?」
光太郎は驚き訊き返した。れいんは視線をキリアに向け止まる。
「そう。あなた達2人に」
そう言って何かを探しているのか、辺りを見渡し始めた。そして、目当ての物を見つけたのか、それを取りに行った。戻って来たキリアの手には鎚が握られている。
「これでそれを叩いてほしいの。結構力が要るから、私達女がやるより貴方達にやってもらった方が効率良いと思うのよ。丁度2人居るから、疲れたら交代すればいいしね」
「そーだな。力仕事は俺達男に任せな」
光太郎は隣に居るれいんに同意を求めて肩を組んだ。
「……ああ」
「2人はこのグループ、如何思う?」
真っ白な部屋で真っ白な椅子に腰掛け、ラダマンテュスは同様に椅子に腰掛けているアイアコスとミノスに訊ねた。その問いに先ずミノスが答えた。
「肉弾戦は苦手そうな奴の集まりだな」
「見た目はそうだけど、中には結構な力を持っている人も居るよ」
そう言い、ラダマンテュスは名簿を取り出した。
「この人とか」
ミノスはラダマンテュスの指した名前を見て言う。
「ああ、そうだな。でも……」
ミノスは生前の資料に視線を移し、続けた。
「莫大すぎてコントロール出来ないみたいだ」
「うん。ちょっと勿体ないよね」
「しかし、そのお陰でバランスが良いグループとも言えるな」
自分の意見を言い終えたミノスはアイアコスに話を振る。
「で、アイアコスは如何なんだ?」
アイアコスは考えることもなく答えた。
「弱い者ほど、内に秘めた想いは強い。このグループにとってこの先の試練はキツイものになるな」
カーンカーン
れいんは加熱され赤くなっている鉄を鎚で何度も叩く。
「調子は如何かしら?」
キリアが問い掛けた。
「まあまあ」
れいんは短く答える。
「そう。辛かったら交代しても良いのよ」
「ああ、分かってる」
キリアは微笑み、残りの4人が集まっている別の机に戻ろうとした。
「あのさ」
しかし、れいんに話し掛けられ、止まった。
「なあに?」
れいんは手を止め、話し出す。
「この作業、剣の形や強度を決める大切な作業だろ?本当に俺なんかがやっていいのか?」
キリアは笑って答えた。
「前にも言ったでしょ。女より力のある男性にやってもらった方がいいの。それに、アイアコスも言っていたでしょ。『剣と言える物を造れ』って。とりあえず剣と言える物にすればいいのだから」
そう言って4人の元へと歩き出した。その姿はとても美しく、思わず見惚れてしまう程だった。
「てか、アイツ何て言ったっけ?えーっと……」
休憩中の光太郎はべりぃ達と雑談していた。
光太郎が何かを思い出そうと悩んでいると、ローラは興味なさそうに言った。
「もしかして、アイアコス?」
「そう!そいつ!アイアコス!」
机を乗り出し続けた。
「滅茶苦茶ムカつかねぇーか?!」
べりぃとミントは互いに顔を見せ合い、首を傾げた。
「え、だってさ、アイツ見るからに俺と同い年か年下くらいなのに、スッゲー態度デカイじゃん」
「え?でも――」
ミントは何かを言おうとしたが、ローラが喋り出し遮られた。
「あんたの世界って死後の世界について探求しようとしないわけ?」
「ぁあ?」
ローラの言い方が気に入らなかったのか、光太郎はローラを睨む。しかし、ローラは怯まない。
「
ローラは姿勢を正し、続ける。
「人は死ぬと、その人に合った姿になるの。そりゃあ、人によっては死んだ時と同じ姿のままって人も居るけど。例えば私とか。私は17歳で死んで、そんなに変わってないから多分17歳の身体でここに居る。って感じでね」
5秒ほど空気が止まり、光太郎は声を発した。
「え……じゃあ……」
光太郎はべりぃとミントに視線を向けた。
まず口を開いたのはべりぃ。
「私は23歳。で、見た目は多分ローラと同じくらいだろうから、17歳?」
光太郎が安堵の溜息をついていると、べりぃはミントに話を振った。
「ミントは?」
「わ、私は11歳です……」
「嘘?!!じゅ……っ?!!!!」
光太郎は衝撃のあまり言葉を失った。
「……お、俺は小学生に……」
そう呟きながら、光太郎は力が抜けたように自分の椅子に座る。
「嘘だ……だって……見るからに……デカイ……」
光太郎の視線はミントの一部分に注がれた。
「そうね。私もミントは年下だとは思っていたけど……流石に11歳だとはねぇ……」
ローラも思わず光太郎と同じ場所を見る。
その視線に気付いたミントは思わず胸を隠すように腕を組む。
「ななななんですか?!」
「はあぁぁぁぁ……」
「はあぁぁぁぁ……」
「ふぇ?!」
ローラと光太郎は同時に溜息を漏らしたが、その意味合いは全く違うものだ。
この微妙な空気の中、べりぃは話題を戻すため、光太郎に向き直した。
「光太郎の見た目は私達と同じくらい……だよね?けど、実際は如何なの?」
「『見た目は私達と同じ』って……マジ?!俺、若返った!!」
光太郎が元気を取り戻していると、ローラが口を挿んだ。
「『若返った』って、あんた、実際は17歳以上なわけ?」
「そうだけど?」
「嘘……信じらんない……」
ローラがミントの時以上に驚いていると、光太郎は励ましの言葉を贈った。
「最初は誰でも驚くものだよ。俺だってミントが11歳だなんて信じられなかったもん。『見た目なんて当てにならない』だろ?」
笑いながら光太郎が言うと、ローラは即否定した。
「違うわよ!見た目じゃなくて中身よ!中身!!」
べりぃも23歳には思えないと思ったが、それは言わないでおいた。
「……それ、どう言う意味だよ」
数秒前と打って変わって低い声で訊く光太郎にローラはボソッと呟く。
「子供っぽいってことよ」
「ぁあ?」
「てか、実際は何歳なのよ!」
「自慢じゃないけど、この中では一番年上だと思うな。俺、実際は25なんだよねぇ」
年上を敬えとでも言う態度にべりぃ、ミント、ローラは驚き固まった。
カーンカーン
静まり返った部屋に鎚で鉄を叩く音が響き渡る。
「……確かに、あんたには17歳の身体がピッタリだよ」
「ぁあ?!」
一触即発の中、優雅な笑い声が響いた。
「ふふ」
声の主はキリアだった。
「それより、そろそろ交代してあげたら?あの子、きっと自分から『疲れたから交代してほしい』って言わないわよ?」
「あ、ああ。分かった」
キリアに促され、光太郎はれいんの元へと向かった。女4人は光太郎がれいんの元へ行くのを自然と目で追う。
「そーいや、キリアは何歳なの?」
ローラが訊いた。
「ん?私?そうねぇ~」
キリアは勿体ぶるように答えた。
「まあ……光太郎よりは上ね」
ローラを筆頭に、べりぃとミントも心の底から頷いた。
「で、実のところは?」
3人の興味津々な瞳にキリアは少し悩み答えた。
「そうね……皆のお母さんと同世代くらいかしら?」
「え……」
3人はキリアを見つめたまま固まってしまった。いくらなんでも、そこまで年上だとは思っていなかったらしい。
そんな所にれいんが戻って来た。異様な空気に戸惑っている。
「あ!そう言えばさ、れいんは実際の年齢いくつなの?」
れいんが戻って来たことに気付いたべりぃが我に返って訊ねた。
「……は?」
何故そんな話を振られたのか分からないらしい。
「今ね、皆で実際のところ何歳なのか話してたの。ほら、冥界だと見た目って当てにならないから。だから……れいんは?」
べりぃに対しては答える義務はないと思ったが、残りの3人の視線に負けて答える。
「俺は……14で死んだ」
「……ぇえ?!!!」
また時間が止まったかのように皆の動きが止まった。そして、鎚で叩く音が響き渡る。
そんな中、静寂を破ってキリアが声を発した。
「ふふ。『見た目で人を判断してはいけない。』良い教訓ね」
れいんが何歳であれ、キリアにしてみれば皆可愛い子供のようだ。
「もう、よく分からないです……」
ミントが小さく呟き、また他愛もない話が再開された。
「そうね。こんなものかしら」
そう言ってキリアは剣を振り翳す。
その剣は最終的にキリアが研いで完成した。
「見せて、見せて!」
べりぃは両手を広げて催促する。
「どうぞ」
キリアはべりぃに剣を渡した。すると、ローラとミントもべりぃの元へ集まり剣を眺める。
「皆さんの想いが混ざっているみたいです」
「そうね」
ミントが呟きローラが頷くと、辺り一面真っ白に光り出し思わず目を瞑ってしまった。
暫くすると光は収まり、目を開けると聞き覚えのない声が聞こえた。
「お帰り」
審判員の1人、ラダマンテュスだ。
そこは煉瓦で囲まれた一室ではなく、最初に居た八角形の部屋だった。
部屋の中央の舞台にアイアコス、ミノス、ラダマンテュスが立ち、こちらを見ている。
「剣を」
アイアコスが手を差し出すと、べりぃはアイアコスの前に立ち、手にしている剣を渡した。
剣を手にしたアイアコスは軽く眺めるとそれをミノスに渡した。ミノスも同様に眺め、ラダマンテュスは横から窺う。
2人が軽く頷き合うと、アイアコスはパチンと指を鳴らす。すると、ミノスの手にあった剣が光の粒となって消えた。
「なっ!!?」
その場に居た6人は驚きを隠せないでいた。
「合格だ」
アイアコスが言い放つと、6人の視線はミノスの手からアイアコスの顔へと移る。
アイアコスは6人と目を合わせると歩き出し、ミノス、ラダマンテュスと続く。その後を6人も追う。
1つの扉の元へ辿り着いたアイアコスが振り向くと、ゆっくり扉は開け放たれた。
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