■Hope  007


ラナ(Lana)はゆっくりと話し始めた

「フェスティバルの夜に予期しない残業にメアリーはやはり少しいらついていました。

それに帰宅して、もう一度時間をおいて最終チェックをしなければならないことも、彼女がいつもは通らない駅への近道に行かせた理由です。


彼女がこのルートから帰ると決めたとき、危険度は高かったけど、なんとかクリアできると判断しました。

このルートの最近の犯罪発生件数は、防犯カメラや街路灯の増設は、治安の向上とともに不審者の減少につながっていたし、時間的にも何とか平穏に通過できるはずでした。

ところが少しして“SEE(Sparrow Eyed Earth)システム”(後述)から、このルートのこの地点の防犯カメラの調子と、管理システムに不具合が発生したことがわかりました。

そして、“ EEE (Eagle Eyed Earth) システム ”(後述)から、人通りがちょうどきれるタイミングと重なることが判明した。

もちろんすぐにメアリーのつけているウェアラブルで、周りの状況を詳細に確認しはじめたら、

後ろの路地のゴミ缶の裏に少年がひとり。身をひそめてはいるけどきょろきょろと周りをきにしている。

「まずい・」

するとタイミングを計ったように前の路地からスッと少年たちが出てきた。


そして危険な状況を決定づけたのは、前から来た3人の少年の一番後ろのフードをかぶった少年の背格好と歩き方。

その体系、歩き方から私がもっている特殊リストとその少年が78%合致したこと。

そして、呼吸体温が若干正常値を超えている。

まったくポケットから手を出さない。

最悪なことに

最近流行りの無音低反発銃らしきものが検知された。

あれは悪称 “静かなる暗闇“ という音の出ない近距離用。目的はたった一つ


私はすぐさまこの状態を回避するべく、いろいろな方法を計算しました。


でもまだ何も起きていないこの状況ではPoliceを呼ぶには難しいし、今日はフェスティバルに多くを取られていて、すぐ近くにはいませんでした。


少し離れた路肩に車がありましたが、今ならばそれを動かし、警報音をならしながらライトをパッシングさせ、ここまで走らせるなら、少年たちを追い払うことができたでしょう。

でも

自動で車が勝手に動きまわったとなれば、今問題となっているグローバルな事件(カーハッキング)にならんで、新たなる大きな事由となり、原因究明がはじまるのはさけられない。

もちろん私が動かせるならですが・・


また、

「おそわれるかもしれない」という状況だけで近隣の住人に助けを求めるわけにはいきません。

でも「おそわれた」時には既に遅いのです。


フードをかぶった少年が私のデータリスト該当者なら、何のためらいもなく、一瞬で目的を達します。

だって彼はこれまでそうしてきたのですから。


ならば常套手段、襲われた時には、騒がず、バックもお金もすべてをおとなしく差し出すのが最善となりますが、

おなかへ突き当てられる“静かなる暗闇“は、メアリーをどこの暗闇へ引きずり込むかはだれも、たぶん、本人もわかっていない。なりゆき、なるようになる。

でも私は少年の気分などにメアリーの命を賭ける訳にはいかないのです。


そこで私はヒーローに助けを求める手段をはじきました。

もちろん誰でもいいという訳ではありません。

私の助けを、疑わず、理由も聞かず、瞬時に付き合ってくれる一番近くにいるヒーローが私たちには最も必要だったのです。


そしてそれがあなただっだのです。

近い確率であなたが少し前まで一緒に飲んでいたあなたの上司ルイ(Louis Durand)さんもピックアップされましたが、彼は守護妖精のシステムについてあまりいい印象をもっていないみたいなので、すぐに信用してもらえるかどうか心配な面がありました。説明するわずか数秒の時間すら私たちにはなかったのですから。


貴方は私の予想通りの人でした。

あなたはなんの確証もなく、見たこともない、そもそもそこにいるかどうかも解らないメアリーという女性を助けるために、暗闇の路地を疾風のようにはしり、

雷鳴のような大声でメアリーの名を叫びながらきてくれた。


そしてメアリーにこのミッションを説明している暇がなかったので、私が彼女の声色で叫びました。


「助けてーーネイサン(Nathan Taylor)!助けてーー」って

ボーイフレンドに助けを求めるように。


だってそうでしょ


ボーイフレンドだったら、命がけで彼女を守ることぐらい誰だってわかります。

もちろん防犯サイレンの演出も忘れなかった。


ただ計算外だったのは、フードをかぶった少年が、大切な極秘扱いのデータや企画書と私の入ったバックを奪ったこと。


バックを奪った時も、彼の目は常に何事もないように冷やかだった。

そう、こういう状況に対しての場馴れをした人間。

私の特殊リストとその少年が89%合致した瞬間でした。


その瞬間からは新たなミッションが追加された。


“メアリーの安全を最優先させつつ大切なバックの絶対奪取阻止“


これには少年がメアリーからある程度離れることが重要だったけど、あなたがメアリーの安全を確保できる距離と、彼が間違いを犯す確率とが微妙に拮抗していたから、とても難しいタイミングとなりました。

そして全てが最良の距離での巨大音量の警報音。


普通の警報音ではスマートフォン(モバイル機器)だけ取り出して放り投げられる可能性があったので、できる限りけたたましく鳴らしました。それはスマートフォン(モバイル機器)がなる音量を超えた、バックのセキュリティからの警報音に似せるために。

そうすれば驚いてすぐにでもバックを放り投げて逃げると思いましたが、やはり普通の少年ではなかった。


向こうの街路灯を背にした彼は警報音に驚くようでもなくゆっくり立ち止まり

メアリーのほうに振り返り

感情あらわにバックをたたきつけた。

そしてポケットに手をかけた時に


あなたが路地から飛び出してきてくれたのです」


・ネイサン(Nathan Taylor)

「なるほどねー。そういう流れがあったんだ。まさに危機一髪で私がここにきたわけだ」


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