遠き肖像
光の中で僕は目覚めた。まばゆさが僕の顔に射す。昨日の夜、カーテンを開けっ放しにしていたようだ。でもそれが妙に気持ち良かった。まるであの丘の樫の木の下で午睡をしている時のようだ。僕は何度か寝返りを打ち、うとうとしているうちにまた深い眠りに落ちていった。珍しいことである。僕はひどい不眠症でこのところ一睡もしてなかったのである。二度目の眠りからの覚めかけの時、僕は夢を見た。あの丘の夢である。
丘は僕の生まれ故郷にあった。正確には山だったようだ。名前は忘れた。だが標高わずか二十メートルの丘は子供の頃からの僕の秘密の場所だった。森に囲まれていてちょっと獣道を歩かないとたどり着かない。もちろん大人の中にはこの場所を知っている人も居ただろうが、僕は出会ったことはなかった。
僕が丘の存在を知ったのは、小学生の時だった。みんなとつるむより、一人遊びの好きだった僕は「冒険だ」と言って、森の中に入って行った。その頃、PTAからは「森に入ってはいけません」という通達が来ていた。二年前に小学校一年生の女の子が一人で森に入り、沢にはまって溺れ死ぬという事故があったからだ。きっとその子も冒険心に駆られて森に入ってしまったのだろう。可哀想に思った。でも僕は違う。もう五年生だし、冒険家、植村直己の本を読んで、日夜冒険の研究をしている。ポケットに非常用の食料、板チョコも持参している。水筒もある。絆創膏も持っている。夏だけど長袖のシャツを着て長ズボンを履いた。お父さんに買ってもらった地形図とコンパスもある。完璧な装備をして、森に入った。でも森は恐れていたほど、手強くなかった。少女が亡くなったという沢も発見した。僕は両手を合わせた。そして、森の中心部にあの丘はあった。僕は喜び勇んで丘を駆け上がった。頂上には一本の立派な樫の木が立っていた。僕はその木陰で休憩を取り、板チョコをかじって、水筒の麦茶を飲んだ。爽やかな風が吹いて気持ちがいい。僕は樫の木の根元を枕代わりにして午睡をした。町の夏の蒸し暑さとは無縁の世界。僕は丘が大好きになった。それからは夏休み中、丘に入り浸った。おもちゃのロボットを持って行って地上戦を繰り広げたり戦闘機のプラモデルを繰り出して、空中での大戦闘を演じてみたりした。漫画本を持って行って読みふけったこともある。素晴らしい場所だ。でもクラスの子には絶対に、教えなかった。僕だけの楽園。僕だけの秘密基地。丘はそういうところだった。
中学生になっても僕は丘に行っていた。部活動というものに入らなかった僕は先生や同級生から奇異な存在に見られていた。僕の活動の場は、あの丘だった。あの丘で、漫画を描いたり、小説を読んだりした。時には試験勉強もした。成績は上々だった。お母さんは試験期間中もフラフラ出掛ける僕が良い点数を取って来るので、「なんでかねえ?」と不思議がっていた。お母さん、僕は自然の塾で勉強しているのですよ。と教えたくなったがやめておいた。中学になっても、森は立ち入り禁止だったからだ。試験が終わると僕は読書に熱中した。読む本はミステリーと歴史小説。稀に青春小説を読んだりもした。樫の木に守られての読書は集中出来た。学校でも休み時間に読もうと思ったのだけど、周りがうるさくて気持ちが散漫になってしまう。だから、仕方なく、友達とのお喋りに参加した。僕だって、完全孤独の変人には見られたくなかった。普通の人でいたかったのだ。クラスには誰とも喋らない、本当に孤高の人もいた。僕はそこまでになれる強い精神は持っていなかった。学校に拘束されている間は、普通人に、丘へ行けば自分の世界にどっぷりつかる。そんな生活が気に入っていた。
その状況が一変したのは二年生の春だった。冬の間は寒くて丘での生活はできなかった。灯油ストーブでも持って行こうかと思ったが、万が一、火事を出したら大変だ。それに冬は丘に雪が積もる。危険だった。僕は諦めて冬中は家に居た。
それはともかく、春になって丘に行けるようになると、また日参した。その頃、僕は吉川英治の『新・平家物語』に没頭していた。十巻を超える大作だ。だけど面白い。僕は夢中になって読んでいて、近づいてきた人影に気づかなかった。
「なに、読んでいるの?」
唐突に声を掛けられ、僕は心臓が止まりそうになった。
「えっ?」
丘で他人と会うのは初めてだった。しかも中学の制服を着た女子だった。
「なに、読んでいるのよ?」
女子はまた聞いた。知らない顔だった。でも僕の学校の制服だ。誰だろう?
「君は誰?」
僕は逆に質問した。
「あたしの質問には答えないで、自分の質問はするのね」
女子は不機嫌そうに言った。
「ああ、ごめん。吉川英治の『新・平家物語』だよ」
「ずいぶん長いもの、読むのね」
彼女は吉川英治を知っているようだ。
「たまたまだよ。いつもはミステリーを読んでいる」
そういうと女子は食いついて来た
「クロフツ? クリスティ?」
「いや、翻訳ものは読まない」
「なんだ、つまんないの。同好の志が出来たと思ったのに」
「すまないな。ところで、こっちもまた聞くけど、君は誰?」
「ああごめんなさい。東京から引っ越してきた、中澤緑」
「中澤?」
中澤家といえばこの辺の地主じゃなかったか? そのことを聞くと、
「そう、お父さんが地盤を引き取るから、東京から来たの」
「へえ」
「あなた知っている? ここも中澤の土地よ」
緑は言った。
「そうなのか。僕は小学生の時から不法占拠していたんだな」
「別にいいのよ。でも、ここ気持ちがいいね」
「だろ。それで気に入ってしまって、入り浸っている」
それを聞くと、緑は「ふー」と深呼吸して、
「あたしもここに入り浸っていい?」
と聞いた。
「君の家の土地だろ。頼むのは僕の方だよ」
僕は頭を下げた。
「いいわ、二人の秘密の場所にしましょう!」
緑は両手を上げて大きく息を吸った。これが僕と緑とが初めて出会った場面だった。この初対面で僕は緑に恋をしてしまった。
緑は都会生まれの大胆な女子だった。翌日、授業が終わると僕の教室に来て、僕を呼ぶ。
「早く、行きましょう!」
これには困った。クラスの全員が僕の方を見る。
「どこ行くんだ」
「連れ込み旅館か?」
ワハハハーとゲヒな笑いが起こる。僕は顔を真っ赤にして教室から逃げ出した。
「あのさあ」
僕は緑に頼んだ。
「クラスには来ないでくれよ。からかわれて、堪らん」
「恥ずかしがることないじゃない。悪いことしているわけじゃないのだから。でもあなたがそう言うなら、行かないわ。校門で待っているよ」
「そうしてくれるとありがたい。ここは東京と違うんだ。こういう噂はすぐに広がる」
「東京だって、変わらないわ」
緑はちょっと不機嫌に言った。
僕たち二人は一緒に森の丘に行くけれど、二人で何かをするわけではない。お互いに好き勝手なことをしている。僕はだいたい読書しているし、緑は読書もするけど、何か文章を書いたり絵を描いたりしている。二人はそれぞれにやりたいことをやった。ただ、時間と場所だけを共有していたのだ。それが崩れるのは試験期間で、数学が苦手な緑のために僕は勉強を手伝ってやった。僕も数学は好きではないんだけど、公式を暗記するのは得意なので、緑に公式を覚える秘訣を教えた。反対に僕は英語が苦手で、緑に色々教わった。おかげさまで僕は英語クラス一番になった。緑も試験の成績が良かったようで、またクラスに来てしまって答案を僕に見せた。今回もクラス全員に冷かされ、僕と緑は付き合っていることにされた。緑は泰然としていて、「ええ、付き合っていますが何か?」と堂々と口にし、僕や周りを驚かせた。僕はといえば「仲のいい友人です」と熱愛の発覚した芸能人みたいなことを言って周りの追求をごまかしていた。
夏休みに入ると、僕は緑の影響を受けて小説を書き始めるようになった。初めは「ガチガチの本格推理小説」を書こうとしたのだけど、肝心のトリックが思い浮かばない。仕方がないので『超人の恩人』という、叙述トリックに逃げた小説を書いた。緑に読ませると、「あなたはミステリーじゃない作品を書いたほうがいいわね」と酷評された。さらに「あなたの文章、ノンフィクションやドキュメンタリーのほうが合っているわ」と言われた。この一言で僕の将来は決まった。
「なあ、君の文章も見せてくれよ」僕が頼むと、彼女は詩を書いていた詩を見せてくれた。
サヨナラ、でも迎えに来ること、初めから分かっていたよ
君のいない世界で 気力をなくし
トボトボと歩き続ける 徒労を相棒にして
君の消えた世界で 希望をなくし
イジイジと悩み続ける 苦痛を相方にして
夕暮れ時に聞こえるフルートの音
僕はセイレーンに引き込まれるように
ベランダに飛び出た
太陽が僕にサヨナラと手を振った
サヨナラ
群青色の空
光を失っていく世界
進路を見失った僕は叫ぶ
「光を返せ」
やがて光は戻ってくる 満天の星空となって
しかし星々は光の矢となって僕に襲いかかってくる
「光は怒りか」
すると空に積乱雲が立ち登り星々は死んだ。
一息いれるのもつかの間 今度は稲妻が僕を襲う
「光は何故僕を攻める」
星の矢と稲妻の槍を全身に受けて僕は息絶える
光に愛されなかった男 その墓標には彫り込まれている
寝付けない夜 君のことを考える
君が人生の炎を燃やし疲れて眠る時
僕は人生を捨て鉢にして目覚めている
こんなことでいいのか 君に恋する資格があるのか
君は優しいから 僕を見放したり 切り捨てたりしないけど
それに甘えていいのだろうか
考えるとますます眠れなくなる
寝付けない夜 自分の行くすえを考える
答えが出ることはないと知りながら
午後の陽だまりの中
木枯らしに身を縮め
二人してぼんやりと
歩んでいけたならば
幸せなことであろう
浅い眠りだった。
悲しい夢を見たのだろう、涙が出ていた。
内容が記憶に刻まれなくて良かった。
起きてから悲しい思いをしなくて良いから。
それでなくても悲しいことばかりなのに。
この想いを伝えようとして書いた手紙
嫌われるのが怖くて 丸めて捨てる
僕は石になる。
僕は路傍の石になる。
意思をなくし、意志をなくし、
ただただ路傍の石になる。
緩やかな 死の宣告
でも死は 緩やかにはやってこない
突然に ためらいもなく
死神は 大鎌を
振り落とすだろう
あてどない 旅の中で
病を得て 路上に倒れる
誰も救いの手を差し伸べることはない
僕はここで果てるのか
薄れゆく記憶の中に
天使たちの姿がみえた
子供たちによって 僕は修道院に運ばれた
今はそこで 作男をしている
小雨の降る 午後の喫茶店で
あなたと二人 お茶を飲みながら
まったりと ぼんやりと
過ごしたい
曲がりくねったこの社会で
道に迷い 行く手を遮られ
それでも生きていこうとする心を
踏みにじられ 罵倒される
冷ややかな観衆は その男の悲劇を
嘲笑し 冷やかす
汝、人を殺すなかれ
神は叫ぶが
男は土砂降りの雨の中 息絶える
誰がこの世を作った? 誰がこの社会を作った?
男の心の叫びが こだまする
冷たい雨にさよなら
すれ違う影にさよなら
重い気持ちにさよならを告げて
二人で歩き出そう
手を貸しあって生きよう
そのために出会った
また会う日まで さよなら
もう会えないかもしれないから さよなら
君の記憶から僕は消えちゃうと思うから さよなら
僕の記憶から君は消えないけれど さよなら
迷惑かけるといけないからメールはしないよ 電話もしないよ もちろん手紙なんか書かない
迷惑じゃなかったらメールして 電話かけて 手紙だって嬉しいよ
でもそんなことあるわけない それはわかっているんだ
さよなら 僕の好きだった君
さよなら 君を好きだった僕
夕日が地上に還り
暗闇が世界を支配する頃
僕は寝床を抜け出し
今日の夢を調達に行く
ペガサスに騎乗してどこまでも駆けよう
ペガサスに乗ってどこまでも飛ぼう
イカロスは太陽に近づきすぎて墜落したけど
ペガサスは太陽まで駆け上がることができるから
心には大きな古傷がある
それも一つじゃなくてたくさんある
今日もその一つが開いて僕を苦しめる
全部いっぺんに開いたら出血多量で僕は死ぬ
傷口を一つ一つ縫い合わしてる
だけどそれでも間に合わなくて僕は死ぬ
上弦の月で地上を射る
泉が湧き 動物たちが集まってきた
地上の楽園 人間たちはいない
下弦の月で矢を銀河に放つ
矢は彗星のごとく飛び
宇宙の果てを突き破った
宇宙の外に 楽園があった
使い古した言葉で、君に手紙を書く。返事なんか期待はしてないよ。
竹林に花が咲いているのを見たことがあるかい。それは生命の滅びる時なんだよ。
繋がってる 繋がってない
そんな些細なことに
心は乱れ 時に心が安らぐ
今、慰めの言葉より、ただ、抱きしめて欲しい。
君の鼓動を感じたい。
全ての終わりを告げる、時の鐘が鳴った。
僕らは作業をやめ、その場に横になった。
現実の時間が終わり、夢の時間が始まる。
今夜君と星空 見上げたいから
夕暮れの街を 飛び出したのさ
電車に飛び乗れば たった二時間で
君の住む丘さ
都会の風に 振り回されて
僕の心は 乾ききってる
だけど君の 元へ帰れば
心に泉が湧くよ
僕は暗い詩が多いのに驚いた。それに『僕』という人称が多用されている。緑の心には何か闇があるのか?
「私、東京でいじめられていた」
唐突に緑が告白した。
「えっ?」
「人とつるむの嫌いだったから、一人でいたら、カッコつけいてるって。だからここに来た。お父さんは別に東京でも地主を出来たのに連れて来てくれた」
「ねえ、なんで『僕』って人称を使うの?」
「あたし、詩を書くときは男の人になるの」
なんだか意味がわからなかった。
「言い方間違えたかな。性を超越したいの」
「もしかして、男性を愛せない。女性を愛する性質?」
「違うわよ。東京時代には付き合っていた彼氏がいたし。今だってあなたと」
「僕らは別に付き合ってない」
「そう。じゃあ今日から付き合いましょう」
緑は僕にキスをした。僕は真っ赤になっていたと思う。
「いいね」
緑は言った。
「うん」
僕はそれだけ答えた。息が苦しかった。
秋が来て冬になると、もう丘には行けない。恋人になった僕と緑はお互いの家を訪ねることになる。緑の家は地主だけあって広大だ。僕は緑の父親とと先代に挨拶した。母親はいなかった。
「君が学年一の秀才君か」
先代が僕のことをそう呼んだ。
「緑が君のことをえらく気に入っている。どうだ。ウチの婿養子にならないか?」
僕はびっくりした。そんな話になっているのか!
「まだ中学生ですから、そんな先のことはわかりません」
僕はきっぱり言った。
「そうか……まあ、急ぐ話でもないからな」
先代は折れた。
「まあ、ゆっくりしていきなよ」
先代は残念そうに話した。
緑の部屋に行った。ものが少なくて殺風景な感じがした。机とベッド、簡単なタンスだけだった。しかも、色は全てブラック。ぬいぐるみの類など一切ない。
場所は変われどすることは同じ。僕は読書、緑は詩作に耽っていた。付き合うことになったんだけれども、丘でやっていることと何ら変わりなかった。不意に、緑が行った。
「あなた、進路はどうするの?」
僕は答えた。
「普通に高校に行くさ」
「あたし、勉強はもうこりごり。旅人になるの」
「旅人?」
「そう、日本中を旅して、写真撮ったり、絵を描いたり、詩を書いたりするの。それをいつか本にまとめるのが夢」
「ふうん、それで生活が成り立つなら楽しいだろうね」
一年後、僕は父親の仕事の都合で東京に行くことになった。東京は公立高校に比べて私立高校の数が異常に多い。だから僕も私立R高校を受験することになった。一月には東京に出て受験に備える。緑ともお別れである。
明日は東京に旅立つという日、緑が我が家にやって来た。
「ねえ、あの丘に行かない?」
「丘か。でも雪に覆われて危ないんじゃないか?」
「あたしたちが初めて会った場所にどうしても行きたいの」
「そうか、じゃあ支度してくるから、ちょっと待ててくれ」
僕らは雪深い森を抜け、あの丘のふもとにたどり着いた。
「五十センチは雪が積もっているぞ。登れるかな」
僕は怖気づいた。
「せいぜい、太ももくらいじゃない。行きましょう」
緑は登り始めた。これはついて行く他ない。だが半分くらい登った時、丘の頂上から雪崩が発生した。先を進む緑はそれに巻き込まれた。
「緑!」
僕は急いで雪を掻いた。しかし素手だ。道具はない。一向に緑の姿は見えない。僕は焦った。汗だくになって掻きに掻いてようやく掘り出した、緑の顔色は青白い。意識もない。僕は緑をおぶって走った。自分でも信じられないくらいの勢いで森を抜け、病院に向かった。田舎だからタクシーなんてない。急を知らせるための公衆電話もない。僕はただ走るしかなかった。
病院に駆けつけ、受付の人に事情を話そうとするが、息が切れ喋れない。でも、緑の状態を見て全てを察してくれた受付の人は大急ぎで手配をしてくれた。人工呼吸器をつけ、体を温める。点滴も打たれた。その頃には中澤の人たちも慌ててやって来た。僕が連絡したんじゃない。その病院は中澤の経営している病院だったのだ。
先代がやって来た。僕は怒られるのを覚悟した。しかし先代は、
「どうせ、緑が無理やり連れて行ったんだろう。あの馬鹿が」
と言って僕を責めなかった。緑の父親も、何も言わなかった。
「君、明日東京だろ、家に帰りなさい。風邪をひくといけねえ」
先代はどこまでも優しかった。
翌日、僕は緑に心を残しながら東京に向かった。僕は、
「緑の意識が戻るまで東京には行かない」
と言った。僕の両親もシャレじゃないが良心の苛責に耐えられず、そうするべきだと、中澤の家に電話をかけたが、先代がピシャリと断ってきた。息子さんは東京に行くべきだと。
東京にはまだ家はない。なので一人僕はホテル住まいをした。ここで最後の追い込みをするべきなのだが、とても勉強が手につく状態じゃない。毎日、電話を掛けて緑の容態は変わりない。雪の中に何分閉じ込められたのだろう。三分を超えていたかもしれない。そうすると脳に酸素が送られず、機能に障害が起きるかもしれない。でも、それのこれも息を吹き返せばの話だ。
試験日を迎えた。当然ボロボロだ。僕は不合格を覚悟していた。そしたらどうなるんだろう」先が見えない恐怖が心を襲ったが、それより緑を失うことの方が恐ろしい、試験が終わったその足で僕は東京駅に向かい。あの町に戻った。
町に着き、病院に直行すると、中澤の人たちが皆、すすり泣いている。僕は目の前が真っ暗になった。そこに先代が現れた。僕を見つけると、
「試験はどうしたんじゃ」
と強い口調で言った。
「終わりました。それより緑さんは!」
僕は叫んだ。
先代は静かに言った。
「意識は戻った」
「えっ?」
「じゃが、記憶が無くなっている。君を見てもわかるかどうか」
「でも、生きているんですね」
「ああ、会ってみなさい」
僕は病室に走った。本当は病院内は走ってはいけないんだけど。そんなこと構うものか。
病室に入ると、緑以外誰もいなかった。僕に配慮してくれたんだろうか?
「緑」
僕はそっと声を掛ける。緑がゆっくり首を向ける。
「だ、誰?」
か細い声で緑は言った。
「僕だよ、僕だよ」
緑に近づく。
「ああ」
緑は頷いた。
「分かるの?」
僕が尋ねると、
「当たり前じゃないの、お兄ちゃん」
緑は笑った。
先代と緑の父親の話によると、緑には年子の兄がいたそうだ。兄弟仲はとても良く、緑はいつも「将来はお兄ちゃんのお嫁さんになる」と言っていたらしい。その兄が死んだ。緑が中学一年の時である。横断歩道を青信号で渡っていた時、赤信号を無視したトラックにはねられた。即死だった。運転手からはアルコールが検出された。緑には兄の死がどうしても受け入れられなかった。家の中で兄を探し、「いない」と言って外に探しに行こうとして、父親に止められた。そんな状態が一年以上続いた。精神科医にも診察してもらった。一年過ぎてようやく、兄の死を受け入れるようになった。そんな時、中澤の先代から父親に「そろそろ引退したい。こっちに帰ってきて地盤を継いで欲しい」との連絡があった。自然豊かな田舎に行けば、緑の精神もより良くなるだろうと考えた父親は即決した。こうして親子二人はここに来た。そしてあの丘で緑は兄に瓜二つ(に緑には見えた)僕に出会ったのだ。ここで緑が僕を兄だと思い込んだら、問題だったが、緑は僕を兄に似た他人と認識し、僕と付き合うことで、おそらく兄を失った心の傷を癒していたのだ。彼女の書く詩が暗い内容なのや、『僕』という人称を使うのも、それでなんとなく理解出来た。それはそれで彼女にとってよかったのだ。。しかし、今度の事故で記憶を失った緑は、僕を兄と勘違いした状態で記憶を取り戻してしまった。今、緑は僕の横にぴったりと張り付いているが、それは僕を恋人の僕としているのではなくて「お兄ちゃん」といてくっ付いているのだ。先代や父親が優しく、その間違いを説いているのだが、緑には理解できない。仕方ないので僕は「お兄ちゃん」として緑のそばにいる。とても複雑な気持ちである。僕はもう直ぐ東京に行かなければならない。その時、緑はどうなってしまうのだろう。僕は考えた、この地区の公立高校の受験日はまだ先である。志願日はすでに締め切られているが、中澤の権力を使えば多少の無理は効くのではないか。そしてこちらに僕一人残って、緑の兄として過ごせば彼女の心も安定し、そのうち正常な記憶を取り戻すのではなかろうか。そんなことを考えていると、東京から電報が届いた。『春来る』。R高校合格である。信じらえない。でも僕は最前の考えを両親に話した。両親は戸惑ったが「中澤の家にはお世話になった」として承諾をした。しかし肝心の中澤の先代が「我が家の問題で君ら家族をバラバラにするわけにはいかない」として、反対した。先代の意見は絶対である。僕は緑に心を残して東京に行くことになった。旅立つ日。駅のホームに先代や父親と来た緑は「なんで、なんで行っちゃうの、お兄ちゃん」と叫び、ホームの端まで走り、柵まで乗り越えようとして係員らに止められていた。その一部始終を見ていた僕は、緑との出会いからこれまでのことを考えて、不覚にも涙を流してしまった。母親がそっとハンカチを差し出してくれる。涙はいつまでも止まらなかった。
長い夢が終わった。気付けば涙が枕を濡らしていた。泣いていたのだろう。あれから何年経ったのであろう。一生忘れられない早春の思い出である。
それから僕の人生は流れるように進んでいった。R高校を卒業し、私立K大学文学部に入学、瞬く間に卒業し、今は編集プロダクションに在籍している。今はまだ下っ端だが、日々研鑽して、いずれは独立し、フリーのライターになりたいと思っている。緑の「あなたの文章、ノンフィクションやドキュメンタリーのほうが合っているわ」という言葉が胸に残っている。
緑のことを忘れたことはない。しかし、中澤の先代が「もう、緑のことは忘れてくれ。あの娘の記憶が戻ることはない。ずっと、君のことを兄だと思って生きていくだろう。それは君にとって幸せなことじゃない。重荷になるだけだ」と言って再び、緑に会うことを許してくれなかったのだ。僕は緑を忘れ、あの丘の記憶も忘れようと努力した。実際、記憶は遠いものになっていた。なのに今朝の夢が、それを巻きもどしてしまった。僕は緑に会いたいと思った。だから急遽休みを取って田舎に帰った。
緑があの日、涙にくれた駅のホームに降り立ち、僕がしたことは、あの丘に行くことだった。あそこに行けば、記憶を取り戻した緑に会えるような気がしたからだ。森は今も悠然とそこにあった。僕は立ち入り禁止と書かれた看板の設置された柵を飛び越え、森の獣道に分け入った。体がなまっていたせいで丘までの道はすごく遠く感じた。途中、少女が死んだ沢に出る。僕はやっぱり両手を合わした。そして沢の水をすくって飲んだ。疲れた体に清水が染み渡る。僕は三度それを飲んだ。ここに来るまでに汗をたっぷりかいてしまった。どれだけ運動不足なんだろうと己を叱った。
やがてあの丘が見えてきた。以前と全く変わらない姿だった。最後の力を振り絞って、僕は丘を登った。巨大な樫の木が僕を出迎えてくれる。けれど、緑はいなかった。当たり前のことだったけれど、淡い期待は破れた。僕は疲れた体を樫の木の根元に預けた。遠い記憶を呼び起こす。初めて緑と出会った時、僕は何をしていただろう。そうだ、読書に熱中しすぎて緑が声をかけてくるまで、その存在に気づかなかったっけ。それからほぼ毎日、二人はここで同じ時を過ごした。中二の春から中三の冬、あの雪崩に遭うまで。二年に足りない年月だったけれど、僕にとっては貴重な時間だった。そして緑にとってもそうだったと願いたい。そうだ、そのはずだ。僕は立ち上がった。緑に会いに行こう。意を決した僕は丘を下りた。
中澤の家に入るのは敷居が高い。先代に「会うな」と言われているのに、やってきたのだ。門前払いをうけるかもしれない。震える指でチャイムを押した。
「おう、よく来たのう」
先代は穏やかに僕を受け入れてくれた。ありがたかった。僕は畳に手をついた。
「先代とのお約束を破って申し訳ございません。今日は緑さんにお会いしたくてやってまいりました」
すると先代は、
「すまんがそれは無理だのう」
と言った。
「どうしてですか。約束違反だからですか」
僕は聞く。
「そうじゃねえ。緑はもうおらん」
「えっ?」
「緑はもういない娘になってしまったんじゃ」
(緑が死んだ?)
僕は呆然とする。そして、
「なんで、知らせてくれなかったのですか!」
と先代に詰め寄った。
「君はウチにとっては部外者じゃ、あえて知らせることもあるまい。用は済んだじゃろ。帰られよ」
先代は先ほどとは、打って変わって冷たい声で言った。
「失礼します」
僕は席から飛び出した。早歩きで廊下を歩き、玄関から靴も飛び出さん限りに駆け出た。
(緑が死んだなんて、嘘だ!)
心で咆哮した。
田舎の電車は終わりが早い。僕は最終列車に飛び乗って東京に帰った。
それからの僕の生活は荒れた。仕事は手につかず、校了に遅れ、担当の作家さんとの意思疎通もはかれず、編集プロダクションにはクレームの電話やメールが殺到した。上司は僕を叱責し、僕の仕事を取り上げた。文章の校正でもしていろと言う。しかし、校正の仕事にも身が入らない。重大なミスを見逃し、それが発行され、大失態となった。僕は半年間の減俸処分となり、事務方に回された。
僕は酒に逃げた。毎日、飲めない酒を無理やり飲んで、うさを晴らした。会社の女性を誘ったこともあった。地獄の底にいる男に同情する女性も居て、ボロボロの僕についてくる人もいた。三浦広子もその一人だ。二人で行った居酒屋で、僕は酔いつぶれ、結局彼女のアパートに担ぎ込まれ、挙句の果てに交情を果たした。広子は優しい女性で、投げやりな僕のわがままをなんでも聞いてくれた。その時の僕は最低だった。広子に王様のように振る舞い、なんでもさせた。広子に甘えまくっていたのだ。そうすることで緑との思い出を消し去ろうとしていた。そんな関係が長く続くわけはない。ある日、デートの途中で広子がキレ、先に帰ってしまった。歪んだ関係の終わりである。
取り残された、僕は憤懣やるかたなく街をさまよっていたが、あるギャラリーの前で立ち止まった。ポスターに描かれた絵の細密さに惹かれたのである。僕はピカソみたいな抽象画は嫌いで、写真のように精密に描かれた絵が昔から好きだった。中学の時、あの丘で、眼下に見える森をそのままスケッチブックに描こうとしたが上手くいかなかった。才能がなかったのであろう。そういえば漫画を描こうとして、途中で投げ出したっけ。写真のような絵を見るなら写真を見ればいいじゃないかと思う人もいるだろうけど、それは違う。いくら写真のようでも絵は絵である。絵であるから鑑賞に耐えうるのだ。人の手で描かれたからこそ意味があるのだ。
前置きが長くなった。とにかく、僕はそのポスターの絵に惹かれて、ギャラリーに入った。入場無料であった。入り口には『五島耕作遺作展』と書かれてあった。作者は故人なのか。入り口から入るとまずは風景画が並んでいた。山を描いたもの。その山に登って街並みや村を描いたもの。函館の路面電車、東京タワー、通天閣、安芸の宮島、長崎くんちなど日本全国を精力的に飛び回って描いていたことがよく分かる。つい最近まで描いていたのだろうと思われたのは東京スカイツリーの絵があったことだ。縦描きで、下からスカイツリーを見た構図だった。風景画が終わると静物画のコーナーになった。いわゆる、美術の時間にやる机の上のものを描いたものだがワイングラスは本当に透き通り、果物はみずみずしかった。ついでノンセクションの絵が並ぶ。いぬやねこ、電柱なんてのもある。公園の鳩が飛び立つ絵は羽音が聞こえてきそうだった。最後は肖像画である。その街々で出会った人に声を掛け、描かしてもらったものであると、解説には書かれている。一人一人じっくりと見ていく。もちろん知らない人だが、なぜかどこかで会ったことがありそうな顔ばかりであった。面白い。そうして眺めていた僕の目が一箇所で固まった。
「緑」
僕は軽く叫んでしまった。緑、間違いない。なぜなら題名が『中澤緑さん』と書かれていたからだ。作画年月日は去年の五月。場所は新潟県とある。なんで新潟に緑がいるのだ? 僕は混乱した。そうした先ほどからの僕の行動が不審に思えたのだろう。関係者と思われる、女性がやって来た。
「どうなさいました?」
女性は尋ねる。
「実はこの女性、僕の知り合いなんです」
正直に答える。そして、続けて、
「この作者の五島耕作さんは亡くなられているのですね?」
と確認した。
「はい。弟は去年の夏、白血病で亡くなりました。三十一歳でした」
女性は耕作氏の姉であった。
「そんなに若くして」
「大学卒業時に、病気が発覚しました。就職も決まっていたのですが、それも辞退して『僕はこれから死ぬまで、絵を描いて生きるよ。それが僕の生きた証だ』と言って全国を飛び回って絵を描きました。もちろん抗がん剤での治療の合間でしたが。そんな彼が楽しみにしていたのが街で出会った人の人物画を描くことでした。人を書き、住所を聞いてお礼状を書く。それが弟のちょっとした遊びでした。そしてその人たちとの交流も楽しんでいました。フェイスブックというんですか? 私はよくわからないのですが、それを使って交流していたようです」
「それが去年まで続けていらしたのですね」
「そう、春までは元気でした。梅雨に入って元気が無くなってすぐに……」
「そうですか」
そこで僕はハタと気付いた。
「僕はこういうものです」
と編集プロダクションの名刺を見せた。
「弟さんの生きた証を本にしませんか。この絵の完成度なら多くの人が見てくれます」
「そんなこと出来るのですか?」
「絶対とは言えませんがデスクに相談してみます」
僕に再び、やる気が湧いてきた。
僕は企画書を上司に持って行った。昨日徹夜してワープロで打ったものだった。
「なんだ、お前は事務方だろ」
最初、企画書に見向きもしなかった上司だが、僕の熱意に負けたのか、ペラペラとページをめくった。そして、次に最初からじっくり読み出した。
「この五島耕作氏は白血病で亡くなったのか」
「三十一歳でした」
「何か絵画の賞を獲ったことがあるのか?」
「いえ、市井の人でした。しかし、自分の描いた人物画のモデルと交流をフェイスブックなどで持ち、友達は四百人以上、フォロー数も二百人を超えています」
「ふうん」
「何よりも肝心なのが作品のクオリティの高さです。綿密で上品。見てみれば分かります」
僕は上司を連れて、あのギャラリーへ行った。
上司は感動していた。
「これほどとはな」
僕は鼻高々だ。
「責任者を呼んでくれ」
僕はお姉さんを探した。
「耕作さんの作品集を作ります。オールカラーでいきます。よろしいでしょうか?」
上司は言った。
「ありがとうございます。耕作も天国で喜んでいるでしょう」
「担当は彼にやらせます。まだ若造ですがよろしいでしょうか?」
「はい。耕作を見出してくれた方ですから」
「では早速契約しましょう。ああ、耕作さんの作品は全て、揃っていますか?」
「はい」
「販売するお気持ちは? この本が出れば購入希望者が殺到すると思いますが」
「今のところはありません。でも耕作の絵を持って幸せな気持ちになれる人がいるならば」
「そうですね」
上司は社印を押した契約書を鞄から取り出していた。僕はその時全く別のことを考えていた。
五島耕作氏は人物画を書かせてくれた人の住所を聞いていた。それならば、緑の現住所も聞いているはずだ。それを描いたアドレス帳を探す。僕は五島家を訪ねた。早速、アドレス帳をと言いたいところだが、まず仕事だ。カメラマンに写真を撮ってもらうため、大量の絵をスタジオに運ばなくてはならない。その見積もりをした。それに耕作氏の日記や書簡などがあれば、可能な限り本に載せたい。僕は耕作氏のレゾネを作るくらいの気持ちで作業にかかった。耕作氏は日記を几帳面につけていた。僕は最後の日記帳の五月を覗いた。『五月◆日、中澤緑さんに会う。キュートな娘なり。日本全国四十七都道府県を回り、写真を撮り、詩を書き、絵を描いているという。僕に似ている。思い切って僕の病気のことを話すと、とても同情してくれた。そして、自分にも病気があると告白した』ここで日記は終わっていた。緑の病気ってなんだろう。記憶喪失のことだろうか。ついでにアドレス帳も見つけた。な行を探す。あった、中澤緑住所不定。電話番号記述なし。ヒントが途切れた。だがしかし、去年の五月の段階では生きていることがはっきりした。希望の光が見えた。でも、中澤の先代はなんで緑のことを「もういなくなった」と言ったんだろうか。あれは単に「家からいなくなった」という意味に過ぎなかったのか? 人騒がせな爺さんである。おかげで僕は人生をフイにするところだった。
『五島耕作作品集』は版元がしっかり宣伝してくれたこと。ジャパンテレビが夕方のニュースで特集を組んでくれたこともあって上々の売り上げを見せた。僕は編集プロダクションの人間だから取材協力ってところに会社の名前が出るだけだけれど、我がことのように喜んだ。何せ、緑の生存を教えてくれたのが、あの人物画である。あの日、ギャラリーに行っていなかったら僕の人生の歯車はまだ狂ったままだったであろう。僕は編集に復帰し、今までの借りを返すように働いた。
ある時、不意に僕は、緑がフェイスブックはやっていないのかなと思った。気付くのが遅すぎた。早速検索をかける。出た、中澤緑。でもたくさんいる。プロフィール写真が顔写真ならわかりやすいが。そうでないのが多い。一つ一つ見なければいけないか、と思ったところに、あの丘の絵のプロフィール写真を見つけた。しかも「アガサ・クリスティを読んでいます」と書いてある。間違いない。ページを早速開く。すると北は北海道。南は沖縄まで各県で撮った写真と描いた絵、そして詩が載っている。本当に間違いない。緑だ。ページを読みこむと、あと行っていないのは、東京! 東京だけである。東京のどこかに緑は現れる。僕は心穏やかではなくなった。フェイスブックの最終更新は昨日。神奈川県だ。するともう、東京に来ていることは確実だ。彼女はどこへ行くだろう? 東京スカイツリーか? 上野動物園か? 僕は考えた。考えて考えて、やっと結論が出た。きっとあそこだ。
東京杉並区の見晴らしのいい道路。ここで僕は緑を待っていた。しばらくすると、一台のバイクが近くまでやって来て止まる。ヘルメットを脱いだその顔は、髪の毛をあの頃より伸ばした緑だった。面影はあまり変わっていない。少し、痩せただろうか。彼女は花束を持って横断歩道脇に向かって歩き、花束を置くと両手を合わせた。ここはそう、緑の兄がトラックにひかれれて亡くなった場所だ。花束を置いて祈るということは、兄の死を認識している証拠だ。彼女の心の闇はきっとぬぐい去られたのだ。僕は身を隠していた木陰から姿を晒す。
「緑!」
僕は叫んだ。彼女は振り返ると、一瞬驚いたような顔をした。それから笑顔になって、
「お兄ちゃん」
と応えた。僕の心は深い闇に包まれた。
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