第4話 白いドレスのロクサーヌ -Roxanne is dressed in white-

     ―――

     そうです、素晴らしいではありませんか、迷う恋路の探り合い。

     あなたは、わたしの長いマントの曳く黒い影を、

     わたしは、夏のドレスの夜目にも白いあなたの影を。

     わたしはただの影法師、あなたはまばゆい光の源!

     お分かりにはなりますまい、この一瞬がわたしにとり、

     どれほど尊いものであるか! 時として雄弁であったとしても……




 お祭りだった。

 自由が丘の駅から少し北に行ったところに神社がある。毎年、九月最初の土日にはお祭りが開かれる。その神社から大小様々な御輿や山車が出て、自由が丘を練り歩くのだ。十月の女神祭りには及ばないものの、街は華やかなムードに包まれる。女神祭りはどちらかというと洋風のフェスティバルだが、こちらは純和風のお祭りである。

 都内の商業地域の割に、自由が丘周辺は開発があまり進んでいない。地域住民が一致団結して再開発や大型ショッピングモールの建設に反対しているらしい。

 決して古めかしいわけではないのだがどこかノスタルジックな街並みは、お洒落な雰囲気を醸しだしている。その代償とでも言うべきか、区画整理が進んでいないため、駅の周辺は細い通りが複雑に入り組んでいる。ロータリーの周辺も、バス通りと思えないほど狭い道ばかりだ。

 駅の南口、マリ・クレール通りで遼太は待っていた。紅茶専門店の脇に立ち、改札から出てくる人をぼんやり眺めている。いつもなら北口で待ち合わせるのだが、今日は祭りで人が多そうなのでこちらにした。

 電話以来、眞桜子の態度は少し柔らかくなっていた。ふと目が合えば、はにかんだ笑顔を浮かべてくれたりする。その現場を白石に見つかってからかわれたりもしたが、あまり気にはならなかった。

「お待たせ……」

 突然声をかけられて、遼太は少し驚いた。目を瞬かせる。目の前に立っていたのは、眞桜子だった。

「どうしたの?」

「いや……」

 眞桜子は浴衣を着ていた。白地に黒い金魚が描いてあった。帯は鮮やかな赤で、素足に黒塗りの下駄を履いている。髪はサイドに編み込みをして、後ろでざっくりとアップにしている。銀色のかんざしがワンポイントになっていた。普段は髪を下ろしているのでとても新鮮に感じた。いつもより少し大人っぽく見える。

「……浴衣だな」

「うん、……どう?」

「その」

 遼太は駅の改札の方を見ながら言った。

「すごく、艶やかだと思う」

「……何、それ?」

 照れたように笑いながら、眞桜子はそう言った。頬が少し赤くなっている。

「艶やか、って言う人、初めて見た。何時代よ」

「うん」

 遼太は返事をした。自分でも何に同意しているのか解らない。

 二人は並んで歩き出した。眞桜子が足を踏み出す度に、からんころんと音がする。慣れない下駄で少し歩きにくそうだった。遼太は意識して歩調を緩めた。隣を歩く眞桜子を見る。目が合うと、彼女はちょっと首を傾げて笑った。白いうなじが目に入って、遼太は少しどぎまぎした。

 ガード下を通って踏切を渡り、バスロータリーの端っこに陣取る。祭りの中心地はかなりの人手だった。神社の方から次々とやってくる御輿や山車を見物する。大きく豪華な神輿が来たかと思えば、子供だけで担いでいる小ぶりなものが出たり、女性だけで引いている山車もあった。

 行列が目の前を通る度に、眞桜子はにこにことしながらそれを見送った。時折手を振ったり歓声を上げたりしている。遼太は祭りを見物しながら、眞桜子が人に押されたりしないように気を払っていた。

 行列が一段落したので、二人は駅の南側に戻った。石畳の緑道に出ている出店でクレープを買って、歩きながら食べる。それから屋台や店を冷やかしながら街を歩き回った。色々な種類のお洒落なお店が多いので、歩いて見て回るだけでもかなり楽しい。

「ふう」

 眞桜子は満足げな息を吐きながら、椅子に腰掛けた。

 駅から南側に少し歩いた、等々力通り沿いのコーヒー屋だった。眞桜子の行きつけの店だという。十人も客が入ればいっぱいになってしまうくらいの、小さなカフェだった。

「足、大丈夫か?」

 遼太は少し心配になって訊いた。下駄だったのに、今日は結構歩かせてしまった。この店も眞桜子のお気に入りだというので来たのだが、駅からは結構離れている。

「うん。絆創膏、いっぱい持ってきたから」

「……お前は、準備が良いなあ」

「そりゃ、当然予想できた事態だからね」

 やはり鼻緒が当たっている箇所が気になるようだ。眞桜子が下駄を脱いで足をさすっている。素足を見るのが気恥ずかしく、遼太は目を逸らした。

 店と同じ名前のブレンドが運ばれてくる。眞桜子は目尻を下げてそれを受け取った。とても薫り高い。同じものを頼んだのに、二人のカップは色も形も違っていた。

「このお店、ちょっと良くない?」

「うん」

 遼太は頷いて店内を見渡した。小さな店だが、白を基調とした内装は清潔感があって落ち着いている。店の奥にコーヒー豆の麻袋が無造作に積まれているのが洒落ていた。ゆったりとしたジャズが流れていて、時間が緩やかに流れているようだった。

「あのスピーカーが良いんだよね」

「え?」

「気がつかない?」

 眞桜子に言われて、遼太はスピーカーをまじまじと観察した。木製のくすんだ色をしたステレオスピーカーは、店の規模の割には大型だ。ちょっとした机くらいのサイズがある。かなりの年代物のようだが、機種やメーカーなどは遼太には判らない。そんなことに眞桜子が詳しいようにも思えなかった。

「ヒントはね、向きと配置」

 遼太の表情に気がついたのだろう。眞桜子は悪戯っぽくそう言った。猫舌の彼女はそれからコーヒーに息を吹きかける。

 眞桜子の言葉に従って、遼太は配置について考えてみた。店は長方形をしていて、短辺のうち一つに店外へのドアがある。長方形を縦長に区切るようにカウンターがあり、その中に調理スペースがある。

 二つのスピーカーは、長方形の長辺を三等分にするように位置している。店に入ってくるとカウンターの前を通ることになるが、スピーカーは客席側にある。近くにテーブルやソファがあり、座った客が少し手を伸ばすとぶつかってしまいそうだ。音もかなり耳に近いところで鳴ることになる。考えてみれば非効率な配置だった。店の奥に置くか、カウンターの中に入れた方が無駄なくスペースを使えそうな気がする。

「店内全部に音が届くようになってるのかな?」

「まあ、それもあるだろうけど」

 眞桜子は微笑んだ。よく見る悪戯っぽい感じではなく、優しい雰囲気だった。

「一番良い音が聞こえるのって、どこだと思う?」

 遼太はスピーカーをもう一度見遣った。最適なリスニングポイントは、二つのスピーカーから等距離の、ちょっと離れたところだろう。二等辺三角形になるように、頭の中で線を引いていく。

「カウンターの、中?」

 予想した場所に目を向けると、カウンターの中、調理スペースに入ってしまう。そこではカフェのマスターが豆を選別していた。

「うん」

 眞桜子はそう言って、コーヒーを一口だけ飲んだ。

「素敵じゃない?」

「うん」

 遼太もコーヒーを飲んだ。芳醇な薫りと微かな苦み、そして僅かな酸味が口の中に広がる。コーヒーのことはよく判らないが、とても美味しかった。

 眞桜子はかなり機嫌が良さそうだった。椅子の背もたれに寄りかかって、目を閉じている。時折カップを口に運ぶ以外はあまり動かない。リラックスしている雰囲気だった。遼太も特に話しかけなかった。店内には他に客はいない。スピーカーから流れる音楽と、キッチンで作業する音が時折聞こえるだけだ。

 ふと気がつくと、眞桜子が小さく寝息を立てていた。桜色の唇が僅かに開き、白い歯がちらりと見える。長い睫毛が、薄く化粧をした肌に影を落としていた。その力が抜けた姿は、とても無防備だった。

 よく見てみれば、眞桜子は少し痩せた気がする。目の下に隈を作っていたことも何度かあった。茶色の髪も根本に少しだけ黒い部分が覗いている。どれも文化祭の準備が始まるまでには、一度も見られなかった姿だ。

 それでも、今日眞桜子は来てくれた。和装を綺麗に着こなし、髪型もいつもより凝っている。その気持ちが嬉しかった。

 遼太はカップを手に取った。しかしコーヒーカップの中身は空だった。白い磁器の底が覗いている。

 仕方なく、遼太はお冷やを口に運んだ。




     *




「眞桜子」

「遼太……」

 予想された事態だった。

 九月の第一週の土日。藍山高校の学園祭も羽々音高校と同じく各教室を利用して演劇を行う。ただし藍山高では伝統的にミュージカルを上演することが多いようだ。

 その三年生の一クラス。ナチスから亡命する一家のミュージカルの初回公演への入場列。並んで待っていたのは遼太だった。彼がいる可能性は当然頭をよぎってはいた。しかし入場の時点で会うとまでは思っていなかった。

 遼太は一人で来ているようだった。眞桜子は仕方がなく遼太と並んだ。昨日の今日だがどうにも顔が合わせづらい。

 昨日は喫茶店でうっかりうたた寝をしてしまった。今思い出しても、顔から火が出るほど恥ずかしい。人生最大の不覚と言っても過言ではないかもしれない。

 係の生徒からパンフレットを受け取る。とりあえずそれを開いてそこに視線を落とす。佐倉は末っ子の役だった。小柄だし童顔だからだろう。本人はもしかしたら不満かも知れないが、ぴったりな配役だった。

 並んでいるのに、二人は何も話さなかった。遼太から話しかけても来ないし、眞桜子も何を喋ればいいのかよく判らなかった。とは言え、そんなに居心地が悪いとも思わない。

 やがて開場時刻となり、教室の中へと案内される。二人は並んで座った。ミュージカルは盛況で、かなり詰めて座る羽目になる。眞桜子はちょっと緊張した。ふとした拍子に遼太と肩や腕が触れてしまうのが気恥ずかしい。

 すぐに照明が落とされ、ミュージカルは開演する。厳格な父親と管理された子供たち。佐倉もひらひらの服を着て、あどけない幼子を演じている。明るく奔放な家庭教師が一家の凝り固まっていた心を音楽の力で溶かしていく。

 眞桜子は意識して、ミュージカルに没頭した。隣に座る遼太のことを無理矢理意識の外に追い出す。彼がどんな表情で劇を、佐倉のことを見ているのか、確認したくなかった。

 発表会で見事グランプリを獲ったが一家は表彰式に現れない。見事に亡命を成功させて、ミュージカルは大団円を迎えた。

 眞桜子は力一杯拍手をした。本当に素晴らしかった。他の観客も同じ感想だったようで、教室中に響く拍手は鳴り止まない。それに応えるために、キャストやスタッフが舞台裏からわらわらと出てくる。その中に、佐倉の小柄な姿があった。照れたように、でもどこか誇らしげに笑顔を浮かべている。

 監督の挨拶が済んで、観客がぞろぞろと教室を出て行く。人の波をかき分けながら、眞桜子は舞台近くに何とか辿り着いた。遼太も後ろについて来ている。

「佐倉先輩!」

「眞桜子ちゃん。遼太君。見に来てくれてありがとう」

 佐倉はにこにこしながら出迎えた。その笑顔に向かって眞桜子は勢い込んで言った。

「すっごく良かったです。感動しました!」

「ホント!? 良かったあ」

「本当に最高でした」

 遼太も少し真面目な顔で褒め称える。佐倉はますます笑窪を深くした。

「先輩、歌上手でしたね。いや、上手ってことはないか。むしろ下手だ。ヘタウマ?」

「ひどおい」

 佐倉は幼児役だったので、舌っ足らずに歌うシーンがあった。本来なら子役を使うところだが、文化祭なのでキャストは全員が高校生だ。どう頑張っても、見た目のギャップを埋めるのは厳しいものがある。それでも佐倉はあどけない幼児役を魅力的にこなしていた。

「なんかもう、激ロリでしたね。超ラブリーでした。本物の幼児使ってるんじゃないかと思ったくらいです」

「うう、なんか釈然としない褒められ方……」

 佐倉がいじけたように言う。遼太も苦笑していた。恐らく、彼にも否定出来ないところだろう。しかし、その瞳がとても優しいことに、眞桜子は気がついた。

「眞桜子の言い方はあれですけど、本当に凄かったです」

 遼太がそう言うと、佐倉はにっこりと笑った。笑顔が眩しい。こちらが元気づけられそうなほどだった。

「うん、ありがと。後、投票よろしく!」

「もちろんです!」

 藍山高も人気投票がある。一票でも多く欲しい気持ちは良く解るので、眞桜子は力強く頷いた。遼太も笑顔で同意する。

「ところで、一つ訊いて良い?」

「何でしょう?」

 首を傾げた佐倉に、眞桜子も傾げ返した。

「なんで、制服着てるの? それも眞桜子ちゃんだけ」

「ああ……」

 眞桜子は自分の姿を見下ろした。いつも通りのブラウスとスカート姿だった。一見制服のようだが、実は学校指定の地味な標準服ではなく、アレンジしたなんちゃって制服だ。ブラウスは白ではなく薄いブルーだし、首にはスクールリボンを留めている。スカートも本来なら無地の紺一色だが、今日はチェックが入ったものを選んだ。羽々音高は校則について非常に緩いので、大体制服みたいな格好をしていれば許される傾向にある。二年にもなれば、クラスのお洒落な女子は大体こんな服装だ。

 しかし他校の文化祭に制服で来る理由はもちろんない。むしろかなり異端である。さっき廊下を歩いているときも、藍山高の生徒が在校生なのか客なのか判断がつかず微妙な顔をしていた。それによって投票権を持っているかどうか決まるので、勧誘する側としては死活問題だったのだろう。

 とは言え、見学に来た中学生は制服を着ていることが多いようだった。特に親子連れの場合、そのケースが目立つ。着こなしが地味なので、見ればすぐに解る。

 一方、遼太は完全に私服だった。白い柄物のTシャツにジーンズというかなりラフな格好だった。昨日、自由が丘で会ったときと、あまり変わらないファションだ。

「実はこの後、自分の学校行かなくちゃいけなくて」

「補習?」

「先輩が私のことをどう見ているのか、よく解りました」

 眞桜子が腰に手を当ててそう言うと、佐倉はぶんぶんと手を振った。それを見て、眞桜子は表情を緩めた。

「自分の文化祭の準備が進んでないんですよ。休日出勤です」

「眞桜子ちゃんだけ?」

「ええ。裏方の仕事なので」

 眞桜子がそう言うと、佐倉はぷくっと膨れた。

「もう! 遼太君もちゃんと手伝ってあげないと駄目だよ! 監督なんでしょ!?」

「そうですけど……。すいません」

 遼太は何か反論しかけたが、すぐに謝った。佐倉相手だと随分素直なのだな、と眞桜子は思った。

「いえ、遼太に来られても何の役にも立たないので」

「眞桜子ちゃん、それは酷いよ!」

 眞桜子の言葉に、佐倉が慌てた様子で言う。眞桜子は意識して表情を緩めた。

「だって、ポスターの打ち合わせですよ?」

「……ああ」

 一瞬の沈黙の後、佐倉は納得したように頷いた。

 遼太は絵が下手なのだ。高校生とは思えないレベルの描写能力しかない。構図やイメージの案出しで貢献してくれるとはとても思えない。

「でもほら、荷物持ちとか、飲み物買ってきて貰うとか!」

「……だって。してくれる?」

 眞桜子は遼太の方を横目で見た。渋い顔をしていた。

「ご遠慮します」

「と、いうことなのです」

 眞桜子は佐倉の方を向き直った。苦笑していた。

「あ、ごめん。そろそろ次の回の準備しないと」

「すいません、長々と。最後まで頑張って下さい!」

「ありがと! じゃあ、また今度! 如蘭祭も見に行くから!」

 手を振りながら眞桜子たちは舞台を離れた。教室を出るときに、配られたうちわを返す。扉を抜け廊下に出ると、見知った顔に出くわした。

 列の先頭に並んでいたのは朝倉先輩だった。パンフレットに視線を落としている。眞桜子たちにはまだ気がついていない。

 眞桜子の隣で、遼太もぴたりと足を止めていた。口が半開きになっている。朝倉先輩がこのタイミングで来ていることを知らなかったようだ。

「っ!」

 眞桜子は咄嗟に遼太の手首を掴んだ。それから廊下を、朝倉が並んでいるのとは逆に向かって早足で歩き出す。遼太は一瞬躊躇したが、すぐに自分から歩き出した。

 遼太と二人でいるときに、先輩と顔を合わせたくなかった。訳知り顔で見られたりなどしたら、とても耐えられない。階段を見つけて下の階に向かう。追いかけてくるはずもないのに、足早に踊り場まで下りる。そこでようやく足を止めた。

 ふう、と溜息を吐く。それから、自分がまだ遼太の手首を掴んでいることに気がついた。慌てて手を離す。

「……ごめん」

「いや……」

 言葉少なに言い合う。踊り場の真ん中に立っていたので、壁際に寄る。

 眞桜子は大きく息を吐いた。気を落ち着ける。遼太の方を見ると、彼も同じようにしていた。目が合うと、お互い苦笑してしまう。

「この後の予定は?」

 遼太に訊かれ、眞桜子は腕時計を見た。藍山高から羽々音高までは電車で二駅だ。まだ慌てるような時間ではないが、他の劇を見ているほどの余裕はない。佐倉のクラスの二回目の公演はすぐに始まるはずだ。

「もうちょっとしたら羽々音に行くけど」

「そうか」

「遼太は?」

「……俺も行くよ。役に立たないかもしれないけど」

 遼太が真面目な顔でそう言う。思わず眞桜子は噴き出した。

「遼太、制服じゃないじゃない」

 いくら校則が緩いとは言え、今の遼太の格好では見咎められるだろう。せめてポロシャツくらい着ていれば何とか誤魔化せるかも知れないが、Tシャツにジーンズではさすがに無理がある。

「そうか、そうだな……」

「ここの文化祭、他の劇も見て行ったら?」

 眞桜子はそう提案した。

「もしかしたら、何かうちのクラスの参考になるかも知れないし」

 遼太は少し悩んだが、結局首を横に振った。

「いや、帰るよ」

「そ」眞桜子は意識して明るく微笑んだ。「じゃあね」

 遼太が階段を下りていく。手を振って眞桜子は見送った。遼太の姿が見えなくなってから、眞桜子は逆に階段を上った。

 少しでも参考になればと思い、時間の許す限り文化祭を見て回ることにした。看板やポスター、パンフレットなどをこまめにチェックして、良いアイデアを頭に書き留めておく。

 結局眞桜子が藍山高を出たのは時間ぎりぎりになってからだった。正門のところで佐倉のクラスに投票をする。それから早足で地下鉄の駅に向かい銀座線に飛び乗った。羽々音高校最寄りの赤坂見附まではほんの五分ほどの短い旅だ。日曜午前中の地下鉄は、閑散としていた。

 駅の出口から羽々音高の門までは、遅刻坂と呼ばれるとても傾斜がきつい坂がある。通称であり、正式名称は別にあるが、誰もその名では呼ばない。九月になり暦の上では秋のはずだが、太陽はじりじりと照りつけてくる。息も絶え絶えになりながら上りきり、茹だる身体を引きずりながら24Rの教室に向かう。

 教室に入る。美術部の吉田はまだ来ていなかった。鞄を置いて、自分の席に腰掛ける。エアコンは入っているはずだが、ひどく蒸し暑かった。

 佐倉たちのミュージカルはとても楽しかった。その印象は残っているのだが、内容をあまり覚えていない。

 別れ際の、階段を下りる遼太の後ろ姿ばかりが頭をよぎる。彼はあんなに撫で肩で猫背だっただろうか。

 シラノ・ド・ベルジュラックを思い出す。ロクサーヌから、外見ではなく魂に惹かれていると告げられたときのクリスチャンは、どんな想いだったのだろうか。その美しい顔の奥で、何を考えていたのだろうか。

 ふう、と溜息を吐いて、眞桜子は鞄の中からステンレスボトルを取りだした。




     *




「藤崎!」

 怒鳴りつけたのは英語の小田部教諭だった。七時間目。火曜の最終授業だった。

「は、はい……」

「立て!」

 眞桜子がのろのろと立ち上がる。小田部は青筋を浮かべていた。その気持ちはわからないでもない。先ほどまで、眞桜子は机に伏せて爆睡していたのだ。

 言うまでもなく、世の中には寝て良い授業と寝てはいけない授業の二種類がある。寝ているだけで激怒する教師もいれば、周りの生徒に迷惑をかけていなければ気にしない教師。果てには生徒にまったく気を払わない教師など様々だ。

 定年間近の英語教諭、小田部の授業は寝てはいけない授業に分類される。少しうとうとしているくらいなら突然当てられるくらいで済むが、机に突っ伏していたら確実に激怒される。もう何ヶ月も授業を受けているので、眞桜子もそれくらいは解っているはずだった。

 今日は朝から体調が悪そうだった。今も横顔がひどく青白い。なのに汗をかいているのも見て取れる。普段は理知的な瞳も、今はどこかぼんやりしている。

「お前、舐めてるのか! テスト明けだから気が抜けてるんじゃないか!?」

 小田部が怒鳴る。眞桜子はびくり、と身を震わせた。うつむき、口が半開きになっている。立っているのもやっとのように見えた。

「いえ……」

「眠いなら、図書室でも行って寝てろ!」

 眞桜子の姿が、遼太にはとてもか弱く見えた。普段のどこか人を食ったような態度ではない。二人でいるときの少しはにかんだような顔でもなかった。今にも泣き出してしまいそうに見えた。

 今まで、眞桜子の涙を見たことは一度も無い。

「先生!」

 思わず、遼太は立ち上がった。右手を真っ直ぐに挙げる。

「……何だ?」

 お説教を邪魔された小田部が疎ましげに遼太の方を向く。その顔に向かって、遼太は高らかに宣言した。

「俺、眠いんで、図書室行ってきます!」

「……は?」

 ぽかん、とした顔を小田部は浮かべた。教室中に疑問符が浮かぶのが、目に見えそうなほどだった。遼太はことさらにゆっくりと歩き出した。机の間をすり抜け、教室のドアに向かう。

「何で、お前が!?」

 小田部が何事か喚いていたが、遼太は無視して教室の外に出た。ドアを乱暴に閉める。どこに行こうか迷ったが、宣言通り図書室に向かうことにする。他に時間を潰せそうな場所を思い付かなかったのだ。

 授業中の廊下には誰もいない。なのに教室の中から授業の声が響いてくる。なんだか異世界のようだった。

 ガラスの扉を開けて図書室に入る。貸し出しカウンターには司書の先生がいたが、遼太を見ても何も言わなかった。部屋の奥の自習スペースに向かう。恐らく三年生だろう、何人か先客がいた。遼太は窓側の席を選んで腰掛けた。

 さっきからスマホが断続的に振動している。確認してみると、クラスメイトからのメッセージやスタンプばかりだった。「最高」「超ウケる」「お前が出て行くんかい」「小田部呆然」などなど。白石からも「グッジョブ」とスタンプが来ていた。眞桜子からのものはさすがに無い。

 ああ言って出てきたものの、まったく眠くなかった。授業中は正直うとうとしていたのだが、興奮して頭が冴えてしまったようだ。かといって荷物はすべて教室に置いてきてしまったので、如蘭祭の準備も出来ない。

 結局、本棚を巡り、演劇に関する本を探すことにする。しかし、どれも一度は読んだ物ばかりだ。それでも一冊を手に取りぱらぱらとめくる。しかし内容はまったく頭に入ってこなかった。

 さきほどの眞桜子の横顔が頭から離れない。血色が悪く、いかにも弱々しかった。普段の飄々とした様子とは大違いだった。その一方で、儚く、綺麗だとも感じた。何故そう思ったのかは解らない。ただ、守ってやりたくなったのだ。

 やがて、チャイムが鳴る。しかし遼太はしばらく図書室の棚の間で立ち尽くしていた。すぐに戻ると小田部と鉢合わせになるかと心配したのだ。さすがにこのタイミングで顔を合わせたくはない。

 十分くらい経ってから、遼太は教室に戻った。放課後の室内はざわめきに溢れている。少し緊張しながら扉を開けた。

「あ、戻ってきた!」

 白石が遼太を見つけてにやにや笑う。教室の中にはもうクラスメイトは半分ほどしか残っていなかった。帰宅したり、部活に行ったりしたのだろう。

「ただいま」

「お前、最高だよ!」

 武藤が笑いながら小突いてくる。それを防ぎながら遼太は訊いた。

「あの後どうなった?」

「別に何も。ただ、すごく不機嫌なまま授業再開しておしまい」

「そ、か。良かった」

 遼太は自分の席に戻る。鞄は出ていったときと変わらず、机の横にかかっていた。

「眞桜子、大丈夫か?」

「う、うん……」

 眞桜子は俯いたまま小さな声で答えた。

「ありがと……」

「で」白石が言う。「眞桜子。さっさと帰りな」

 眞桜子は顔を上げないままで答えた。髪に隠れて表情は見えない。

「何で? この後練習でしょ」

「だって、滅茶苦茶体調悪そうじゃない」

 白石は眞桜子の額に右手を当てた。それから左手を自分の額に添えて、温度を比べている。やがて眉を寄せて難しい顔になった。

「ちょっと熱いかな。早く帰って寝なさい」

「夏だからだよ」

 眞桜子はそう言って、白石の手から逃れた。

「んなわけあるか」

「でも……」

「あのね、眞桜子」

 白石が真面目な顔を作る。視線が厳しくなった。

「今のあんた、惚れた男に見せちゃ駄目な顔してるよ」

「―――っ!」

 びくりと眞桜子が震える。それでも首を横に振った。まるで赤ん坊が駄々を捏ねているようだった。

「一人で帰れないって言うならしょうがない。遼太、眞桜子を送っていって。なんならお姫様だっこで」

「なんで遼太なのよ」

「だって、私が送ってくわけにいかないでしょ? ジュリエット無しでロミジュリをやれって?」

「遼太は監督じゃない」

 ふう、と白石はため息を吐いた。遼太の方を向いて肩を竦める。それから眞桜子の方に向き直った。

「監督いなくても練習は出来るよ? まあ、ちょっと締まらなくなるかもしれないけど」

「だから、私がここに残れば済むでしょ」

 はて、と遼太は首を捻った。こんなに聞き分けの悪い眞桜子は珍しい。どちらかというと普段は効率最優先のクールな女なのだ。

「ここにいられると心配になっちゃうんだってば」

「でも……。ほら、ブログ書かないといけないから。練習風景が無いと」

「そんな無理して書かなくても」

 眞桜子は白石の言葉を遮った。

「駄目だよ! 毎日書かないと。そういうちょっとしたこどで、お客さんの数が全然違って来ちゃうんだから。写真だって載せないと……」

 眞桜子は必死にそう言った。白石が不思議そうな顔をする。

 遼太はぽん、と眞桜子の頭に手を置いた。

「体調崩したって記事を書け」

「え?」

「頑張りすぎて体調崩した。監督から強制送還させられた。だから写真無くてごめんなさい。練習はちゃんとキャストがやってます。名監督の素晴らしい手腕にご期待下さい。……何か問題は?」

「……名監督?」

「よし、他には問題ないな。解決、解決」

 遼太が無理矢理まとめると、眞桜子は悔しそうに頷いた。それからのろのろと荷物をまとめて立ち上がる。

「本当に、ちゃんとやってよね?」

「眞桜子がちゃんと寝るかの方が心配だよ」

 白石が軽く言う。遼太も同感だった。

「じゃ、ごめん。お先に」

 眞桜子はそう何度も謝りながら帰って行った。その後ろ姿を見送る。俯きながらとぼとぼと歩いていた。




     *




 遼太は余裕を持って登校した。と言っても授業に対してではない。朝練の開始時刻の十分前だ。教室の中を見渡す。感心なことにキャストは半分くらい集まっていた。

「眞桜子は?」

「休ませた」

 白石が眠そうに答えた。一度大きく欠伸をしてから、言葉を続ける。

「朝一で電話して、やっぱり来ようとしてたから、絶対休め、と言っておいた。眞桜子のお母さんにも言い含めておいたから大丈夫」

「……悪いな」

「はてさて。なぜ遼太君からお礼を言われるのかな?」

 白石が横目で見てくる。遼太は自分の失言を悟った。まだ寝ぼけているのかも知れない。

「それにしてもね。やっぱ眞桜子がいないとやばいね、このクラス」

 白石が重々しく言う。その意見には同感だった。

 昨日、体調が悪そうな眞桜子を帰らせたまでは良かった。しかしその後は修羅場だった。

 如蘭祭本番まであと二週間を切っている。劇の中身については遼太と白石がメインでやっているが、その他の手配は眞桜子が中心になっている。

 教室に舞台と客席を作った場合、どんな風になるのかが昨日問題になった。しかし担当する係も含めて、機材の大きさが判らない。舞台装置や大道具を作る手はずは整っていたが、肝心の材料もよく判っていない。すべて眞桜子が調達を担当している部分だった。本人に訊くのが一番早いのだが、早く寝ろと帰した手前、電話をするのもばつが悪い。性格上、心配して責任を感じてしまいそうなのも気がかりだった。

 これは眞桜子の責任だ。情報共有をきちんとしていなかったため、本人にしか判らなくなってしまったのだ。しかし今それを言ったところで仕方が無い。眞桜子が復帰してから、一度ちゃんと情報をまとめておこう、と遼太は思った。

「でも、今日も休みなんだろ?」

「うん。まあ、まだ何とでもなるよ。これが来週だったら、完全に詰んでたかも」

 白石がそう言って、乾いた笑いを浮かべる。遼太もつい表情が引きつってしまう。

「そんなわけで、今日、お見舞いに行ってね。眞桜子の家まで」

「俺が? なんで?」

「ほら、ここまで来たら、ドーピング打ってでも元気になって貰わないと」

 白石がにやにや笑いながら言う。そこに女子二人が話に入ってきた。

「え? 何? 遼太君、眞桜子のお見舞い行くの?」

「看病とかしちゃうんだ!」

「リンゴとか剥いてあげちゃったり?」

「おかゆ作ってあげたり」

「ふーふーしてあーん、とか」

「そのうえ、汗とか拭いてあげたりしちゃったりして!」

「大丈夫か? 眞桜子……」

「うん。でも、優しくして!」

「眞桜子!」

「遼太ー!」

 小芝居をしながら二人のボルテージが上がっていく。朝から無駄に元気そうだった。

「いや、親がいるだろ」

「なんだ、つまんない……。二人っきりじゃないのか」

「ってか、練習あるから行けないんじゃないかと」

 遼太は冷静に言った。九月に入ってから、朝晩と一日も休まず練習漬けだ。下校時刻に学校を追い出された後に、公園や公民館で練習することも多い。

 遼太やキャストはそれでもあまり問題はない。練習は大変だが、時間が終わってしまえば、帰って寝るだけだ。しかし眞桜子は帰宅後も、裏方の仕事やブログの更新をしている。

「サボっちゃえ!」

「出来るか!」

 遼太は頭を抱えながら言った。やる気が出てきたと思ったらこのリアクションだった。どこまで真剣なのかかなり疑わしい。明らかに劇の完成度よりも目の前の玩具に夢中である。

「終わった後に行けば良いじゃん」

「それだと夜になるから、流石に迷惑になるだろ」

 遼太は渋面を作って言う。正直、眞桜子の容態はかなり気になる。可能ならば顔を見に行きたいところだ。口に出すと酷いことになるのが目に見えているので黙ってはいるが。

「いや……」

 白石が、今までに見たことのないほど真剣な表情で言う。元々整った容姿をしているので、触れたら壊れそうなほどに美しかった。

「夜に行くべきだよ。むしろ」

「……なぜ?」

「眞桜子の家、夏休みに一度行ったんだけど、マンションの二階なんだよね」

「それが?」

「夜。バルコニー。そして愛しの彼を想いながら、一人佇む美しい少女……」

 芝居がかった口調で白石が語り出す。そして空中に向かって手を差し出した。有名なバルコニーのシーンの、ジュリエットだった。

「嗚呼、遼太! 貴方はどうして遼太なの!?」

「ぶははははは!!」

「月の女神よ。私の願いを聞いてくれるなら、どうか遼太をここまで連れてきて!」

「おいこら!」

 坂本とヒナが大爆笑する。白石は恍惚とした表情のまま、空中を見上げていた。その役者魂に一瞬だけ、敬意を抱きそうになる。

「嗚呼、遼太! どうしてここに!?」

 迫真の演技が続けられる。立ち位置を素早く変え、声も低くなる。

「おお、眞桜子! 恋の翼を広げ、塀など軽く飛び超えました!」

「全然似てねえよ!」

 坂本とヒナが身体を折り曲げ、声を出せないほど笑っている。気が付けば白石も爆笑していた。

「やば、腹痛い……!」

「笑いすぎだろ!」

 遼太は憤慨した。しかし女子三人は大爆笑が止まらない。気づけば武藤をはじめ、他のキャストも大声で笑っていた。遼太以外、しばらく笑い転げていたが、ようやく白石が復帰した。顔はまだ笑いがこらえ切れていない。

「そんなわけで、夜でも良いからお見舞いよろしく」

「この流れでそれを言うか!?」

「今日会えなかったら死んじゃうかもよ?」

「不吉なこと言うなよ!」

 チャイムが鳴る。結局、今日の朝練は出来なかった。




     *




 遼太は緊張しながら扉をノックした。中から眞桜子の声がする。震える手でノブを捻り、木製のドアを押し開ける。

 結局、練習が終わった後に眞桜子の家までお見舞いに来ている。白石が事前に連絡してくれていたため、眞桜子のお母さんとの話はスムーズに通った。しかし、男子一人で来るとは思っていなかったのだろう、ちょっと微妙な表情だった。少し話をしたらすぐに帰るので、と言って通して貰っている。

「眞桜子」

「いらっしゃい」

 中に入る。部屋は綺麗に片付いていた。調度品はシンプルな物が多く、あまり女の子らしさは感じなかった。しかしあまりじろじろ見てはいけない気持ちになったので、意識して視線を固定させる。

 眞桜子はベッドの上で、上体だけを起こしていた。肩まで引き上げたタオルケットで、首から下を全部隠している。髪はゆるく三つ編みにしていた。

 昨日と比べると、かなり体調は良さそうだった。血色も良いし、目もぱっちりしている。

「ごめんね、わざわざ。あ、椅子使って」

 眞桜子の言葉に従い、遼太は勉強机の前の椅子を引きだして腰掛けた。普段彼女が使っている椅子かと思うとそれだけのことにちょっと緊張する。

 こんこん、とドアがノックされる。入ってきたのは眞桜子の母親だった。手に花瓶を持っている。中には青い花が生けてあった。遼太は名前すら知らない。駅前の花屋で、目的と予算だけ告げて適当に見繕って貰ったのだ。

「これ、お見舞いだそうよ」

「……遼太が?」

 机の上に、花瓶が置かれる。眞桜子は訝しげに遼太の方を見る。遼太は視線を逸らした。明るい色のカーテンが目に入る。

 母親が出て行くのを待って、眞桜子は言葉を発した。

「ほたるの入れ知恵でしょ?」

「……うん」

 遼太は素直に頷いた。練習が終わって教室を出るときのことを思い出す。


「遼太君、お見舞いにシュークリームとか持って行っちゃ駄目だよ?」

 鞄を持った遼太に声をかけたのは白石だった。

 練習が終わった直後、普段なら全員で片づけをするのだが、今日は遼太だけは免除となった。ただの好意だけではないのははっきりしているが、今日ばかりはそれに抗うつもりはなかった。

「……当たり前じゃん。病人なんだから」

 一瞬、答えが遅れた。そのことに気がついたのだろう、白石は溜息を吐いた。最近、女子に溜息を吐かれる頻度が高いような気がする。

「お花にしなさい」

「花?」遼太は思わず渋い表情を浮かべた。「どうかなあ」

「恥ずかしいだけでしょ?」

 しかし白石は容赦なく、気持ちを読み取ってきた。正直、花を持って女性に会いに行くなんて、考えただけでも気恥ずかしい。

「そう言っても、花なんて、何持っていけば良いのか判らないし」

「馬鹿ね」

 白石は見下すように遼太を見た。

「そんなのお花屋さんで、お見舞いに持っていきたい、って伝えれば良いの。喜んで見繕ってくれるよ?」

「そうなの?」

「そうなの」

 白石は腰に手を当てた。

「良いじゃない、お花。かなり無難な贈り物だし、貰って嬉しくない女の子なんていないよ? 選ぶのもプロにお任せできるし」

「……そうだな」

 遼太は不承不承頷いた。理屈の上でそうなることに異論はない。しかしネックになっているのは精神的な問題なのだ。

 とは言え、そもそもお見舞いに行く時点で、相当照れくさい。ちょっとくらい花が増えたところであまり変わりはないだろう。そう自分に言い聞かせる。

「何か、伝えることはあるか?」

「お大事に」

「……他にも何かあるだろ」

「そこは遼太君のセンスに任せるけど……」

 白石は眉を寄せ、難しい顔て考え込んだ。

「準備が滞ってることは言わないで。眞桜子がいないと困る、とかも禁止」

「両方とも事実じゃん」

「そうだけどね。でもあの子、あれで責任感強いから、そんなこと聞かされたら無理してでも出てきちゃいそう。朝も言ったけど、別に明日いなくてもなんとかなる。でも無理して出てきて来週また休まれると、本当に致命傷になるから」

 首をぐるぐる動かしながら白石は考え込んだ。

「かといって、過剰に大丈夫アピールしてもショック受けて落ち込みそうだしなあ。ああ、面倒くさい。ともかく心配させることだけは言わないで!」

「……了解」


 そんなわけで、お見舞いの品は花になったのだった。眞桜子は目尻を下げて青い花弁を見つめている。

「ありがと。嬉しい」

 眞桜子が大きく微笑む。遼太は小さく頷いた。白石の助言を素直に聞いておいて良かった、と思った。

「で、体調は大丈夫か?」

「うん、もう全然平気。昼にはお医者さんにも行ったし……」

「風邪?」

「ううん、違うみたい。ただ睡眠不足が続いてたから。無理しすぎって怒られちゃった」

 困ったように眞桜子は笑う。随分と機嫌が良さそうだった。

「でも、今日はずっと寝てたからもう大丈夫。明日には行けるよ」

「無理するなよ。しっかり治してから出てこい」

 遼太は苦笑した。白石の予想通りだった。

「無理するよ」

 しかし眞桜子は真面目な顔でそう言った。

「だって、後十日もない。如欄大賞を獲るためには、少しでもクオリティを上げないと。もう、無駄に出来る時間なんて全然無いんだよ」

「眞桜子……」

 遼太は驚いた。

 如欄大賞が欲しい、と最初に言ったのは遼太だ。それはかなり個人的な理由で言い出したことだ。とても現実的な話では無いし、すげなく断られても仕方が無い。しかし、自由が丘のケーキ屋で眞桜子は頷いてくれた。けれど、ここまでやる気になってくれているとは思っていなかった。遼太と違って、彼女には本気になる理由がない。

「うん、そうだな」

 白石の言葉が一瞬、頭をよぎる。しかし、遼太は正直な気持ちを言った。

「頼む。眞桜子の力が必要だ」

「うん! 全部終わったらゆっくり休むよ。秋休みもあるし」

 それから、眞桜子は照れたようにへへ、と笑った。

「準備はどう?」

「ちゃんとやってるよ。演技の方はもうほぼ完璧。後は音響とか照明が入ったときにどうなるか、だな。衣装もあるし」

「そっか。音響は適当なスピーカーとかでも代用できるけど、照明はちょっと難しいなあ。衣装も揃うのは前日の予定だし」

 眞桜子がううん、と考え込む。

「とりあえず今日は休めよ。頭使ってないで」

「あ、うん」

 眞桜子は素直に頷く。遼太の顔を見てまた微笑んだ。普段よりあどけなく感じた。化粧をしていないせいだろうか。

 遼太は壁に掛かった時計を見上げた。来るのが遅かったので、もう八時になっている。

「そろそろ帰るよ」

「あ、うん……」

 眞桜子が頷く。すこし名残惜しそうに見えるのは、自惚れだろうか。それとも、そう思っているのは自分の方だろうか。

「あ、その」

「うん?」

「一つ訊いて良い?」

「何だ?」

 眞桜子が、タオルケットを更に引き上げ、鼻まで隠す。もう目しか出ていない。その瞳が遼太の方を、ちらちらと窺っている。

「この間の日曜、藍山高の文化祭だったじゃない」

「あ……」

 遼太は言葉に詰まった。あの日は、眞桜子を置いて逃げるように帰ってしまった。

「その、佐倉先輩のミュージカルを見て、どう思った?」

「どうって……」

 遼太は言い淀んだ。眞桜子の瞳が真っ直ぐに遼太の方を見つめている。彼女が、何を考えてこの話題を振ったのか判らない。

「すごく、良かったと思ったけど」

 結局、遼太は当たり障りのない返事をした。

「……うん」

 眞桜子は本当に僅かにだけ、頷いた。

「先輩、可愛かったよね」

 真摯な瞳が、まっすぐに遼太の方を見つめている。どんな揺らぎも見逃すまいとしているかのようだった。

「……ああ」

 遅れて遼太は頷いた。可愛いと思ったのは事実だった。けれどそれを眞桜子に告げることを躊躇った。

 しかし。きっと眞桜子は遼太の気持ちなど、簡単に読み取っているように感じた。だから頷いた。それが彼女に対する誠意だと思った。

「うん」

 眞桜子が困ったように微笑む。

「引き留めてごめんね」

「いや……」

 遼太はバッグを持って、椅子から立ち上がった。

「じゃあ、また明日」

「うん。お休み」




     *




 ついに如蘭祭前日になった。

 今日は授業はなく、終日文化祭の準備に当てられる。学校中が活気に溢れ、お祭りが近いことが肌で感じられる。あちこちから金槌を叩く音や、演技の台詞が聞こえてくる。生徒みんながハイテンションで、雰囲気だけでなんとなく楽しい。

 24Rの準備はかなり順調だった。舞台や大道具は午前中のうちにほとんど完成し、先ほど音響や照明の機材も運び込まれた。客席にも椅子を並べてある。後は教室の前に飾る大看板を作るくらいだ。

 去年は一年生で勝手が判らなかったため、準備はものすごく難航した。舞台を作っては材料が足りなくなり、衣装は人数分揃っておらず、看板はいつまで経っても描き上がらなかった。結局、準備が完了したのは当日の朝だった記憶がある。それに比べると、今年はあまりに手際が良くて、物足りなく感じるほどだ。

 残りの準備の指揮は眞桜子に任せ、遼太たちは最終リハーサルの準備にかかっていた。キャストの練習はたっぷりこなしてきたが、実際のセットで衣装に身を包み、音響や照明込みで演じるのは今日は初めてだ。

 先程からキャストが衣装に着替えている。しかし女子が舞台裏からなかなか出てこない。着替えにやけに時間がかかっている。衝立の向こうからやけに華やいだ声が聞こえてくるのも気になるところだ。

「お待たせ……」

 舞台裏からやっと白石が出てくる。その姿に、遼太は思わず目を丸くした。開いた口を、やっとの思いで閉じる。

「何、それ……?」

「衣装!」

「それは知ってるけど!」

「綺麗でしょ!?」

 そう言って、白石はその場でくるりと回った。純白のドレスの長いスカートがふわりと浮かび上がる。生地に縫い付けられたスパンコールがキラキラと輝いた。長い黒髪との対比が美しい。

 お姫様のようだった。上から下まで眩しいほどの純白だ。上半身は身体のラインに沿っているが、レースがたっぷりのスカート部分はフレア型に広がっている。袖は短いが、腕には長いグローブをつけていた。

 一際目立つのは額冠だった。プラチナだろうか、銀色の台座に小さい宝石がいくつも埋まっている。ネックレスもダイヤなのだろう。教室の蛍光灯の下でも、きらびやかな輝きを見せていた。

「綺麗だけど……。何その、花嫁衣装みたいなの」

「おお、鋭いね」

 白石はにこにこと満面の笑みを浮かべる。もの凄く上機嫌だった。

「橋を渡ると、大きなホテルがあるでしょ? 四谷の方」

「ああ、あの豪華なやつ……」

「あそこのブライダルに行って、ドレス借りてきた。私だけじゃないよ、ほら」

 白石が背後を示す。ロミオもとんでもないことになっていた。花婿衣装なのだろうか。タイトな礼服を着ていて、かなり妖しげな雰囲気になっている。妙な色気を感じさせた。

「凄いな。凄いけど……。高かったんじゃないか?」

 白石のドレスをまじまじと見ながら遼太は訊いた。ファッションには疎い遼太にも、このドレスが一級品なのは見て取れる。素材も滑らかそうで、デザインも洗練されている。何より、とても華やかだった。本物の結婚式でも、なかなかここまでにはならないのでは無いだろうか。

 もともと白石は美人だし,スタイルもかなり良い。こうして盛装していると本当に綺麗だった。中学生の女子なら一見して憧れるだろう。

「いいや。無料」

「は?」

「パンフにホテルの名前入れるのと、開演前に協力してくれたことをアナウンスすることを条件に、ただで提供して貰ったそうな。あ、あと口約束だけど、将来あそこで式を挙げるってのも」

 大輪の笑顔のまま、白石はそう言った。

「もう、眞桜子様々だね。いやあ、もう、こんな素敵なドレス着られるなんて。幸せすぎる……」

「お、おう……」

 遼太のリアクションなど気にせずに、テンション最高潮の白石は続ける。

「でもね、大変だったんだよ、選ぶの。この手のドレスって、動くことを全然考えてないからさ。裾が長いと引き摺って演技どころじゃないし、かといってヒールをそこまで高くも出来ないし。演技が出来そうで、サイズがぴったりで、しかもジュリエットっぽいの、となるとなかなか無くて。私の体型だともっとセクシー路線らしいんだよ、お姉さんが言うには。もう何十着も取っ替え引っ替えしたね。満足いくまで」

 白石は裾を摘みながらそう言った。足下が少しだけ覗く。靴は白いサンダルだが、ヒールはあまり高くなさそうだ。

「ロミオは面倒くさがって即決してたけど。まあ、あっちの方はそれなりに動きやすいんだろうから、簡単だったのかな。身長差がちょっと問題になりそうなので、シークレットブーツ履いて貰ったんだ。……慣れないから何度か躓いて転けてたけど」

 遼太はもう一度ロミオの方を見遣った。たしかに身長がいつもより高く見える。即決したという割にはかなり似合っている。たしかに、配役を決めるときの眞桜子の意見は的を射ていた。これは年下の女子のストライクゾーンど真ん中かもしれない。

「なんかね、交渉するの、頑張ってたみたいだよ。直接見てたわけじゃないけど、眞桜子と衣装の一ノ瀬さんが偉い人にプレゼンしたらしい。過去の来場者がどれくらいで、その中に未婚の女性が何人くらい、とか。若い女性に憧れに植え付けるのが大事です、演目が感動的だしモデルが超美人でスタイル抜群だから絶対いける、とかとか」

「最後のは嘘だろ……」

「でも、私の写真何枚も撮って、持って行ったよ?」

「……お見逸れしました」

 遼太がそう頭を下げると、白石はふふん、と得意げに笑った。まるで家臣にかしずかれる貴族のご令嬢のようだった。

「そうそう、これ、破いたら弁償なんで。舞台に釘とか出てないか、注意しておいてね」

「弁償……?」

「クラスが四十人だから、一人頭五万円くらいかな。そんなにはしないかも。正確な値段は聞いてないんだ、動けなくなるから。お願いだから教えないでって言っておいた!」

 妙に明るく白石は言った。

「マジか! 怖いよ!」

「まあ、私も気をつけるけど。実際に演技が始まると、そんなこと気にしてる余裕も無いしね」

 自分のスカートの裾を気にしながら、白石は言った。なんだか自分にうっとりと見とれているようだった。

「おっと、そうだそうだ」

 白石が鞄からスマホを取り出し、なにやら操作し始める。せっかくだから写真を撮れとでも言うのだろう、と遼太は予想した。

「おっと、スマホを落としちゃった」

 しかし白石の行動は予想に反していた。滅茶苦茶棒読みでそう言いながら、遼太の手にスマホを押しつけてくる。首を捻りながら遼太はそれを受け取った。

「絶対、人に見せるなって言われてたけど、落としちゃったんだから仕方がないよね!」

 遼太は液晶画面を覗き込んだ。映っていたのは眞桜子だった。白石が着ているような、豪華なドレスをまとっている。

 画面が小さいので細かいところまでは見えないが、こちらも純白のドレスだった。白石が着ているものよりも、さらに花嫁に近かった。髪にコサージュとヴェールをつけているせいでそう見えるのだろうか。繊細なレースが何重にも細い身体を飾り立てている。手にはブーケまで持っていて、胸元には銀色のネックレスが光っている。

「……どうよ?」

 白石が遼太の顔をにやにやと覗き込んでくる。遼太は引き離すようにして、スマホの画面から視線を外した。

「な、なんで眞桜子まで着てるんだよ? キャストでもないのに」

「だって、私たちが着替えているの、凄く羨ましそうな顔で見てるんだもん。だから、一回ぐらいは試着してみな、って。一ノ瀬さんと一緒に選んで着せた。口では嫌がってたけど、顔はにこにこで、もう見てらんない感じ」

 そして白石は意地悪く笑った。純白の衣に身を包んだ悪魔のようだった。

「で、ご感想は?」

「……い、いいんじゃないかな」

「ところで、私、スマホとか難しくてよく判らないから、操作ミスしてメールの宛先間違っちゃったりしかねないなんだけど、どう思う?」

「……まあ、ミスなら仕方ないんじゃないか」

 遼太は照明器具を見ながらそう言った。すると白石はにやにやと唇を吊り上げて言った。

「……もう、しょうがないなあ」

「誰の真似だ!」

 遼太は思わず突っ込んだ。しかし白石は意に介さず、慣れた手つきでスマホを操作した。すぐに、遼太のポケットに収まった電子機器が振動する。

「さて、操作ミスも無事終わったことだし、そろそろリハに入りますか!」

 そう言いながら白石が舞台裏に引っ込んでいく。遼太も頭を切り換えた。音響と照明がきちんと準備についていることを確認する。キャストも所定の位置に収まる。

 天井の蛍光灯が落とされる。

 遼太は手元のストップウォッチのボタンを押しながら、開演を告げた。




     *




 啓太は台本の最終チェックをしていた。明日はついに如蘭祭本番だった。早めに寝て体調を整えた方が良いことは判っているが、どうにも落ち着かない。

 もう何度もめくった台本を読み返していく。三ヶ月前に引いた黄色いマーカーは、もうかなり色褪せていた。しかしどんなに薄くても、もう何の支障もない。自分の台詞はもちろん、他の人の台詞もすべて諳んじる自信がある。

 スマホが震える。手に取ってみると、比奈子からのメッセージだった。

「文化祭、優勝できると良いね!」

 言葉に続けてハートマークが飛び散ったスタンプが送られて来る。苦笑しながら啓太は返信する。

 今年の劇は、今までになく素晴らしいものになるという自信があった。集大成だと言っても良い。ミス無くやり遂げれば、如欄大賞も十分手に届くところにある。楽しみにしている彼女にも良いところを見せられるだろう。

 メッセージを打ち終えて、時計を確認する。まだ十一時前だが、明日は朝から夕方まで休む暇はないはずだ。

 啓太は台本を鞄にきっちりしまうと、電気を消しベッドに潜り込んだ。




     *




 遼太は原稿の最終チェックをしていた。劇が終わった後、監督は舞台に上がって挨拶をしなくてはならない。簡単に言ってしまえば、見てくれたお礼と投票のお願いだ。しかしこの頼み方一つで、投票率に影響が出ることもあり得る。そこでこの一週間ほど、眞桜子や白石と文章を考え、何度も練り直し、好感を持って貰えるスピーチの練習をしてきた。

 正直、人前で話すのは得意ではない。しかしそれでも良い、と眞桜子たちは元気づけてくれた。上手に話せなくても一所懸命に劇を作り上げたことさえ伝われば、と。下手に格好つけるよりは、素直に話した方が良い。そう解っていても、やはり不安になって何度も練習を見て貰った。

 遼太はスマホを見遣った。先ほど、佐倉からメッセージを貰った。明日は塾があるので、明後日に見に来るそうだ。恐らく先に三年の劇を先に見るだろうから、24Rに来るのは午後のどこかの回になるだろう。

 不思議と、そのことに対する不安はなかった。それだけのものを作り込んだ自信がある。二年生が三年生に勝つなどという夢物語に乗っかって協力してくれたクラスメイトのおかげで、素晴らしい劇が出来上がっている。

 カレンダーを見る。六月の合唱祭から三ヶ月。生活のほとんどを如蘭祭の準備のためにつぎ込んできた。

 その成果は出るのだろうか。結果が判るまで、残りは僅か四十時間だった。




     *




 眞桜子はブログの更新を終えた。三ヶ月間、一日も休まずに続けたこの作業も、恐らく後二日だけだろう。最後の書き込みが、喜ばしい報告だと良いのだが。

 ブログ経由での集客にどれだけの効果があるのかは判らない。本音を言うなら、都内すべての中学校を回ってポスターを貼りチラシを配りたいくらいだった。しかし学校外での宣伝は規定で禁じられていた。如蘭祭に来る客に事前に周知できる方策は、ネットを介した物しか許されなかったのだ。

 そこでウェブマーケティングの本を読み漁って、ブログのアクセスアップに努めてきた。検索エンジンにリスティング広告を出すことまで検討したほどだ。ブログは毎日欠かさずに更新し、必ず写真か動画もアップした。読んでいる人が共感を覚え、共に作り上げている気分になれるように文章も工夫した。さらに、少しでも関係ありそうなブログや掲示板にコメントを残しリンクを張り、検索エンジンでも上位に引っかかるようにタグをいじり倒した。その甲斐あって、今では学校が用意した如蘭祭公式ホームページより上位に表示されるほどだ。

 戦略を立てて演目を決定したのは眞桜子だ。劇の中身は遼太と白石に任せたが、見る客がいなくてはどんなに素晴らしい劇でも意味がない。席が埋まらなかったら完全に自分の責任だ。正直なところ、明日が来るのが怖くて堪らない。

 眞桜子はベッドの上に置いた台本を手に取った。自分の物ではない。ブログに写真をアップするから、と遼太の物を借りてきたのだ。

 表も裏も表紙はぼろぼろだった。最初はホッチキスで留めていたが、すぐに分解してしまった。何度か留め直した挙げ句、最終的にはビニールテープで継ぎ接ぎして製本していた。

 ページを開く。中はどこもかしこも書き込みでいっぱいだった。赤や青、緑のボールペンで、ありとあらゆる台詞に注釈がついている。演技や動作、口調やタイミングについて、本当に色々なことが書かれ、消され、さらに上書きされている。

 遼太はくせ字なので、見ればすぐに判る。書き込み一つ一つが愛らしく、見ているだけでつい顔がほころんでしまう。

 台本を最後までぱらぱらとめくってから、明日の準備をもう一度確認する。いつもの道具の他に、キャストに配るのど飴やうがい薬、そしてドリンク剤もしっかり準備している。

 眞桜子はその一番上に、台本をしっかりしまい込んだ。

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