Ⅳ.2004/08/01
作業3日目の朝。
昨日、勝平が熱中症で倒れて具合悪かったから、仕方なくリビングに寝かせてあげたけど……もう良くなったかな?
「おはよう……大丈夫?」
恐る恐るリビングに入り、ソファーを覗く。
……まだ寝てる……。まあ、具合悪かったんだし、そっとしておいた方がいいよね?
私はなるべく静かに朝食の準備をした。準備と言っても、買ってきたパンを焼くだけなんだけど。
そう言えば、勝平が来てからご飯を食べるのが楽しくなったかも。家でもずっと1人で食べてたし。“家族皆で食事”って、あんな感じなのかな……
「……ママ……」
「おい。大丈夫か?」
「……え?」
勝平が揺すって起こしてくれた。いつの間にか寝ちゃったみたい。
「あ!」
パン!トースターに入れっぱなし!
慌ててパンの様子を見に行こうとすると、勝平が、
「焦げ臭くて火事かと思ったよw」
テーブルの上に置いてある丸焦げの食パンを指して言った。
勝平が出してくれたみたい。
「それより、泣いてたみたいだけど……」
「え?」
目尻を押さえると確かに濡れていた。
「怖い夢でも見たのか?」
憶えてない……。気付いたら寝てたってだけで……。
「怖い夢見て泣くなんて、やっぱり子供だなw」
なっ!し、失礼な奴……。
「まあ、そーゆーの可愛いと思うし、いいんじゃない?」
ひゃぇっ!!?
「それに、昨日。泣きながら『ごめんなさい』って……w」
「なっ!わ、笑わないでよ!他人の事、馬鹿にして……」
「別にバカにしちゃいねーよ。『素直に感情表現すれば可愛いのにな』って思っただけだから」
か『可愛い』って……恥ずかしいから止めてほしい……。よく、社交辞令で『とても素敵なお嬢様ですね。5年後が楽しみですよ』とか言われてきたけど、そんなのには感じられなかった何かがあって……。とにかく、恥ずかしい!
「馬鹿っ!」
ガッ
「ぁだ!……て、てめぇ……」
「あ……」
思わず勝平の腹にパンチを喰らわせていた。
「あ!そう言えば、具合はもう大丈夫なの?」
「んー。なんか、一晩寝たら滅茶苦茶快調になった。やっぱりクーラーっていいな。文明の利器、最高!!」
なんか、本当にもう平気みたい。昨日は本当に心配したけど、まあ、良かったかな。もし、あのままどんどん悪くなって、最終的に……。考えるの止めよう。
「あ、あのさ。私ね、考えたんだけど……その服、暑いでしょ?だから、その……買い物、行く?」
「……は?」
「また倒れられたら困るのよ!それに、臭いの!」
そう。臭いの!汗臭いのよ!
「『臭い』って、お前が風呂に入らせてくれないからだろ!」
「だ、だって!お風呂場が穢れるでしょ!この前、あんたがトイレ使った後、大変だったんだから!」
「はあ?俺、普通に使っただけで汚してねーぞ?」
「“菌”ってものは目に見えないものなの!除菌するのに何時間掛ったと思ってるのよ!」
「もしかして、潔癖症?」
「ち・が・う!」
そんな言い争いが随分と続いて……。
「分かったわよ!買い物から帰ってきたら入っていいわよ!」
許可してしまった……。やっぱり、相手が年上って事で妥協しちゃうのかな……。はあ……。除菌、今度は何時間掛かるんだろう……。
そして、私達は商店街に来たんだけど……やっぱり、勝平の格好、目立つみたい。すれ違う人達が皆勝平の事を見て……。まあ、仕方ないか。真夏に長袖長ズボンなんだもん。
「好きなの選んでいいから。あ!でも、高いのは止めてよね」
メンズ服のお店に入って言った。
「本当にいいのか?」
「何が?」
「俺、金持ってないし……」
「だから、買ってあげるって言ってるでしょ!」
「うーん。でも……」
何よ!ハッキリしないなぁ。
「やっぱりさ、こーゆーのカッコ悪いじゃん。普通はさ、男が『買ってやる』って言うもんじゃん?」
……え?それって……。
「てか!年下に買ってもらうなんて俺のプライドが許さねぇ!」
…………。
「もう!あんたの為に買うって言ってるんじゃないわよ!私の為に買うの!さっきも言ったでしょ。また倒れたら困るって。だから、さっさと選んでよ!」
「あ、ああ……」
勝平は私の勢いに圧されたのか、急いで選び始めた。
……なんかさ……私の事、ちゃんと“女”として見てくれているのかと思ったけど……やっぱり子供扱いですか……。
勝平って、一言多い気がするよね。
顔は……凄く格好良いわけじゃないけど、普通に良いわけなんだし……一言多くなければそれなりに良い線いくと思うんだけどな。
「あ」
ふと、お店の外を見ると、向かいのお店に浴衣が展示してあった。
お祭りまであと6日か……。
「ありがとうございました」
お店を出て帰ろうとした瞬間、
グイッ
「!?」
勝平に腕を引っ張られた。
「何よ!」
「あの店、気になんだろ?」
「はあ?!」
向かいのお店へと腕を引っ張られる。
「さっき、ずっと見てただろ?」
あれは、別に気になって見てたわけじゃなくて、お祭りの事を考えていたんだけど……。
「ほら。浴衣!せっかく来たんだし、ついでに買ってけば?祭に着てくやつをさっ」
いやいや、だから……。
「香澄には黄色とかオレンジとか、元気な感じの色が似合うと思うんだよな」
って、なんか勝手に話進めてるし……。
「よかったら試着しますか?」
「だってさ。着てみれば?」
「え!?う……うん……」
「お兄さんとお買い物ですか?」
着付けのお姉さんが話し掛けてきた。
「え、ええ。まあ……」
『お兄さん』……。他の人から見たら兄妹に見えるのかな?
「土曜日のお祭りに着て行く浴衣を買いに来たんですか?」
「えっと、はい」
「お兄さんの選んだ浴衣、とっても似合うと思いますよ」
「あ、ありがとうございます」
「黄色に金魚の模様って女の子らしいですし。ああ!ここだけの話、金魚柄って人気あるんですよ!あとは朝顔とか定番な柄も結構人気があって……。お祭りまでもう1週間じゃないですか、お祭りに近付けば近付く程、人気のあるものは売れてしまうので、気に入ったのが見つかったのなら早めに買っておいた方がいいですよ」
そう言いながら慣れた手つきで帯を結んでいく。
「はい。出来ました」
私は鏡に映る自分の姿を眺めていた。
着物なら何度も着た事あるけど……浴衣は本当に久しぶりに着たなぁ。
「とても似合っていますよ。外で待っているお兄さんに見せてみてはどうですか?」
「え?!」
一応、選んだのは勝平なわけだし……見せるべき?
「……はい」
お姉さんはニコニコしながら試着室から店内へと私を促した。
「おっ!」
奥から出てきた私に気付いた勝平は、じっと私を見て……。
「やっぱ、似合うじゃん!」
「!?////」
「ですって。良かったですね」
う……わぁ……。なんか……嬉しいはずなのに……恥ずかしい……。
「どうしますか?」
「か……買います……」
「お買い上げありがとうございます」
そして、家に帰って来た私達。勝平はお風呂に入っていて、私は自分の部屋で買ってきた浴衣を眺めている。
思わず買っちゃったけど……。
「!!」
気付けばニヤケてる自分が居た。
やだ!何、ニヤケてるの?!そりゃ、『似合ってる』って言われて嬉しかったけどさ、だからって、それを思い出してニヤケるなんて……気色悪いよ……。でも、益々8月7日が楽しみになっちゃった♪ふふ♪
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