第三話.「美少女転校生の秘密」

午後の授業も終わり、今の時間はHRである。


「連絡事項は以上。これでHR終了とする。帰りに問題を起こさず、きちんと家に帰れよ〜。先生の査定に響くから」


最後が余計である。生徒を教え導く教師がそれでいいのか。恐らくはこの教室全員が思っていることだろう。だがクラスメイト達からの嫌悪の視線は無い。一応あんなのでも生徒のことはよく見ているようで、去年も交友関係や勉学、将来への漠然とした不安等で悩んでる生徒達にアドバイスをして手助けしていた。それをみんな知っているからこそ言動がダメダメでも苦笑いですませているのだろう。

HRが終わり、クラスメイト達はそれぞれ友人と一緒に帰っていったりどこか寄り道していくか話しながら教室を出ていく。教室に殆ど誰もいなくなった所で、僕も帰ろうと支度していると声をかけられた。


「ハク、帰ろっか!」

「何だ、いたのか葵」

「いたよ!HR終わってからずっとハクを待ってたよ!」


全くもう…とブツブツ文句を言う葵といつもの如く教室から出ようとした。すると


「あ、琥珀さん、一緒に帰りませんか?」


教室にまだ残っていたらしい望月さんが声をかけてきた。隣の葵の目がチベットスナギツネのようになっている。怖い。


「何で貴女がハクと一緒に帰るのよ」

「何でって、私と琥珀さんはRBGですし」


出た、RBG。何度でも言うが僕は「運命」なんてものを信じちゃいない。そんな僕からすれば(機関名)だか何だか知らないが、そんな怪しさ満点の機関の言う事を信じている彼女の言っていることは頭がお花畑なやつが言う戯言にしか聞こえず、不愉快に感じる。


「RBGだかRPGだか知らないけど、僕は運命の相手なんて信じないしこれからも信じない。何より僕はあるかどうかもわからない機関の言うことを間に受けて舞い上がるようなおめでたい頭をしてる君とは付き合う気もないよ。病院に行って頭診てもらえば?それに一緒に帰る?馬鹿言うなよ君みたいなのと一緒に帰ったら僕まで脳内お花畑なやつと勘違いされちゃうじゃないか。やめてくれよ。まあつまり何が言いたいかと言うと気持ち悪いよ、君」

「ち、ちょっとハク!?それは言い過ぎよ!ああえっと美鈴?ご、ゴメンねバカハクが酷いことを……ちょっとハク!アンタも謝って!」


葵が慌てて彼女をなだめようとする。

見ると彼女は、俯いてフルフルと震えている。

言ってやった。言い過ぎだとは思うが、彼女を遠ざけるためには徹底的に嫌われるようにしなければならない。運命とやらを信じている彼女には悪いが、これで僕に近づこうとは思わないだろう。

この時の僕は、まさか彼女がああだとは微塵も思ってなかったのだけれど……


「…………って…さい」


彼女が何か呟いた。


「は?聞こえないけど?人にものを言う時はもっとハッキリ喋っt」

「もっと罵って下さい!!!!」

「「………………………………………………………………………は?」」


僕も葵もそれだけしか言えなかった。だって誰が思うだろうか?散々罵倒した相手がもっと罵って欲しいと返してくるなど。顔を上げてこちらを見る彼女の顔は恍惚としていて、頬は紅潮し、目は潤んでいる。


「私、昔から言葉で責められるのとか大好きで、これまでSっ気のある人とかとも付き合ってみたりしてたんですよ!でも、全然足りない……私が求めているのは、こんなものじゃない!そう思ったら耐えられなくて、三日と持たずに別れていました……。あ、キスとかはしてないですよ!キスは本当に私が求めているくらい私をいじめてくれる人に捧げようって決めてましたし!あ、言葉責め以外にも踏まれたり叩かれたり縛られたり首輪をつけられたりとかも好きです!むしろ推奨です!あとはあとは……」


止まらない。彼女はとても興奮した様子で自分の性癖をマシンガンの如く僕に曝露してくる。僕も葵もそんな彼女に気圧されて動けない。彼女はあ、縄とか首輪とか鞭とか蝋燭とかありますよ!なんて言ってSMグッズを取り出す。ちょっと待てそれはどこに持っていたんだ。明らかに何も持っていなかった手に一瞬で物が出現する様はまるで魔法のようである。現れるものがSMグッズでなければ感嘆しただろう。


「……というわけで、やっぱり琥珀さんは私の運命の人だって確信しました!琥珀さんに振り向いてもらえるように、私、これから頑張りますね!それでは、また明日!」

「…………………………ウン、マタアシタ」


そう言って彼女は嬉しそうに帰って行った。言葉の発音がおかしくなっている気がするが、僕にはそう返すだけで精一杯だった。

教室に僕ら以外誰もいなくてよかった。こんな核爆弾級のカミングアウトなんて他の生徒に知られた日には平穏な学校生活は遥か彼方に消えていってしまうだろう。既に平穏な学校生活なんてないとか言ってはいけない。

これからどうなるのか、僕は特大の不安を抱えながら葵と共に帰路についた……。






「縛られる…首輪…鞭…あうあう…」

ちなみに葵は、SMグッズが出てきた辺りから顔を真っ赤にしてあうあう言っていた。

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