誕生 警備員まりこ

まりこは コンビニで手に入れた求人誌に目を通していた。 本格的に交通警備員の仕事をしてみたくなったからだ。とはいえ、お世話になった新聞配達の仕事もなかなか辞めれるものではない。夕刊配達は無理だが、せめて朝刊配達位なら両立できるのではと思い、迷わず警備会社に就職することに決めた。早速警備会社に電話をし、面接を受けることになった。高校在学中に行った就職試験が全滅したまりこ、祖母から買ってもらったスーツにようやく袖を通す時がきた。しかし、面接を受けてきたのはいいが、面接担当者からは「まだ若いのに本当に大丈夫?女性にはキツイかも」とまで言われてしまった。けどまりこは新聞配達で鍛えた根性は誰にも負けないくらいある。そこはきっちりとアピールをした。

数日後、採用決定の連絡を受け、再び警備会社を訪ねる。事務所の待合室で待っていると警備服を着た初老の男性が現れた。指導教育を担当している横山部長だ。彼はまりこと向きあって座ると手にしていた封筒を取りだし、「警備員になるには、4日間の研修と必要書類の提出が義務付けられている」

そう言われ、必要書類を揃えてからの入社で研修という流れだという。 身元証明書類、医師の診断書、法務局で発行される登記されていないことの証明書など今まで聞いたことのないなんとも難しい書類を揃えなければならない。正直面倒くさい。でも、本腰を入れてやるといって決めた以上あとには引けない。慣れないながらも書類を揃えた。書類自体揃えるのにはそんなに時間はかからなかった。医師の診断書自体も軽い診察と問診だけだった。どうやら警備を携わる者には制約があり、アルコールや薬物などの中毒者は警備員にはなれないらしい。それから堅苦しい誓約書もあり、暴力団員などとの接触を持つものも警備員にはなれないらしい。 まあ、監督官庁が公安委員会(警察署の生活安全課)だから仕方がない。提出までの義務はないが、警備員として携わる際に会社側が本人から揃えてもらう書類として警備業法に定められているのだ。当然、警備に携わる際にはある程度学んでおく必要がある。書類を揃えて警備会社に電話を入れる。早速明日から来てほしいということだった。そんなに人材が足りていないのか。そう思った。

翌日、朝刊配達を終わらせ軽くシャワーを浴びて書類を揃えたカバンを持ってまりこは警備会社を訪ねた。待っていましたといわんばかりに横山部長が対応する。彼に招かれて入った部屋は研修室。机や椅子がところ畝ましに並べられており、だだっ広い部屋にはまりこと横山の二人きりである。4~5分程横山部長と雑談したのち、警備員としてのスタートするための教育が始まった。座学による教育、俗にいう新任教育(30時間以上)を必ず受けなければならない。時間でいえば4日間受けて晴れて警備員としてスタートできる。警備業法という法律が存在するなんて思ってもみなかった。かなり複雑だ。でも、特別に全てを覚えることはなかった。ただこの警備業法に基づいた教育を受けなければ警備員としてスタートできない。正直???な内容で頭がパンクしそうだった。1~3日目は警備員とはどういったものかという内容のビデオを見て、教本を読んで必要な関係法令などの説明を受けた。最終日の4日目はまず屋上で横山部長とともに警備に必要な装備品を身に付け、点検を行ったあと 赤白の手旗を持たされて彼の笛の合図で旗を上げ下げする警備員体操というものをさせられた。この段階ではこれがなにを意味するのかまるでわかっていなかった。それから横山部長とともに現場研修に赴いた。現場は天然ガスのパイプラインを引く工事現場で片側交互通行が行われている現場だった。 片側交互通行自体はどんなことするのかは理解できていた。この仕事を本格的に覚えるのは大変なことであることも十分に理解はしていた。聞いたところによると、警備の仕事というのはかなり根性や忍耐力が強くなきゃやってられない時があるらしい。グチるように先輩隊員の山形隊員がそう言った。またおばちゃんとかいい歳をした女性が来ると彼は思ってたらしくまさか19歳のまりこがこの仕事に来た自体正直驚いていた。当時は3K(きつい、きたない、危険)という言葉がはやっていたから、若い女性には縁のない業種の1つでもあった。まりこは満を持してこの業界に躊躇なく飛び込んだ。ただ周りからは女だからどうなの?っていう疑問や心配される点があった。もともと気の強い性格であるから多少のことでは動じない。まりこ自身も早く現場に出たくてウズウズしていた。この日は午後から半日、先輩隊員と交代しながら誘導の基本的動作を学んだ。まあ単調的といえば単調的なのだが、同じ動作を一日中繰り返し繰り返し行いつつ、現場の動きなどを把握しなければならないわけであるから楽なようで楽ではないよということを先輩から教わった。とくに女性だと問題視されるのがトイレ問題である。男みたいにおいそれというわけにはいかない。かといって現場にこちらの都合で予算を出してまで仮設トイレを設置させてもらうわけにはいかない。根性と気合いで乗り切るしかない。まあ毎日の業務の積み重ねで実績や経験を積み重ねていかなくてはいけない。常に志を持って仕事にのぞむまりこ 警備員まりことしての新たなる門出であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る