散々な現場デビューと師匠との出会い

現場研修をクリアし、会社に戻ってきたまりこ。早速管制業務をしている鈴木課長から明日からの現場配置の指示をうける。驚くことに現場はなんと高速道路の追い越し車線を規制しての工事現場、高速道路の規制内とはいえ、隣の走行車線には車が走っている 規制内に車が突っ込んできたら死に直結するまさに危険極まりない現場でもある。翌朝、会社に集まり会社の車に分乗して現場に向かった。現場手前のインターの駐車場で作業員と現場監督に挨拶をすませ、打ち合わせする。夕方までの規制らしいので昼休憩は交代になるかもと佐藤隊長から言われた。初現場というプレッシャーなど感じさせないくらいまりこは落ち着いて堂々としていた。配置が決まり、現場に入る。まりこは現場の規制開始地点で黄色の大旗を振りかざし一般車両に注意を促す役割だった。隊長からは一人現場から離れてしまう場所だから絶対規制のラバーコーンから外には出るなと言われていた。確かに工事現場とはいえ、となりの車線は開放状態なので一般車両がびゅんびゅん飛ばしている。一応工事規制区間は50キロ規制なのに・・・

一生懸命大旗を振りかざし注意を促していた。規制区間は終点まで約2キロあり、現場はその中間地点にある。はるかに後ろを振り向くと小さく見える。一応連絡用の無線を持たされていた。すると先の方からゆらゆらとゆっくり走っている一般車両がまりこの前を通過したところで路肩に寄って止まった。まりこは最初やり過ごし、注意警戒を続けた。すると路肩に寄って止まった車から初老の男性が車から降りてまりこのもとに横断しようとしていた。かなり危険な行動だ。まりこは警笛をくわえて男性に車の中に入るよう注意を促す。そして今起きている状況を隊長に無線で報告しようと呼び出したがつながらなかった。どうしたら・・・ 迷うまりこ しかし危険を回避しなければならないのは変わらない。そう思ったまりこは通行中の車の隙間を縫って規制の外に出て路肩に停車した車に向かった。果たしてその判断は正しかったのかどうかは現場の状況にもよる。まりこはまず運転席にいた男性を車外へと誘導し何故車を止めたのか話を聞いた。左側後輪タイヤがバーストしていた。幸い路肩は幾分広く大型トラックが通過できるくらいの幅は残っていた。 まりこは男性にこの場から絶対に動かないように指示をして再び現場に戻った。次にどうするか考えていた。そんなときかすかながら隊長から無線が入る。ぎりぎり聞き取れるかどうかの感度であった。しかし内容が聞き取れない・・・ 男性の動向を見ながら現場監視を続ける。しばらくすると覆面パトカーがサイレンを鳴らしながら男性の車の後ろに止まった。異常を感じたのか隊長がまりこのもとに駆け寄ってきた。すると隊長は血相を変えてまりこに詰め寄った。説明をするが、隊長は厳しい顔つきでまりこを見つめる。自分の取った行動が軽率であることを注意された。

高速道路でのトラブル発生時は原則一人では行動してはならない。いくら車が切れたからといっても一人では横断してはいけない。二人以上で行動しないといけないことになっていたのだ。 例え無線がつながらなかったとはいえルールはルールだ その事を強く注意された。 それ以外の事に関しては特に問題なかったのだが、隊長は高速隊員から注意された。

その日の作業終了後にまりこは隊長から呼び出され今日の出来事について改めて事情を聞かれていた。 怒られはしなかったものの、咄嗟に取った判断や行動によって 事故回避できたり誘発してしまうことがあるから気をつけるようにと注意を受けた。

それ以来まりこは現場でもいろいろ学んで少しずつ成長していった。 そして、ある転機を迎えるのであった。

ある日の仕事帰り会社に寄ったまりこに建設現場の誘導の仕事が飛び込んできた。場所は町外れの国道沿いにある病院の新築工事現場。しかも、早出と残業ありで勤務時間が長い。稼げる現場である。普段は1人現場なのだが、基礎工事や駆体工事が始まるための増員要員の要請だった。

管制から場所の地図をもらい、帰宅がてら寄り道をしつつ現場の確認に行く。自宅とは真逆なのだが、まりこは気にしていなかった。

現場の前を通過すると現場入口前で清掃作業している隊員がいた。60代近い初老の男性だった。忙しそうだ。邪魔になるなと思いその日は彼に声を掛けることなく家路についた。

翌朝6時から作業が始まるため、家に着いたら入浴、食事を済ませて目覚ましをセットして就寝した。

翌朝 現場につくと 現場事務所から昨日見かけた男性がやってきた。初老の男性は平野という警備責任者だった。 まりこを見て一言 「現場は離ればなれになるからとりあえずトランシーバーで指示するから、作業内容をきちんと把握して仕事おぼえて」とそっけなく言ってきた。感じは見た感じ悪くない。現場事務所で新規入場者教育と作業内容のミーティングをして平野隊長と現場に向かう。足掛け3年の長い工期の現場だ。 今日から常時2名体制になるから、平野隊長とまりこでタッグを組むことになるのである。まりこに警備員として必要なスキルを植え付けた師匠でもある。

この日は生コン打設作業に伴う交通誘導だった。現場の道路は一方通行の狭い路地➕通学路ということもあり、工事車輌と歩行者と

第三者の災害に特に気をつけている現場である。

通学時間帯に近づくに連れ、徐々に歩行者や通勤の車が増えてくる。郊外とはいえ、ここは大通りに面する生活道路でもあるため、抜け道に使う車が非常に多い。さらに生コン車が歩道にはみ出るため、歩行者の誘導をしっかり行わないとひどい状態だ。しかし、平野隊長はしっかり周りを見ていてキレイな動作で誘導を行う。ムダのない切れのある動きだった。今のまりこにとってかけがえのない存在の人物だった。尊敬できるお父さん的な存在、実の父親と同年ということもありかなり親近感もあった。2名体制の間は平野隊長からいろいろ学ばせて頂いた。そんな中、まりこに会社から現場の配置替えの話が舞い込んできた。

返答をするのには正直悩んだ。もっと隊長からいろいろ学びたいというのもあった。でも隊長はいろいろな現場を経験するのもステップアップにもなるしと快く送り出してくれた。そしてたまには現場に元気な顔見せてくれと言ってくれた。本当に人間ができているとっても素晴らしい師匠だ。その師匠とは時折今でもお見かけする。 パチンコが大好きで、勝ったときはまりこに景品のお菓子やチョコレートをくれたり、現場のお弁当をごちそうしてくれたりもした。まりこがいろいろ成長したのは平野隊長の指導と出会いがなかったらと考えるととても感慨深い……

師匠、ありがとうございました。

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