第一章

 少女は暗闇の中に居た。自分の身体がどこにあるのかも分からないくらい暗い闇だった。

 馬の蹄の音が遠くの方から聞こえる。

 少女は音のする方を見た。青い鎧を纏った兵士達が徐々に近付いてくる。しかし、少女は逃げようとせず、その場で目を閉じ立ち尽くしている。


 ――大丈夫。このままじっとしていれば終わる。


 スッ

 馬は少女の身体をすり抜け、走り続ける。

「きゃあああああ!!!」

「いやあああああ!!!」

 馬が走って行った方から叫び声が聞こえた。

 少女は耳を押さえ、その場にしゃがみ込む。


 ――もうすぐ終わる。このままじっとしていれば終わる。


「あああああああ!!!」


 ――参。


「ぎゃあああああ!!!」


 ――弐。


「いやあああああ!!!」


 ――壱。


 今までは此処で終わるはずだった。だが、今回はまだ続きがあった。

 少女は固く閉じていた目を開け、周りの様子を伺う。誰かの視線を感じるが、見当たらない。


「時は満ちた。早く此処に降臨し秩序を正せ」


 バッ

 少女は悪夢から目覚め、勢いよく起き上がった。

「はぁはぁはぁ……」

 物凄い汗で服が湿っていた。

 ここ最近、村に兵が攻めてくる夢をずっと見ていた。おそらく、あの青い鎧はトールウ国の者だ。

 此処はナルーン国の端。自然豊かな村だが、同じような村は他にもある。そんなごくごく普通の村に何故、他国が攻め入るのか理由が分からなかった。

 更に、今回は異様な声も聞こえた。凄く嫌な予感がした。

 少女は着替え、家を出た。



「ユリカー!今日こそ出てもらうからね。村の皆が待って……る……」

 ハルはユリカを起こしにユリカの部屋に入った。しかし、そこには誰もいなかった。

「ユリカ……どこに行ったんだよ……」

 ハルは仕方なく部屋を出た。

「母さん。ユリカ、遂に家出するまでになったよ……」

「はあ……。もう、あの子ったら……」

 母は皿にスープを入れ、ハルに渡した。ハルはそれを卓上へ持って行く。

「最近、あの子の様子、どう?」

「いつもと変わらないように接しているんだろうけど……御告の事を訊くと様子が可笑しくなるんだ」

「やっぱり……良くない御告でも聞いたのかしら……」

「そんな気がする」

 二人は朝御飯を食べながらユリカの話をしていた。

 ユリカは神の御告を聞く事が出来る不思議な力を持っていた。

 以前はユリカの母がこの力を持っていたが、子供が出来るとお腹に宿った新たな命へと代々引き継がれるもので、今はユリカがこの力を宿していた。

「とにかく捜してくるよ」

「ええ、お願いね」

 ハルは朝食を早々に済ませ、家を出た。



 村から少し歩いた所にある白い花が咲き誇る丘に二つの影があった。

「見て見て!花冠!」

 ユリカは丘に咲いている白い花で花冠を作っていた。それを近くにいるシュウの頭に載せた。

「ふふ、可愛い」

 シュウの眉が微かに動いた。

「怒った?」

 ユリカはシュウの顔を覗き込み、笑顔を見せた。シュウは無言で自分の頭に載せられた花冠に手を伸ばす。

「あ!それ取っちゃダメ!」

 ユリカを無視してシュウは花冠を取った。

「あーあ、可愛かったのに……」

「俺なんかより自分の頭に載せればいいだろ」

 そう言ってシュウはユリカの頭に花冠を載せ返す。

「二人って付き合ってんの?」

「っ!!?」

 いつの間にか居たトウナにユリカは喉から心臓が飛び出しそうになった。

「ト、トウナ!!?ち、違う!!別にそういう関係じゃないから!!」

 顔を真っ赤にしてユリカは否定する。

「でも、いつも一緒にいるじゃん。仲良さそーだし」

 トウナも二人と同様にその場に座り込んだ。

「別にいつも一緒ってわけじゃないから!!ほら、村長さん、足悪いでしょ?だから、その代わりにシュウが来るってだけで……村長代理っていうか、その……ついでに色々相談に乗ってもらってるだけだし……」

 語尾が小さくなる。

「相談?」

「う、うん……」

「何か悩みでもあんのか?」

「ええと、それはその……」

 今日は今朝見た夢について相談していたのだが、ユリカが言うというのは口が固そうなシュウに恋の悩みを相談していたなど言えるはずもなく、シュウに助け舟を求めようと視線を向けるが、シュウは無言のまま何も答えず立ち上がった。

(あ!ちょっと待ってよ!逃げる気!?)

 ユリカは思わずシュウの服を掴み視線でそう訴えるが、

(俺は邪魔だろ。帰る)

 視線でそう返されたように見えた。

(薄情者ー!!)

「あ!もしかして、ハルについての相談か!?」

「え?ハル?」

 何故そこでトウナの口からハルの名が出たのかユリカの頭には疑問符が浮かんでいた。そう言えば最近、よくトウナの口からハルの名が出てくるような気もするとユリカが思っていると、遠くから自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

「ユリカー!!」

 村がある方からハルが走ってきた。

「はあ……やっぱり此処にいた」

 ハルは丘に辿り着くと一度深呼吸をして息を整えた。

「今日こそ出てもらうよ」

 ここ暫くユリカは体調が悪いと言い訳を繰り返し、今まで定期的に行っていたはずの御告を伝える集会が開けずにいた。

「今日は外に出られるくらいだし、体調もう大丈夫なんでしょ?」

 仮病でずっと家にいるのも飽きたのだろう。外に出てきたユリカをチャンスとばかりにハルはユリカに詰め寄る。

「い、嫌!!」

「何で?」

「それは……その……」

 ユリカは何か言い訳を考え、何かを思いついたのか横を向いていた視線をハルに向ける。

「そ、そう!御告が聞けないの!きっとまだ体調良くないんだよ!うん!」

「じゃあ、そう皆にも言えばいいでしょ?見るからに風邪とかそういう類の体調不良じゃないんだから、それくらい言えるでしょ?」

「そ、それは……」

 また視線を逸らすユリカ。ハルは溜息を吐き、視線をユリカからシュウに移す。

「もう、シュウからも言ってよ。村長さんだって困っているんでしょ?」

 シュウは頷き、ユリカを見た。

「…………」

 しかし、ユリカは口を閉ざしたまま。

「はあ……もう……『御告が聞けない』って言うのは嘘なんでしょ?」

 ユリカは一瞬身体をビクつかせてしまい、図星を突かれたのがバレバレだった。

「やっぱり……。一緒に暮らしているんだから何となく分かるよ。それに、母さんだって巫女の経験ある人だよ?もう力がないとは言え、ユリカの行動で何となく分かっちゃうんだよ。もし、本当に御告が聞けないって言うなら――」

 神の御告を聞く能力は代々子に受け継がれる。子供が出来ると同時に力はお腹に宿る新たな命に移り、パッタリと聞く事が出来なくなってしまう。つまり、御告が聞けなくなったという事はそういう事だ。

 ハルは少し言いにくそうに続けた。

「――誰の子?」

 その言葉にその場の時が一瞬止まった。

「ぅうぇええ!!?な、えええ!!?」

 トウナがよく分からない声を上げ、一瞬遅れてユリカも声を上げた。

「ちちちちちち違ーーーう!!!ななななな何言って!!!?へ、変な事言わないでよ!!!」

 顔を真っ赤にして慌てるユリカを見て、ハルは冷静に言う。

「やっぱり嘘なんでしょ?」

「う……うん……」

 ユリカは観念し、重い口を開いた。

 村にトールウ国の兵が攻めてきて多くの人が殺される話をした。しかし、最後に聞いた『時は満ちた。早く此処に降臨し秩序を正せ』という言葉については伏せておいた。今までの御告とは何か違うような気がしたから。

「これから皆殺されるなんて、どう言えばいいの……。そんなの言えない……」

 俯くユリカの顔をハルは覗き込み、言う。

「ユリカ。辛いと思うけど、言わなきゃ言わないで皆心配するだけだよ。兵が攻めて来るなら早く皆に知らせて逃げるなり何なりして対策取らなきゃ。このまま皆知らずにいたら無抵抗に殺されるだけ。そうでしょ?」

「……うん」

 ユリカは俯いたまま頷いた。



 村に向かって歩いている間もユリカの表情は暗く、どう皆に伝えるべきか、言葉を選んでいた。

「ちょっと待って」

 村までもう少しのところで急にハルが止まった。

「何?どうしたの?」

 ユリカがハルに問いかけると、ハルはユリカの腕を掴み、森の中へ隠れるように走り込んだ。

「な、何!?」

「いいから!こっち!」

 ハルに引っ張られるがままのユリカ。

 背後を気にしながらハルとユリカの後を追うトウナとシュウ。

 木が生い茂っている森の中でハルは迷わず一本の木の根元へ向かう。そこに生えている草をかき分けると小さな穴があった。そこは四人だけが知っている秘密基地への入り口。同じような木が沢山ある中、よく見て回らないと素通りしてしまう事もあり、四人以外に此所の場所を知る者はいない。

 中に入って一息吐いたハルが口を開いた。

「急に腕引っ張ってごめんね。ちょっと村に違和感があって」

「え……」

 その言葉にユリカは嫌な予感がした。

 ハルだけでなく、トウナやシュウの顔も覗ってみた。三人共眉間に皺が寄っている。

「えっと……あの……まさか……うそ、だよね?」

 三人の表情からユリカは何となく感じ取った。

 村に兵が攻めて来たのだと。

「村に戻らなきゃ!!皆が殺されちゃう!!私が言い渋っていたから……私のせいで皆が殺されちゃう!!」

「まだそうと決まったわけじゃない!ちょっと違和感があったから一旦此処に避難しただけだから」

 ハルはユリカの肩を掴み、落ち着かせようと声を掛けた。ユリカの身体は不安と恐怖で凄く震えている。

「ハル。ユリカを頼む。俺とシュウは村の様子を見てくる」

「わかった」

「待って!」

 トウナの言葉にハルは頷き、トウナとシュウは外に出ようとしたがユリカの声に引き止められた。

「もし、本当に兵が攻めて来ていたらどうするの!?二人も殺されちゃう!!そんなのヤダ!!」

「まだ村に兵が来てるとは限らないだろ?ちょっと見に行って来るだけだから大丈夫だって」

 いつも通りの笑顔を見せるトウナにユリカの震えが収まっている事にハルは気付いた。ユリカに恋心を抱いていたハルは複雑な心境になり思わず唇を噛んだ。

「じゃあ、行ってくる。村の様子見たら直ぐ戻って来るから、それまで此処から出るなよ」

「絶対にだよ!」

「ああ、約束だ」

 トウナとシュウが秘密基地を出た後もユリカはしばらく出入口を見つめていた。

 そんなユリカの背中をハルは見ていられず視線を反らした。

(ユリカがトウナの事を好きだって前から気付いていた事。今更なに傷付いているんだ……)



 トウナとシュウが村の様子を見に行ってからどれくらいの時が流れたのか、ユリカにとっては永遠のように長く感じていた。会話する余裕などなく、沈黙がただただ続くばかり。

「……もし、二人に何かあったら……」

 沈黙を破ったのはユリカ。

「私が躊躇わずにもっと早く言っていれば状況は変わっていたんだよね……」

 出入口を見つめたままのユリカの背中が再び震え始めた。

「ユリカ……」

 ハルはユリカの背中に手を伸ばそうとして止めた。

(今、本当に村が襲われていて、それが本当にトールウ国の兵だったら……)

 自分には皆に言えない秘密があり、その秘密のせいでユリカが泣いていると思うと、ユリカに触れる事が出来なかった。

「……ごめん」

 ハルは小さく呟いた。

 己の嗚咽でユリカには聞こえなかったようだ。

 遂にユリカは立っていられず、膝から崩れ落ち、涙を流す。

「全部、私のせい……皆を傷付けたくないって思ったけど、結果取り返しの付かない事になって……私が皆を殺した!」

「違う!!」

 ユリカの言葉にハルは声を荒らげた。

(ユリカは何も悪くない。本当にトールウ国の兵なら……)

 ハルは決心したように、ユリカの前に移動し、目を見て話した。

「ユリカは決して悪くない。だからユリカは此処に居て。必ずトウナが迎えに来るから。さっき約束したでしょ?だからユリカは此処で待っているんだよ?」

 そう言って、ハルも秘密基地を後にした。

 今まで見た事がないくらい真剣なハルの表情にユリカの思考は一瞬止まり、気付いた時には秘密基地に一人残されていた。

「ハル……やだ。ハルまで行っちゃ……」


 村に到着したハルは辺りを見渡す。異様に静まりかえっている村は無気味だった。家畜は荒らされ、酷い有様。これがトールウ国の仕業だと思うと拳に力が入る。

「!!」

 背後に気配を感じ、ハルは振り向いた。

 ヒュン

 背後から忍び寄っていた兵士の攻撃を間一髪交わしたハルはすかさず敵が着ている鎧を確認する。

(その鎧は、やっぱり……)

 攻撃を交わされた兵士は直ぐに体勢を立て直し、ハルに接近した。

 ぐい

 兵士はハルの腕を掴み、動きを封じると首元に刀を突き付ける。

「他の奴らみたいに殺されたくなければ抵抗するな」

(殺した!?)

「抵抗せずに大人しくしていれば痛い目に遭わずに済むんだ。いい子にしてろよ小僧」

 ハルは歯を食い縛り、兵士を睨み付けた。

「これはどういう事だ!」

「!?」

 刀を突き付けられても怯まず声を発したハルに対し、逆に兵士の方が怯んだ。ハルは気にせず続ける。

「村を襲撃して何のつもりだと言っている!トールウがナルーンに攻め入ったという事になるのに何故だ!陛下はこの事を知っているのか!」

「お前、まさか……」

 兵士はハルに対して気付いた事があったようで思わず口元が緩んだ。

「なら話は早い。件の娘はどいつだ。特徴を言え。トールウ国へ連れてくるよう、皇帝陛下の命だ」

(やはり、目的はそれか……ユリカは渡さない!)

「早く言え!邪魔立てするようなら殺しても構わないと言われている!」

 何も答えないハルに兵士は声を張り上げた。突き付けられている刀が首に食い込む。

「……撤退の合図」

 兵士が呟いた。空に目を向けてみると狼煙が上がっていた。

 ハルは突き飛ばされる形で解放された。

「命拾いしたな。だが、皇帝陛下はお怒りだ。その命、そう長くないと思っていた方がいいぞ」

 そう言い残し、兵士は去って行った。

「皆の無事を確認しなきゃ!」

 ハルは兵士が去って行った方とは反対の村の奥へと走って行った。



 村の最も奥にある洞窟の入り口に村人が数人集まっていた。その中にトウナとシュウの姿もあった。

「皆ー!!」

 ハルの声に皆振り向いた。

「ハル!無事だったのね!よかった……」

 ユリカの母が駆け寄って来た。

「首、血が出ているわ!大丈夫!?」

 母に言われ、ハルは首に手を当て、血を流していた事に気付いた。

「さっき兵士に捕まって、その時に切れたのかも。でも、直ぐ撤退して行ったから傷は浅いし、大丈夫」

「ユリカはどうした!?」

 母に続き、トウナもハルの元へ駆け寄った。

「秘密基地にいる」

「一人にしてきたのか!?」

「だって、帰って来るのが遅かったから……ユリカがトウナを心配し過ぎて、ただ待っているだけなんて出来なかったから……」

「だからって一人にして、何かあったら危ねぇだろ!」

 声を張り上げるトウナをシュウが抑える。

「落ち着け。トウナはユリカの様子を見てこい」

「……わかった」

 シュウに言われるまま、トウナはその場を離れ、秘密基地に向かった。

 シュウはトウナが行った事を確認すると、ハルに視線を向け、口を開く。

「トウナに向かわせて良かったのか?」

 ユリカの気持ちもハルの気持ちも知っているシュウは複雑だったが、ハルがユリカを一人にしてきた事でユリカの気持ちを優先させてトウナを向かわせた。ハルもユリカの気持ちに気付いているからこそ、一緒に居るべきは自分じゃないと思った。

「僕が来る前からユリカの気持ちは固まっていたから仕方ないよ……そんな事より、他の皆は?」

 此処に居るのはハルとシュウの他に、ユリカの母と村長、そして数人の大人だけ。トウナの里親を含めた他の大人達や自分達と同年代の子達の姿がない。

 その場に居た者達は口を閉ざし、視線を反らす。その反応からハルは何となく察した。

(さっきの兵士の言葉から犠牲者がいないのはあり得ないと思っていたけど……まさかそんなに……)

「まだ死んでいるとは限らん!」

 重い空気の中、村長が声を上げた。

「まだ安否の確認が取れていない者も居る。村人全員の確認が最優先じゃ!」

 座って居た村長は勢いよく立ち上がったが、直ぐによろけた。

「村長!」

 周りに居た大人達が慌てて支える。どうやら先程の襲撃で脚を怪我したようだ。

「安否確認は俺らに任せて、村長は家で安静にしていて下さい。シュウ、村長を頼む」

「ああ」

 シュウとユリカの母は村長を抱え家へ向かい、ハルとその他の大人達は村人の安否確認に向かった。



 秘密基地に到着したトウナは一応周りに敵がいない事を確認し、基地の中へ入った。

「ユリカ、無事か?」

 トウナの声に俯いていたユリカは勢いよく顔を上げた。

「トウナ……トウナ!!」

 ガシッ

「ユ、ユリカ!?」

 トウナの無事を確認するかのようにユリカはトウナに抱き付いた。

「良かった、無事で……っ」

 いきなり抱き付かれ驚いたトウナだったが、ユリカの身体が震えている事に気付き冷静になった。

(此処に一人残されて怖かったんだよな……)

 自分に抱き付き震えるユリカを抱き締め返していいものなのかトウナは悩んだ。ユリカの不安と恐怖を払ってあげる為には抱き締めるべきなのだろうが、ハルの気持ちを知って応援している身としては抱き締めてはいけない。それはハルを裏切る事になる。

 二択を迫られ、トウナは今回だけだと心に誓った。

(ハル、ごめん!)

 ぎゅ

 トウナはユリカを抱き締める選択を取った。

「一人にしてごめんな。一人で怖かったよな……」

「……もう、戻ってこなかったらどうしようって、思って……」

「もう大丈夫だから安心しろ……」

 トウナに抱き締められ、ユリカの震えは徐々に収まっていった。

 落ち着きを取り戻したユリカはトウナから離れ、口を開いた。

「村は、皆は、無事なの?」

 トウナは何て答えればいいか分からず視線を反らした。

「ねえ、トウナ……?」

 此処で嘘をついたところで村に戻れば直ぐにバレる事だ。

 トウナはユリカに言っても差し支えなさそうな部分のみ話し始めた。

「俺とシュウが村に着いた時には既に村が荒らされてた。皆抵抗しようと必死で、俺とシュウも皆を助けようと頑張ったけど……」

 トウナは言葉に詰り、ユリカも察する。

「ごめんなさい……」

「ユリカが悪いわけじゃないんだから謝んなよ。むしろ、俺が弱いせいで守れなかったんだ……」

 重い空気が流れるのを変えようと、気持ちを切り替えてトウナは再び口を開いた。

「とりあえず、村に戻ろうぜ。おばさんもユリカの事心配してるし、無事な姿を見せてあげようぜ」

「…………」

 ユリカは無言で頷き、秘密基地を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る