第六章

 今、どこに居るのかもわからず、私はフラフラと歩いていた。

 何もかもがどうでもよく感じる。

 気付けば太陽が昇っているし。この先やる事もないから、思い出した事を纏めてみる。



 小学五年生の時のことだった。

「見たぁ?あの子の顔」

「見た見た。ぶっさいくな顔で泣いてて、超ウケた」

「ほんとほんと。あはは」

 この頃、私はある子を虐めるグループに入っていた。どうして虐めてたのかは思い出せないけど、楽しかった。でも、ある日突然……

「ねぇ。里子ちゃん。今度の日曜の事なんだけど……」

「…………」

「ねぇ。聞いてる?」

「耳が腐るから話しかけないで」

「!?」

 親友だと思ってた。虐めグループの中でも一番仲良くしてたのに……。

 他の友達にも話しかけてみた。

「…………」

 無視された。

 仕方なく、虐めてた子と仲良くしようと話しかけてみた。

「今更なに?今まで私にしてきた事じゃない。泣いたって無駄だよ。だってあんたも同じだったでしょ?」

 今度の虐めの対象は私。



 それから一年。私は人を信じなくなっていた。しかし、初めてニックネームを付けて呼んでくれた子がいた。

「ゆりりん。遊ぼー」

 すっごい元気な子で、男女問わず人気者だった。

 今度こそ本当に親友だと思った。



 中学に入学すると同時に、その子とは違うクラスになってしまった。その子は、私よりも新しくできた友達と仲良くしていた。

 この時、友情の脆さを知った。

 もう、親友なんてものは信じない。



 信じないって思ったのに、三年生になると仲良し四人組が出来ていた。凄く楽しくて、ずっと一緒に居たいとまで思った。しかし、その気持ちも長くは続かなかった。

 いつも四人一緒だと思ってたのに……。

麻衣まい、明日無理になっちゃったんだって」

「えー。じゃあ、どうする?三人で行っても一人余っちゃうし……」

「じゃあ、また■■■入れてあげよっか?」

「そーだね。どーせ■■■にとっての友達って私達だけでしょ?」

「私達だけでも誘ってあげないと可哀想だもんね」

「そうそう」

 私は人数合わせの為の捨て駒にすぎなかった。



 高校では深く付き合うような真似はしなかった。どうせ裏切られるのなら初めから信じなきゃいいと言う概念をここ数年で植え付けられたからだ。

 私が唯一安らげる場所は自分の部屋だった。

 だったのに……。



 バタンッ

 勢い良くドアが閉まる音がした。

「また喧嘩だ……」

 お姉ちゃんとパパは顔を合わせると必ず喧嘩に繋がる。どうしてそうなったのか、きっかけなんて知らない。気付いたら、そうなってたから。そして今日もまた……

 バンッ

 来た。

「■■■、聞いてよ!」

 喧嘩の後は必ず私の部屋に来る。溜ってるものを発散する為に。

「本当にウザイし」

 私からしたら、あんたの方がウザイよ。



「はぁ」

 ママの溜息が静かな部屋に響く。

「あら。■■■どうしたの?」

「またお姉ちゃんとパパ喧嘩したの?」

「ええ。どうして仲良く出来ないのかしら」

 ママは暗い顔をしている。そんな顔しないで。私まで悲しくなるよ。

「それに比べて■■■は良い子ね。髪を染めたり、耳に穴を開けたりしないで、真面目に学校行ってるんだもの。今度のテストも期待してるわよ。■■■だけが母さんの希望なのよ。良い大学に行って、良い所に就職してくれれば、それだけで良いのよ」

「うん。わかってる」

 ママの期待は重かった。でも、私を必要としてくれてるのには変わらない。それが嬉しかったから頑張ってこれた。



 次の日の夜。またお姉ちゃんが私の部屋に来ていた。そして愚痴ってる。

「ねぇ!聞いてんの!?」

「うん。聞いてるよ」

 実際には聞いてない。だって明日はテストだから。お姉ちゃんの愚痴に付き合ってる暇はない。

 私は机に向かったままだ。

「■■■は、どー思う?」

「え?何が?」

 あ!しまった。つい聞き返してしまった。これじゃ聞いてなかったのがバレてしまう。

「そーやって聞いたフリしてるから嫌われんだよ」

「……仕方ないじゃん。明日テストなんだもん。いくらバカ校に通ってるからって、学年一位取り続けるには頑張って勉強しなきゃいけないんだもん!」

 つい言い返してしまった。

「そうよね。お友達いないんだもんね。お母さんにしか必要とされてないんだからしょーがないわよね」

 そう言うと、お姉ちゃんは自分の部屋に戻って行った。

「……どーせ友達なんていないよ」



「■■■!これは何なの?」

 期末考査個人票を見てママは言った。

「ごめんなさい。でも、頑張ったよ」

「一位じゃなきゃ駄目じゃない。あんなレベルの低い学校から良い学校に行くには、学年一位じゃなきゃ行けないわよ」

「ごめんなさい。でも私、専門学校に行きたいの。漫画家にね、なりたいの」

「漫画家?そんな夢みたいなこと言ってないで現実を見なさい」

「でも、私……」

「はぁ。■■■なら、もっと出来ると思ったのに……」

 そんな顔しないで。私、もう期待を裏切ったりしないから。だから私を見捨てないでよ。



 私は自分のベッドに横になっていた。

「あーあ。お母さんかわいそー。でも、これで■■■は誰にも必要とされなくなったね」

 バッ

 私は起き上がって、思わず近くにあったカッターを握った。

「何もかも、あんたのせいじゃない。テストの前日に邪魔したから」

 カチカチッ

 カッターの刃を少しずつ出す。

「それだけじゃない。パパと喧嘩してストレス溜ってるのはわかるよ。でも私にぶつけないでよ!」

 私はカッターを握り直し、お姉ちゃんに向かった。

「ちょ、ちょっと■■■?やだ!!何する気!?はぁぁ……」

 お姉ちゃんは目を見開いて私を見ている。

「いやあああ!!!」

 バンッ

 私はお姉ちゃんに向かってカッターを振り降ろした。が、お姉ちゃんは部屋の外へ逃げた。

「ちょっと二人共、何してるの!?」

 ママがいた。

「お母さん助けて!!」

 お姉ちゃんは腕を押さえてママに縋り付いた。お姉ちゃんの腕からは血が流れ出ていた。それに気付くとママは私を見て言った。

「■■■がやったの?」

 信じられないって顔をしてると同時に、恐ろしいものを見る目をしている。

 そんな目で見ないでよ!!

「お父さんもお母さんも■■■ばっかりなのに、そこまでして私を消したいの!?」

 お姉ちゃんが泣きながら言ってる。

 ようやく私は我に返り、自分のしたことに自分でも驚いた。

 お姉ちゃんを殺そうとしたなんて……。

「■■■。お願いだからそれをちょうだい」

 ママは少し震えた声で言った。そして、お姉ちゃんが自分の服を引っ張っているのに気付いた。

 お姉ちゃんはママを見て言った。

「なんで■■■を産んだのよ!!あのが産まれてから、私の居場所なくなったじゃない!!しかも、私を殺そうとしたんだよ!!」

 お姉ちゃんはまた私を見た。

「私の居場所返してよ!!私の居場所……」

 お姉ちゃんは床に座り込んで泣いてる。しばらく間を置いてまた話し出した。

「■■■なんて……存在しない方がいいんだよ!!」

 ドクンッ

 お姉ちゃんの言葉が私の中にある何かを抑え込む力を解き放ったかのように、何かが混み上げてきた。

「そう……。やっぱり私、存在しちゃいけないんだ……。ならいいよ!こんな汚らしい世界、こっちから出てってやるよ!!」

 そう言うと私は自分が握っている物に力を込め……



 グサッ

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