第二章

 村の様子を見に行ったハルによると、敵は居ないみたいだけど、死体の山らしい。

 戻る?と訊かれたけど、死体を見るのはちょっと……。だから、今夜は森の中にある五人だけの秘密基地に野宿だ。秘密基地の記憶は全くないけど、私も数に入っている事がとても嬉しく思えた。

 リカ、トウナ、シュウの三人は水と食料と着替えを取りに村に戻っている。そして、今ここにはハルと私だけ。

 記憶がないから分からないけど、初めて男の子と二人きりになったと思う。なんか、妙な緊張感がある。

「断片的にでもいいから、何か憶えてる事ってない?」

「う~ん……人が沢山居て、重い感じのは覚えているんだけど……それが何なのか分からない……」

「人が沢山居る場所……行商で街に出掛けた時の記憶?でも、ユリは村から出た事ないはずなのに……。僕達が話して聞かせたのを微かに覚えているのかな?」

 ハルは私の為に色々考えてくれている。私はそんなハルの事を全く覚えていない……最低だ。

「……ごめんなさい……」

「え?」

「何でもないです……」

 居た堪れない。

「…………」

「…………」

「敬語……本当に記憶がないんだね」

 沈黙を破ったのはハル。

「じゃあ、僕がユリの手を取っても……?」

 そう言ってハルは私の手を取り、視線を合わせる。

 えっと……この状況は……な、なに?

 私が内心焦っているとハルは私の手を放し、頭を振る。

「こんなの駄目だよね。弱ってるところに付け込もうなんて卑怯だよね。ごめん、今のは忘れて」

 今のは一体何だったんだろう……。変な汗が出た気がした。



 村から三人が戻って来て、夕食を食べ終えた私達は、私の事について話した。

 四人によると、トウナ、シュウ、ハル、リカ、そして私の五人は、幼馴染でいつも一緒にいた。で、今日、朝になると私が家にいなかった。

「つまり、私は朝起きて、あの丘に行ったって事だよね」

「そう。で、そこで何かがあった。だから記憶がなくなった。その“何か”が判れば、記憶を取り戻す術になると思うんだけど……」

 ハルが悩んでいるとトウナが、

「ユリ、憶えてるか?」

 と、言った。記憶を失う前の事憶えてるわけないじゃん、と突っ込みたくなったが堪えて首を振った。

「じゃあ、神様に訊いてみたら?」

 は?ちょっと待って。何言ってるの?『神様に訊いてみたら?』って……。

 私が返答に困っているとリカが、

「質問は出来ないのよ。ユリは、神様の言った事を聞き取るだけ。どんなに問掛けても答えてくれない……。どんなに願っても叶えてくれない……。そうでしょ?」

 いや。私に訊かれても……。私、そんなこと……。

「あ!!」

「なに!?」

 今、思い出したんだけど……。あの時、私、神の御告って……



 隣の国の兵士が攻めて来ます。



 私、そう言った……。その後……

「おい!!どこ行くんだよ!!」

 私は走り出した。あの場に居るのが辛かったから。

 だって、そうでしょ?私があんな事を言ったから。

 村は死体の山。

 つまり、みんな殺されちゃったんでしょ。いくら、ストレス溜ってたからって、ムシャクシャしてたからって……。こんなの、あの人と同じじゃない!!

 ガシッ

 誰かに腕を掴まれ、私の足は止まった。

「急にどーしたんだよ!」

 トウナだった。

 私は泣いていた。あの人と同じような事をしてしまったから。

「ユリ。泣かなくていいんだよ。これは、仕方がない事だもの」

 リカが抱きしめてくれた。

 しばらく沈黙が続いた。私は重い口を開いた。

「私があの時、あんなことを言ったから、みんな殺されちゃったの?」

 そうだ。そうに決まってる。

「違う!ユリは悪くないよ。ユリが言わなくても、ああなってた」

 リカは否定してくれるけど、私の所為なんだ。

「……この世界はそういうものなの……」

「え?」

 リカが私の耳元で、私にしか聞こえないくらい小さく囁いた。

 どういうこと?

「ほら、戻ろっ。今日はいろいろあったから、疲れたでしょ?戻って早く寝よう?」

 リカは、にっこりと微笑んだ。

 私の手を引いて、さっきの場所に戻った。そこにはシュウがいた。どうやら、シュウは、私の事を追い掛けてはくれなかったみたい。



 その夜、私は眠れなかった。考え事をしてたから。

 私、無意識のうちに神の御告を聞き取ってたのかな?

 そう言えば『御告』には続きがあったよね。確か……『三人の勇者が現れ救ってくれるでしょう』だっけ?『三人の勇者』って、トウナ、シュウ、ハルのこと?

 私は三人の顔を見た。三人共、ぐっすり寝てるみたい。

 私は、兵士に言われた事を思い出していた。

 あの人、私に『皇の后になれ』って言ってたよね。なんで私なのかな?記憶を失う前にその人と何かあったのか、明日訊いてみよう。



 次の朝、私が五人の中で一番最後に起きた。夜更かしが響いたみたい。

 四人は何か話していたみたいだった。リカは私が起きた事に気付き、話しかけてきた。

「起こしちゃった?ごめんね」

「大丈夫。昨日、なかなか眠れなくて……」

「いろいろあったから、仕方がないよ。で、これからどうしようか皆で話してたんだけど、村に戻るの嫌でしょ?」

 私が軽く頷くと、今度はハルが話を続けた。

「昨日、人が沢山居る場所って言ってたでしょ?だから、もしかしたら行ったら何か思い出すんじゃないか?って話していたんだ」

 昨日……。ハルが変な行動をしたから、そんな話をしていた事は忘れていた。

「ユリにとっては辛いかもしれないけど、僕達としてはユリが僕達の事を忘れちゃっているのは悲しいから、記憶を取り戻してほしいんだ」

 こんなにも私の事を想ってくれてる人達がいたのに、私は忘れちゃって……。それって、とても酷い事だよね……。

 何かが頬を伝った。

「おい。泣くなよ。嫌ならいいんだぞ。思い出なんてこれから作っていけばいいんだし」

 トウナが慌てて言った。

「違う。凄く嬉しくて。こんなにも想ってくれてる人達がいるなんて思ってなかったから。私、記憶を取り戻す旅に出たい」

「よし。決まりだな」

 私はみんなの顔を順々に見た。

 先ずはトウナ。なんだか自信に満ち溢れたような顔をしている。

 ハルはちょっと心配そうな顔をしていたけど、私と目が合うと微笑んでくれた。

 シュウはそっぽを向いていたけど、安心したような顔をしてる……のかな?

 そして最後にリカを見た。微笑んでくれてる。リカの笑顔を見るとなんか落ち着く。不思議だけど、きっとそれは友達以上の関係だったからなんだと思う。きっとそうだよね?



 私達は、ここから一番近い都に向かった。そこはエルスと言うらしい。

 この世界には四つの国があって、ここはナルーン国という四つの国の中で二番目に小さい国らしい。この国で沢山の人が集まるのは、エルスしかないらしい。沢山集まると言っても、ボルク国という北の大国と比べると、その国の小さい町と同じくらいしか人が居ないと言うんだから、この国の人口はかなり少ないみたいだね。

 私は、エルスに向かう途中、昨日疑問に思った事を訊いてみた。

「トールウ国の皇様ねぇ。たぶんユリは会ったことないと思うよ。だって、皇様だし。まして、他国のだよ?母国の皇様だとしても会うのは難しいと思うし……」

 ハルは少し考え、リカが続けた。

「それなのに『后になれ』ってのは、少し変よね?」

 リカの疑問にハルが難しい顔をして答えた。

「いや。変なことなんかないよ。トールウ国って絶対皇制の国で皇が好き勝手に政治を行なってるんだ。それに怒った国民が反乱を起こして……。今は軍の力が強いけど、このまま長引けば武器がなくなって国民が皇を殺すことだって可能になる。皇はそれを恐れている。どうにかして、国民に皇は絶対のもので逆らってはいないんだと思い込ませたい。だからユリを后にして……ユリの力が欲しいんだよ。まあ、僕の予想にすぎないけど」

 なんか難しい事を言ってたけど……つまり、私を利用したいって事?でも待って。私の力って何?神の御告が聞けるってやつ?実感ないんだけど…‥。

「大丈夫」

 肩を軽く叩かれ、少しビックリした。トウナだ。心配そうな顔をした私を勇気付けてくれるみたい。

「何があろうと俺達が護ってやるから」

 トウナは、ハルとシュウを見た。私も二人を見た。

「ちょおーーーっと待ったあーーー!!!」

 リカが急に大声を出したから、私達はかなり驚いた顔をした。シュウは平然としていたけど。

「私だけ仲間外れ?私だってユリを護れるんだからっ!」

 私はリカに微笑んで言った。

「ありがと」

 リカも私に微笑み返してくれた。

「皆もありがと」

 トウナ達にもお礼を言った。私って幸せ者だね。つくづく思うよ。



 もう、すっかり暗くなっていた。朝からずっと歩きっぱなしで足がパンパン。でも、四人は平然と歩き続けている。凄いなぁ。

「ユリー!見て!」

 疲れたきった私に、元気な声をかけてきた。

「ねえ、ハル。あれがエルス?」

「うん。そうだよ」

「ユリー!あれがエルスだって。私、都に行くの初めてだからワクワクしちゃう」

 ハイテンションなリカについていけなかった。このまま村に戻る事が出来そうなくらい元気だった。私にも、その元気をわけてほしいな。

「ユリー!行こー!」

 そう言うと、私の腕を掴み走り出した。疲れきっていた私の足が悲鳴を上げそうだったが、リカに抵抗する力も残っていなかった。

 リカに引かれるまま、都に近づいた。これで一週間分の力、使い果たしたよ。

「ねえ。これどうすれば入れるのかな?」

 リカに訊かれて、私は前を見た。そこには木造の塀がそびえ立っていた。街を護る為のものだろう。

「これじゃ、中に入れないよ。せっかく来たのに野宿?こんなに疲れてるのに」

 嘘だ。まだ元気残ってるでしょ。

「大丈夫。こっちから入れるよ」

 後ろから追い掛けてきたハルが言った。

「正門は閉まっているけど、夜着いた旅人の為に裏門があるんだよ」

 しばらく塀に沿って歩き、角を曲がった。そして、また、しばらく歩くと、正門に比べてやけに小さい扉があった。

 ん?誰か立ってる。

 見た感じは兵士。おそらく門番だろう。ハルが代表して少し話すと門番は扉を開けてくれた。

 中に入ると暖かい感じがした。気温じゃなくて雰囲気がね。

「うっわあー。これが都?なんか華やかな感じだね」

 やっぱり疲れたなんて嘘でしょ。

 リカは、そこら中をうろちょろしていた。

「ちょっと待って、リカ」

 今にもどこかに行っちゃいそうなリカにハルが言った。

「まず、宿を見つけなきゃ」



 『あんまり良い宿には泊まれないけど』と、ハルが言ったから、もの凄くボロいのかと思った。けど、そんなでもなかった。五人で寝るには少し狭いけど、しっかり鍵も付いてるし、お風呂だって付いてて……。もしかして、お風呂付きの宿を選んでくれたのかな?一応、女の子だからとか考えてくれたのかな?ハルって、こういう気配りが出来る人だもんね。でも、どうせだったら男女別の部屋にしてほしかったな。……って、あれ?私、ハルの事……。記憶が戻り始めてるのかな?

「ねえ。見物しに行かない?」

「明日にした方がいいんじゃない?ユリ、すっごい疲れているみたいだし」

「私はいいから皆で行ってきて」

「じゃあ、可愛いお店とかあるか探して来るから、明日一緒に回ろうね」

「うん」

 そう言うと、リカ、トウナ、ハルは出て行った。

 リカって、なんか可愛いよね。私もあんな風になりたいな。

 ……って、あれ?シュウは行かないの?

「シュウは行かなくていいの?」

「ああ」

 返答が短い。

「シュウも疲れたよね?」

「別に」

 短い。

「リカ達、元気だよね」

「…………」

 今度は返答なしかいっ!

「私、お風呂入ってくるね」

 そう言って、私は部屋を出た。シュウじゃ話し相手にならないから、さっさとお風呂に入って寝ちゃおう。それに汗臭い。昨日、お風呂に入らなかったせいだ。



 ぴちゃーん

 天井についた水滴が垂れてくる音が虚しく響き渡った。私以外誰もいなくて貸し切り状態だ。



 ――トールウ皇の后になれ。


 ――ユリの力が欲しいんだよ。


 私を必要としてくれるの?

 そこが私の居場所なの?


 ――なんで■■■を産んだのよ!!あのが産まれてから、私の居場所なくなったじゃない!!


 え?


 ――はぁ。■■■なら、もっと出来ると思ったのに……。


 誰?


 ――なんで帰ってくんだよ!!


 重い……。


 ――もー、ウザイんだよ!!


 やめて。胸が苦しい……。


 ――私達だけでしょ?


 お願い。やめて。


 ――■■■だけが■■■の希望なのよ。

 ――■■■■も■■■■も■■■ばっかりじゃない!!

 ――■■■があんなことするなんて……。

 ――いやあああ!!!


「やめてぇーーーー!!!」

 あれ?

 どうやら、お風呂の中で寝ちゃったらしい。にしても、さっきのは何?悪夢?聞いた事のある声なのに誰なのか分からなかった。それに胸が引き裂けそう。あれは、私の失った記憶の一部なのかもしれない。取り戻したいけど怖い。全てを知ったら、私、どうにかなっちゃいそうな気がする。私、どうしたらいいの?



 長くお風呂に浸かっていたせいで足元がくらくらする。なんとか部屋に戻ったけど立っていられなくて壁にもたれかけながらしゃがんだ。ぼんやりする中、目の前で何かが動いてる。

「横になった方が楽だと思う」

 よく見ると、目の前に布団が敷いてあった。シュウが敷いてくれたらしい。

「ありがとう」

 立って布団に近付こうとしたが、上手く立てず倒れた。しかし、床にぶつかった感じはしなかった。

 なんか石鹸の匂いがする。

 湿った茶色いものが顔に付いた。それはシュウの髪だった。シュウは倒れ込みそうな私を支えてくれたみたい。そのまま布団に寝かせてくれた。

「色々とありがとう」

「長風呂しすぎ」

 返事がくるとは思っていなかったから少し驚いた。

「私、どれくらい入ってたの?」

「二時間くらい」

 結構長く入ってたみたい。

「シュウもお風呂、入ってたの?」

 今度は頷くだけだった。やっぱり無口だね。まあ、騒がしい人よりかはマシだけど。



 次の日、リカに引かれて街を歩き回った。先ず入ったのはアクセサリーショップ。

「見て見て。これ、お揃いで買おうよ」

 昨日、街を回った時に目をつけておいたらしい。それは、銀のチョーカーだった。値段からすると、おそらく安い金属にメッキを塗っただけなんだと思う。こう言うのはあまり詳しくないから分からないけど。

 シンプルでどんな服にも合うから、リカのセンスは結構良いと、私は思った。

「結構似合うじゃん」

 トウナがそう言ってくれた。男の子にそう言ってもらうとなんだか照れるなあ。

「私はぁー?」

 少し怒った感じにリカが言った。

「勿論、リカも似合ってるよ」

 ハルが付け加えた。

「えへへ」

 少し嬉しそう。

 この後もいろんなお店を回った。



 ぐう~

「!!!」

 やだ!なんで鳴るのよ!

 空気を読まずに鳴った自分の腹の虫に泣きたくなった。さっきから我慢してたのに……。

「そろそろお昼だし、何処かで食べようか」

 ハルが行商に来た時にいつも食べに行くというお店に連れて行ってくれる事になった。

 お店に向かう途中、いつまでも顔を赤くして涙目の私にトウナがフォローを入れてくれた。

「気にすんなよ。鳴る時には鳴るんだから」

 気にするなって言われても……。気にするよ!



 食堂に入った私達は適当に注文した。

「で、何か思い出した?」

 ハルにそう訊かれた。そう言えば、そう言う目的だったよね。普通に観光してたよ。

 私が首を振ると、

「そっか……」

 少し考え、ハルが続けた。

「やっぱり、重い感じって言ったら、トールウ国かな。でも、ユリ追われているし……」

 ハルと目が合った。思わずそらしちゃったけど。

「私なら平気だよ。別に殺されるわけじゃないし……」

 それに、私を必要としてくれるなら……

「駄目だ!!!」

 コップの縁を眺めていた私は、急に大きな声を出したハルに目を移した。他の客もハルを見ていた。

「あっ。いや、その……」

 ハルの頬は微かに赤くなっていた。

「とにかく、トールウ国に行くのはやめよう。次はザフリイ国に行こう。トールウ国とは逆の方角だし。うん。それがいい。決まりだね」

 そう言うとハルは目の前にある肉団子を口に放り込んで食べた。一人で喋って、一人で納得して……。思わず笑ってしまった。

「ねえねえ、これ美味しいよ。ユリも食べてみたら?」

 美味しいものを食べて幸せそうなリカがいた。

 そう言えばリカは、ハルが大きな声出しても気にせずに食べ続けていたなぁ。可愛い顔して結構食い意地はってるね。



 午後も街を歩き回ったが、特に収穫もなく宿に戻った。

「行商で何度か此処に来た事あったけどさ……本当に都か?城らしき物はあったけど、都にしては小さくねーか?」

 確に。私もトウナに同感だった。

「それ程、国が小さいって事だよ。他の国の都はもっと大きいよ」

 ふ~ん。てか、詳しいね。

「ハルって、旅した事あるの?トールウ国の事も詳しいみたいだったし」

「…………」

 あれ?何か触れてはいけないところに触れてしまった感じ……?

 妙な雰囲気の中、ハルは口を開いた。

「旅って言うか……。昔、ちょっとあってね……」

 ハルは皆を見て言った。

「言っちゃっていいよね。もしかしたら、何か思い出すかもしれないし」

 シュウは微かに頷き、トウナとリカは顔を向き合って言った。

「俺達はいいけど、ハルはいいのかよ」

「いいんだよ。どうせ昔の事だし」

 そう言ってハルは私の方を向いて話し出した。

「僕達四人は養子なんだ」

 ……え?

 しばらく沈黙が続いた。

「ごめん」

 思わず謝った。

「いいんだよ」

 ハルは笑顔だった。トウナとリカは顔を伏せててどんな顔してたかわからなかったけど、この静寂さからすると、大体は予想がつく。シュウは顔色一つ変わってない……と思うけど。

「リカは赤ちゃんの時。トウナは三歳の時。シュウは七歳の時。で、僕は十三歳の時に養子としてあの村に迎えられたんだ」

 ハルだけ、やけに時期が離れてるなあ。

「僕は元々トールウ国に住んでたんだけど、両親が兵士に殺されて……命からがら逃げてきたところを助けてもらったんだ。本当に、ユリのお母さんがあの時引き取ってくれなかったら、僕はどうなってたんだろうね」

 笑って言ってるけど、本当に笑っているようには思えなかった。

 てか、そうなると私とハルは義兄妹!?

「ユリはいつも大人しくて、リカはユリとは真逆な性格でさ……。まあ、似てる部分もあったけど。いつも仲良しで喧嘩なんて一回もしてなかったよね」

 ハルはリカに言った。リカは急にふられて戸惑っていたけど、直ぐに、

「だって一番の親友だもん!」

 と、私に抱きついてきた。柔らかい……。

 その後も昔の話で盛り上がっていた。私も話を聞いてて楽しかったけど、ピンとくるものが無かった。こんなに沢山聞いたんだから一つぐらいあってもいいじゃん。



 宿の下にある食堂で夕飯を済ませた私達は、それぞれお風呂に入った。

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