第三章
「さて、ツツジとキキョウの事だが……」
大人達は村長の家に集まり、話し合いを始めた。
おそらく、今回の襲撃はユリカの力を狙っての事。ユリカの力の事はこの村に居る者しか知らないはず。それが何故、存在を知られたのか謎な部分もあったが、今はそれよりもツツジとキキョウの安否確認が最優先だ。
襲ってきた奴らの特徴と、ユリカのお告げから敵はトールウ国だと分かっていた。流石に国を相手に戦うなど無謀だと分かっていたが、このまま二人を見捨てる選択肢などない。
「国が相手じゃ勝ち目なんかないぞ?現に、襲撃された時もやられっぱなしだった……」
「馬の数もその襲撃で大分減っちまった……」
「ここからトールウ国までの距離を考えると、動けるのは四騎ってところだ……」
「奴らも馬鹿じゃねぇって事か。ただ単に村を荒らして行ったわけじゃなく、脚を潰して反撃出来ねぇようにしてったんだろうな」
「脚を用意するのもそうだが、戦力もどうにかしないと返り討ちに遭って終わりだ」
「脚より人員不足が深刻だ……」
「村長の伝でどうにかならないのか?近隣の集落に応援を頼むとか……」
村長の表情が更に険しくなる。
「敵の目的はユリカだ。近隣の集落にもユリカのような存在がいるのであれば襲撃される可能性もあり、手を貸してくれるかもしれないが……」
手を貸すメリットがなく、デメリットしかない。
話し合いは平行線のままだった。
その頃、トウナ、ハル、シュウの三人もトウナの家に集まっていた。
「皆、ツツジとキキョウの事でシュウんちに集まってんだろ?」
シュウが頷く。
「俺らにだって出来る事、絶対あるはずなのに……」
同世代の自分達は省かれて話し合いが行われている事にトウナは少し苛立っていた。
「仕方ないよ。皆からすれば、僕達は子供で、危険な事に巻き込みたくないって思って当然」
「いや、だって、俺らだってもう十七だぞ?一人前って思われて当然の歳だぞ?」
「まあ、そうだけど……」
「いつまでも身を固めずにいるからだろ」
「う……」
シュウの言葉にトウナとハルは苦笑いしか出なかった。
十五歳で成人扱いされ、結婚し、早ければ子供も作っている年齢なのだが、トウナ達にはそういう気配が全くなかった。いつまでも子供扱いされて当然の結果だった。
「そ、そんなことより!ユリカの様子はどうだった?」
この変な空気をどうにかしようと、トウナはハルに訊ねた。
「部屋に篭ったまま出てこない……声掛けてみても反応なかった……」
「そうか……」
自然と眉間に皺が寄る。
「実は……」
トウナとシュウの視線がハルに集まる。
「昨日の夜、ユリカが皆のお墓に居たんだ。そこで『あと二人』って……」
緊張が走る。
「ユリカ、気付いちゃったんだと思う。あと二人、まだ見つかっていない事に」
「そ、そうか……」
トウナは深い溜息をひとつ吐き、続けた。
「そりゃまあ、いつまでもバレないわけがないと思っていたけど、まさかこんな直ぐバレるとは思ってねぇよ……」
「流石に、誰が見つかっていないのかは気付いていないみたいだけど……」
「ツツジとキキョウだって事がバレてないだけでも不幸中の幸いか……。ましてや、もしかしたら自分の代わりに連れて行かれたとか知られたら何しでかすか分かんねぇよ」
「うん……」
「ん?」
トウナが何かに反応した。
トウナは立ち上がり、窓から外の様子を窺う。
「どうしたの?」
「え、あ、いや、何か聞こえた気がしたんだけど、気のせいだった。で、これからどうする?俺はこのままじっとしてんのは嫌だぞ」
「僕だって嫌だよ!でも……襲撃してきたのはトールウ国の兵士だって分かっているけど、手が出せない状況だし……」
「相手が分かってて何で手が出せないんだよ!トールウ国に殴り込みに行けばいいだけ!単純な事だろ!?」
「確かに戦う相手は明白だけど、この村の住人全員で立ち向かった所で、一国の兵を何人倒せると思っているの?話にならないレベルで戦力差があるよ?それに、大切な脚である馬もかなり減っちゃったし、どうやってトールウ国まで行くつもりなの?色々問題がありすぎるよ……」
「だからって、このまま黙ってられっかよ!」
「一旦落ち着けトウナ」
大人達が話し合っている事と全く同じ事をこちらでも話し合っていた。
「僕だってこのまま黙って泣き寝入りなんてするつもりないよ。だから、色々考えたんだ。一つだけツツジとキキョウを助ける方法があるけど……凄くリスクが高い賭けになると思う……」
「何だよ、勿体ぶらずに早く教えろよ!」
「うん……」
ハルは現状から話した。
「今、動ける馬の数は四騎のみ。機動力で考えると騎兵四人と歩兵数人連れて行くより、騎兵のみで行動した方がいいと思う。でも、四人で真っ正面から向かって行ったところで勝ち目なんかない。だから裏から忍び込む。少人数での戦いだから捕まればもうそこで殺されても可笑しくない。文字通り命を賭ける事になる……」
「それしか方法がないなら行くしかねぇだろ!そもそも、今まさにヤバい状況なのはツツジとキキョウだろ!?」
「まあ、そうだよね……。本当にユリカの力が目的なら、二人がユリカでないと分かれば容赦なく殺されるだろうし……。逆に言えば、どちらがユリカか分からない間は殺されないと思う」
「どっちにしろ、時間がない。早く行かねぇと!」
「そうなって来るとやっぱり身軽に動ける者が行くべき」
“身軽に動ける者”と考えると、候補はもう決まっていた。
「俺らが行くべきって事だよな!まあ、俺は反対されようが行くがな!」
「うん。僕達三人と後はもう一人……」
トウナ、ハル、シュウの三人は残りの一人を誰にするか話し合いを進めた。
「さてと、決まった事だし、さっさと話に行って出発するぞ」
「そうだね。時間は待ってくれない。村長さんに伝えて……ん?」
トウナの家を出たところで外が騒がしい事に気付いた。
三人は慌てている大人達の元へ駆け寄った。
「どーしたんすか?」
トウナが声を掛けた。
「あー、いや、厩の鍵が開けっ放しになってて、馬が外に出ちゃってたんだよ。貴重な脚だってのに……」
厩の中には馬が一騎のみ。
「おーい!見つけて来たぞー!!」
二騎連れて来ている。どうやら村中探し回っていたようだ。
「あと一騎はまだ見つからないのか?」
「もしかしたら村の外に行っちまったのかもしれないって森の中探してるよ」
「そうか……こんな大事な時に……」
大人達もトールウ国へ向かう事は考えていた。ただでさえ数が減った馬が更に減っては困る。
「にしても、誰だよ。最後に出てった奴……。ちゃんと施錠確認しろっての……」
「だよな。あっちの森はまだ探してないらしいから俺達はあっち探してみるか」
「そうだな。トウナ達はもう遅いし家帰ってろよ」
そう行って大人達は森へと向かった。
「……やっぱり子供扱いかよ」
遠くなっていく後ろ姿にトウナは小言をついた。
「大人しく家帰ってやらねーぞーってな!とにかく、村長さんに俺らの案言いに行くぞー。……ハル?」
見えなくなった後ろ姿から視線を戻すと、険しい顔をしたハルがいた。
「どうした?」
「何か引っ掛かる……」
そう言ってハルは自宅へと駆け出した。
「お、おい!シュウの家はあっちだぞー!?」
トウナとシュウもハルに続いた。
自宅に到着したハルは辺りを見渡した。特に変わった様子はない。
「おい、どうしたんだよ?」
トウナの問い掛けには答えず、家の奥へと進んだ。向かった先はユリカの部屋。軽くノックする。
「ユリカ?」
返事はない。
ハルは躊躇する事なく戸に手を掛ける。
「お、おい!返事ねーのに開けんのマズイだろ!?」
トウナが慌てているのも構わずに部屋を開け放つ。
そこにユリカは居なかった。
「やっぱり……」
一言そう漏らすとハルは必要最低限の荷物を抱え、家を飛び出した。
「おい!何でユリカいねぇんだよ!?」
ハルを追いかけながらトウナは問い掛ける。
「厩の鍵が開けっ放しになっていたのは、おそらくユリカが慌てて馬に乗って出てったから!」
「でも、部屋に籠って出てこないって言ってたじゃねぇか!?」
「僕だって、暫くは出てこられる状態じゃないと思っていたよ!でも、もし、出てきていて僕達の話を聞いていたら……」
「!!!」
トウナは、三人で話している時に何か聞こえた気がした事を思い出した。
「……まさか、ユリカだったのか!?」
「馬が一騎見つからず、ユリカもいない。更にトウナが聞こえた気がするって言った物音。偶然にしては不自然すぎる。見つかってない残り二人が自分の代わりに攫われたツツジとキキョウだって分かれば、村を飛び出して当然!」
三人は厩へと到着した。
「おそらく、ユリカはトールウ国へ向かっている」
「一人で行くなんて無茶だろ!?」
「こんな状況で無茶かどうかなんて判断出来るわけないよ!とにかく、ユリカを追いかけないと!」
ハルの言葉にトウナとシュウは頷き、馬に跨がった。
馬に跨がったユリカは森の中を駆け抜けていた。
(私のせいでツツジとキキョウが……)
トールウ国へ行った事などあるわけがない。おそらく此方の方角にトールウ国がある程度の認識で馬を走らせていた。
本当に行けるかなんて分からない。それでも村で待っている事など出来ない。
(目的が私なら私自身が名乗り出れば二人は解放されるはず。これ以上大切な人達を失いたくない)
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