第9話
二日が過ぎ八月二十二日になった。夏休みも終わりにさしかかってきている。
いつもよりおしゃれ(自分の基準)を着込み、いつもより早く起きた(ただし一昨日のときほど早くない)。
約束の時間の三十分まで自分の髪型とか弄って、今、約束した集合場所—早見君の家の前で待っている。
ちなみに時間は早見君が決めてくれたのだけれど集合場所については私がここを希望した。
本来、近くの最寄り駅になる予定になるのだったのだが人混みで見つけにくいという建前でここにした。
本音はもちろん早見君と一分一秒でも長く一緒にいたいから。
昨日は徹夜してしまい体調のほうも心配していたのだが思いの外、昨日の朝には熱も下がり、体調も良くなっていた。なんとかなるもんだ。けど昨日はぐっすり寝たし倒れるということもないことはないだろう……多分だけど。
熱中症の件もあるしな。油断しているとまた早見君に迷惑がかかってしまう。だから気をつけないと。
「おーす」
家の扉が開きそこで暮らしている住人があらわれた。
「あ、おはよう」
「おう。今日はよろしくな」
「ああ、よ、よろしく」
なぜよろしくなのかはいまいちわからないが思わず返してしまう。しかも、こう言われるとやっぱりデートなんだなぁと感じる。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
駅までの道のりを歩く。普段ならあまり履かないであろうヒール(昨日買ってきた)なので思うように歩くことができない。
しかし、それでも早見君は、そんな私に合わせて歩いてくれる。
やっぱり早見君って優しいなあ。でもそれで時間がなくなっていくのはもったいないし早見君にも悪い。
なるべく早めに歩こうと奮闘するもなかなか上手くいかずもたついたりしてしまう。
「おっと大丈夫か?」
「う、うん。ごめんね」
手をとってもらいなんとかバランスを保つ。そしてまた歩く。それを何回か繰り返したところで早見君がため息をついた。
やっぱり呆れてるのかな? こんなことだったらヒールなんかでこなければよかった。
早見君はやれやれとした様子で手を差し伸べながら口を開いた。
「ほら。歩きにくいなら支えてやるから手をだしな」
つまりそれって手をつなぐことになるんですけど……いつも思うけどなんで早見君はそういうの平気でできるんだろう。もしかして世間ではこれが普通なの?
私がおかしいの?
「ほら、はやくしろ。時間、なくなっちゃうぞ」
「あ、ああ、はい」
慌てて手を出す。手をつないだところで手が引っ張られ重心が安定してくる。早見君が紳士にごとくエスコートしてくれている。
「あ、ありがとう。早見君」
「俺は別に……ヒールなんて履かなければよかったのになんで履いてきたんだよ? いつもはスニーカーとかだろ」
「うっ、あ、いや、その……」
デートだから張り切ってヒールできちゃったなんて言えない。なんか意識しちゃってるように聞こえるじゃない。
「まあ、いいけど。どうせデートとか俺が言ったからなんだろ?」
「なんでそういうこと言うかな!? そうだよ。そうですよ。初めてのデートで浮かれてましたよ! 悪い!?」
「いや、別に悪くはないだろ。一般的に考えたらこれが普通だ。おかしいところもなにもないだろ。まあ、強いて言うならお前のその服ぐらいなんだが……」
「あ、え? そ、そう? やっぱり?」
私が今着ているのはこの前のお盆のとき、美紀と街にいった時に買ったあのフリルの入ったワンピースだ。あれ以来一度も着てなかったので着てみることにした。それはいいのだが、やっぱりいつもの私とは印象が違うから変に見えるのだろう。メイド服とか水着は似合っていたみたいだけどさすがにこれはあれだったか。
「お、おかしいよね? 友達にも人形さんみたいとか言われてたし子供っぽいよね?」
「ああ、その点についてはまあそうと言われればそうなんだけど……やっぱり変じゃないよ。可愛いと思う」
「え? そうなの? お世辞はいいんだよ? 自分でも今日着たときあれ? とか思ってたんだけど……」
「それは、このぐらいの女子なら大人びた服のほうが着たくなるだろうからそう感じるだけだろ? 俺の主観だけど多分今まで見た中でメイド服姿の次に可愛いし、似合ってるよ」
「メイド服が一番なの!?」
そこは普通一番とか言ってくれるのかと思ったのに違うのかよ。いや、別にいいんだけどね? 褒めてくれるし……
「いや、俺メイド萌えだしなあ。こればかりは譲れないよ」
「ああ、やっぱりそうなのね。……あ」
ちょうど駅についたみたいだ。早見君がエスコートしてくれたおかげでスムーズに行けたみたいだ。
「早見君、ありがとう。もうこの辺でだいじょうぶだよ」
つないでいた手を放す。この辺にしておかないと私がもつかどうかわからない。 ちなみにどこへ行くかは私はわからない。デートプランとかは早見君が考えてくれたみたい。先にどこにいくかを聞いてもいいけどそれだと楽しみが減ると思い聞いてない。けど現在は ICカードがあるので電車賃は大丈夫だろう。中にそこそこ入れてあるし。
改札をくぐり、都会行きの電車に乗った。今日は平日なのであまり混んでおらず、私たちと同じぐらいの年齢の人が多めに占めていた。おかげで席に座ることができた。
「座れてよかったな。ヒールのまま立っているのきついだろ?」
「うん。正直、助かったよ。目的地に着く前に足がもたないかと思っていたし……」
電車が揺れる音がする。立っている人たちはふらつき倒れそうになっている。私も立っていたら間違いなく倒れていただろう。
何駅か進んだところで都会のほうについた。最初は新宿か渋谷あたりだろうと思ってた。実際、新宿駅で降りた。
やっぱり新宿か。
しかしそう思っていたけど山手線に乗り換えた。しかし、渋谷駅についたが早見君はそこで降りる気配はない。
「ねえ、早見君。一体どこへ行くの?」
さすがにどこへ行くか見当がつかなくなってきたので早見君に尋ねることにした。
「ん? ああ、そうだな。そろそろ言ってもいいかな?」
「うん」
早見君は落ち着いた様子で笑みを浮かべてこういった。
「次の駅が行くところだよ」
次の駅と言えばあそこしかない。
窓の外には、新宿のような都会とは異質な風景が広がっている。建物とかはいっぱいあるけど建物に貼られているのは私の知らないアニメやゲームの広告だ。
つまり、私たちが行こうとしているのは秋葉原ということになる。
電車に降りて駅の中の風景に驚いた。なんせガチャガチャがたくさんあったら所見の人は驚くだろう。
駅に出るとその風景にまた驚いた。
多くの人が行き来しており、男性がほとんどを占めているのかと思っていたけど、意外と女性もいるということに。さらいには雑然としていた。
その中にはチラシを配っているいつも私が着ているようなメイド服を着ている人がいた。
……なるほど、早見君はそこに行きたかったのね。
メイド喫茶。
店員がメイドでお客をもてなし時にはゲームしたりなどするメイド好きにとっては憩いの場といえるだろう。
「早見君。メイド喫茶に来るためにここにきたの?」
「うん。メインはそうだよ」
「ん? メイン?」
どういうことだろう。メイド喫茶によるだけではないのか? メイド喫茶全店制覇! とかするのかと思っていたのに……
「他に何か目的でもあるの?」
「ああ。せっかくアキバに来たんだし色々みてみたいじゃん? 滅多に行けるもんじゃないし」
まあ。それもそうだろう。アキバなんて遠いし電車賃もかかるし、よほどの人じゃないと何回も行かないだろう。
……今さら思うんだけどなんで秋葉原? ここってデート場所としてどうなの? なんか一昨日の夜━いや、深夜だったし昨日とも言えるか。まあ、わかりにくいし一昨日の夜としておこう。
一昨日の夜の私が恥ずかしいんだけど……何色々妄想しちゃっていたのよ。馬鹿みたいじゃない。
「どうした? なんか元気がないけど……もしかしてまだ風邪がぶり返したんじゃあ━」
「ああ、大丈夫。ただ、ちょっとね」
「ん?もしかして嫌だったか?」
「いや、別に期待してたわけじゃないからいいんだけどね……」
嘘をついてしまった。
「……まあ、いいか。せっかくだし楽しもう。それでどこから行こうか? メイド喫茶から行くの?」
「うん。そのつもり、ちなみに店は決めてる」
そう言って歩き始める。早見君は、近くのメイドさんのところにかけよりチラシを受け取った。
「ってなんでチラシもらっているのよ!?」
「いや、だってメイドさんから貰ってみたかったし……」
「それなら私がいつで━」
言おうとしたところで言うのをやめた。
なんで『いつでも配ってあげるよ』とか言おうとしてるのよ。不自然じゃないのよ。
「ん? なんか言おうとしたか?」
「なんでもない。早く行こう」
「ああ、今行く。なんで怒っているんだ?」
最後のほうはボソっと言っていたのでよく聞き取れなかった。が別にどうでもいいだろう。こうなったら早見君とアキバデートをやってやろう。
まずは、早見君が行きたがったいたメイド喫茶か。
早見君と並んで歩いてその場所へと向かう。
今気づいたのだが私たちが歩いていると人の視線をちょくちょく感じる。周りには男子同士の集団か、女子同士の集団、もしくは一人でいるものがいる。決して男女のカップルなどいない。だからだろう。私たちのようなものがいることが珍しいのかもしれない。または妬んでいるものもいるのだろう。時々『リア充爆発しろ』とかが聞こえてくるし……女子の中には早見君を見るために振り向く人もいた。
早見君ってやっぱりかっこいいんだな。
とそんなことを考えているうちに目的地にたどり着いた。
「ここね」
「ああ」
店の名前は『Maid angel』と名前からしていかにもって感じのやつだった。
早速店のに入る。すると
「「「おかえりなさいませご主人様、お嬢様」」」
「お、おおう」
私は少し驚いた三人で打ち合わせもなくそろってお決まりの言葉を言ったというのもあるのだが、まさか『お嬢様』と言われるとは想像していなかった。そういえば女の客が来た時どうするんだろうとか以前思っていたな。
へえ、こう対応すればいいのか。初めて知った。
店員のメイドさんに案内され、テーブル席へと座る。
周りの席を見渡すとスマホや、PCをいじっている人がいる。一瞬デスクワークの仕事をしているのかと思ったけどその考えはすぐについえた。画面がちらっと見えたのだが、それはどう見てもデスクワークするようなものでもなくアニメらしきものが見えたからだ。もちろん休憩といって気分転換で見てるかもしれないがよくみたらその人はスーツじゃなかったし仕事をするような格好ではなかった。だからそうではないだろう。
他にはメイドさんの対応や仕草を受けて鼻の下をのばしている輩もいた。正直あれは気持ち悪いと思った。なぜあれであんな風になるんだ? どう見ても擬態してるじゃん。きっとあのメイドさん心の中で引いているよ。
もしかして早見君もあんな風になるのかな? でも早見君なら別にそうでも嫌ったりはしないけどちょっとあれだしなあ
早見君のほうをちらっと見ると早見君はそういうそぶりや様子もなく常連の客のごとく何も動じることなく座っている。
「早見君、何回か行ったことあるの?」
「ん? いや、これが初めてだけど……」
「え? そうなの? メイドが大好きな早見君のことだからてっきりそうなのかと……っていうかじゃあなんでそんな風に落ち着いているのよ」
私なんて初めてで何をどうすればいいのか
「いや、だって初めてって思われたくないしな。第一俺あういう人たち、あまり好きじゃないんだよな。気持ち悪いし」
「でも、早見君と同じメイド好きだよ?」
「おい、俺をあういう奴らと同類とみなさないでくれよ。俺が恥ずかしいじゃねえか!」
「いや、ここ店の中だから静かに」
さっきの人たちこっちを睨んでいるし……
すると、メイドさんが目の前にやってきた。
ああ、きっと注文をとるのだろう。
「ご主人様♪ ご注文は何にいたしますか?」
「あ、ええっと……」
ん? なんじゃこら
メニューを見るとその内容にぞっとしてしまった。
『萌え萌えオムライス』
『メイド特性カレー』
『○○星産の果実入りジュース(メロンソーダ)』
『メイドの聖水(ソーダ)』
以下略
*○○はメイドの名前です
……つっこむところが多いな。まず何だこのメニュー名はオムライスはなんとか理解できるけどカレーになんで特性なんだよお手製の間違いじゃないの? メイドという特性がつくのか? それに飲み物に関しては意味不明だ。かっこで書いてあるんならそのまま書けばいいじゃん。
これ以上考えても無駄だなと感じ、これに適応させようと決めた。
早見君は、メニューをみても驚いている様子はなく、メニューを何にするか考えていた。
本当に初めてなの!? いや、前からこういうのだって知っていたんだろうな。多分。
何にするか決めたらしく早見君は、注文した。
「じゃあ、この『萌え萌えオムライス』と『メイドの聖水』で」
「わ、私も」
とりあえず同じのを頼む。デートではこうしておけばいいとどっかで聞いたことがある。そうすれば、片方が食事において長引くこともなく相手を待たせることもなくなる。
「かしこまりました」
そう言ってメイドさんは去って行った。そしてすぐにテーブルに伏せる。
「……はあ、なんなの? あれ」
「ああ、あのメニューか。聞いたことはあったけど本当にそうだったんだな。フィクションの中だけだと思ってた。危うく突っ込みかけた」
「私もよ。早見君も同じこと考えてたんだ」
なんかほっとした。私だけがアウェー感あったから不安だった。女性客もちらほらいるのだが彼女たちは手慣れている感じだった。おかげでどうすればいいのやらであったのだ。
「ああ。まあ、こういうもんなんだよ。メイド喫茶っていうのは」
「……早見君ってこういうのが好きなの?」
「うーん。考えるな。俺の場合は、こういうのより普通のメイドがいいな。ヨーロッパとかの」
「ふーん」
確かに私たちがやるのってこういうのじゃないよね。たまにオムライスにケチャップ文字は書くけどあれは、おまけみたいなものだし……ん?
「じゃあ、なんでメイド服はああフリフリしたものなの?」
確か、あっちのほうだとのっと落ち着いたものの印象だったと思うんだけど……
「え? あっちのほうがよかった? 最近の女子とかはあっちだと可愛くないとか思ってメイド喫茶風にしたんだけど……」
「え? そうなの? いや、どっちかと言えばメイド喫茶風のほうが可愛いからいいんだけどさあ、もうあっちに慣れちゃったし」
ついでに言うと機動力面においても優れているのでなおあれでよかったと思ってる。まあ、スカートの中が見えやすくなるんだけどね……
それにも気をつかってくれたのか早見君はドロワーズも用意してくれていた。本当にあれは助かったと思った。
「おまたせしました。こちら、『萌え萌えオムライス』と『メイドの聖水』、二つずつでございます」
「おお、来たな。早かったな」
「お褒めをあずかりありがとうございます。で、オムライスに文字を書けるんですけどどうなさいますか?」
これは、定番のやつだ。これならたまにやるし対応が楽そうだ。
向こうもそう思っているらしくどうやら書く文字も決まっている様子だ。多分私と同じことを考えているに違いないだから一緒に言うとしよう。
「「じゃあ、LOVEで」」
メイド喫茶でオムライスを食べ終え、店をあとにした。とりあえず早見君にとってメインの目的は達成したということになる。……でもこれってデートなのかと何回も考えてしまう。私の悪いほうの予想に近い状態になってるんだけど……あ、だったらあの花火大会のやつもデートってことになるのかそれはそれで嬉しいな。
「……ふう、すごかったね」
早見君から話をきりだす。ここはデートっぽいのね。
「うん。そうだね。私あんな風にできないよ」
「いや、あんな風にやらなくてもいいからな? ぶっちゃけ速水さんがあんなことするところなんて想像できないし……」
もしかしたら私もあんなふうにやるのかと思って内心ひやひやしていたがその心配も杞憂に終わった。
よかった。どうやら早見君にその気はなかったみたいだ。
「じゃあ、次どこに行こうか」
「ああ、そうだなそれじゃあ━」
「あれ? 奈々?」
はて? どこからか私を呼ぶ声が聞こえてくる。声がするところに振り向くとその声の正体は私がよく知る人物であり、会うのは十日ぶりといったところだろう。
「あ、やっぱり奈々だ。久しぶり」
「あ、う、うん久しぶり、美紀。こんなところでなんて奇遇だね」
友人の美紀がこんなところにいるということに驚き、噛みかけた。
「こんなところで何してるの? あ、もしかしてデート?」
うっ、まずいなあ、美紀に出くわすとは……あまり見られたくなかったのに早見君だってわかると色々ややこしくなりそうだし……
「あ、どうも。私、奈々の友達の島崎美紀です。奈々がお世話になってます」
「ああ、俺は早見聡。今、そこの速水さんとデートしてました」
って何言っちゃんてんの早見君!?そ、そんなこと言われたら恥ずかしいでしょ!これからどうやって美紀に会えばいいって言うのよ!いや美紀に好きな人はいるってことは言ってるんだけどね。でもデートしてるところを見られるのはちょっと……
「ああ、そうですか。あなたが……ん?早見君ですか?」
「はい。そうですけど」
あ、美紀気づいたな。あんま言いたくなかったのに……
「ちょっと奈々」
美紀に手招きされた。それで美紀のところへ行くと美紀に数メートル離れたところまで連れてかれた。
「ねえ、ねえ、奈々。もしかして奈々の好きな人ってあれでしょ?」
「う、うん」
うわぁ、なんて言ってくるんだろう。もしかしてやめときなとか言われるの?それすっごいショックなんだけど……
「あの人……すっごいかっこいいね♪」
「…………」
予想と違う反応を見せた美紀に思わず絶句をしてしまう。
「え?美紀もしかして気づいてな……」
「何が?あれが先生の弟ってことはもう知ってるけど……」
「……え?」
どうしてだ?いつ、どこで私が言ったんだ?もしかしてあの時に知らないうちに口にしていたとか?いや、でもそんなことした記憶もないし……
「何でそんなこと知ってるの?」
疑問が解消できず美紀に質問する。
「え?いや、だって先生から言ってたよ。この学年の生徒に弟がいるって」
「……あれ?そうだっけ?」
全然覚えてない。だってHRとか必要最低限のことしか聞いてないし。あれで先生の話とかガチでどうでもいいと思ってるし用が済んだらさっさと終わらせてくれよ。と常に思ってる。あんなのを真面目に聞いてるなんて美紀は偉いんだなぁ。
「じゃあ、なんで早見君だってわかっていたの?前に見たとか?」
「うん。まあ、誰かと話してるなぁってところは見たことあるかな。顔までは思い出せてなかったけど……多分その時は先生にしか目に入ってなかったんだね。ははは」
「じゃあ確信を持ったのは今さっきってことね」
じゃあやっぱさっき気づいたんじゃん。はぁ、びっくりした。なんだったのよ。さっきの会話は……
「……で、奈々は何でこんなところにいるの?デートにアキバっていうのはなんか違和感あるんだよねぇ」
「あ、やっぱりそうきたのね。向こうが行きたいと言ったからです。以上」
「あ、うん。そう。彼はアキバに行くようなご趣味をお持ちなんですね」
「何で、おもむろに敬語使ってんの!?なんか早見君が変人みたいに聞こえるからやめて!」
「いや、そういうつもりで言ったわけじゃないんだけどね……」
「そういえば美紀は何でアキバに?」
「え、あ、ま、まあ色々ね。行きたいところがあって……」
うーん。まあ、美紀にだっていきたいところの一つや二つは存在するか。
「美紀、ごめんごめんそろそろ執事喫茶に行こうか」
ん?またもや別の人の声が聞こえる。その声のする方に振り向くと同級生らしき人が立っていた。
はて?誰だっけこの人。見覚えはあるようなないような。
「え、なんであんたがいるの?」
私のことを指差す。少し驚いていて早く行けよ的なオーラがあらわれている。あれ?この人私のこと知ってるの?しかもあの人になんかした覚えはないんだけど。
「ああ、結衣。ちょうどここらへんで会ったのよ」
美紀が事情を簡潔に説明する。どうやら美紀の知り合いだけど……はて、結衣なんて名前どっかで聞いたらような……
「あ、山本さんか」
そうだ。山本結衣さんだ。お盆の時に会ってたな。一瞬のことだったしすっかり忘れていたな。
「ええ、そうよ。速水奈々さん」
あれ?私の名前を言った覚えないんだけどなぁ。美紀が教えてくれたのかな。
「あ、そういえば美紀、執事喫茶って何?」
執事喫茶って確かあれだよな?メイド喫茶の執事版だったよな。そこに行くってことはもしかして……いや、私みたいに付き合わされたってことも……
「あーばれちゃったなぁ。そうね。実は執事好きなのよ」
「えっと、そ、そうなんだ。……ってえええ!?そうなの!?」
「リアクション遅っ!」
山本さんがつっこむ。
「え?だって美紀、早見先生のことが好きなんじゃあ……」
美紀は少々呆れた様子でため息をついた。
あれ?なんか間違ったこと言ったかな?
「あのね、奈々。それはそれ、これはこれなんだよ。だから今早見先生は、関係ないのよ」
「ん?呼んだか?」
「…………」
後ろを振り向くまでもなかった。ただ早見君がこっちにやってきただけだしな。それに私は早見君がいつの間にか後ろにあらわれることがあるのを知っているしもう慣れてきた。
だが、他の二人はそうでもなく、驚いていている様子だ。そして山本さんの方はただ驚いているだけでなく顔が赤くなってる。もしかしてこの人……
「は、は、早見君?」
「ん?えっと確か君って……」
「はい。同じクラスの山本結衣です」
「あ、はい。山本さんね。……で、さっき俺のこと呼んでなかった?」
「いや、呼んでないよ。正確には早見先生って言ってたのよ」
「ああ、兄貴か。なんでまた」
「いや、それはまあ、色々とね。……ってかガールズトークに男子は入らなくていいのよ」
「……ねえ、ちょっとこっち来て」
唐突に山本さんに連れて行かれた。あれ?もしかして怒らせた?
数メートルほど離れたところで山本さんが立ち止まった。
「で、何でしょうか?」
「あんた、早見君の何なの?」
……やっぱりそういう感じのがきたか。態度を見てなんとなく察していたけどこの人早見君のことも早見君が好きなんだな。
それにしても何なの?か。どう言えばいいものか。メイドなんて言えないし友達?うーん。なんかちょっと違うかもなぁ。でも、とりあえず友達とか適当に言っておけば何とかなるのかなぁ……
私が言おうとする前に山本さんが喋る。
「もしかして、あんたも早見君狙い?」
狙いというのはおそらく好意という意味でのことだろう。
「あんたもってことはやっぱりあなた、早見君のことを……」
「ええ。そうよ。好きよ。だってかっこいいじゃん」
「ああ、わかる。早見君、かっこいいよねー」
「その様子だと。あんたもなのね」
はっ、し、しまった。つい反応しちゃった。で、でも、別にばれてもいいか。美紀も知ってるし……
「……の」
「え?」
「どうやって、早見君と知り合って、デートするところまで言ったの!?」
「え?いや、その……よくわかんないかなぁ……はは」
「何でよ!?大体私の方が早見君好きだし。絶対にあなたより早く告るから。邪魔しないでよね」
「う、うん」
つい、うんと返事してしまった。でも、さすがに人の告白は邪魔したくないしな。多分、普通に考えてもうんと言うだろう。
「そう。じゃあ戻ろうか。美紀たちも待ってるし……行くね。言っておくけど先に告ったらダメだからね」
一瞬、背中がゾクっとした。これは、言う通りにしないとやばいな。
「……とりあえず、デートを楽しむか」
早見君のところに戻り、再びデートを再開した。
これは余談だが、美紀は私たちがメイド喫茶から出て行ったところを見たらしい。
……はあ、どう言い訳しようかなぁ。
そのあと、早見君とアキバを色々うろついた。アキバに行ったらとりあえずとらのあなとかアニメイトとかに行けばいいよと美紀に言われたのでとりあえずそこらへんから行った。
どうやら何回か美紀は行ったことがあるらしい。美紀の以外な一面をまた知った。
で、とらのあなに行ったのはいいんだけど……
「な、な、な、何これ!?」
とらのあなには同人誌というものがあってそれを試しに手を取ってみるとそれは、女の子があんなことやこんなことをされているシーンがいっぱいだった。
表紙を見るとR-18と表記されていた。周りを見てもそんなようなものがたくさんあることに気づいた。
やっばここ私入れないじゃん。
「早見君、早く出よう」
「え、あ、まあいいけど」
でとらのあなからずらかりアニメイトへと向かったのだ。
「へえ、ここがアニメイトなんだぁ、初めて来たなぁ」
「あれ?隣の駅にになかったっけ?」
「そうなんだ。でも、なかなか隣の駅にはいかないんだよね。道が複雑で……」
「そういえばそうだな。とりあえず上の方に行こう」
上の階段へと上がる。ここはR-18系のはなさそうだ。
「あ、この寄っていい?」
少女漫画とかが売ってるところで足を止める。
もしかしたら新刊が出てるかもしれないので見ておきたい。
「いいよ。漫画かぁ。なんか面白いのあるかもな」
新刊の少女漫画を探す。
「えっと……あ、あった」
新刊が出ていた。しかも、そのエリアは山となって新刊が積んである。
「……すごいな。これ」
普通の本屋さんだとここまでないもんなぁ。さすがアキバ。
「じゃあこれ買ってくるね」
少女漫画を購入した。購入したらポイントカードを作らないかと聞かれた。作って損はないかなぁと思い、作った。ついでに特典とかもついてきた。
そしてアニメイトから出て何件か店を回っていると日が落ちてきてオレンジ色の空へと変わっていた。
「……時間が経つの早いね」
「なんやかんやで長居していたんだな」
「でも楽しかったね。アキバって変なイメージ持ってたけどそうでもなかったし……」
「そうだなじゃあ帰るか」
私たちは駅へと向かい、帰宅した。
本当、時が経つのは早いもんだ。
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