第5話

 花火大会のときよりほど多くないが私の目の前には多くの人が通っている。流石は都会といったところだ。

今日は世間でいうお盆休みに入ったのでメイドの奉仕の方もお休みなのだ。

早見君の方がお盆に用事あるらしく家でメイドができないとかで……

まあ、それは置いておくとして今日はせっかくの休みだし最近会っていない美紀と遊ぶことになっている。

で、約束の時間の15分前に着いて今美紀を待っているところだ。

「……暑いな」

やっぱり8月の中旬とまもなると本格的に暑いな。最近、早見君の家か自分の家だったから暑さというものに耐性がつかなくなっている。

「……美紀遅いなぁ」

と言ってもまだ約束の時間の5分前だ。きていなくてもなんら不思議でもない。が、10分ぐらい待っているとこっちも辛くなってくる。

「早く、来てくれないかなあ。そうすれば喫茶店とかで休憩てきるのに……」

「ふうん。じゃあそうしようか」

「うわっ! なんだ美紀来てたの?」

「いや、今来たのよ。もしかして結構待った?」

「いや、今来たところだよ」

「いや、うっそだぁー。さっき見たとき、結構待っててる感でてたよー?」

「あー、やっぱりそう見えてた?」

「うん」

まるで、デートの始まりのような会話をする。

これが早見君とかだったらどう思うのかなぁ。って、何考えてるの私。今、早見君関係ないじゃん!いくら好きだらといっても……

「ん? どうしたの奈々? なんか顔赤いけど……」

「え!? いや、な、何でもないよ? 」

「そう? でもこんな奈々見たことな……あ、ははーん。わかっちゃった」

「な、何が?」

もしかして、好きな人ができたことがばれちゃったかな?

「もう、そんなに私に会えなかったのが寂しかったのね? で、久々に会えたのはいいけどどう対応すればいいかわかんなくてあわふたしてたんでしょ?」

全く違う!

と言いたいところだが妙に詮索されるのも面倒だしそういうことにしとこう。

「あ、う、うん! そうなの! ごめんねー最近会えなくて寂しかったの」

「はは、奈々ったら案外甘えん坊だったのね? でも、ごめんねー、私他に好きな人がいるから奈々のことを愛するなんてできないの」

「いや、いくらなんでも『愛』とまではいかないから……ん!? 待って、美紀好きな人いるの!?」

「う、うん。実はそうなんだ」

「ええ!? 知らなかったよ。全然そんなこと言ってくれなかったし」

「うん。だって言ってないしね。で、そのこととか話したいなぁとか思ってたの」

「そうなんだ。まあ、詳しくは喫茶店で話そう。休憩がてら」

「うん」


私たちはここから近くにある喫茶店のテラスに座った。特に店の中ぎ混んでいたというわけではなくて、美紀が冷房に弱いからだ。美紀は家でも冷房をつけないらしい。

「で、相手は誰なの?」

「うん。その前にちょっと覚悟してね」

「え? う、うん」

なんで、覚悟するのかな? は!? もしかして早見君とか言うのか!? いや、でもそれなら覚悟を決めるけど……美紀はそのことを知らないしなぁ

「相手は好きと思ってもいい。でも、一般的に考えれば許されることのないことなの」

「う、うん。覚悟はできたよ。で、相手は」

覚悟うんぬんは置いておくとして、そこまで言われたらもう気になって仕方ないよ。

「うん。実は私たちのクラスの担任の先生なの」

「…………え? え!? まじで!?」

「うん。そうなの。私、早見先生が好きなの」

「あれ、早見? 先生そんな名前だったっけ?」

「え、いやそうだよ? 何、忘れてたの?」

「…………」

「忘れてたのね。……まあ、いいわ」

いや、だって先生とか全然興味なかったし、とりあえず『先生』と呼べば大体なんとかなってたから覚える必要もなかったから……

「で、私、変かな!?」

「うーん……」

なんて返せばいいだろうか。第一恋愛ごとは私に聞いてもわからないな。恋し始めたの最近だし……とりあえずなんか返しとかないと

「ま、まあ確かに生徒と先生っていう関係はあれだとは思うけど」

「やっぱり!?」

「でも、好きになっちゃったものは仕方ないんじゃない? だってそれが本心でしょ? だったら貫いた方がいいと思う。秘密の関係っていうのもなんだか憧れがあるしね」

「そうなのよ! それがちょっといいの! 表向きは生徒と先生なんだけど裏では実は……っていうのがなんかよくて!」

「ちょっと落ち着いてここ外だけど多くの人に聞こえるし……」

「あ、おおっと。ちょっと取り乱しちゃった。ごめんごめん」

「大丈夫よ。でも、そうかぁ。先生ねぇ 」

……あれ? 今更だけど早見って呼んでなかったっけ? ん? あれ? もしかして

「ねえ、美紀」

「ん? 何?」

「その先生って若い?」

「うん。確か、24歳とかだった気がするそれが何か? あ、年齢差とか考えてた? 大丈夫よ。それに関しては私ノーマルだから」

もしかして、早見ってもしかして……

「あ、ごめんね。ちょっとお花を摘みにいってくるね」

「お花……? あ、トイレか。行ってらっしゃい」

「わざわざ言わなくてもいいから。せっかく隠語でいったんだから……」

店の中に入ってトイレの近くで足を止めた。別にトイレをするためではない。電話がしたかったから。相手は

「……はあ、緊張するなぁ。早見君に電話とか……普段の会話ならなとかなるかもだけど声だけとかだと逆に緊張が……」

最初に電話したときも緊張したけどあれ以来だ。こんな感じになるのはおそらく自覚とかしなければなんともなかったのかもしれない。けど今は早見君に対する好意に気づいてしまった。だから否応にも意識してしまう。

「でも、聞きたいこととかあるしな……」

なんなら今ではないかもしれないけど、今聞いた方が美紀のこととかで役に立つかもしれない。だから今聞こう。

「…………はい」

数秒たったころに早見君が出た。

うう、やっぱり声だけだといつにも増してドキドキしてくる。なんとか早見君にきづかれないようにしないと……

「あ、もしもし早見君? 今時間いいかな?」

「ああ、今いいよ。で、何か用か?」

「ああ、ってちょっと待って、なんか電話の向こうから波の音とか人の声が結構聞こえるんだけど……もしかして海に行ってるの?」

「ああ、よくわかったな。そうだよ。今兄貴と海に行ってる」

「え、やっぱりお兄さんいるの?」

「やっぱりって何だ? ってかお前も見たことあるだろ?」

「え、もしかしてさあ、その人ってうちの学校の……」

「ああ、先生やってるぞ。……でもそれざ何か?」

「あ、う、ううん。何でもないよ。ただそれだけが知りたかっただけだから。じゃあお兄さんとゆっくり楽しんでね♪」

「ああ、じゃあまたね。速水さん」

ここで電話が切れた。会話時間は1分半か。もうちょっと話したかったなぁ。でも、美紀が待ってるしな。

それにしても、やっぱりそうだったか。これはなんというかあれだな。

つまり私は早見君が好きで、美紀は早見君のお兄さんが好きと。なんというかまあ、そういうこともあるよね。でも、それなら色々と協力とかしやすいかもしれない。早見君とはほとんど毎日一緒だしそれでお兄さんのこととか聞けるし役に立てそうだ。

美紀のところに戻ろうとするときに考えてしまう。

私も言うべきではないだろうか。美紀は多分勇気出して言ったはずだ。だから私も言った方がいい。その方が平等だ。しかも、美紀とは違って言いにくいなんてことはないじゃないか。同級生に対する好意とか世間では普通だろうし……よし。決めた。言おう。 美紀に。

それから店の外にあるテラスへと向かった。

「あ、ごめんね。ちょっと混んでたみたいで」

「ああ、いいのよ。女のトイレは長いものよ」

「ああ、まあそうだけどさあ」

さて、どうきりだしたらよいものか。なかなか切り出せない。

「で、さっきのことだけどさぁ」

私が切り出す。

「うん」

「それで早見先生のこと好きってことはわかったけど具体的にはどうしたいのかな?」

しまった。ちょっと急には言いたくないという気持ちから少し遠回しに行こうと思ったらさっきの続きになっちゃった。

「そのあとって……うーん。やっぱり普通に男女交際がしたいかな。結婚とかはまだ考えられないしまずはそこからって感じかな」

「ふぅん。そうなんだぁ」

で、このあとどうしようか。どうやっていこうか……とりあえず会話を続けよう。もしかしたらチャンスが来るかもしれない。

「先生のどういうところが好きになったの?」

「え、うーん。やっぱりーって奈々はあんまり知らないか」

「うん。ぶっちゃけよく知らないや」

「先生はね。優しいの。あと、容姿もイケメンだし。あ、あとね、先生って以外と熱い面とかも持っててね。見た目とはちょっと以外だからそのギャップにもグッとくるのよー」

「へぇ、そうなんだ」

イケメンなのは遺伝的に早見君と兄弟だから想像はできるけど……熱い面ねぇ、早見君は別の意味でもえてる一面はあるけど……その点は話を聞く感じだと似てないな。でも、兄弟なんてそんなものか

「ねえ、奈々とかは恋愛とかしないの?」

よし、来た。

「あ、うん。恋愛ね。実はいるんだ好きな人」

「え!?そうなの!?相手は? もしかして

………え、花火大会?

「何で知ってるの?」

「ああ、いや、私も友達と花火大会ぬ来てたんだけどさあ……あ、別のクラスの人ね同じ中学の。で、それで偶然見ちゃったのよ。二人でいるところを」

「ふうん。他のクラスの人と行ってたのかぁ。美紀は交友関係が広いな……って見てたの!?どこらへん!?」

も、も、もしかしてたこ焼きのあ、あーんとか? あれ見られてたらもう恥ずかしいじゃあ、すまないんだけど……

「えーと、確か、あれは花火が始まるちょっと前だから……あーそう。あれだ。二人が手を繋いで人混みを駆け抜けていったとき」

「そっちかあー!」

「え!?急にどうしたの!?それにそっちってどっち!?」

「ああ、いやこっちの話だから……」

手を繋いだってあれのことだよね?あれも十分は、恥ずかしいことなんだけどあれって確か、自分から手を繋いだような…………

「うん? おや、奈々ったら顔赤いよ? やっぱりそうなのね?」

美紀はニヤニヤしてこっちに話しかけてくる。

くそ、さっきまであんなにモジモジしてたのに……これが恋バナというやつなのか……?

「そ、そうよ。その人よ。その人のことが好きなの」

「ああーやっぱりぃ? なんとなくそうじゃないかと思ってたんだよ。じゃあさっき赤くなってたのって……」

「そ、そうよ。あの時のこと思い出したらなんかは、恥ずかしくなって…………」

「ということはさっき待ち合わせのときも」

「……その人のこと考えてました」

なんだよこれ。まるで、尋問されてるようなんだけど……

「うわぁ!そうなんだぁ!奈々も恋するようになったんだねぇ」

「ん?するようになったって?」

「いや、奈々って普段会話とかしてても恋バナとかしないからてっきり興味ないのかと……」

「ああ……」

確かに私は恋バナ……というか恋愛に興味がなかった。早見君に出会うまでそういうのはあんまり考えたことがなかった。多分いつか出会えるのかなぁ程度ぐらい。少女漫画とか読んでもこういうのは私には縁がないと勝手に決めつけていた。でも、早見君と出会って何日かメイドやってたら好きになっていた。あれは紛れもなく初恋の相手だ。

「うん。そうだね。でも、私だって女の子だし心のどこかでは恋愛とかに憧れていたのかもしれないね。こうして今好きな人がいるわけだし……」

「そうだね。……で、相手はどんな人? 私の知り合い?」

「え? いや、どうかな? 一応うちの学校の人だよ。学年は同じでクラスは違うけど……」

「へえーもしかして一目惚れってやつ?」

「いや、違うよ。第一それだったらどうやって一緒になったのよ?」

「え? じゃあどうやって一緒になったの? 偶然とかじゃなさそうだったけど」

ど、どうしよう。どう言えばいいんだ。早見君の家でメイドしててそれで早見君から誘われた。なんて言えるわけないし……あ、そうだ。確か美紀に言い訳したときって

「か、彼は私のバイト先が一緒なのよ。それで同級生同士と同じ学校ということで仲良くなってそれで……」

「ふうん。そうなんだぁ。……で、彼はどんな人よ? 私も先生の好きなところ言ったんだから、奈々も言っちゃいなよ」

「え、ええ!私はその……」

……あれ? そういやなんで私早見君のこと好きなんだ? よく考えると理由が浮かばない。確かに早見君はイケメンだけどそれだけじゃないし……彼はメイド大好きの変態さんだし……

「うーん。何でだろう。何で私は彼のことを……」

「え、自分のことだよね? なんでわからないのよ」

「いや、それが気づいたら彼のことを意識しててなんか無性にドキドキしたり胸が苦しくなったりとかしてて……」

「うん。間違いなくそれは恋だね」

「それはわかるんだけどさぁ……なんというか今いち心当たりが……」

 あのとき出会ってメイドをしてそれから……頭をなでられ……て……

「あ」

 そうか、そうだよ。今思えばあのときからじゃないのか? 妙に早見君のことを意識し始めたのって……

「あ、ってどうしたの?」

「え? あ、いやーなんとなく早見君を意識したきっかけだけは思い出したなぁって思って……」

「ああ、そうなの!? よかったね思い出して……で、どんなところを好きになったの?」

「いや、ごめん。そこまでは思い出せてない」

「ああ……そうなの。なんか不思議ね、そういうのって彼のいいところとか思い浮かぶはずなんだけどね……」

早見君の人物像でまず最初に思い浮かぶのはメイド好きってことだし。それに稀に変なことをしてくるってぐらいだ。

「ふうん……まあ、いいか。結局、その彼のことを好きなんでしょ?」

「う、うん。まあ、そ、そうだけど……」

「まあ、さっき奈々も言っていたけど好きになったものは仕方ないよね。じゃあ、この話は終わり。あ、思い出したら教えてね♪」

「うん。それは勿論」

 それから、美紀と30分ほどガールズトークをした。

 うん。久々に会えてよかった。ここ最近は、男の子(早見君)とばっかだったから女の子に会えて少し、気分が楽だ。


「で、これからどうする?」

「うーん……とりあえず買い物でもしない? ちょっと見たい服とかあるし」

「おお! まさか、美紀からそういうことをいうなんて……美紀もそういうのを気にするようになったんだね」

「なっ、ちょっ、どういうこと? 私だってオシャレするじゃん!」

「いやぁ、だってそういうの私が言わないとやらない人だったでしょ? それまでは普通の店で買ったとか言っていたし……」

「うっ、そういえばそうだった……」

「まあ、いいわ。行きましょうか。とりあえずメジャーなところから行ってみよう」

そう美紀が言って私達は移動した。美紀も言っていたけど確かにファッションのにはあまり敏感ではなかった。とりあえず無難に普通の着ておけば大丈夫だろうとか思っていたし。つい否定しちゃったけど多分これも、早見君に恋したからなのかもしれない。

『 恋をすると世界が変わる』とかよく言うけどある意味それはそうなのかもしれないと感じる。前はただ単に意識の対象が絞られるから視野が狭まるだけだなとか解釈していたけどそういう訳ではなかった。確かに意識の対象は絞られるけど新たに芽生える感情はあるし、自分について考えるからいい経験になるものだと理解した。

「あ、そういえばさあ、もう告ったの?」

歩きながら美紀は尋ねた。

「…………いや、まだ」

「……今の間は何? まあそれは置いておくとしてなんで告らないのよ? 私の場合は夏休みで会いにくいからだけど……美紀の場合はバイト先が一緒なんだから結構会えるでしょ?」

そう。私はあれ以来告白をしていない。花火大会の時は早見君が楽しんでるから後にして後日にってことにしようと思ったけど……どうせ後でも会えると思って油断してた。まさか、告白がこんなに難しいものとは思っていなかった。少女漫画とかだとイケメンの男子が告る場合は簡単そうにしてたしあなたのこと好きです宣言してる女の子もいたからてっきりそうだと思ってた。

「まあ、いつか告るよ。どうせ学校とかで会えるし……」

「いや、まあそうだけどもしかしたら油断してる隙に誰かに取られるかもよ? 告白されたいっていうのも憧れるけどされなかったら意味ないし告白したほうがいいと思うよ」

「いや、告白されたいとは思ったことはないけど……確かにそうかもね。早いほうがいいかもしれない。まあ、その言葉はそのまま返すけど」

「うっ、確かにそうかも。夏休みだからと会えないから仕方ないけどでも先生同士の付き合いとかあるかもだし……」

「だったら補習とか受ければよかったじゃん。確か、先生の担当してるやつもあったはずだけど……」

うちの学校には夏休みに補習がある。期末テストに赤点をとった生徒は強制で、担当の先生に申告すれば誰でも補習に参加できる。

「えーいや、だってせっかく頑張って学年21位とったのに補習って……面倒くさいじゃん。夏休みなのに……」

「学生の本分は勉強だよ。しかも、面倒って先生のこと好きなら頑張ろうよ」

「うわー、奈々が真面目なこと言ってるー。まあ、頑張るのはそうなんだけどさぁ……でも補習はちょっと……」

「あーそれもそうか。実際私も申告してないしむしろあれは赤点ギリギリとかの人とか、ガリ勉な生徒しか受けないかぁ」

「なんか、自分はガリ勉じゃないアピールしてるけど……まあそれはスルーするか。もう、着いたし」

「あ、本当だ」

店に着き、店に入った。ここにはトップスからボトムスまで取り揃えてある。メジャーなところだし当然といえば当然なんだが……

「うわー、やっぱり秋に向けたものが結構あるねー」

「そうだね」

「ん? 奈々何探してるの?」

「ああ、ちょっとね」

えっとあれはどこにあるのかな? 早見君の家に来てからちょっと興味あったんだけど……

「あ、あった。あった」

「奈々それって……」

「ん? フリルの入ったワンピースやつだけど?」

「え、ちょっと待って? 奈々が着るの? なんか想像できないんだけど……っていうか似合わなそう」

「失礼ね。自身はないけど着てみないとわからないでしょ。試着してくる」

試着室に入る。そして着替える前にちょっとサイズとかの確認をする。そして、実際に着てみた。そして鏡の自分を見た。

やっぱり似合ってるかどうかわからないな。可愛いかもよくわからないし美紀に見てもらおう。

「どう?」

「…………」

なぜかしばらく美紀から返答がなかった。やっぱり似合ってなかったのだろうか。それで唖然してると

「すごい。めっちゃ似合ってる。ってか奈々超可愛い!」

「えっ? そ、そうかな?」

「そうだよ! なんというかその……そう。お人形さんっていう感じのイメージなの!」

「お、お人形さん?」

似合ってるのは嬉しいのだけれど、私は十六歳だ。四捨五入したら二十歳つまり大人ということだ。お人形さんみたいと言われると子供っぽい感じがして素直に喜べない。

「でも、なんで急にフリルのついたものなんて?」

美紀が尋ねる。

「え、いやまあ、あんまり着たことないから。一度着てみたいなぁと思って」

「そうなんだぁ。でも、本当に似合ってるよ。まさか、ここまでとは思わなかったよ♪」

美紀がめっちゃ褒めてる。そういえば、最初にメイド服着た時も早見君に可愛いとか言われたよなぁ。あれはお世辞だと思ってたんだけどもしかして本当にそう思っていたのかなぁ。それなら嬉しいけど……

「……まあ、ないか」

自分にだけ聞こえるようにボソッと言った。もちろん美紀には聞こえていない。

「じゃあ、私これ買ってこようかなぁ、値段は……って五千円!? ちょっと高くない?」

「ここなら普通はそうよ。中には四万円のやつもあるけど」

四万円ってまじですか。流石にそこまでお金は消費できないなぁ。だったら他の服をたくさん買った方がお得な気がするけど……

「で、美紀はなんかいいのあったの?」

「いやあ、あんまり目ぼしいのはなかったかな」

「そうか。じゃあレジ済ませてくるね」

レジが空いていて順番も待つことなく済ませることができた。

しかし、五千円か……今月の生活費と計算すると少しきついな。花火大会にもお金使ったから……

「……まあ、なんとかなるか」

美紀と合流して店を出た。

次は美紀が甘いもの食べたいと言ったので近くにあるクレープ屋さんに行った。

「……これ美味しい!」

「本当っ! 甘くてクリームと生地が見事にマッチしてる!」

美紀も私も美味しそうにクレープを食べている。そんなところにある女性がやってきた。

「あれ? 美紀じゃん。こんなところで何してるの?」

どうやら美紀の知り合いのようだ。歳は私達と同じぐらいで服もオシャレでいまめかしい感じの人だ。

「あ、結衣じゃん! 久しぶり」

「うん。久しぶり♪ って言っても花火大会以来だからまだそんなにはたってはいないんだけどね」

「あれ? そうだった? まあ、あれ以来会っていないんだし久しぶりじゃない?」

まず思ったことがある。

この人は誰?

見た感じ美紀の知り合いってことと結衣って名前ってことはわかる。あとは、美紀と一緒に花火大会に行った人だってこと。

ああ、この人か。美紀と同じ中学の別のクラスの人って。

「結衣は1人?」

美紀が問う。

もしかして、一緒に行こうとかは言わないよね? やめてよ!? 私、知らない人と一緒になんて行きたくないし。仲良くなるのに二、三日かかるから……

そういえば早見君の時はそこまでかからなかったなぁ。確か、もうメイドするときには大分話せるようになっていたな。でも、あれは早見君のコミュ力が高かったからで……

……何でボッチなんだあの人?

あることがわかると色々なことがわかる。そして、新たな疑問がまた生まれる。こうして終わることのない疑問を人々は解明していく。

そんな哲学的なことは置いておくとして本当に何でボッチなんだろう?

そんなこと思っていたら結衣という人が返答をしていた。

「いや、これからクラスの人とうろつく約束しててこれから待ち合わせのところにいくの。だから、もう行かないと」

「ああ、そうなの。じゃあまたどこかで」

どこかでか。ここで学校でとは言わないということは今回のようにどこかでばったりとかあるからであろう。

「うん。またね」

そう言って。彼女は去っていく。そして

「……あの人か」

ボソッと誰にも聞こえないように行った。私も何を言ったののかわからない。

さらに私のことを睨んでいたような気もした。

「……で、美紀あの人は? あの人でしょ? 一緒に花火大会に行ったっていうのは」

「うん。あの人は山本結衣やまもとゆい。さっきも言ったけど同じ中学だったの」

「ふうん。まあ、そこまで興味ないからいいや」

「あれ? そうなんだ。でもあの子も見たんだよ? あの瞬間を……」

「…………そ、そうだった」

美紀に自白したからすっきりしてて忘れていたけどもう1人見てたんだよなぁ。

「でも、別に大丈夫か」

よく考えたらあの人は他のクラスの人だし。美紀の友達だからといって仲良くしたいわけでもないし。もちろん、嫉妬することもない。

「とりあえずクレープも食べ終わったし行こう」

「うん」

美紀は特に困った様子もなく、笑顔で返事をした。


それから他の服の店に行ったりなど、色々うろついていた。

時間の流れというものは早く、あっという間に午後6時になっていた。

夜までいるというわけにもいかず私と美紀は電車で帰ることにした。

電車の中には仕事終わりのサラリーマンがほとんどを占めていて中にはチラホラと

私達のように遊んで帰るような若者もいる。

「いやーこれで奈々とも当分会えないのかぁ」

「どうせ2学期になったら嫌っていうほど会えるじゃん」

「ええ! 私一度も奈々のこと嫌って思ったことないよ! 奈々のこと大好きだから!」

「それはもちろん友達としてでしょ?」

「それはそうよ。私、そこまでレズじゃないし……」

そこまでと言われるとなんか不安を感じるのだが……つまり、少々レズっ気があるということを自覚してるわけだし

個人的に、美紀はレズではないと思う。口では大好きとかは言うけどそんなの一般的に友達とかでもよく使うし普通にノーマルだろう。

「まあ、私も美紀のこと大好きだよ。もちろん友達としてだけど……」

大好きと言うとき、こういう友達とかなら簡単だ。

だが、それが本当に性的に好きな相手だと別だ。いざ、言おうと思っても恥ずかしさと性的に断られるかもしれないという恐怖でなかなか言えない。

一部の人は違うかもしれないけど私の場合はそれになる。

どうしてだろう。

なんで言えないんだろう。

言うだけならそんなに難しくないのになんで言おうとするとこんなにドキドキするの?

なんで胸がこんなに苦しくなるの?

わからない。だけどいつか言える日が来ると信じよう。

「あ、じゃあ私ここだから。じゃあね。美紀」

「うん。じゃあね。また、二学期もしくはどっかで会えたらね」

駅のホームに降りる。

ここから家まで徒歩で十五分で着く。ちなみに早見君の家とは反対方向だ。

「……さて、早く帰って夕飯の支度しないと」

改札を通り、帰路につく。時間はもうすぐ七時になろうとしてるのに外はまだ明るい。まだ夏だということを改めて実感させられるかのようだ。

「…………はあ」

ため息をつく。

さっきのことをまた考えていた。

なぜ、好きだと言えないかと。

ここまでくると自分の不甲斐なさがわかる。男女交際してる人達はどうやって言ってるのだろうか。

早見君のことを考えるとドキドキする。胸のあたりが苦しくなる。

なのになんでここまで心地よい感じがするのだろう。

なんでここまで早見君に会いたいと思うのだろう。

お盆が終わるまであと二日ぐらい。私のメイドがまた始まるのもそのぐらいだ。

たったそれだけの時間なのに待ちきれない。

「……早く会いたいなぁ」

気づけば周りがだんだん暗くなっていて家に着く頃にはもう夜になっていた。

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