第4話

「ねえ、そういやさあ、私、浴衣って着たことないんだよね」

「ん? 急にどうした?」

「いや、早見君ってお祭り初めてじゃん? だから私も一緒に何か初めてのことしてみようかと思ってね。まあ、メイド服は初めて着れたんだけどね」

「ああ、つまり浴衣が着てみたいんだな。いいよ。やっぱりこういうお祭りは浴衣がいいもんな」

「早見君も着る?」

「いや、俺はいいよ。浴衣とかなんか小っ恥ずかしくて……」

「そう。まあ、最初だしいいんじゃない? 以外と周りの人とか見ると男性は浴衣の比率が低いしね」

私と早見君は今神社に向けて歩いている。しかし、その前に浴衣を貸し出す店を探さなければならない。

どっか近くにないかなぁ。とそんな風に歩いていたら見つけた。

「あ、あった。じゃあ、私ちょっと借りてくるから」

「ああ、じゃあ俺は……先に行ってるわ」

「ってちょっと待ってよ! 普通先に行かいでしょ!?」

「いやいや、冗談だよ。流石にそこまで馬鹿じゃねえよ。ここで待ってるから安心しな」

はあ、全く、早見君の冗談には参るよ。

この前の壁ドンとか。あれから大分フラッシュバックしなくなったとはいえあれを意識すると今でも熱くなる。あんなことされるのって初めてだからかな、かなり印象に残っている。

さて、浴衣に着替えるか。

「どんなやつにしようかなぁ」

出来れば可愛いのとかいいんだけどなぁ……でも、浴衣とか着たことないし自分のセンスに任せるっていうのも……店員さんに選んでもらおう。多分その方がいいだろう。

「あのーすいませーん」

それから店員さんに選んでもらった。その方が正解だった。本当に私に合うようなものを選んでくれたから、私も満足してる。

「うん。多分これなら早見君もまんぞ……って違う違う。なんで早見君限定なのよ。っとそろそろ早見君待たせちゃうな。行かないと」

貸し出し料金を払ってから店を後にした。

えっと早見君は……あ、あそこだ。

「お待たせ〜。ごめんね、待ったでしょ?」

「いや、別にそこまで待ってないよ」

「そう? じゃあいこうか」

「ああ、そうするか。あと、その浴衣似合ってるぞ。結構可愛いじゃん」

「そ、そう。あ、ありがとう。嬉しいわ」

うわーなになに急にそういうの言わないでよ。いや嬉しいからいいんだけどね。でも、そんなデートの定番なセリフを言われたら、デートしてるような気分になっちゃうじゃん。

そんなこと思いながら早見君と歩いている。

「いやーお前ってさあ初めてのものなのに普通に着こなしてくるのな。今の浴衣とかもそうだけど俺の用意したメイド服も似合ってたし……」

「メイド服は早見君が私用にしたんでしょ。だからだと思う。あと、浴衣もこれ店員さんが選んでくれたからだし」

「ああ、そう。お、神社が見えてきたぞ」

「あ、本当だ」

「っていうかすごい人だな。この祭りはいつもこんなんか?」

「うん。何回か行ったことあるけど毎年こんなもんだよ」

「へぇ、速水さん。この祭りに行ったことあるんだね」

「家の近くだからね。だから毎年行ってる」

「そうなんだ。で、とりあえず俺はどうしたらいいかな?」

「とりあえず、出店でも回ろう。焼きそばとかたこ焼きとか色々あるから」

さらに言えば私は今日もメイドの奉仕があったから疲れてお腹減ってるんだよ。何か食べたい。運動部の人達が部活後によく買い食いするらしいけどその気持ちがわかった気がするよ。

「ほお。そんなものなのか。じゃああそこにあるたこ焼きの屋台から行こうぜ」

「……うん」

ふう、助かった。これで、腹は満たされそうだ。しかも、幸いなことにたこ焼きの屋台はすいていた。

「…………」

がなぜか早見君は屋台の前で黙っていた。

「……どうしたの? 頼みなよ」

「あの、悪いけどやってくれない? なんか緊張してるから」

えええ……なんでこんなので緊張すんのよ。普通にコンビニでこれ下さいって頼むのとおなじょうなものでしょ。

「……ったくしょうがないな。すいませーんたこ焼き2つ下さい」

「はいよ。お、お嬢ちゃん達デートかい? いいね。最近の若いもんは」

「な!? ち、違いますよ! わ、私たちはその……こ、恋人同士じゃあ……」

「なんで、そんなに慌ててるんだ?」

「は!? だって恋人と思われて嫌とか思わないの?」

「いや、別に。他人にどう思われても気にしないし……」

えええ……早見君ってそういうタイプの人だったんだ。もしかして人に気を使わない人なのかな。だからボッチなのかそういう人って失敗するケースあるし。

「っていうかむしろ恋人同士って言っておけば色々いいことあるかもよ? 」

「……そう?じゃあ私たちは恋人同士でデートしてます」

「いや、お嬢ちゃんもう遅いよ。しかも今のセリフかなり棒読みだったから」

ですよねー。そう返事すると思ったよ。っていうかすごく恥ずかしいんですけど屋台のおじさん少し笑ってるし……

「ほら、たこ焼き二つ。代金は800円ってとこだが今回は多めに見て700円にまけてやるよ」

「ええ! いいんですか!? ありがとうございます」

「じゃあ割り勘な」

こういうのって男の人が普通奢るから「奢るよ」とか言うと思ったけど……まあこれはデートじゃないし、第一そんなこと私はできなかったわ。早見君に悪いと思うし。ある意味割り勘とかの方が平等だ。

「じゃあ350円ずつね。はい」

「おう。毎度あり。また来てな」

そう屋台のおじさんが言ったけど、多分そのころには顔とか忘れられてるだろうなぁと思いながら早見君と歩いた。

「ねえ、どっか食べるところ探さない?ゆっくり食べたいし」

「ああ、そうだな。じゃああそこにするか」

早見君が指差したところはベンチだった。あそこなら座って食べられるし食べるにはちょうどいいだろう。

「うん。そこでいいよ」

早見君とベンチに座ってたこ焼きを食べる。

「熱っ、中のやつトロトロで美味しいよ。でも、熱いから少し冷ました方がいいかもね」

「おお、まじか。………熱っ、でも美味いなこれ」

「でしょ」

それから黙々とたこ焼きを食べる。よほどお腹がすいていたのだろうか。私はあっという間に平らげていた。

あれ? 気づいたらもうなくなってるじゃん。……もっと欲しいなぁ。

「ふう、ん? どうした? 食うか?」

「え!? いいの!?」

「ああ。他のも食べたいからな。こんなに食べたくなかったんだ」

「ああ、そうか。お好み焼きとかもあるもんね。……でも、やっぱり悪いからいい……」

断ろうとした時にお腹がグゥーと鳴った。

な、なんでお腹鳴るのよ!今さっき食べたじゃない!まったく、恥ずかしい。

「ほら腹減ってるなら無理すんな」

「……わかった……いただく」

なんか早見君の慈悲でもらった気分で複雑だ。まあ、貰えたのは事実だからそれに関しては嬉しいのだが……

「ほれ、あーん」

「……え?」

ちょっと待って、あーんって何よ。この大勢の人の中でやれと!? それはかなり恥ずかしいんだけど!?

「ほら、早くしろよ。たこ焼き落ちちまうぞ」

「でも……そんなの……」

ああ、せっかくたこ焼き貰ったんだし食べないともったいない。でも、周りの人の目とか……でも食べないと

「じゃあご主人様の命令だ。食え。」

うっ、命令となると食べるしかないな。一応メイドしてるから逆らうわけにいかないし。それにやっぱり早見君に悪いよね。羞恥を捨てても食べないと……

「あーん。…………んっ……美味しい。」

ああ、恥ずかしい。なんか周りの人何人かこっち見てるのが視界に映ってたし絶対バカップルなやつらとか思ってるんだろうなぁ。

「で、もう今更だけど何でご主人様の命令とか言ったの?」

「いや、なんとなくこう言っておけば食べてくれるかなぁとか思って。いやー本当に食べるとは……」

はあ、まさかあーんされるとは思わなかったよ。本当に恥ずかしかった。

「で、どうしようか。他の飲食店もいいけど他にやることってなんだろう?」

「え、あ、うーん。花火大会だから花火見るのは普通だけどそれまでだと……」

あたりを見渡すと色々出店がある。金魚掬きんぎょすくいとか射的もあるんだよね。ここって。

「じゃあ金魚掬いとかやってみる?」

「ああ、そういうのもあるんだ。いいよ。やろう一度やってみたかったんだ♪」

うっ、なんか早見君の笑顔が眩しい。そんなにやりたかったのか……

「そ、そうなんだ。あはは」

どう返せばいいか一瞬わかんなくなってしまい愛想笑いで返してしまった。早見君傷ついてないかな……?

見た感じそういう様子は見られない。早くやりたいという意思がなんとなく伝わるぐらいやりたそうにしてる。まるで子どものように。

「ふふふ」

「ん? 何かおかしいか?」

「いや、ふふ、なんでもないよ。早く行こう」

「……ま、いっか」

金魚掬いの屋台まで来てみる。ここらへんだとやっぱり子どもとか多いな。なかには大人もちらほらといるけどほとんどカップルだ。まあ、こっちも男子と女子ですけど……

「早見君やり方とかわかる?」

「ああなんとなく。とりあえずやってみるよ」

私と早見君はお金を払い、金魚掬いを始める。

私これあまりできないんだよなぁ。紙とかすぐに水で破れちゃうし、金魚拾っても重さで破れるし。

「あっ」

早速、破れてしまった。これできる人ってどうやってるのかなあ

「……ん!?」

隣の早見君は初めてのはずなのに金魚を2.3匹とっていた。しかもまだポイが破れてないし……

「ちょ、なんでできるのよ?」

「いや、なんとなくやったらできた」

なんとなくって凄っ!なんというか無駄な才能だな。

「あっ」

8匹ぐらい捕まえたところでポイが破れた。

「……確か2匹ぐらいまでしかもらえなかったよな。これって」

「え、そうなの?」

「うん。店の経営とかにかかわるしね」

「ふうん。そうなのね。あ、ありがとうございます」

金魚をもらいとりあえず何回もやっても私は取れそうにないので諦めることにした。第一、金魚とかどう飼えばいいかわかんないし……

「……これどうしよう? ぶっちゃけやったはいいんだけどいらないな」

「じゃあ何でやりたいとか言うのよ。……でも気持ちはわかんなくないけど」

「誰かにあげようかな。欲しいやつがいたらだけど」

「見つかるといいね。あ、早見君。射的やっていい?」

「あ、いいよ。俺もやる」

「二人分お願いします」

「お、お嬢ちゃん今年もきたのかい?」

「ええ、まあ」

「ん? 速水さん。去年もやったの?」

「去年っていうか毎年やってるよ」

「毎年って……射的好きなの?」

「まあね」

銃の先にコルクを詰めてお菓子といったターゲットに銃を向ける。

「……うーん。これ難しいね。全然当たらないし当たっても倒れないし……ねえ、速水さ……え!?速水さん。なんでそんなに倒せるの!?」

私は射的が得意だ。私の感覚だと狙って打つというより構えてターゲットとの距離感とか角度を予測してただそこに打ってる感じ。そうすれば勝手にターゲットに当たってくれる。もちろんターゲットが倒れやすいようなところに。

「はは、すごいだろ? あの子毎年ああなんだよ。おかげで景品がっぽり取られるんだよね」

「へえ、そんな特技があるんだ」

早見君と店のおじさんが何か言ってるみたいだが全く耳に入らない。私はターゲットを倒すスナイパー。他の音は気にしないでただ撃つだけ。

「……ふう、大体小さいのとかは倒せた。さて、大きいのとかどれにしようかな……早見君何か欲しいのある?たこ焼きのお礼にあげるよ」

「え、うーん。……じゃあそこのたてながのやつお菓子ね」

「OK多分残りのコルクでいけると思う」

で、コルクがなくなったので射的は終了したわけだが。

「……本当に取れたし」

「まあ今年はこんなもんか。ありがとう。また来年も来るね」

「はは、出来れば来てほしくないぜ」

射的もやり終わりとりあえず店から離れた。

「……次どうしようか?花火まで40分近くあるよ?」

「ええ!まだそんなにあるの?うーん。とりあえずねー……あっ、じゃああれで」

早見君は神社の近くにあるおみくじ広場を指さしている。

「おみくじね。久しぶりにやってみようかな。なんかここのおみくじはよくあたるとか言われてるらしいよ」

「へえ、そうなんだ」

「あ、でもちょっと並んでるね。どうする?」

「いいよ。別に。時間稼ぎにもなるでしょ。あ、でも花火っていいところとかだともうとっとかないと駄目かな?」

「ああ、大丈夫。私穴場知ってるからそこで見よう」

「ほう。穴場とかあるんだ」

「小さい時に偶然見つけてね」

そんなようなことを話している内に列が進み、順番が回ってきた。

「さあて、俺の運勢はどうかなっと……お、健康運高いな。あと金運はそこそこか。恋愛運は、少し高めだ。速水さんは?」

「えっと? 私のはっと……金運はそこそこ。健康運もそこそこ。あとは……っ!?」

このおみくじ、もう一つ恋愛運というのがあるらしいのだが私のおみくじの内容が

『あなたの恋愛運は最高です。今あなたの隣にいる人こそが運命の相手かも』

と書かれていた。

……隣の人って早見君のことだよね?

もしかして運命の人って……いや、所詮おみくじだしあんまり気にするほどでもない……かな。

「ん? あとは恋愛運とかあったよね? そっちはどうだったの?」

「いや、普通だったよ。普通あんまり気にするようなことは書かれてなかったよ」

う、なんか早見君が運命の人って考えたらドキドキしてきた。こんなの気にしないという方が無理があるよ。もしこれが美紀とかだったら気にしてなかったけどこうして隣の人が異性の人であったわけで……やばい。なんか熱くなってきた前の時と同じ感じだよ。

「ん? どうかした? 速水さん。なんか様子が少し変に見えるけど……」

「な、何でもないよ!ちょっと疲れただけだから」

「ああ、確かに午前もメイドしてたからね。あんまり無理しないでね」

心配してくれるのは嬉しいんだけどよく考えたらこの状況って早見君がつくってるよね? メイドになれって早見君が言ったし、この花火大会に誘ったのも早見君だ。……おいおい、だったら今日ぐらい休みでもよかったんじゃあ……いや、でも多分そうでと休みたくないと言うかも。せっかくやってるからできるだけやり通したいし

「第一、早見君と近くにいると……」

「俺が何だって?」

「えっ!?」

もしかして声に出してた!?やばいどうにかして誤魔化さないと

「いや、何でもないよ。多分空耳じゃない!?」

「そ、そうかなぁ……まあ、いいか」

何とか誤魔化せたようだ。しかし、早見君と近くにいると……の後何て言おうとしたんだろう? 忘れちゃった。なんか、こう、大切な感じだったと思うんだけど……うう、もどかしい。いつか思いだせるかな? とりあえずあとにしよう。

「あ、そろそろ時間だから行こう」

「う、うん」

「えっと確かこっちの方に……ってうわっ」

さっきまで人は多かったけど花火の打ち上げが近くなってるせいか人がさらに多くなっている。この人混みを通るのはかなり疲れそう。

「……早見君、どうしようか。なんというか通ろうと思えば通れるんだけどそうしたらはぐれる可能性があるんだよね。これだと」

「ああ、確かにどうしようか」

「うーん一つあるにはあるんだけど……」

けど、それは私が結構恥ずかしいしなぁ。

とか絶対に意識しちゃうよ。だって異性の人だもん!

「え、あるの?」

「う、うん。あるけど……」

でも、他に安全に行く方法思いつかないしこれしかないのかなぁ。しょうがない。私次第だなこれは

「じゃあ行こうか。早見君」

「う、うん。って速水さん!?」

早見君の手をとって人混みを通り抜けて行く。

うう、やっぱりこれはまずい。早見君の体温を感じる。女の子と違って少し硬く、たくましい感じの手を握ってる。また熱くなってきた。しかも、さっきのあーんの時より人が多いからさらに恥ずかしいし。あと、5メートルぐらいで出られそうだ。頑張れ!私!

「ねえ、大丈夫? 人混みとかできつくない?」

「だ、大丈夫! なんとかなると思うから」

あと3メートル。

「そろそろ人混みから出られるから早見君、頑張って」

そして私も頑張れ。あと少し

「…………ふう、やっと出られた」

「はあ、辛かった」

よく耐えた私。こっちも辛かったよ、別の意味で。心臓がまだバクバク言ってるし。……待てよ。もしかして男の子と手を繋ぐってよく考えたら初めてなんじゃあ……

「おい。どうした? 早くその穴場とやらに行こうぜ」

「あ、う、うん。そうだね」

考えるのはとりあえずあとにしよう。今考えてもまだ結論は出そうになさそうだし。早見君と一緒に人混みから離れていき賑わっていたところから対照に閑散といているところへと歩いている。

「……なあ、本当にこっちでいいのか?」

「うん。大丈夫よ。穴場なんだからこういうところにあるのは当然でしょ」

「まあ、そうだけど」

「いいからおとなしくついてきなって」

それから数分歩いたところで目的地へと着いた。

「ほう、結構眺ながめいいな。街の景色がよく見える」

「でしょ? しかも花火ってこっちの向きに上がるから合わせるといい絵になるの」

「ああ、多分そうなるだろうな。ああ楽しみだなあ」

「え? そこまで?」

「ああ。今までこういう花火って家から見てたんだけどそこからだと迫力とかあんま伝わってこないんだよ」

「だったら一人でもいいから見に来ればよかったのに……」

「いや、そこまでしてまでいきたくはなかった。面倒くさいし」

「あ、そう」

まあ、わからないこともないけど…… でも、早見君が花火大会を楽しんでくれてよかった。せっかくの夏休みなのだし何か思い出とかつくらないとね。……わ、私となんだよね。

「ねえ、早見君」

「どうした?」

「私とで本当によかったの? 私は別に構わなかったけど、こういうのはやっぱり女の子よりも男の子同士の方が気楽に楽しめたんじゃないかなぁ」

「うーん。確かに男同士の方が気楽なのは確かだけど」

「ほら、やっぱり」

「でも、速水さんがいいならいいかな。俺、男友達とかいないし。それならむしろ身近な人と行く方が楽しいや」

早見君は少し笑みを浮かべている。最初に会ったときのメイドが大好きの時のようではなく優しい感じの笑み。でも、嬉しそうな感情が伝わるような雰囲気だ。個人的にはこっちのほうがいい。こっちの方がカッコよく見える。

……やばい、またドキドキしてきた。どうしよう。周りの人がいないし私の鼓動、早見君に聞こえるんじゃないの?

「ねえ、早見君?」

「ん? 何?」

聞いてみよう。なんかここ最近急に動悸が激しくなるのはなぜか。これ以上急に起こるのはつらい。

「なんか最近友達がこの辺りの動悸が激しくなるらしいんだけどこれってどうなの?」

なんとなく自分がそうだと知られたくないから友達を使ってしまった。なんというか美紀、ごめんなさい。

「…………うーん、病気とかそうとかだとよくわからないけど……」

「あ、いや、病気じゃないみたいなんだけど」

「俺はそういうのなったことないけど……多分、それは恋とかそういうのじゃないのか?」

「……え?」

それと同時に花火が上がった。赤い光が空に綺麗に輝いていている。

「お、始まったな。おお、やっぱりここだと結構迫力あるな」

「そ、そうだね」

「ん?どうしたなんか楽しそうに見えないけど」

「え? いや楽しんでいるから!いやー綺麗だねー」

薄々は気づいていた。この感情がなんなのか、でも出会って数日でそんなのはあるわけがないと決めつけていたのかもしれない。考えてみると一目惚れとかそういうのがあるではないか。だったら別に、あるわけがないというのはおかしいことだ。だったらこれは間違いないだろう。最近、妙にドキドキしたり、意識しちやったりするのは恋だというなら納得がいく。

そうだ。私は早見君のことが好きだ。こんな感情は生まれて初めてのことだ。できればこの思いを伝えたい。

「綺麗だね。花火」

「うん。そうだね」

………………でも、この思いを伝えるのはまだやめておこう。確かにできれば思いを伝えて男女交際ができれば嬉しいことだ。

でも、 早見君も初めての花火大会で楽しんでいる。だからここで水を差すのは相手に悪い。だからまた後日にしよう。多分機会なんてたくさんある。これからもメイドをするわけなのだから。

「本当、綺麗だね」

「ああ、そうだな」

赤いののあとに青、緑と色々な色が何発も打ち上げられている。

確か、これは1時間ぐらいのはずだ。だったら私もこの花火を楽しむとしよう。

そして、少し一緒にいたい。

そんな気持ちを抱きながら私はほんの一歩だけ早見君の隣に近づいた。

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