第3話

「…………やばっ」

 どうしたことか。昨日安心したらよく眠れた。それは事実だ。だが、どうやら安心しすぎたらしい。

「まさか、寝坊するとは……」

 私は目覚まし時計がないと基本起きれない人なのだ。それで昨日は動揺とかもあったし疲労もあって目覚まし時計をかけるのを忘れていたようだ。

 時計を見るともう、九時になるところだ。今頃なら早見君の家に行ってメイド服に着替えてるところだ。

「とりあえず、早見君に連絡しとかないと……うっ」

 スマホの画面に何通かメールが来てた。

 普段なら美紀かどっかの広告メールなのだが今回は広告メールがほどんどでいくつかは早見君からだった。

『なかなか来ないけどどうかしたの?』

『もしかして事故にでもあったの!?』

 といった感じだった。 

「……やっば、なんかめっちゃ心配されてるよ。早く連絡しよう。これなら電話のほうがいいか」

 連絡帳から早見君の名前を探し電話をかけた。

「あ、もしもし。早見君?」

「速水さん!? どうしたのもしかして何かあったの!?」

「いや、あったといえばあったとも言えるか」

「何があったの!?」

「いや、寝坊しちゃっただけ」

「……………」

 返事がない。まるで屍のようだ。

「だから、今から急いで家に出るからちょっと待ってて」

「………うん」

 なんか小声で返事された。 

 どうしよう、多分呆れられてるよね!? 寝坊とか最悪の遅刻理由だよ!?

 ……とりあえず考えても仕方ない。早く準備して早見君の家に行かないと。

 歯を磨いて着替えて家を出た。朝飯は普段食べない主義の為それに関しては大丈夫だ。

「いってきまーす」

 と言って私は早見君の家までダッシュで向かった。

 

「はぁはぁ、着いた」

 そう言いながらインターフォンを押した。するとすぐにドアが開いた。

「遅い! 俺がどれだけ待ったと思うんだよ! 一応ご主人様だぞ俺は!」

「うっ、面目ない。けど、早見君外であんまり大きな声で『ご主人様』とか言わないでよ。お互いに恥ずかしいでしょ!」

「あ、ごめん。でも心配してたから」

「ああ、こちらこそごめん。寝坊もそうだけど、変な心配させちゃったね」

「ああ、まあいいか。じやあさっさと着替えて」

「うん。わかった。お邪魔します」

家に入って昨日と同じ部屋でメイド服に着替えた。

「相変わらずぴったりだなあこれ」

 普段こういうのを着ないからなんか慣れない。とりあえず遅刻しちゃったし昨日よりもテキパキとやらないと。

「よし。やるか」

 そして私は仕事モード(今ネーム思いついた)に入った。

「お、着替えたか。じゃあ始めるぞ。えっと今日は……もう大分時間が過ぎたけど午前中の間だけでいいから昨日やってないところを掃除をよろしく頼む。」

「かしこまりました。ご主人様」

 今日も掃除か。さて、今日はどこから掃除しようかな。昨日やってないところは……早見君の部屋か。それは後回しにしてトイレからでも始めようかなあ

「あ、最初は俺の部屋からお願いな」

「………」

「おい。返事は?」

「……か、かしこまりました。ご主人様」

 どうやらやるしかないみたいだな。これは……


 で、今早見君の部屋の前にいる。ああ、後回しにしようと思ってたのになあ。

「てか、ここ普段早見君が使うからいつもより丁寧に掃除しないと駄目じゃ……」

 そうなると細部まで綺麗にしないとだからつまり、早見君のエッチな本も見つかるわけで

「……って昨日もだけど私は何考えてるんだを。第一あるかどうかわからないし。大丈夫大丈夫。さあて……お邪魔しまあす」

 私はドアを開けた。早見君の部屋に入ってまず思ったことが2つある。

 一つは、

「やっぱり早見君の匂いが充満してる。なんというか嫌いじゃないなあむしろ好きになりそうだよ。……っていやいやいや、何考えてるんだよ。私。まるでこれじゃあ早見君のことが好きみたいじゃないのよ!」

 でもこういうことになるのとは想定内だ。

 で、二つ目は

「……何で壁にメイド服が二着ほど飾ってあるんだ?」

 普段誰かに着せてるのかな? でも誰に? 家族とか? いや、もしかしたら早見君には彼女がいてその人に……?

「ていうか早見君に彼女っているのか?もしそうなら彼はやっぱり変態ってことになるけど……」

 なんだろう。そう考えてたら胸が苦しくなってきた。もしかしているかわからない彼女に嫉妬しているのだろうか。

「何で私が嫉妬しなければならないのよ。多分ないない。もしそうなら私を家に呼ばないだろうしね」

 となるともしかして早見君自身が……?

 まあ、いいやとりあえず部屋の掃除を始めよう。とりあえずまずは机からだ。参考書なり教科書なりと散らばっている。

「とりあえず綺麗にしないとね。多分一番使うところだろうし。それを優先的にしないと」

 とりあえず早見君の視点で考えるとやっぱり使う側としては科目ごとに分けるのがいいよね。それとできれば文系科目と理系科目にもそうすれば使いやすそうだ。 そう思い、私は実行した。

「……ふう、終わった。やっぱりこうしたほうがすっきりする」

大体10分ほどで終わった。こういうのっみんなテスト前になるとやりたくなってやってみると楽しくなっちゃうらしいけどなんとなくその気持ちがわかったな。これは楽しくなる。ちなみに私は普段机は綺麗にしてるためそういうことはしない人だ。

床の方は散らかっているわけではなかったけどとりあえず掃除機をかけた。ベッドの方にもシーツを外してシーツを洗濯機にかけてマットレスに掃除機をかけた。

「とりあえずこんなものでいいだろう。詳しいやり方とか知らないし。さて、これで大体は終わった。あとは、細部か。とりあえずベッドの下からでもやろうかな」

ベッドの下を除く。何が入ってるかわからないし。

「……やっぱりあった。エッチな本」

しかも数えると10冊近くあるな。やっぱり早見君も男の子だ。

「……ちょっとだけ見ても大丈夫だよね。べ、別に興味があるわけじゃないけど。あんまり触れたくないけど一応、一応ね」

パラパラっと本をめくった。なんというかこういうのは読んだことないから基準がわからないけど凄い。早見君ってこういうのが趣味なのかな。それでこの本に載ってる人見た目が私に似ているような気がする。

「もしかして、私みたいな子がタイプなのかな? それはそれで嬉しいけど……私もこういう目にあわされるのかな? そう考えると複雑な気持ちだ」

他の本もパラパラとめくってみるとあることに気づく。

「あれ? 早見君、確かメイド大好きとか言ってたよね? だったらなんでメイドもののエッチな本がないんだろう? ……おっと読んでる場合じゃなかった。掃除掃除」

とりあえずエッチな本とかどけてベッドの下も掃除機をかけてそれからあとは……

「あ、終わっちゃった」

時計をみるとあと少しで午前が終わるところだった。

「……どうしようか。もう一回読もうかな」

でも、もし早見君が戻ってきてそれを見られるのはまずい。片付けて戻るか。

エッチな本を片付けているところにふと本棚にあるアルバムに目がいった。

「……アルバムか」

早見君の昔ってどんなのかな? ちょっときになる。見てみよう♪まず1ページ目をめくる。

「あ、これ生まれた時のか。かわいいなぁこれ♪」

 二ページ目、三ページ目とめくり

「はは、なんか早見君今と違っておとなしい子なのね。でもこれはこれで結構かわいいなあ。愛でてあげたくなっちゃう」

「……何してるの? もうすぐ昼だからきたけど」

「…………………な、何でもないですよ?ご主人様」

「嘘つけなんか読んでただろう。見せてみろ。メイド」

「……はい」

おとなしくアルバムを差し出した。ちぇっもうちょっと見てみたかったけど仕方ないか。

「……なんだアルバム読んでたのか。俺はてっきりベッドの下のエロ本でも読んでたのか思ったよ」

「え、えっと……」

「……やっぱり読んでたか……まあ、隠し場所が甘かった俺も俺か」

「そうだよ。隠し場所甘いよ。でも、早見君ああいうのがタイプなのね」

「それについては返答しないぞ。まあいいや。別に読まれても困るもんじゃねえし」

 何でよ。普通男子なら見せたくないもんじゃないのかよ。もしかしてみんな以外とそうなのかな?

「あ、で一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」

「何だ?」

「早見君なんでメイドものがないの? メイド大好きなんでしょ?」

「………ああ、だって好きなものほどリアルでみたいじゃん。だからあえて買わないのさ」

「ふうん。だから壁にメイド服がかかってたのね。大好きだから。それにしても早見君がそういうご趣味をお持ちに立ってるとは」

「は? エロ本のことか?それはその通りだが……」

「ああそうなのね。いやそうじゃなくてアレよ。早見君自身が着るなんてね。」

「は!? 違えよ。あれはメイド服作った時のあまりだ。お前のサイズ推定だったからあらゆるパターンを考えてたんだよ。」

「なんだそうだったの。……ん? 今エロ本のやつ趣味って言ったよね?」

「ああ、言ったが……てか何言わせてんだよ。同級生の女子にそんなこと言うとか俺変態じゃねえかよ!」

「だって事実でしょ?」

「違うから。お前そろそろいい加減にしないとどうなるかわかってるのか?」

「ふーん。どうするの?」

「例えば……」

 その時、私の体は壁に押し付けられた。目の前の視界には彼の姿が映っていて、彼の右手は私の進路を遮るかのように壁をドンと押した。

 いわゆる『壁ドン』というやつなのであろう。女子が憧れるシチュエーションの一つだと美紀から聞いたことがある。

「で、そこからどうするの?」

 平然としているように見えるが内心実は私は今緊張している。だって私と早見君との距離は十センチもなくあと少しでキスできるような距離だからだ。

「さあ、どうだろうね」

やばい、これはやばい。こんな距離で囁かれると身の危険を感じてくる。何をされても逆らえないような威圧感をも感じる。なのにこのシチュエーションにドキドキしているのはなぜ? なんというかこの人に身を委ねてしまいたいような感情がある。……何でよ! 何でこんな変態さんにドキドキしなきゃならないのよ。わけわからない。

「どうした? 顔が熱くなってるぞ?」

「は!? 熱くなんてないし。何言ってんのよ!」

「そうか。じゃあもっと熱くさせようか?」

「は?」

 何言ってんのよこいつ。これ以上だなんて耐えられるわけないでしょ。でもそんなこと言えない。ドキドキしてるなんてバレたら恥ずかしい。

「ふ、ふん。やれるもんならやってみなさいよ。どうせできるわけないんだから」

「ふ、そうだな」

 そうよ。こいつなんかにできるわけ……え?

「悪い。冗談だ。ちょっとからかいたくなっただけだ」

 な、なんだよ。からかいたくなったって……でも助かった。あの後があったら今頃私はあいつに……

「ん? どうした赤いぞ。熱でもあんのか?」

「え!? い、いや、なんでもない。そういえばもう昼になるね。そろそろ昼飯にしましょう」

「そうだな。そういや俺はそれを知らせに来たんだった。じゃあ飯はよろしくなメイド」

 早見君はそう言って部屋を去っていった。

「………」

 それからしばらく動けなかった。全くどうしたものか早見君にかなりドキドキしてた。昨日よりもずっとだ。それに今もなおそれがまだ収まっていない。

「…………はあ、私ったらどうかしてるわ……とりあえず待たせるわけにもいかないし行きますか」

 そして私も部屋を出ていった。あの時の熱を残したまま。


 今日の昼ご飯は冷蔵庫にたくさん食材があったので充実したものが作れた。早見君もどうやら喜んでくれたようで私も何よりだった。

 それから昼ご飯も食べ終わり私はまたメイドの仕事があるのだが

「さっきも言ったけど掃除はもういいや。そんなに毎日綺麗にされてもあれだしな」

「じゃあこれからは……あれですね」

「ああ、宿題やろうぜ。面倒くさいけど早く終わらせることに越したことはないからな。最後に慌てるのも嫌だし」

 まあ、それは私も同じだ。宿題とかは普段8月に入る前に終わらせるから今年はどうなるかと思ったがそういう時間が設けられるなら安心だ。

「じゃあ始めますか。じゃあメイド、お茶を用意してくれ」

「かしこまりました。ご主人様」

 お茶を用意をしにキッチンへ向かい、ポットを沸かす。お湯が沸く時間はそんなにかからないがこうして待つと長く感じる。特に考えることもないが、いざ考えようとすると真っ先にさっきのことが頭によぎる。その度に私の顔がお湯のようになっていく気分になる。

 全くなんであのことを思い出すのよ。なるべく思い出したくないのに、忘れたいのに……なかなか忘れられない。あいつと目を合わせられないじゃない。

 さっきまで平然としていたが私は、彼の顔をなるべく見ないようにしていた。見るときっと動揺してしまいそうで嫌だったから。

「でも、きっとそれは失礼だよね。これでもメイドなのに……でもどうすればいいんだ」

 これはもうどうしようもないことだ。時間が解決してくれるかもしれないしそうじゃないかもしれない。少なくとも今の私ではどうにもならない。

「だったら、気にしないというのが一番なのかも。宿題やるんだから問題に取り掛かればきっと意識しなくなるよね」

 とちょうどお湯も湧いたようだ。さて、持ってくか。

「持ってきましたよ。ご主人様」

「おう、ありがとう……ってなんで熱いお茶なんだよ。冷蔵庫に麦茶とかあったろ。それでよかったのに」

「あっ」

 そういやそうだったな。この時期に熱いお茶とか私は本当にどうかしてる。それもこれも早見君のせいだ。あんなことさえしなければよかったのになんで……おっとまた思い出すところだった。

「すみません。すぐに変えるので」

「いや、いいよ。せっかくだし飲む。っていうかなんでそんな喋り方するんだよ?昨日言っただろ?命令以外は普通でいいって」

「あ、いや、その、な、なんとなくですよ。なんというか折角メイドになったんですしやれるだけやってみたいじゃないですか」

「まあ、お前がいいならいいけど……でなんで顔そらしているんだよ」

 早見君のことを見れないからだよ! あんなことした後だからね! できればあまりフレンドリーに話たくないし……っとまた思い出すところだった。危ない危ない。

「お、お気になさらず。ご主人様も宿題をなさったらいかがですか?」

「ああ、もちろんそのつもりだ」

 それから早見君は宿題に取り掛かった。どうやら集中している様子なのでそれに便乗して私も取り掛かろう。そうすれば早見君の顔を見ることがないのだから安心だ。

「…………」

 よく集中できている。数学の宿題だからであろう。この教科ならずっと思考を働かせられるし方程式を解く以外に考える必要もない。少なくとも私はそうだ。数学の宿題を持ってきてよかったと今になって思う。

「……お前よくできるなこれ」

 早見君が話しかけてくる。

 ちょっと、なんで話しかけるのよ! さっきまで集中してた癖に

 よく見ると早見君も数学の宿題に取り組んでいた。なるほどスラスラ解いていたから少し気になったのであろう。

「まあ、得意教科だし」

 確かに私は数学が得意だ。入学前から数学はできていたが高校に入ってからさらに得意になった。歴史みたいにたくさん覚えるわけでもないし国語みたいに読み取ることもない。必要最低限公式を覚えてあとは問題を解いていけば自然と頭に解き方が残る。応用問題も求めたいものさえわかればそこから逆算してどうと解けばいいかを導きだせる。

 そしてさらにこの教科が一番得点差が大きいとも思っている。だから私は学年九位がとれだんだろう。一学期の期末テストの数学Ⅰと数学aは九十五点と満点だった。その二教科はどちらも学年一位だった。

 その分英語とか現代文はかんばしくなかったのだが……

「いいなあ、数学できて、俺はあまり得意じゃないからな」

「ちなみに早見君は期末テストとかどうだったの?」

「あ? えっと確か一位だったと思う」

 その時、ペンが止まった。

「え? まじ?」

「ああ。確かそのぐらいだった」

「ちょっと点数いくつだったのよ。科目ごとで。普通に凄いんだけど」

「ああ確か………」

 聞いた点数はほとんどの教科で彼に負けていた。特に英語は四十点ぐらい離されていた。国語も二十点前後私より高かった。勝てたのは数学と化学ぐらいだ。世界史と生物はあわせて十点ぐらいで負けてた。数学も得意でないとか言ってたけど八十点前後取ってれば普通にできてるだろうし。

「まさか、目の前にこんな頭のいいやつがいるなんて……」

「そうか? 俺はあまり自分が頭いいとか思ってないんだけど……」

「何それ嫌み?」

「いやそうじゃないよ。だって数学はできないしさあ数学においてならお前の方ができるから本当羨ましいよ」

「あ、そうですか」

 再び問題に取り掛かる。数問解いたところでまたもや早見君が話しかけてきた。

「なあ、この問題解けないんだけど教えてくれないか」

「…………いいよ」

「今の間はなんだよ。まあ、いいや。ありがとう」

 正直人に教えるというのはあまり好まない。なんというか私は自分でやる人だったのでそういう心理があまりわからないのだ。

「で、どこ?」

「ああこの問題なんだが……」

「ああこれは……っ」

 近い近い。近いよ。そんな近寄らなくてもいいじゃない。やばいまたさっきのこと思い出してきたし。とりあえず動揺を隠さねば……

「え、えーとこの問題は……」

 っていうかこの問題そこまで難しくないじゃない! 八十点ぐらい取れてたら解けるでしょ! もしかしてわざとやってない!?

「これを……して……するのよ」

「ああ、そうか。思いつかなかったな。ありがとう。わかりやすかったよ」

「そ、そう。ならよかったわ」

 そんな優しく言わないでほしいな。絶対わかりやすいはずないのにほとんど感覚で解き方を導き出してるだけなんだし……まあ、嬉しいんだけど。

「どうした? また、赤いぞ。やっぱお前熱あんじゃねえのか?」

「い、いやいやないよ。特に体調が悪いってわけじゃないし……ってあっ……」

 彼と目をあわせてしまった。

 うっ、さっきのことがフラッシュバックしてきた。やばいさっきより熱くなってきたよ。夏の暑さにプラスされてよけい熱く感じる。

「そうか? でも心配になるな。ほら、今もこんなに赤いし……そういえば、最初に会った時も熱中症になってたし」

「あ、あ、あれはたまたまよ。たまたま。普段は私健康なんだから。ほらこの通り問題だって普通に解けてるんだから」

「……まあ、お前がそこまで言ってるならいいか。さあ、続けよう」

「うん」

 それから私と早見君は宿題にとりかかった。

 あれから何度か早見君からわからない問題をいくつか聞かれたがさっきよりは落ち着いて教えられたと思う。そして、今日は無事に数学の宿題を終えた。

「……ふう。終わったね」

「ああ、終わったな。……はあ〜疲れた〜。でも、1日で終わるとは思わなかったわ。助かったよ。ありがとうな」

「いや、私は大したことしてないよ。ほとんどは早見君自身で解いたんだし」

「ふふふっ」

「え!? 急に何笑ってんの!?」

「いや、やっと俺の顔見て話したなぁって思ってな」

 あれ? そういや私今自然と早見君の目を見て話せてる。さっきまで顔を見るだけで掃除してた時のことがフラッシュバックして熱くなっていたのに……

 だんだん慣れてきたのかなそれともさっきのことが曖昧になったのかな……って今思い出したらかなり鮮明に思い出しちゃったからそれはないな。うっ、また熱くなってきた。何自爆してんのよ私。

「ふ、おいまた赤いぞ」

「な、何でもないから。本当に何でもないから」

「わかってるよ。それよりもう六時だぞ」

「……あ、本当だ。じゃあそろそろ私は帰るね」

「ああじゃあ明日な」

「あ、そうだ」

「ん? 何だ?」

「私、実は英語苦手なんだ。この前の期末テストも四十八点だったし」

「うん。それで?」

「だから……今度さ…英語教えてくれない?」

「ああ、いいよ。数学教えてくれたしな」

「うん。ありがとう。それじゃあね」

「あ、ちょっと待って。言い忘れてた」

 帰ろうとしたところで引き止められた。

「何?」

「あのさあ8月の最初にこの近くの神社で花火大会やってるんだ」

「うん」

「あのよかったら、一緒に行かない?」

えっと、今早見君に誘われた? 花火大会に? これってもしかしてデー

「俺、実はこういうのって一回も行ったことなくて、一回行ってみたいと思ってたから。でも一人で行ってもこういうのよくわからなくてね。だから誰か一緒に行ってくれる人いないかなぁとか思ってて」

 ああ、なるほどね。そういう理由か。つまり私じゃなくてもいいと。まあ、そりゃあそうか。急にデートとか言われても緊張しちゃうだろうしね。むしろそういう理由の方が気楽にやれそうだ。特に断る理由もないし。

「うん。いいよ。一緒に行こう」

「本当か? よかった。他に誘う人がいなかったからどうしようかと思ってたから」

「ん? 他にいないって、クラスメイトとかいるでしょ?」

「あれ、言ってなかったか? 俺友達なんていないぞ。いわゆるボッチってやつだ」

「………………その……なんかごめん」

「ああ、別に気にしなくていいからな。俺はこれが当たり前見たいなもんだから気にしてないし」

 あれ? ということはもしかして私のことを友達と思ってるのかな?それはそれで嬉しいけど……いやでもないか。多分。私達がこうしているのはお詫びっていうか借りみたいなものだし。

「で、時間とかは……大丈夫か。朝から一緒だろうし」

「ああ、そうだな」

「うん。それじゃあまた明日ね」

「ああ、今度こそじゃあな」

 メイド服から着替えて、早見君の家を出た。

 ……お祭りか。美紀とかに誘われたらどうしようかな。バイトで誤魔化したけど多分誘ってきそう。でも、どうにかなるか。こうしてメイドやってること誤魔化してるし。

 しかし、早見君とかぁ、デートじゃないとはいえ男子と一緒にこういうの行くって周りからみたらデートみたいだよね。

 うっ、そう考えると緊張してきた。今から緊張してもしょうがないのに……

「はあ、お祭りね。……どうしてだろう? 楽しみに思っている自分がいる」

 それは早見君とだからだろうか。いや、多分、美紀とかと行ってもこう思うだろう。

 でも、なんかこの感情は友達と行くのとでは少し違うような気がする。

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