第2話


「いってきまーす」

 と言っても両親は現在げんざい海外かいがいで仕事をしているため家には誰もいないのだけれど……帰ってくるのも多分、年末年始ねんまつねんしになりそうだし。

「……あ、もうこんな時間。早く早見君の家に行かないと」

 早見君の住所はここから徒歩二十分ほどにある。思ったより近いところだったみたいだ。

 ……今日からメイドになるのか。なんだか夏休み中ずっと(お盆あたりは除く)それが続くとなると憂鬱ゆううつだな。まだ何もやってないのに……

 この前も思ったけどメイドっていっても一体何するんだろう? 掃除とかそういう家事系かじけいか? それともメイド喫茶がやるようなことをやるのか? 

 あーでも早見君メイド大好きとか言ってたしありえるかもしれない。

 そんなことを思っていると早見君の家に着いた。

「……思ったより普通の一軒家いっけんやね」

 メイドになってくれとか言ってきたからちょっと大きめな家なのを想像してた。

 それは偏見へんけんか。

「……さて、鳴らすか。」

 ピンポーンと家の表札ひょうさつの下のインターフォンを鳴らす。

「………あれ?」

 誰も出ないぞ。ここであってるよね?

 あらためて住所じゅうしょとか確認しても……やっぱりあってる。

 あらためてもう一度鳴らしてみる。

「………全然出ない」

 本当に誰もいないのか? とりあえず今度は連続で鳴らすか。

「……やっぱり誰もいないのか……」

すると突然、家の扉が開き

「うるせえぞ! こんな朝っぱらから何回も鳴らしやがって寝れねぇだろうが! ってあれ? なんでお前きてんだ?」

びっくりしたあー突然そんな大声上げないでほしいな。

「忘れたの? 今日からメイドになるって早見君が言ったんだけど?」

「あ、あーそうかそうかそうだったな。本当に来たんだな。ぶっちゃけ来ないかと思ってたからぐっすり寝てたわ」

「おい。自分で言ってそれはないでしょ。来ないわけないでしょ。じゃなきゃなんでも言うことを聞くなんて言わないよ」

 なんでもっていうのはちょっと大袈裟おおげさだったかなあとかは今でも思っているけど。でもそれで身の危険を感じるようなことを言われなくて助かったといえばそうなるのかな?

 ……いやいや、メイドでそういうことをさせられる可能性もあるからまだ一概いちがいにも言えない。用心しておかないと。

「まあ、なんだ、とりあえず上がれよ」

「うん。お邪魔じゃまします」

 家に入るとやっぱり普通の家だ。私の家とそんな大差ない。これなら家事とかはなんとかなりそうだな。

「……そういえばご両親は? 今日は土曜日でしょ?」

「ああ、いないよ。うちの両親は今海外で働いているから。今は、一人暮らし状態」

「あ、そうなんだ」

 うちと同じなのね。

 ふーんつまり今家にいるのは私と早見君だけってこと………

「ってちょっと待って! つまり今家にいるのって私と早見君ってこと!?」

「ああ、そうなるな。なんでそんなにおどろいているんだよ。俺の両親の眼の前でメイドになるとでも思ってたのか? さすがにそれはしないよ。白い目で見られそうだし……」

「あ、いやまあそうなんだけどそうじゃなくて……その……あの……」

 なんて言えばいいかな。おそわれるかもしれないと言えばいいんだけど、ストレートにそんなことを言うというのも失礼だし……

「……ああ、俺が速水さんを襲うかもしれないとか思ってる?」

「………」

図星ずぼしか。大丈夫だよ。そういうのはしないと思うから」

「思うって何よ!? なんか不安なんだけど!?」

「まあ、そんなことより用意したものがあるんだよ。」

 そんなことよりって……もういいやキリがないし。

「で、用意したものって?」

「ああ、今とってくるからちょっと待ってな」

 それから五分ぐらいして早見君は戻ってきた。

「……何これ?」

「何って見ればわかるだろ? メイド服だ」

ああメイド服か。生で見たことないからわからなかったなあ。メイド服とかどうするんだろうとか思ってたけど用意してくれてたんだな。

「これどうしたの? 買ったの?」

「いや、俺が作った」

「え!? これを作ったの!? よく作れたね」

 しかもこれ完成度かんせいど結構けっこう高いし。

 作る時間よくあったな。

「で、これ着ればいいの?」

「ああ。母親の部屋があるからそこで着替えな」

「ああわかった」

 私が部屋に行こうとしたところに珍しく早見君が話しかけた。

「あれ? 抵抗ていこうすると思ったんだけどそうでもないんだな」

「え? ああいや、別に着るぐらいなら大丈夫だよ。一度着てみたいなとか思ってたし。のぞかれることもないでしょ。早見君さっき襲わないって言ってたし」

「あ、いや……まあそうか。覗く気もないし」

 う、なんかそう言われると覗く価値もない風に聞こえるからなんか複雑ふくざつな気分だ。まあ多分そういう風に言ったわけじゃないだろうしまあいいか。

「ていうかメイド服とか興味きょうみあったんだな」

「まあ、そうかなこういうテレビとかで見るようなメイド服は可愛いと思うしフリルのあるやつとか着たことないからね。……じゃあ着替えてくるからちょっと待ってて。初めて着るものだからちょっと時間がかかるかもしれないけど……」

「ああわかった。そんな焦ることないからゆっくり着替えな」

「わかった」

 部屋に入った私は服を脱ぐ前に部屋を見渡した。

 特に普通の部屋だった。

 フィクションだと何もなかったとかあるけどそういうこともない。

「とりあえず着替えちゃおう」

 私は服を脱いでメイド服を着た。

「うーん。似合うかな?」

 部屋にかがみがあったからそれで見てみるけど自分じゃあどうもよくわからないので部屋を出ることにした。

「お、結構似合うじゃん。可愛いなあ」

「そりゃあ、どうも。で一つ聞きたいんだけどさあ」

「何だ?」

「これ何かめっちゃ体にフィットしてるんだけどさあどうやって作ったのこれ?」

「ああそれか。そりゃあ保健室のあたりとかで……」

「まさか触ったの!?」

「いや、保健室のあたりとか帰り道とかで話してた時にお前のこと見てたから大体想像できただけだ。そうか、ぴったりだったか良かった良かった」

「いや、全然良くないんだけど……なんでわかるの? ちょっと想像したのでいいから私のスリーサイズ言ってみてよ」

「ああ、まあいいけどえっと上から……」

 早見君の言った数字は一センチも違わずドンピシャで当たっていた。

「えっと早見君って変態へんたいなの? あ、いやメイド大好きとか言ってたし変態か。」

「いや変態じゃないだろ。多分偶然ぐうぜんだと思う」

「だって全部ドンピシャで見ただけで当てるなんて人間技じゃないよ!?」

「うーん。俺にそんな才能さいのうがあったとは知らなかったなあ」

「いや、そんな笑顔で言われても……」

「とりあえず始めようぜ。時間もこれだし」

 時計をみると本来の予定より一時間ほど過ぎていた。

 それじゃあいよいよ始まるのか一体どんなことをするのかな。

「わかった。じゃあ始めよう早見君」

「あ、じゃあまずは呼び方だな。メイドの時は早見君じゃなくてご主人様しゅじんさまと呼べ」

「はい。わかりました。で、ご主人様、私は一体何をすればいいんでしょうか?」

「じゃあまずはこの家の掃除でとりあえずリビングでいいから」

「わかりました」

「そこは『かしこまりました』だろ?」

「はい。かしこまりました」

 ようやく私のメイド生活(夏休み限定)が始まる。



 メイドの仕事は想像してたのよりも厳しかった。リビングの掃除だけでも午前の時間を全て使った。別に部屋が特別散らかっててゴミ屋敷のようでもないのだが早見君(ご主人様)が

「おい、メイド、ここも汚れてるぞしっかりしろ」

「かしこまりました。ご主人様」

「頼むぞ。あ、テレビの裏もひどいゴミだからよろしく」

「はーい」

 とこんな風に姑じみたことを連発するわけでなかなかことが運ばないのである。

 それで二時間ぐらい掃除をしてもご主人様はどうやら埃一つ残らない状態にしようとしてるから終わる気がしないし大変だ。これが夏休み中ずっと続くとなるときつい。

「おい。そろそろ昼になるから昼ごはん頼む」

「かしこまりました。じゃあ冷蔵庫れいぞうこお借りしますね」

「ああ、冷蔵庫の中にあるもので適当に作ってね」

 今度はご飯か。まあいつもやってることだしなんだかなりそうだな。

何が入ってんのかな

 冷蔵庫にはたまご鶏肉とりにくが少々しかなかった。

「……えっとこれだけしかないんですか?」

「ああ。今日買い物に行く予定だからこれしか入ってない」

 そうかあこれしかないのか……これだと作れるものは限られてくるぞ。

「……ご飯とか調味料ちょうみりょうはあるの?」

「まあ一応な。」

「わかった。ちょっと待っててね。」

 まずは包丁とボウルを出してっからさっきの冷蔵庫の中身を全部取り出した。ご飯もすでに炊いてあるみたいだったので手間もはぶけた。あとはケチャップがあればなんとかなる。

「何作るんだ?」

「ん? この材料ならオムライスが作れそうだからそれにする。あと卵も余りそうだから卵スープも一緒に作るよ」

 とりあえず、チキンライスをつくってそれから卵も溶いたりとオムライスを作るのに必要なことをテキパキとやった。

「……意外と手馴れてるな」

「そう? このぐらい普通だと思うけど? ……あ、申し訳ございません。ご主人様。」

「ああ、いいよ。普段はそれでいいだろう。ごっこみたいなものだし、俺が命令するときだけでいいよ」

「……わかった」

 なんだごっこかメイド服まで着させるからガチのやつかと思ったじゃない。なんか余計に気合入れてたからそんした気分だ。

「で、話戻すけどなんでそんなに手馴れてるんだよ?」

「ああ、これね。私は普通だと思ってるけど普段家で料理してたらこうなってたわ」

「へぇお前料理するのな。最近だと女子じょしで料理する人が減ってきてるとか言われてるからな。お前もやらない人だと思ってた」

「親が今海外に行ってるからね。だから自炊しないといけないんだよ。コンビニとかだと栄養がかたよるとか言われてるし。まあ別にそうだからってわけでもないんだけどね。小さいときから料理とかしてるし」

「ふーんそうなんか。詳しい説明ありがとう。家の事情とか言わなくてもよかったのに」

「あ」

「まあいいけど他人の家族事情かぞくじじょうとか興味ないし。知ったら知ったで気まずくなりそうだからな」

「ふーん。じゃあ早見君今は気まずいの? あ、出来たよ。はい」

「お、ありがとう。いや別にそこまで重い話でもなかったしな。うちと同じようなもんだったし」

「あ、そうか。だからか」

「ん? 何がだ?」

「さっきから何でうちのことしゃべったのかなぁとか思ってて何でかわかった」

「何だったんだ?」

「早見君が家族のことを言ったからよ。早見君の家族の事情を知ったからそのままだとなんか悪いなとか感じて教えたんだと思う」

「なんで悪いとか思うんだよ? 普通おもわないだろ」

「ああ、多分申し訳ないなとか思っちゃったんだろうね」

「ああ、そういや最初に会ったときも申し訳ないとか言ってたな。なんかお前変な奴だな」

「そうかな? あ、でも友達にも謝りすぎとかよく言われる。あと早く食べな。冷めちゃうから」

「あ、そうだな。いただきます」

「いただきます」

 私が食べようとしたところに早見君は、

「あ、ちょっと待って、せっかくだしあれやってもらおうかな」

「ん? あれ?」

「メイド喫茶とかでよくやるケチャップで文字書くやつ」

「ああ、あれね。テレビで見たことある。……でなんて書いてほしいんですかご主人様?」

「お前、以外とノリノリだな。もしかして向いてるんじゃないのか?」

「ええ、そんなことないよ」

「……まあいいや、じゃあとりあえず王道でLOVEって書いてもらおうかな?」

「かしこまりました」

「あれ? 引かないんだな」

「そう? LOVEぐらい女の子なんだし普通だよ」

「あ、いやそうじゃなくって俺が要求した内容に」

「ああ、別にどうも思ってないから安心して。なんとなく想像できてたから」

「あ、そうですか」

「はい。やったよ」

「できれば筆記体ひっきたいで書いてほしかったけどまあいいや書いてもらえるだけできょうのところは満足だし。じゃあ食べるか」

 早見君が黙々もくもくと食べる。

 そういや人に自分の料理を食べさせるのって親以外だと初めてだな。

 ……うっ、なんか緊張きんちょうしてきた。どうだろう。まずいとか思ってないよね?

「ど、どう? 味は」

「うん。美味いぞ。あの手捌てさばきでなんとなくわかってたけどお前料理上手なんだな」

「そ、そう? ありがとう。お世辞おせじでもうれしいな」

「いや、お世辞じゃないってもしかしたらうちの親よりうまいんじゃないか?」

「いやさすがにそれはないでしょ?」

「そうかな? まあいいか」

 そう言って早見君はスプーンを進めた。

 まあなんというかそう言うわれると悪い気分はしないな。

 むしろ心地いい。

「ふうーごちそうさま大変おいしうございました」

「お粗末さまです。じゃあ片づけするからお皿出して」

「あ、今命令しようと思ったのに先に言われた」

「それは命令しなくても大丈夫だよ。料理したら片づけるのは普通だし」

「いやただ単に俺が命令したかっただけなんだけど……」

「ふーんそんなに命令したいのね。じゃあご主人様私に命令を……」

「う、そう言われると言いにくいな……」

「なるべくはやくしてください。こちらはご主人様の命令が必要なんですから」

「なんでメイド側が主導権しゅどうけんにぎってるんだよ。……わかったよ。じゃあ皿を洗え」

「かしこまりました。早急におこまいます」

 そしてやっと皿洗いに取り掛かった。

 やばいなんか楽しくなってきた。思ったより悪くないかも。

 早見君に何か文句をつけられると面倒だと思ったので皿洗いもさっきの掃除の同様に丁寧に行った。

 でもこれはいつもやってることなので少し時間をかければなんとかなった。

 さて、午後は、何をするのかな

「皿洗い終わったか。じゃあ次はリビング以外のところ━廊下とか他の部屋の掃除をやってもらおうかな」

「かしこまりました。ご主人様」

 廊下は人がよく通るから汚れやすい。ここは部屋のほうからやるほうが無難か。

 この家の部屋の数はリビングとキッチンあとは、さっき私が着替えに使った寝室となどなど計八部屋ある。

 じゃあ、まずは、さっき着替えに使った部屋から行きますかな。正直、早見君の部屋とかにいきなり入るのは少し抵抗がある。 男の部屋になんてお父さんの部屋すら入ったことないしそれに早見君だって男の子だから……その……エ、エッチな本とかあるかもだし個人的にまだそういうのはまだあんまりみたくないから。後回し後回しっと 

「さて、さっき使わせてもらったからな感謝の気持ちをもって掃除しないとね」

ここもリビングと同じようにあらゆるところを掃除した。

ここはみたところ数年間家を空けていたのだろうかっていうぐらい埃がたまっていた。これはかなりの掃除のしがいがあった。

「えっと、経過時間は四十五分ってところか」

 さっきのリビングが二時間だったから部屋の面積から逆算すると……さっきよりも速くなっているな。だんだん慣れてきたってことかな。 

 うん。上出来上出来♪

「さて次は、早見君のお父さんが使ったであろう部屋にしようかな。さっき両親が海外にいっているって言ってたから多分あっちも何もないだろう」

 私は、階段を上ってその部屋を探した。

 真っ先に早見君が使っているであろう部屋を見つけたがそこはまあ普段使っている部屋だし大丈夫だろうという理由をつけて後日にやろうと心に決めた。

 その後も、他の部屋の掃除も終え、気がつくと、時計は六時を回っていた。

「あ、もうこんな時間か。早見君どこにいるかな?」

 早見君を探そうと一階に下りると早見君は、リビングにいた。床で転寝うたたねをしていた。

 さて、どうしたものか、なんか気持ちよさそうに寝ているから。起こすのもかわいそうだな。

 かといって勝手に帰るのもあれだし…………とりあえず起きるまで待っていようかな。まだ六時だし本当に起きなかったら起こそう。よしそうしよう。

 それから五分ぐらいがたった。が

「…………起きないねえ。」

 やることもないな勉強道具も家に置いてきちゃったから勉強もできない。

 というか最近の私、みょうに勉強に対する意識が高いなあー 

とりあえず私ができるのは、夕飯の準備か? いやでも買い物もまだだからなあ私が勝手に行くのもなんだ、とりあえず早見君の寝顔でもみるか。やることないし。

 それから5分程経過した。

「……うーんこうしてみると早見君って」

 寝顔えがおかわいいな。こんな笑顔で寝てたらこっちは癒されるよ。なんならこのままずっと寝顔でも見て時間をつぶそうかなあ。

 早見君の顔立ちは整っているほうだし一般的いっぱんてき観点かんてんからみればけっこうもてそうな印象いんしょうだ。

「…………うっ、やば」

 なんか触りたくなってきた。そのやわらかそうなほおを。

「……まあ。ちょっとぐらいならいいかな」

 私はそーと頬に触れようとした。

 う、なんかドキドキしてきた。こういうのって意外と緊張するもんなのね。

 頬まであと数ミリにさしかかったところで

「う、うーん。」

「うわあ!」

 なんだよ、さっきまであんなにぐっすりだったのに急に起きてきて

……って私は何をしようとしてたんだ!? なんかあほみたいじゃない。

「で? 今、俺に何をやろうとしてたの?」

「い、い、いや何でもないよ!? ただずっと早見君が起きてくるのをまってただけだから!」

「ああ、そうか。なんかすまんな」

「ああいいのよ別に。……じゃあ私はそろそろ帰ろうかな」

「ああ、そのまえに着替えろよ」

「うん。わかってるよ」

 最初に着替えたところでメイド服から私服に着替えた。

 今思うと今日で三回も同じ部屋に入っているのか……まさか三回も同じ部屋に入ることになるとは……

 ……はあ、何であんなことしようとしたんだろう……私、どうかしてるわ。疲れてるのかな?

 とりあえずさっきのことは忘れよう。さて帰るか。

 部屋からでて帰ろうとしたところに

「ああ、着替え終わったか。あのさあ、時間も遅くなってきたし夕飯はうちで食うか?」

「いいよ。そこまで気を遣わなくても。第一、冷蔵庫の中身空っぽだよ?」

「あ、忘れてた。じゃあ家まで送ろうか?」

「それも大丈夫よ。ここからそんなに遠くないし。それじゃあ、また明日」

「ああ、ちょっと待て」

「ん? こんどはな……」

早見君は私の頭をでていた。ごしごしとするのではなく、ソフトに撫でていた。

「な、なにやってるの急に!」

「いや、まあ、俺が起きるまで待っててくれたわけだしそのお礼とあとは、今日一日お疲れ様の意をこめてだったんだけど嫌だったか?」

「いや、嫌というほどではないけど、こ、こういうのは、その、もうちょっと関係が進んでからだと思うから……」

「そうか?そうは思ってなかったわ。まあ、嫌じゃないならいいじゃん。」

「よ、良くないわよ! 私帰る。あとお邪魔じゃましました!」

 バタンと扉を閉めていった。

「……あんな反応もするんだな」



 帰り道、私はずっとさっきのことを考えていた。

「なによあいつ。あんなことよく平気で出来るわね。全くちょっとはまともな人と思ってたのにやっぱり変態じゃない!」

 でも、実はあの時、私の鼓動こどう格段かくだんね上がっていた。心臓しんぞうがバクバク言ってて自分が何をいったのかあまり覚えていない。

「……なんであんなふうになったんだろう。もしかして私は、早見君のことを………?」

 いや、ないないだって変態だよ? あの人。

 だから、早見君のことを好きだなんてないはずだ。

 しかしならなんであのときドキドキしたんだろう。それに早見君が寝てるとき、どうして頬を触ろうとしたんだろうか。

 数十分ほど歩き家に着いたらすぐに夕飯を食べ風呂に入ってからすぐにベッドにダイブした。

さすがに今日は疲れた。

なのに。

「……眠れない」

 どうしてだろう。体はこんなに疲れているはずなのに頭だけは妙にえている。

「……きっとあれのせいだ」

 早見君に頭を撫でられてたからだ。

 明日も早見君のところに行くのにこんなんじゃあまともに顔をあわせることができない。

 いや、今日も奉仕時間ほうしじかんの半分以上は一人だったから奉仕という点では問題ない。一番の問題は、その状態を早見君に見られること。

 もしなんでそうなってるのか察しられたら恥ずかしいし、なんか意識してると思われるのもしゃくだ。

「うーん………」

 対処しようにも対処法たいしょほうが思い浮かばない。

「まずいなこのままだと朝になっちゃ………はっ!」

 まずい! もしこのまま徹夜して早見君のところに行ったら間違いなく徹夜てつやしたことはばれる。

 それでなぜ眠れなかったのかを今日のことに興奮こうふんして眠れなかったなんて思われたら結局同じじゃないのよ。

「それはまずいなとりあえず今考えても仕方ないなとりあえず寝よう」

としようとしたらプルルルとスマホが鳴った。

「ん? こんな時間に誰からだろう。……げっ!」

 スマホの画面には『早見聡はやみさとし』と表示されていた。

 ど、ど、どうしよう。今話すときっとあわてふためきそうだから出たくない。でも出ないと向こうにもなんか悪いし……ええい!もう考えても仕方ない。

「も、もしもし。早見君?」

「もしもし速水さん? 今時間大丈夫?」

「あ、大丈夫大丈夫。で、何?」

「えっと明日、夏休みの宿題やるから速水さんも持ってきてね」

「え? なんで私も持ってくんの?」

「いや、一人でやるのがなんかむなしいから」

「あ、そうですか。わかった。じゃあ明日ね」

「うん。じゃあ明日」

 電話を切った。

「……ふう。緊張した」

 男子と電話するって初めての行為だったのでどう話せばいいかわかんなかったけど普段の会話と同じノリでいけるもんなんだね。

てか、大丈夫だったかな? 動揺どうようとかしてなかったかなあ。そうでなかったらよかったけど多分自分の感覚では普通にいけたと思う。

「……なら明日以降もなんとかなりそうかな。全く、そこまで考えることでもなかったんじゃん。ああ、寝よ寝よ」

 そこで眠りに入った。

 今度はよく眠れそうだ。

 ようし、明日も頑張りますか。



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