追記18 Born to Survive~バトルロイヤルFPS②~
そのゲームの名は、『シン・イセカイテンセイ ~Narrow Down~』。
プレイヤーには『ND』とか『ナロダ』とか呼ばれている。
いわゆる「異世界転生もの」のライトノベル『シン・イセカイテンセイ』を原作とした、純国産のPC用バトルロイヤルFPSゲームである。
原作ライトノベルは異世界転生もののお決まりを踏襲しながら茶化すというメタ的な作品なのだが、ゲームの方はオーソドックスに作られている。
舞台はよくある普通のファンタジーRPG風の異世界。そこに100人の現代人が迷い込み、1人になるまで戦い続ける――という設定だ。
プレイヤーは、現代の武器や利器をランダムで与えられていて、倒した相手の道具を回収して強くなっていく。ここまでは、バトルロイヤルゲームではよくあるシステムだ。
このゲームならではの要素は2つ。
先ず、VR対応であること。
プレイヤー自らが異世界転生を疑似体験できるという趣向だ。3D酔いが激しく長時間のプレイには向かないので、プレイヤーの大半は普通にモニタとキーボードとマウスでこのゲームを遊ぶが、私はあえてVRでのプレイを採用した。
もう一つの独自要素は、経験値とレベルの要素があること。
ファンタジー世界が舞台なので魔法の概念もあり、他のプレイヤーや、フィールドにランダムで出現するモンスターを狩ることで経験値を貯め、レベルを上げることで様々な魔法を覚えられる。この辺りは
キャラゲー感が薄く誰でも楽しめる作品に仕上がっているものの、原作付のゲームは、原作を観ていないゲーマーからはどうしても避けられがちである。
そのため、運営会社はこのゲームをeスポーツとして押し出す広告戦略を取った。
その作戦の一つがゲーム配信とその収益化の完全自由化である。
これに企業所属の――蓬莱アリスのような――動画配信者たちが飛びついた。企業所属の場合、ゲーム制作者や企業から配信の許可を取るために煩雑な手続きが必要だ。その手間が省けるというだけで、大きなアピールポイントとなったのである。
そして多くの人気配信者がこのゲームを取り扱ったことが、ゲームそのものの知名度アップに繋がった。今や「配信向きの人気ゲームソフト」とでも検索すれば、『Mincraft』や『フォートナイト』なんかと並んで『ナロダ』が出てくる。
これほどの人気作品ともなれば、ゲームへの興味が希薄であろうムラサキが、このゲームを配信の題材として選んだのも頷ける。
閑話休題。
己を除く99人の中から1人を探し出すのは、ハルウララの芝特性をSにするくらい骨の折れる作業だ。フィールドは広大だし、遭遇する前に敗北して戦場を去っているかもしれない。
しかしムラサキは実力者――それもイカサマを疑われるレベルの勝率なので、話は簡単だ。
ただ生き残れば良い。生き残って、残り2人まで戦い抜くことができたならば、最後に私の前へと姿を現すのは、ムラサキのはずである。
運の良いことに私はいきなり善戦した。
このゲームでは、オープンワールド並の広大なフィールドからランダムに戦闘エリアが設定され、時間経過とともにエリアが狭まっていく。エリア外に出てしまうとスリップダメージが発生してガリガリとヒットポイントが削られていくので、プレイヤーは自ずとエリア内での戦いを強いられるのである。
この戦いでは市街地を中心にエリアが設定された。入り組んだ路地での戦闘は見通しが利きづらく、不意の接近戦が多くなる。
そんな中で、序盤で倒した敵プレイヤーからソードオフ・ショットガンを奪取できたのは大きかった。銃身を切り詰めたこの武器は、極めて有効射程が短いものの、大きく拡散するのでエイムは大雑把で良いし、近距離で発砲した際の威力は群を抜いている。
この武器を手に入れた時点で私は家屋に身を潜め、自衛に務めた。隠れていては武器も経験値も手に入らないので、程々に戦って終盤に備えるのがこのゲームの基本戦略だが、序盤から強力な攻撃手段が手に入ったならばその限りでは無い。
1人、また1人とプレイヤーが減っていく。
そして残り人数が2人と表示されたのを見て、私は身を潜めていた家屋から飛び出し、見通しの良い十字路の中心で無防備に身を晒した。
他のプレイヤーからは自殺行為、あるいは舐めプレイと思われかねない立ち回りだが、これで良いのだ。私の目的は勝ち残ることでは無いのだから。
さあ、どこからでも攻めてこい。どうやって私を倒す!?
パン、という軽い音が5回鳴ると同時に、画面が赤く染まった。
敵プレイヤーから放たれた魔法『フレイムアロー』のダメージだ。レベルを2に上げれば解禁される攻撃手段で、魔法攻撃なので残弾数を気にしなくて良いのが強みだ。ただし連射できるのは5発まで。撃ち切ったら
着弾したのは1発だけ。残りの4発分は私を素通りして正面の地面や家屋の壁に当たるのが見えた。
攻撃のベクトルを見る限り、背後からの攻撃なのは明確だ。
しかし急ぎ振り向くと……そこには誰もいなかった。
戸惑っている内に、また別の方向から魔弾が飛んできた。やはりその方向にも敵はいない。
VRでプレイする最大の利点は、キーボードやゲームパッドでの操作とは比べ物にならない視点変更の速さだ。だからこそVRでのプレイを選択した訳だが、それでも敵の姿を捕捉できないということが、果たしてありえるだろうか?
射程距離を延伸する
いや……最終盤故に戦闘エリアは狭まっていて、もはや狙撃スポットになりそうな場所は無い。それに、『オンラインカジノ』で勝ちを重ねる説明にもならない。
そもそも、そんな露骨なことをしては配信の視聴者が気付く。私自身、ムラサキの配信のアーカイブをチェックしたが、勝率の高さの割にエイミング能力が低いという点以外に不自然なところは無かった。だからこそ、自ら戦ってみるという立ち回りを選んだのでは無かったか。
あるいは障害物を透過させられるのか?
それならばカジノでも相手のカードを透視して有利に立ち回れそうだが……しかし、ムラサキ自身の強運の説明にはならない……。
「あ……」
そんな思索を巡らせている内に、2発、3発と魔弾が命中。ダメージは蓄積し、ついに私のヒットポイントは尽きてしまった。
ゲームに決着がつくと、ドン勝ち――バトルロイヤルゲームで生き残ったプレイヤーを日本ではこう呼ぶ――したプレイヤーの名前が表示される。
『Murasaki0809』。
そこには、私の予想通りの名前があった――
次の瞬間、私の視界にはゲーム開始前のマッチング画面が映っていた。
「上手くいったな。霧雨、ひ……」
「左下だな。分かってる」
依神に教えてもらうまでもなく、ズラリと並んだ99人のプレイヤーネームの中にムラサキが含まれていることは知っていた。
一度観た光景なのだから当然である。
ゲームで敗北したことで、私の
呪いとも呼ぶべきこの力は、私が敗北することを許さない。それが例え100人によるバトルロイヤルであっても、最後の1人になるまで戦い続けることを強いられる。
逆に言えば、私が負け続ける限り、ムラサキを含む99人のプレイヤーと戦い続けることが出来るわけだ。
「さて、2試合目だ。一体何試合かかるやら」
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