2nd Game バトルロイヤルFPS & オンラインカジノ編

追記10 Invitation from Another World~2nd Game プロローグ~

 ゲーム屋のせがれとして生を受けた私は、古今東西の名作駄作に囲まれて育った。

 生きるのに必要なことの多くをゲームで学んだ。

 無双系アクションゲームで日本史と中国史を学び、ボードゲームで日本各地の名産品を覚え、パズルゲームでプログラミングに触れ、RPGでリズム感を養い、ゴルフゲームで計算力を鍛え、野球ゲームで恋をした。

 残念ながら、超能力開発ソフトで予知も念力も透視を身に付けることは出来なかったが……。


 そんな本の虫ならぬ「ゲームの虫」な私でも、オタクの嗜みとして少年漫画『ジョジョの奇妙な冒険』くらいは愛読している。

 特に好きなのは第五部。敵がいつ、どんな奇妙な手段スタンドで襲ってくるか分からない極限の状況の中、真実へ向かおうと運命に足掻く物語だ。

 ゲーム化作品も、スーパーファミコン版を含めて一通りプレイしたくらいにはシリーズファンなのだが、にわかファンのように見られるのは嫌なので、作中の名言を日常会話に引用したりはしない。同じ理由で、ライトノベルなどにパロディが安易に挟まれると眉を潜めてしまう。

 私の口からそういう言葉が出てくるとすれば、余程の異常事態に置かれた時だろう。


 閑話休題。

 昨今流行しているゲームに「バトルロイヤルゲーム」というジャンルがある。

 数十人、時に百人以上のプレイヤーが一堂に会し、最後の1人になるまで戦い続けるサバイバルを主軸とした作品群だ。

 ジャンル名は映画「バトルロワイヤル」から取られたと言われる。無作為に選ばれた中学生の1クラスが日常から隔離され、最後の一人になるまで殺しあうという内容の日本映画で、まさしくバトルロイヤルゲームの内容そのものである。

 かつて、対人対戦といえば2人か4人だった。コントローラーの接続数を拡張すれば10人対戦まで可能なゲームがサターン時代にあるにはあったが、ブラウン管テレビが主流で画面のサイズが限られていた時代にまともな対戦環境を構築するのは困難だったろう。

 やがて通信インフラが飛躍的な進化を遂げ、PCやゲーム機の性能も向上し、同時対戦可能な人数はオンラインによって数倍、数十倍となる。その果てに辿り着いたのがこのバトルロイヤルゲームというジャンルだ。

 FPSやTPSといったシューティングゲームがその殆どを占めているが、近年ではバトルロイヤル要素を取り入れた2Dアクションゲームや落ちものパズルゲームなんて作品が登場したり、件の『ジョジョ』のアーケードゲームも稼働したりして、その人気は留まるところを知らない。


 私が降り立ったのは、そんな数ある戦場の内の一つだった。

 高台に立つ朽ちた城塞跡に身を潜めて、広がる草原を俯瞰していた。拳銃を手にしてはいたが残弾に余裕はなく、有効射程距離も短いので、近接武器持ち相手であっても仕留め切れるかは怪しかった。連射可能な重火器持ちに狙われたら一巻の終わりだ。

 西洋風ファンタジーの世界に現代兵器を持ち込むという独自の世界観の中、目下では鉛玉と矢と魔弾が飛び交い、他のプレイヤーがバタバタと倒れて数を減らしていく。

 しかしまだ、の姿は見えない。


 バトルロイヤルゲームは何しろ敵の数が多く、ランダム要素ばかりで構成されているので、どれだけ射撃精度や戦略に長けていようと、負ける時は負ける。

 だからこそ、バトルロイヤルゲームは楽しく遊べる。

 負けたとしてもそれほど落ち込むことはなく、「運が悪かった」と開き直って次の戦いに臨めるのだ。ハードコアな世界観らしからぬこの「気楽さ」こそが、このゲームジャンルを花開かせたのでは無いかと思う。

 逆に言えば、「1位を取る」というゲームの目的を、真剣に貪欲に目指せば目指すほど、この手のゲームは極めて苦痛なものとなる。

 まして1位を取るまで辞められないなどと言う縛りを課されたら、待っているのは地獄だ。


 「時を巻き戻す程度の能力」。

 勝利するまで強制的に時間を戻され続ける私の異能アノマリー。有無を言わさず課せられてしまった天然の縛りプレイ。

 なかなか1位を取ることが出来ず、私は死に続けていた。

 撃たれ斬られ貫かれ轢かれ燃やされ爆破され……私の操るキャラクターは、様々なやり方で殺された。まるで第五部クライマックスシーンのラスボスシーンみたいに。


 「奴」を見逃してなるものかと焦るあまり、姿を晒し過ぎたらしい。生き残った他のプレイヤーと目が合ってしまった。

 私の存在を視認したらしきそのプレイヤーは、倒した相手から奪った西洋甲冑を着込み、重そうな大剣を背負い、アサルトライフルを掲げて一直線に近づいてくる。

 もう疲れた。死にたくない。

 度重なる時間遡行で満身創痍だった私は、叫ばずにいられなかった。


「オレの側に近寄るなああーッ!」


 取り囲む敵は99人。

 生き残ることが目的なのではない。

 真の敵は、その内のたった1人。

 その正体を知ることこそ、本当の目的。


 これは、真実へ向かおうとする戦いだ。


 裏プロゲーマー放浪記『アルムナイ』

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