◆第六章 Stage2(エントランスⅢ)
敵の前衛はエリーのみ。後衛がオフィウクスとスコーピオン。
こちらの前衛は俺、レオ、ライブラの三人。後衛はテールとアリエスの二人。
数では有利だが……。
エリーは腰を落とし、両腕につけた鉤爪を体の前に構える。
「
格闘家だと言っていたが、どんな技を使うのか検討もつかない。基本的に戦闘技術を学ぶのは男子だ。ライブラのような例外があるにしても、女子が山奥でのみ学べると噂されているだけで実態のない格闘術を使えるのだろうか……。
「やるぞ」
「分かってる」
ライブラは槍、俺は剣を持ち、エリーに襲い掛かる。殺しはしない。剣の面でブッ叩いて気絶させるだけだ。
「避けろッ!」
ライブラが叫び後退する。俺も咄嗟に後ろに飛ぶが、目の前を鉤爪が
「なんだ今の――腕がッ!」
腕が伸びた。少なくともそう見えた。
「踏み込みだ。奴の踏み込みは恐ろしく速い。それだけじゃない。構えた拳を放つ速度も尋常じゃない」
「それが伸びるように見えた理由?」
マジかよ。こっちは数があるが、向こうはヤバイのが揃ってる……。
「それよりエリー、貴様殺す気だったな」
「悪いけど、コニーがミノタウロスなんじゃないかって、疑ってるの。ヒューマニズムじゃないんだよ、生きるってのは」
隙あらば俺を殺す気かよ……。
「正々堂々戦う気などないらしいな」
「戦う気はあるよ。でも優先順位ってのがある」
エリーとライブラが構える。
「下がれコニー。奴の狙いはお前だ。お前が死んでは何にもならん」
「でも――」
ライブラとエリーが激突する。速い。どちらも動きが見えない程だ。
離れる。
「
エリーは両腕を目の前に垂らし、交差させる。
「――ハッ」
ライブラが一気に突く。突きをライブラは片腕で弾き、もう片腕で掻っ切ろうとする。ライブラは槍を回転させ、石突きを前面に出しエリーの土手っ腹を突く。エリーは反撃された瞬間、後退しダメージを最小限に留める。
「『クサント』」
中空から燃え盛る岩石が落下してくる。オフィウクスの奴だ。
「『エリュト』!」
テールが応戦する。だが押し負ける。
「皆ッ、僕の後ろに!」
レオが前に出て、俺たちは後退する。レオの盾が岩石を防ぎ切った。
「ちょっと、邪魔しないでよ」
「何の話だ?」
エリーはオフィウクスを邪険に扱っている。どうやら向こうは連携を取る気が端からないらしい。
「……! おい、スコーピオンがいないぞ!?」
皆で周囲を見る。一体どこに――。
「アリエス!」
後ろだ――!
「悪いな」
スコーピオンの手にはナイフが握られている。駄目だ――間に合わない。
「大人しく降参――」
アリエスはナイフを握り締めた。何もつけていない裸の掌で――。
「なッ――」
「えいッ!」
その隙に肘鉄を食らわせる。
「『レコン』」
アリエスの掌の傷が治っていく。
「しまッ――」
「『エリュト』!」
スコーピオンに火炎が命中する。そのまま吹っ飛んでいく。
「アリエス、大丈夫か?」
「えぇ。怪我はありません」
既に掌の傷は治っていた。魔法の効力だろう。だが――。
「どうしました?」
「……終わらせる」
剣をエリーに向ける。
「やっぱ闇討ちが基本の殺し屋なんて役に立たないね。戦いはこうやらないと」
激龍の構え。
「忘れたかコニー、奴の狙いは――」ライブラの声。だが俺は手元に気を取られていた。鍔に嵌められた宝石が光っている。上から二つ目の新たな宝石が。
「行くぞ!」
「来なよ」
剣を正眼に構える。
「『
剣が声を発する。
「何――」
誰もが驚愕する中俺は気づいていた。これが宝石の効力。
「この――」
エリーが接近する。だが遅い。
「『龍神斬り』ッ!」
剣が紅蓮に変化する。そのまま全力で剣を振り被った。
「ぐっ、おぉッ――!?」
エリーは鉤爪で防御したが、そのまま後方に勢い良く吹っ飛ぶ。
「あああぁあああぁあぁぁぁっ!」
そのままオフィウクスを巻き込み転がって行った。
エリーは起き上がり、笑った。
「……。くく、くっくっく……。面白いじゃん。なら――」
「待った。勝負は着いたぞ!」
ジェミニが言う通り、オフィウクスは仰向けになって倒れていた。俺たちの勝ちだ。
「そんなの関係ないよ。パワーアップしたんでしょ? ならもっと遊んでよ」
「いや、負けは負けだ」
スコーピオンがエリーの前に立つ。
「邪魔しないでよ役立たず。ボクはもっと遊びたいんだよ!」
「ならこの後ダンジョンでやれ」
「……。あーあ、良いよ。別に。負けたのは私のせいじゃないし。ジェミニのせいだし」
「何で俺!?」
「だってさっき噛んだでしょ? あれのせいで笑い堪えるの大変だったんだから」
「俺のせいかよ……」
ジェミニも災難だな……。
「エリー、大丈夫か?」と俺はエリーに聞く。
「何が?」
「吹っ飛んだだろ?」
「平気だよ。変な気使わなくて良いよ。ボクたちは今のところ君を殺さないだけで、疑いが晴れた訳じゃないから」
はっきり言ってくれる……。
「じゃ、朝ご飯食べようっと」
……そう言えば何も喰ってない。今更腹が虫が……。
「オフィウクスは大丈夫か?」
オフィウクスは何も答えない。
「おい、オフィウクス――」
黙ったまま部屋の方向へ歩む。
「拗ねてんのよ」
テールが嬉しそうに言う。こいつも良い性格してる。
「待ってください、皆さん」
アリシアが大声で皆を呼び止める。
「カプリコーンさんの葬儀を先に行いましょう」
コーンの部屋に移動し、葬儀を行った。
流れはほとんどキャンサーの時と同じだった。火をつけたのはオフィウクス(俺より強い奴がいただろうとか言い始めたが、テールが「じゃあやるわ。私、誰かさんより強いし」と言ったら結局やった)。
「カプリコーン、カプリコーン、カプリコーン。汝の遥かなるエリュシオンへの旅路に無病と息災のあらん事を。風と共に去りぬ、安らぎの地へ――」
燃え盛る火炎の中、カプリコーンの遺体が焼かれて行く。
アリエスの言葉を繰り返す。
コーン、お前の演奏、良かったぜ。
これが、あと何回あるのだろう。
アウトローチームはさっさと退室してしまう。エリーも「お腹減ったー」と言いながら退室した。ジェミニとビスケスも出て行ったので、部屋にはさっき共に戦ったメンバーだけが残った。
「皆、本当にありがとう」頭を下げる。
「だから――」
「分かってる。皆は自分のために戦ったんだ。それでも、言わせてくれ。ありがとう」
テールの言葉に対し、喰い気味に俺の意見を伝える。
「礼なら、ダンジョンで聞く」レオはそう言い立ち去る。
「律儀なんだな。意外だ」ライブラも出て行く。
「あのね。勘違いしないでね。ホント、アンタのために戦ったんじゃないんだから!」テールも退室した。
部屋にアリエスと二人残される。
アリエスには、特別に礼を言わなければならない。
「アリエス、ありがとう。庇ってくれて」
「い、いえ――そんな……」
「でも、何で助けてくれたんだ?」
俺が怪しく思えるのは他の奴と同じだった筈なのに……。
「か、神のお告げに従ったまでです」
「ふーん。俺には、勝利の女神様でもついてるのかね」
「……。ど、どうなのでしょうか……」
……。……アレ? なんか、滑った?
若干、気まずい空気のまま二人でエントランスに戻った。
食事はほとんど別々に取る形になったが、俺はレオたちと一緒に食事を取っていた。肉は足が速いので昨日の内に全て腹に収めてしまった。今は用意された非常食を
「ねぇ……結局、あれなんだったの?」テールが訊いてくる。
「あれって?}
「『二ツ星』って奴。なんか、剣が喋ってなかった? アンタの声じゃないわよね?」
俺は剣の鍔を見る。宝石が二つ嵌っている。穴はあと三つ。
「分からない。そういう仕組みで初めから作られてるんじゃないか?」
「石を入れると喋る仕組み?」
「多分……宝石を入れると強化されるんだ」レオが言う。
「ミノタウロスが宝石を始末したのは、強化を妨害するためだろう」
「……待って。それって、――これを奪えば強くなる、って論法が通じるってこと?」
皆が黙る。昨日までこれはただの剣だった。だが二つ目の宝石が入った瞬間、不思議な力が使えるようになった。『龍神斬り』。人間離れしたパワーを持つ一撃。ジェミニの羽根ペンはインクがなくならない、幾らでも書ける仕組みになっていた。今にして思えば、その時点でこの宝石に不可思議な魔力があることを疑うべきだった。
俺がこんな力を使った所為で――他人を殺せば強くなれるという等式が成り立ってしまった。
戦うべき敵はミノタウロスの筈。だが誰もが生き残ろうと思えば、その限りではない。
「いや……そこまで悲観すべきではないと思う」とレオは答える。
「何でよ?」
「アリアドネがいるからさ」
アリアドネが死んだ瞬間、人間チームは敗北になる。敗北即ち死。ミノタウロスを除いて全員死ぬということ。より正確に言えば、ミノタウロスに太刀打ちできなくなり、仲良く喰われる破目になる、ということ。
「だが、オフィウクスはやりかねない」とライブラ。
「やらせないさ」……レオは自身に言い聞かせるように言った。
全員の食事が終わり、エントランスにあるダンジョンへ続く扉の前に集まる。
タルタウロスが口を開いた。
「おはよう、諸君。いやいや、今朝は随分と騒がしくドンパチやっていたようじゃないか。お陰で快適な目覚めだったぜ」
相変わらず腹立つなこいつ。
「また頭数は減っているようだが、確かに全員いるようだな――ではタルタウロス討伐の戦士たちよ、これから汝らに糧を与える」
扉が開いた。通路の中心には黄金の髑髏。通路には十四の宝箱。
「自分の名前が書かれた宝箱を開けるが良い」
宝箱の中にあったのは非常食や包帯、傷薬、毒消しなどの医療品だった。武器や武器に順ずるもの、宝石の類は入っていなかった。
試しにサジがキャンサーやコーンの名前が書かれた宝箱を開けようとするも、ビクともしなかった。開けられるのは本人のみらしい。
皆の準備が終わり、ダンジョンへ続く扉の前へ。
「では、諸君、健闘を祈る……」
扉が開く。
始まる。第二の死闘が――。
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