第4話 リスタート

「別れる、ってどういうことだよ」

僕はおもわず聞き返した。

宮本は虚ろな瞳でぼんやりとした感じで言い放った。

「まぁ、いいとこの婿候補みたいなのがあって、あいつ、可愛いし、いい奴だから

幸せになって欲しいんだ」

その言葉を聞いてて、僕は思った。

「なぁ、宮本

お前は、僕に言ったよな?

恋仲を取り持って欲しいって、言ったよな……?」

きっと葛藤したんだろうって思った。

僕はそのいいとこの婿候補みたいな話も知らないけど、2人がお似合いで、何より互いのことが好きで仕方がないということはよく知っている。誰よりも知っているつもりだ。

「宮本、さっききっと聞いてただろうけど、優衣はお前に誕生日のこと忘れられたって、すごく悲しんでた。

けど、宮本のことを信じたいって思ってるって、そう思ってたんだ」

僕が勝手にこんなことを言うのは本当は許されることじゃないと思う。

けれど、それを冒してでも言わねばならないと思った。

なぜなら、僕は宮本とは違うけど、優衣が好きで、そして宮本が好きだから。

「お前は、どうしたい?」

宮本は、立ち上がった。

椅子がガタンと音を立てて転がった。

優衣座っていたところにはまだ少し暖かさが残ったミルクティーがあって、宮本はじっとそれを見つめた。

「悠、俺、行くよ」

その暖かいミルクティーがまだ湯気をゆらゆらと揺らしている。

まるで2人はまだ諦めてないし、何も終わってないんだと、その暖かさはまだともったままだという風に。

彼女と同じように入り口を駆け抜け、宮本は走り去った。

「飲み残しのミルクティー、宮本の席には飲み残しのミルクティーか」

独りつぶやいた。

言葉にすることで、2人が同じように居てくれると信じたかったから。

「優衣!」

優衣は聞こえるはずのない彼の声に思わずびっくりし、肩をいからせた。

つい先ほど、店から出てきてしまったことに罪悪感にも似たような感情を感じて、なんとなく公園のベンチに座ったところだった。

その時、彼の声が聞こえたのだ。

そこで彼は立ち止まった。

「さっきの話、聞いてたの……?」

声がしぼんでいったように元から小さい声がさらにだんだん小さくなっていく。

「俺が、忘れるわけない、だろ?」

突然大きな声でそう言われるとやはり優衣は驚いたみたいだった。

「じゃあ……じゃあ、なんで!!」

その声は触れることができたならすぐに消えてしまうようなはかなさを感じさせた。

そこで宮本はゆっくりと歩き出した。

公園の砂がすこし泥っぽいのはなぜか、それは雨が降っていたからかもしれない。

優衣の数歩手前で立ち止まる。

「ごめんな、俺……

優衣の母さんに別れるように言われた

優衣がいない時に」

優衣はびっくりしたみたいで目を見開いて、まるで言葉を失ったかのようだった。

「だから、誕生日には行かなかった。

でも、決めたよ俺は。

お前が好きだ。やっぱり俺は付き合ってずっと優衣のそばにいたいんだ」

言葉はその場で消えてしまうからこそ、普段、脆くて儚いと思われるが、2人はそうは思わなかった。

「ごめん、ね……?

私、諒を傷つけた」

彼女は涙が溢れて止まらない。

その時、彼は言った。

「誕生日、おめでとう。優衣……愛してる。」と。

ベンチに座ったままの彼女の手を引いてゆく。

上を見ると空は青かった。

「結局なにもしてないな」

僕はなんとなくそう思って、それが言葉になった。

(宮本はうまくやっただろうか

きっとうまくやったんだろうな)

なぜかそれは嬉しいはずなのに少しだけ苛立ちや焦燥感がチリチリと胸の奥で燻っていた。

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