第6話 あの日の僕ら
…………
「俺に任せてくれ!」
正直に言えば、強がりで弱い僕だけど……
それを悟られないように、そんな弱い僕自身がいなくなればいいのに、と。
いや、それは少し違うか、どちらかといえば誰にもわからないうちに自分が「主人公」にふさわしい人になりたいと願った。
力のない僕はそれを知られないように、彼女の頼み、依頼を引き受けた。
…………
コーヒーを飲み終えて、さっきの会話を頭の中で蘇らせて、考えをこねるように頭の中でイメージした。
自分は間違っていないと思いたくて、だから間違いがないか確かめているふりをして……
実際、そんなことは分からないけど、そうしないと落ち着かなくて、すでに歩き出した吉見さんを見送ると足早に会計へと向かって、店を出た。
なんとなく、行く当てを考えずに歩いていたら、近くにある公園にたどり着いた。
「よく三人で遊んだっけかな」
あの二人の小さな頃の後ろ姿が見えたような気がして、少しだけ嬉しくなった。
木でできたベンチに座って、吉見さんの言っていた相談を思い返してみた。
「結局のところ、僕にはなにができるのだろうか」
全くもって最初の頃に思っていたことと同じものが疑問として口をついて出た。
なんとも言えない気持ちになって、ため息をついた。
「あ、小坂くん」
噂をすればというべきか、その彼、菅野くんが歩いてきた。
「春休みが終わったら、学校だね」
他愛ない話だけど、彼の話し方はなんとなく好きだなと思った。
「そうだね、あ……」
ちょっとわざとらしくなってしまっただろうか?
そんなことを感じつつも僕は話を続けた。
「ライン、交換しようよ。もっと色々話したいしさ!」
頬を意図的にあげてみた。
笑顔って作るのは難しいな……
「そうだね、俺も君ともっと仲良くなりたいと思ってたんだ」
にこっと、まさにさわやかそのものを具現化したかのような笑顔で彼は言う。
「こりゃかなわないなぁ」
後頭部をぽりぽりと掻いて、なんだか照れ隠しのような笑いが奥からこみ上げてくる。
「そんな大したことないけどね、っとこれQRコードね」
「おお、ありがとう」
QRコードをよみこんで、表示されるトプ画。
そこには肩を組んで笑う菅野くんと友達の姿があった。
それを見て、いいなと僕は思った。
僕は、優衣と宮本が付き合ってからは二人と同時に行動することをどこかでひかえていたように感じた。
それは僕自身をどこか空虚で窮屈な気持ちにさせていたのかもしれない。
菅野くんを登録し、吉見さんの依頼がうまくいけばいいなと僕は思った。
菅野くんは電話が鳴り、いままで散歩していたようだが、帰らねばならないようだった。
「またな」
彼はそう言って手を振った。
僕も同じようにした。
なんだか彼と話せてよかったと僕は思った。
一人になるとなんだか急に、風が寒く感じられてきたので自販機で温かいコーヒーを買おうと立ち上がった。
「はぁぁ、あったまるな……」
自販機では、ブラックではなくてカフェオレを選んだ。
甘いけど、その手前でコーヒー特有の苦味が残っていて互いを引き立てあう。
今の僕らはあの頃とどう変わったのだろうか……
いや、変わっていないのは僕の方だろうな。
なんとなく、そんなことを考えてカフェオレを飲み干す。
自販機の隣にあるゴミ箱に突っ込むとカランと乾いた音が虚しく響いた。
そういえば、もうすぐ高校が始まるな、といまはなんだか他人事のように思った。
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