見えない刃 8

所々ですすり泣く声が聞こえる。

暗い照明が、お葬式にピッタリだ、なんて思わず思ってしまう。

立ち込める線香の匂いにどことない暖かさを感じる。

遺影に写る彼は、少し眉間にシワを寄せていて少し困ったような顔をしていた。

私は、彼がそんな顔を良くしていたことを覚えている。

お坊さんが、最小限の抑揚でお経を唱えている。

その声は、聞き慣れていない私には聞き取れなくて、なんて言っているか分からなかった。

けれど、きっと深い意味があることなんだろう。

一人、また一人と焼香をしていく。

戻ってくる同級生たちは、みんな泣いていた。

彼にこの景色を見せてあげたい。

君のために泣いてくれる人が、こんなにも沢山いるんだよって。

私にも焼香の順番が回ってきた。

抹香を額に当て、戻す。

そして、手を合わせる。

横目に親族の席を見た。

彼のお母さんは、ずっと泣きどおしだった。

喪主である彼の父親は、顔を伏せていた。

同じようにして多分、彼のお姉さんが父親の隣に座っていた。

一番目を引いたのは、彼のお婆さんだった。

凛とした瞳と固く結ばれた唇。

きっと、芯の強い人なのだろう。

そう、感じた。

不思議と涙は、こぼれなかった。

彼風に言うとするならば、涙の雨が降ってくることは無かった。

この場で泣くことが正しいことなのか。

私は、分からない。

人の死とは、悲しいものである。

だけれども、死ぬことは当たり前のものである。

人は、あらゆる当たり前を受け入れるけれど、死という当たり前を受け入れはしない。

永遠など有り得ないのに。

お葬式が終わり、出棺の時となった。

式場の外には、大勢の記者たちがいた。

単純にデリカシーが、無いなと思ってしまう。

式場にまで訪れて何を世の中に伝えると言うんだ。

彼の残された家族の悲痛な声か。

彼の友人達の涙ながらの声か。

そうやって彼は、見ず知らずの人から悲しまれるのか。

可哀想と思われるのか。

まるで記者たちは、それが正しいとでも思っているようだ。

出棺の前、彼の父がみんなにお礼の言葉を述べた。

「息子は、夢半ばで不幸な事件に巻き込まれて死にました。

息子は、家で学校のことをあまり話さないので、こんな沢山の人に愛されていたようで私どもは喜びの余り涙が止まりません。

どうか、息子のことを忘れないでやってください。

お願いします」

そう言って頭を下げていた。

忘れない。

忘れてたまるものか。

そして棺を乗せた車は、火葬場へと走っていった。

同級生たちは、帰ってもいいのだが、集まって泣いている。

何故だか、それが不格好に私には思えた。

私は、頭がおかしいのだろうか。

最愛の人が、死んだというのに涙の一つも流さない。

ただ、呆然としてその景色を眺めている。

そしてそれに自己嫌悪も抱かない。

そんな自分が、嫌にもならない。

「あの…○○さんだよね?」

一人の綺麗な女性が、声をかけてきた。

「えっと、反畑空の姉です」

先ほどの親族席を思い出した。

あの時は、顔を伏せていたから分からなかったが、綺麗な顔立ちをしていた。

彼とは、全然似ていなかった。

「あなたに火葬に立ち会って欲しくて」

「いいんですか?」

「うん…。

多分そっちの方が、空も喜ぶと思うから」

私は、不思議と即答していた。

彼の親族の列に並んで火葬場を目指して歩く。

もちろん知っている人など一人もいない。

必然的に最後尾を歩いていた。

「あれ?○○さん?」

どこかで聞いたことのあるような声だった。

声の方向には、私と大して変わらないくらいの歳の青年がいた。

「えっと、千葉君だっけ?」

確か彼が、唯一無二と言っていた親友だ。

「直接話すのは、初めてだね」

「そうだね」

「まさか、最初に話すのがあいつの葬式だとは思わかなかった」

「本当だよ」

「なんで、死んだんだろうな。

しかも何も言わないで。

本当にそういうところだよな」

この場合は、死因ということではないんだろう。

死因で言うのであれば、彼は出血多量のショック死だった。

死んだ原因と言うのなら薬物中毒の男が、発狂して渋谷駅で起こした無差別殺人に巻き込まれた。

新人賞の二次審査の結果を聞きに東京へ行った時に不運にも巻き込まれてしまった。

「千葉君は、空が死んで悲しくないの?」

涙で目を腫らしていることも涙をこらえている様子もない千葉君に私は、疑問を覚えた。

だって、親友であるのなら泣いてしまっても仕方ないと思う。

火葬場に同行するくらいだ。

相当仲が良かったのだろう。

「俺が、どうしてあいつと仲が良かったか知ってる?」

「特に聞いていない」

「俺の下の名前が、『翼』って言うんだ。

それで、あいつが『空』だから周りの友達が、天空コンビなんて呼んできてさ。

それで、よく話すようになったんだ。

今思えば小学生の頃の若気の至りだった。

しかもそこから腐れ縁のようにずっと一緒だったんだよ。

中学校に上がってもクラスは一緒だし、あいつのお陰で俺の成績も上がったから一緒の高校に進学したし」

「そう、なんだ…」

彼と彼の親友の友情は、揺らぐことがないものなんだと思った。

「だから、今更いなくなられて困惑しているんだと思う。

だから、悲しくもなくて涙も流れない」

私も似たようなものなのかもしれない。

ニュースで彼が死んだことを伝えられて、そこから私の思考は停止している。

だから、悲しくもなくて涙も流れないのだろう。

「あ、着いたみたいだ」

火葬場につくと一人一人最期の別れを告げていった。

彼の死に顔は、とても綺麗だった。

呼んだら目を覚ましてくれそうなくらい安らかなものだった。

そして、全員が別れを告げ終わると彼の眠る棺は、火の中へ入っていった。

次に私が見た時には、真っ白な灰ももなんとも言えない骨の姿だった。

あっけなく人の体は、こんな姿になるものだ。

寂しいような悲しいようなよく分からない感情が、私の中に渦巻く。

一人の一本ずつ骨壷に骨をしまっていく。

彼の体は、バラバラになって頭蓋骨だけが原型を留めていた。

二つのぽっかりと空いた目の穴が、間抜けに笑っていた。

人は、簡単にその姿を留めなくなるものだ。

その儚さを私達は、自覚していない。

彼は、その身をもってそれを教えてくれた。









気がつけば、一学期の期末テストが終わっていた。

七月。

暑い夏が、今年も始まるのだと気温で知らされる。

しかし、私の心は何も変わっていなかった。

部活が終わると毎日教室に行ってしまい、もう彼は待っていてくれないんだと知らされるし、よく部活を途中で帰らされる。

どうして、帰ることを宣告されるのかを私は、理解していなかった。

ただ、それを告げる時の部長の顔は、いつも悲しげだった。

私の時は、止まっている。

彼のいない生活は、まるで色がないようだ。

白と黒の二色だけの毎日だ。

七月も七日ほど時が経過した。

七夕だ。

願えば、空の星になっているであろう彼に届くだろうか。

そう言えば、今年は珍しく夜が快晴らしい。

ここ近年では、本当に珍しい。

梅雨前線の煽りを受けて、曇りか雨の日が続いていた。

今日も例によって部活中に帰るように言い渡された。

何故なのだろうか。

不意に空を見上げてみる。

茜色の空は、どこまでも広がっているようだ。

今夜は、星が、天の河が、綺麗に見えそうだ。

だからなのかもしれない。

私は、彼の眠る墓地に向かって走っていっていた。

彼の家の近くにあるから電車に乗らなくては、行けないのだけれども。

電車から飛び降りる。

急ぎ足で改札を抜ける。

そして、走って彼の元へ向かう。

道は、もう覚えている。

だって、何度も彼に会いに行ったのだから。

公園を通り抜け、民家を通り抜け、走った。

墓のある寺の前に連なる石段を登ってゆく。

一段飛ばしで駆け上がりゆく。

勢いよく飛ばしたその先に小さな影が、生まれた。

そして、墓石に前に辿りついた。

そこには、一人の男の人がいた。

彼の亡霊なのだろうか。

私の希望に応えて、化けて出てくれたのだろうか。

思わず、名前を呼びそうになった。

「あれ?○○さん。

どうしてここにいるんだい?」

私は、息を整えて答える。

「千葉君こそどうしてここに?」

千葉翼、その人が墓の前に立っていた。

「俺はねー。

強いていうならば、誕生日を祝いに来たのかな」

「誕生日?」

「そう今日は、俺の誕生日なんだ。

あいつは、俺の誕生日が七夕だと分かってから毎年天の河を見に行こうって連れ出されていたんだ。

その毎年の習慣を変えられないでいる」

「空らしいね」

千葉君と一緒にいると彼のことを感じることが出来る。

同じ香りがする。

なんとなく楽でいられる。

「まあ、あいつが連れ出す年連れ出す年毎回雨か曇りかで見れた試しは一度もないんだけど。

何だろうね。

あいつがいなくなった途端にこんなにも快晴でさ。

まるで、あいつが死ぬのを待っていたみたいだ」

私は、空を見上げた。

そこには、無限に広がり続けるような輝く空があった。

空に大きく広がる天の河。

銀河の中心だという天の河。

多くの星々の集合体。

この国にまだ、こんなにも綺麗な星空を見れる場所があったなんて。

私は、感嘆した。

冬の日に見たそれとはまた違う輝きだった。

「どうして、彼は死んでしまったの?」

ようやく、それに向き合う覚悟が出来た気がする。

「俺には、分からない。

人の悪意に巻き込まれたってことしか。

人の悪意は、目に見ることが出来ない。

だから、回避することは、出来ないんだ。

あいつは、人の話す言葉が見えない刃だと言っていたけれど、俺は見えない刃は、悪意だと思う。

それは、誰もが抱えていてそれと善意の間で苦しむ。

そして、たまにその悪意を暴力という形で実行している者が現れる。

それは、あまりにも唐突で他者に予感することは、出来ない。

だから、あいつが巻き込まれた悪意の暴走は、仕方ないといえば仕方ない話なんだよ。

だって、誰もが悪意を暴走させてしまうかもしれないのだから」

私は、そんな事じゃ納得出来なかった。

「彼は、私の手を繋いでいてくれると約束した。

約束してくれた。

それなのにその約束を果たさないで死んでしまうなんて身勝手だよ。

私は、きっと迷ってしまう」

違う。

身勝手なのは自分だ。

私が、身勝手なのだ。

死んでしまったことを受け入れられない自分だ。

分かっている。

分かっているのだ。

それでも、前に進めない自分が嫌だ。

どうしての濁流が、治まらないのだ。

考えれば考えるほど、胸にポッカリと空いた穴が、露見する。

苦しくて息苦しくて胸をかきむしりたくなる。

確かに彼の死は、予期できなくてもう取り返しがつかないものだった。

一度は、仕方ないと思った。

それでも、私は、最期の時まで彼と一緒にいたかった。

永遠など欲しくない。

君が隣にいた日々が、愛おしい。

君とともに過ごした一秒一瞬が、愛おしい。

私が見ていた未来は、一つだけだったんだ。

空に向かって手を合わせる。

お願いします。

神様が、いるのならここに来てください。

別れの言葉を言わせてください。

合わせた手の中に封じ込めた願い事は、一つだけ。

「大丈夫?」

千葉君が、声をかけてくれた。

言われて初めて気がついた。

泣いていた。

目から止められないほどの涙が。

私は、分かった。

自分がどうしたかったのか。

だから、流れたのだろう。

「俺は、別にお化けだとか霊だとかを信じているわけじゃない。

だけれど、いるとしよう。

そしたら、きっとあいつは、君の手を握っているよ。

あいつは、そういう奴だ。

一度約束したことは、守る。

特に好きな相手ならね。

だから、その、なんだ。

安心して泣いていいんだよ。

大きな声を上げてないたっていいんだ。

あいつは、きっと泣きたい時に泣いていたほうが、安心すると思うから。

あいつは、きっと自分のせいで泣いていない方が、嫌だと思うから」

本当に彼のことを知り尽くしているんだな。

私は、泣いた。

この一ヶ月と少しの間一度として流すことのなかった涙を。

彼がいなくなって、自分がここにいる意味を見失っていた。

きっと、私は、彼の最期の言葉を知りたかったんだ。

彼が、世界に何を伝えようとしていたのかを知りたかったんだ。

彼が、世界にそれを発信していく未来を隣で一緒に見たかったんだ。

そして、最後の一秒一瞬まで一緒にいたかったのだ。

私が、思い描いていた未来はそれだけだったんだ。

星は、変わらず輝いている。

この輝きが、幾年も前のものだから驚きだ。

この星以外で生命がいる星は、必ず存在するはずだ。

それでも、私達はそれを知ることは出来ない。

この空に輝く星達は、私達に見てもらうために輝いているのだと。

そう思いたい。

千葉君は、私が泣き止むまで星を見上げていた。

なにか、ずっと探していたものを見つけたような優しい顔をしていた。

私が、泣き止むと口を開いた。

「大丈夫っていう言葉さ」

「空が、嫌いな言葉だった。

というよりは、自分が、使うタイミングが、嫌いだった言葉」

千葉君の言葉を遮って私が答える。

「そう。

多分俺もそのタイミングで今使ってしまった。

でも、ああいうタイミングで他にかける言葉ってなかなか見つからないよね」

「わかる気がする。

後輩が落ち込んでいる時とかどう扱えばいいのか分からなくなる」

どこか懐かしい感覚に陥る。

なんだろう。

このしばらく感じていない感じは。

「本当にあいつは、なんで死んだんだろうな。

あいつの事だから『別にあれを倒してしまっても構わないのだろう』なんて盛大に死亡フラグをたててから死んでいくんだと思っていた」

「ああ、その気持ちは、分かるかもしれない。

何だかんだ言いながらも中二病治ってない気がするもん」

でも、私はそんな彼のことが好きだったのだ。

自分の言うことに自信を持って、不可能かもしれないことでも悠々自適に言ってのけた。

周りから何と思われても今だけはいいと。

いつか、見返して見せるからと。

たとえ何を言われたとしても僕の見ている未来は変わらないと。

「さて、空の家に線香でもあげに行くか」

そう言うと千葉君は、立ち上がった。

折角ここまで来たのだ。

お家にお邪魔して線香の一本でも上げてから帰りたい。

彼が生きていた頃は、なかなか訪れることもなくて、訪れたとしても家族の皆さんと会うことはなかなか無かった。

けれど、彼がいなくなってからは、一緒に食事をしたりとなかなか仲良くさせてもらっていた。

彼のお母さんの料理が、これまた絶品なのだ。










彼の家に行くと、彼のお母さんが出てきた。

「あら、あなた達来てくれたの?

そう言えば、今日は翼くんの誕生日だったわね。

ちょっと待っててね」

そう言うとお母さんは、奥に引っ込んだ。

前にあった時より少しやつれたような気がする。

「誰か来てるみたいだ」

千葉君が、玄関にある靴を指さして言った。

見覚えのない靴だった。

お客さんだろうか。

取材記者とかがまだ来ていてお母さんを苦しめているのならお帰り願おう。

私が、闘志を燃やしているとお母さんが戻ってきた。

「ごめんなさい。

あなた達に話を聞いてもらってもいいかしら?

私には、少し難しくって」

そう言われ私達は、食卓に通された。

後は、よろしくねと言い残しお母さんは、消えてしまった。

だいぶ疲れていたようだ。

丸いテーブルの向かい側に男の人が座っていた。

歳は、大体三十代くらい。

髪の毛も髭もボーボーに生えており、何だか不衛生な人だった。

この人が、お母さんの疲れの元凶だろうか。

なら、話も聞かずに早々に帰ってもらいたいのだけれども。

「やあ。

君たちが、空くんの彼女さんと親友くんかい?」

何か嫌な予感がした。

「君たちにも話を聞いてもらいたいな。

おっと、自己紹介が、まだだったね。

僕の名前は、平沢大我。

とある出版社に勤務する編集者だ」

のらりくらりと色々なことをかわしてきた。

そんな人生を送っていそうな人である。

それが、第一印象だった。

私たちも簡単な自己紹介をする。

千葉君は、本名を教えるのが嫌だったらしく。

適当な名前を答えていた。

「そんな、編集者さんが何のようですか?」

明らかな敵意を千葉君が向けていた。

「そんな怖い顔をしないでくれよ。

僕は、君たちにとってもいい話を持ってきたつもりだ」

「君たちにとっても、と言うことはあなたにもいい話なんですね」

「そんな勘がいい子が、僕は嫌いだ」

千葉君が、グイグイと攻めている感じだ。

私もこの人に好印象は抱かない。

もっとやれやれと声を大にして応援したくなる。

「空くんの応募した新人賞を主催している出版社に勤めているんだ。

惜しくも空くんの作品は、二次選考落ちだった。

とても良い作品だった。

ただ、送ってきた年齢も考慮して今回は二次審査止まりにしたんだ。

これからこの才能は伸びる。

そう踏んでの決断だった。

だが、事件に巻き込まれて空くんは、亡くなってしまった。

このまま、反畑空という才能が、世に名を知られることも無く消えてしまうのは忍びないと思ってね。

出版社の中で彼の本を出版しようという流れになったんだよ」

ここまで私たちは、口を開かなかった。

相手の言い分を聞くことも大切だ。

相手の話に口を挟むのは、愚か者のする事だ。

「それは、建前でしょう?」

千葉君が、物凄い悪い笑顔で平沢さんを見た。

「あいつの才能が、凄いことは否定しません。

ただ、あなたがた出版社の思惑は、別のところにある。

違いますか?」

平沢さんは、口ごもった。

どうやら図星だったらしい。

「これだから、最近の子供は、可愛くない。

ああ、そうだよ。

話題性がある。

そしたら、売れるに決まっている。

なにせあの事件で亡くなったのは、空くんしかいないのだから。

彼が、刺されて、絶命した後もナイフを離さなかったから他の犠牲者は、出なかった。

話題性抜群じゃないか!

大勢を救ったヒーローの描いた物語!

これを売らずにどうするというんだ!

宝の持ち腐れだ!」

さっきまでの穏やかな口調とは、打って変わって激しく責め立てるような口調だった。

私は、口よりも先に手が動いていた。

私の平手が、平沢さんの頬を打つ。

「帰ってください!

彼は、そんな見世物にされるために物語を書いていたわけじゃありません!

どうせ、あなたがた主催の新人賞は、ネットに投稿する形を取っているから小説のコピーと手直しをするために必要なログインパスワードを聞きに来たんでしょうが、あなたに渡すものなど一つも存在しません!

さぁ、早くお帰りになってください!」

自分でも驚いた。

でも、すぐに納得をした。

だって、私は、彼を知っているもの。

彼の物語を知っているもの。

彼の夢を知っているもの。

それを玩具になんて絶対にさせてはならない。

「分かりました。

今日のところは、帰らせていただきます。

でも、忘れないでください。

僕は、諦めませんから」

そう捨て台詞をいって平沢は、帰っていった。

一昨日きやがれという奴だ。

塩があったら撒いてやりたい。

残された私たちの間には沈黙が流れた。

それを破ったのは、千葉君だった。

「○○さんが、やってなかったら俺が手を出してたよ」

「みっともない所をお見せしました」

「いや、君のやったことは、正しいよ。

あの男は、ゲスすぎる」

「どうにかして、あの人の計画を止めないと」

「それじゃあ、その小説投稿サイトにログインして小説を削除しよう」

「えっ、」

「生憎ね、俺は、あいつのパスワードを知っているんでね」

その千葉君は、とても悪い顔をしていた。



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