雪と湯船と 3

「私は、君にお返しがしたかったんだよ」

「お返し?何かあげたっけ?」

心当たりがない。

少なくともこんな豪勢なお返しをもらえるようなものはあげた覚えがない。

このあいだにあった彼女の誕生日にだって、僕は小説を一冊プレゼントしただけでここまで大きなお返しに膨れ上がるとは思えない。

「君の大切な、あの星空を貰ったじゃない」

「ああ…」

クリスマスの日を思い出した。

別に僕のものではない。

だけれども大切なものであることは、的を射ている。

「そのお返しの気持ち。

私も私の大切なものをあげる」

「それが、この草津ってこと?」

「景色には景色でお返しだよ?

本当のお返しは、明日にならないと渡せないんだ。

運が良ければ、あの星空よりもいいものが見れるかもしれない」

目には目を歯には歯を、という事だろうか。

僕には勿体のない話だ。

「まあ、なんというか、ありがとう」

お礼を告げた。

僕ひとりならここに来ることは無かっただろうから。

「そんなに改まって言われるとなんだか恥ずかしいよ」

僕はいつも彼女に与えられてばかりだ。

僕から彼女に何か与えたものはあったのだろうか?

見つからない。

これからも与えられるばかりで何も与えることは、出来ないのだろう。

きっと、僕はそのような人間なのだ。

それでは、僕のとるべき道は一つだ。

僕は、この思いを伝えなくてはいけない。

「暗い顔だけどどうしたの?」

「未来を想像していたんだよ」

「未来…?」

不思議そうに首を傾げる彼女。

僕は、話を続ける。

「僕の将来の夢は、大きすぎるほど大きい。

これは、自覚していることだ。

叶えられるかどうか、それすら分からない。

一歩間違えたなら僕は、自分の身を滅ぼすかも知れない。

今の僕には、決して成し遂げることのできない夢だ」

彼女は、何も言わないで静かに聞いている。

有難い。

「でも、僕は、未来を想像する。

届くかどうか分からない未来を。

何度も何度も。

その通りに未来を創造するために想像する」

話を円滑に進めるためには、相手の話に言葉を挟まないこと。

他者の話の途中に言葉を挟んで自分の意見を述べようとするのは、愚か者が行うことだ。

それを心得ている彼女は、依然として静かに聞いている。

「でも、その思い描く未来に君の姿はないんだよ。

どう描いても、何度繰り返しても」

僕の胸のうちを披露すると流石に口を開いた。

テーブルを叩き、立ち上がる彼女。

「それは、どういう事ですか?」

言葉を紡ぐのが、やっとの様子だ。

動揺を隠しきれていない。

「どういう事、なのかな。

僕にもよく分からない。

ただ、僕は、夢を叶えてもなお一人なんだろうね」

「嘘だ」

僕が、言い終えるのと同時だった。

「それは、あくまでもあなたの想像でしょう。

だけど、想像ならあなたの意志がそこに存在しているはずよ。

それは、あなたが創り出したものなのだから。

その言葉が、あなたの本心だとは私には思えない」

彼女の口調が、きつくなっている。

本当に彼女には敵わないな。

僕は、眉をひそめた。

そこまで言われてこの思いを隠し通せるほど僕は、冷静ではなかった。

「僕には、君しか合う女性はいないだろう。

この先の人生を考えたとしてもだ。もしかしたら僕の思い込みかもしれないけれど、君の場合でもこれは言える事だと思う。

だから、僕は君を僕の夢に巻き込みたくない。

もしかしたら、借金まみれになって、将来君の紐になってしまうかもしれない。

君に迷惑をかけてしまうかも知れない。

そんなのは嫌だ。

僕は、君の笑顔が好きだ。

だから、世界の何処かで君が笑えるように。

そんな人生を送ってくれることを望む。

だから、僕の未来の創造には、君がいない。

だって、心のどこかで実現が不可能と思ってしまっているから。

これが…僕の意志だ」

彼女は、沈黙した。

顔を伏せ、何かを思案するように。

僕は、僕の意志を伝えた。

誰の借り物でもない僕自身の。

偽りなど1点も存在しない。

長い沈黙だった。

僕は、待った。

彼女の意思を知るために。

それが、今僕に出来る最善の事だから。

「…私を巻き込んでしまうと考えるのならそれは、思い上がりというものだよ」

顔を上げ、言葉を発する彼女は、僕を睨みつけた。

今まで見たことのないような怖い顔で。

一瞬怯んでしまった。

だけど、絶対に目をそらしたりしない。

するもんか。

僕の固い決心だから。

譲るわけにはいかない。

彼女が幸せであることが、僕の幸せなのだから。

「確かにあなたの夢は、大きい。

大きすぎるくらいに大きい。

でも、私は、それが実現できないなんて1度も思ったこと無い。

君は、自分を過小評価し過ぎているよ?

こちらが頭にくるくらいに。

君の過去は知っている。

だから、あなたがそうなってしまった理由もわかる。

だけれども、もっと自信を持ってもいいよ!

私は、あなたの夢に付き合う覚悟はできているよ。

だから!」

そこまで言うと、一度言葉を切った。

息を切らしている。

僕は、圧倒されてしまっている。

「私を…君の未来に入れても構わないんだよ?

挫折して夢を諦める事があるかもしれない。

それでもいい。

夢をみるなら1人より2人だよ。

私は、君の隣にいるだけで幸せなんだ。

笑顔になれんだ。

君がいたから私は私でいられるんだ」

「……」

「君は、人は話し合うことで分かり合えると言ったね。

だから、私が、君の話し相手になるよ。

孤独に生きるなんてことは哀しすぎるもの」

「君は、優しいね。

優しすぎるくらいに。

だからこそ、僕は、」

「また、そう言って逃げようとする!

私は、1人の相手とも分かり合うことの出来ないような人が、その夢を叶えられるはずはないと思うよ!」

何も言い返せなかった。

どうやら僕は、とうの昔に墓穴を掘っていたようだ。

僕の将来の夢は、小説家になること。

そして、自分の書いた本で世界を変える、なんて大仰なことは言わない。

ただ僕の書いた本が、誰かと誰かを繋ぐ架け橋になってくれることを願う。

そうして、話すことで相手を知ることが、争いのなくなる一番の方法だと思ったから。

相手を知らないから僕らは、いがみ合い、憎しみあい、奪い合うのだろう。

それなら僕は、架け橋になる。

人と人とがわかり合うための。

世界が、平穏に包まれるように願って。

僕の本を通じて誰かと誰かが知り合うことが出来たのなら、作家冥利に尽きるね。

 僕とで彼女が出会ったばかりの頃、何を思ったのかこの夢を彼女に話したことがある。

その時にとても素敵な夢だねと言われたことを今でも覚えている。

そうだったのか。

あの時から僕は、彼女のことを好きだったのか。

僕が、ひとり納得したような顔をしていると、彼女が口を開いた。

「君の…なんというか愛は、大きいんだよね。

本当に君の名前は、君にぴったりだ」

「どういうこと?」

僕には、その言葉の意味がわからなかった。

自分の名前が、そのような大層なものではない事は僕が一番知っている。

「君のその人に対する愛は、どこまでも広がり続ける空のようだってことだよ。

私たちの頭の上にどこまでも広がっていく空。

世界をすべて包んでいる空。

君にぴったりの名前だと思うよ」

初めて、自分の名前は案外悪くないのかもしれないと感じた。

「まだ、考えを変えないつもりなのかな?」

バツが悪そうに彼女が聞いてくる。

僕は、忘れていた。

彼女は、いつだってそうだった。

彼女は、僕の決心をいつだって覆してきたのだから。

「今、初めて、この『空』という名前が悪くないと感じたよ」

「それは、つまり?」

「僕が、悪かった…のかな?」

「わかればよろしくってよ?」

窓の外で可愛い三日月が、笑っていた。

「はぁ、これでCV入野自由だったら良かったのにな」

不意に彼女が、呟いた。

「それは違う『ソラ』になっちゃうから」

「そうだね。

君は君だ」

「繋がる力が僕の力だ。とか言ってみるかい?」

「やめておこうよ」

二人して笑った。

世界の果てで君が笑えるようにと願っていたが、どうやら隣に僕がいても構わないようだ。

望むかどうか。

願いの強さで叶うというのなら簡単だ。

苦労はない。

だけれども、今ここにある大切な変わらないものがあるじゃないか。

世界を超えて君と笑えるように。

いつか、この日の戯言が無くなるように。

僕は、前へと進む。

前に進み続ける。

好ましい未来なんて踏み出した先にしかないのだから。






夕食を食べた後、適当にテレビを見て時間を潰したあたりで眠くなってきたので寝ることにした。

鍵をなくしたというのは彼女の狂言で、きちんと持っていた。

多分僕の部屋にすんなりと入るための狂言だったのだろう。

彼女を向かいの自室に戻して、どれ僕もねるとするかと布団に入ろうとすると1部屋をノックする音がした。

誰だろうと不審に思いながらも返事を返し、扉を開ける。

すると、布団を抱えた彼女が部屋に侵入してきた。

彼女であるのは、容易に想像できたのだが、まさか布団を持って入ってくるとは思っていなかった。

「ひとりで寝るのが、寂しいからこっちで寝るね」

そう言うと部屋に布団を敷き始めた。

あまりにも唐突で突拍子もない言葉に僕の口は、空いて塞がらなかった。

「いやいや、いくら何でも高校生の男女が同じ部屋で寝るというのは問題になるぞ!」

やっとのことで意識を保った僕は、必死の抵抗をする。

何に意識を持っていかれそうになったのかは、ご想像におまかせしよう。

「まあ、一緒に寝るだけだし問題にはならないよ」

彼女には、貞操というものがどうでも良いのだろうか。

無論手を出すつもりは無いが。

しかし、いくら僕と言えど理性が崩壊する。

これは、そういう事なのだろうか。

などと思案を巡らせるが、道を踏み外すつもりは無い。

何せ僕には、叶えたい夢がある。

叶える道を自ら閉ざすつもりは無い。

「さっきも言ったけれど、夢をみるなら1人より2人だよ!」

「いや、その夢はどう考えてもさっきの夢とは、意味が違うよね!?」

取り敢えず彼女は、部屋から退散する気は内容だ。

僕は、二人の布団の間に衝立を置く。

「なにこれ?」

「僕は、とっても寝相が悪いから万が一君の布団に侵入するなんて事がないようにするための対策だよ」

もちろん嘘だ。

僕は、自分の布団の範囲からは出ないという自負と自信がある。

「別に、入ってきても構わないんだけどな」

「だから!女の子がそういう事言うもんじゃありません!」

「君は、お母さんかい…」

そんなことを言いながら布団に潜りこんでいった。

僕は許可を取り電気を消す。

どれ、僕も寝るとしよう。

「あ、そうだ。

明日は、朝が早いから覚悟しておいてね」

彼女は、その言葉を言い残すと静かに寝息を立て始めた。

これもまた多分であるのだが、朝起こしに来るのが面倒だから、僕の部屋に来たのだろう。

僕も布団の中に身体を滑り込ませた。

旅行は、楽しいけれど疲れるものだ。







隣に女子がいる。

それを考えると寝るのに時間がかかるのでは無いのだろうかと思ったのだが、案外あっさり夢の世界に引き釣りこまれた。

気づけば、寝ていたという状況だ。

最近は、そんな眠りがよく続いた。

でもやっぱり、眠りが浅かったのだろう。

目を覚ますと辺りはまだ暗かった。

隣からは、安らかな寝息が、よく聞こえてきた。

スマホの電源を入れる。

そこに示された時間は、午前5時過ぎ。

いつもよりも一時間ほど早い起床となった。

取り敢えず、早起きだという彼女の言葉を思い出し、起こしてみる。

「あと、10分…」

こういう場合は、10分経っても起きない。

それが、物語の常というものだ。

彼女は、あと10分いや、30分ほど寝るだろう。

その間にもうひと眠りしよう。

そう思い、布団に入った。

だが、眠ることは叶わなかった。

布団に入った途端に目が覚め、彼女の寝息の生々しさによって眠りに集中出来なかったからだ。

なにもしてはいないのだが、とても悪いことをしている気分になる。

こそばゆい気持ちだ。

仕方なく、布団から出ることに決めた。

窓際に置いてある椅子に腰をかける。

窓の外には、まだまだ濃い闇が広がっている。

西の空には、可愛い三日月が、不敵な笑みを浮かべていた。

月明かりが少ない夜でも、雪があるだけで少し明るくなる。

薄い光が雪に反射し、その白さを増してゆく。

温泉もそうなのだが、この美しい景色を見せてくれた彼女には、感謝をしなければならないな。

僕の色を変えてくれる彼女に。

外が、明るくなるまで月とにらめっこでもしているかな。









しかし、僕のにらめっこは、呆気なく終わりを告げた。

突如、彼女が陸に上げられた魚のように飛び起きたからだ。

「寝過ごした!」

その一言を叫び、飛び起きた彼女は、せかせかと準備を始めた。

僕もそれに合わせて準備を始める。

着替えは、別々に行ったことをここに宣言しよう。

僕らは、まだ清廉潔白でありたい。

防寒具をしっかりと装備させられ、草津国際スキー場へと向かうバスに乗せられた。

まさか、これからスキーをするわけではないだろうな。

頭は起きているが、体はまだまだ眠っている。

良くあることだ。

人の体とは、不思議なもので一番正直なものだ。

頭では、考えていないような事でも反応してしまう。

だから、死の恐怖感じた時など、頭よりも先に体が動いている。

極論であるのだけれども。

などと思いながらも少しずつ明るくなってゆく空に思いを馳せる。

景色には景色でと言っていた彼女のことだ。

この時間帯というのもあり、朝日を見せるつもりだろう。

冬は夕日派である彼女が、見せたがる朝日なのだからそれはもう凄いのだろう。

それにしても寒さが身にしみる。

バスの中は、暖房がかかっているというのに防寒具を外せない。

人が少ないせいというのもあるのだろう。

外の道路標識によると-10℃だそうだ。

そうこうしているうちにスキー場についた。

もちろん、この朝早い時間だ。

ゴンドラもロープウェイも動いてはいない。

だが、人だかりがあった。

群れをなして、どこかに向かっているようだ。

「私達もついて行くよ!」

彼女は、元気に歩き始めた。

バスで通ってきた道を少しずつ戻っていく。

そして、山々に囲まれた場所に到着した。

山々にかかる橋であった。

谷底には、か細い川が流れている。

「ここで何が見れるんだ?」

「さあてね。

それは、見てからのお楽しみというものだよ!」

はしゃぐ彼女を見て、微笑ましい気分になる。

一閃の光が、僕に当たった。

一瞬眩しくて目を細める。

光の方向へ目をやった。

山と山の間から朝日が差し込んでいた。

光が雪に反射し、輝きを増してゆく。

この世のものとは思えぬ景色に言葉を失った。

綺麗だ。

その言葉も言えないくらいに。

きっと月は、この輝きを知っているからあんなに不敵な笑みを浮かべていたのだろう。

「満足してくれたかな?」

彼女は、僕の前で首を傾げる。

「ありがとう」

その言葉しか出てこなかった。

その言葉で十分だった。

言葉で言いあらわすことが出来ないという人がいる。

その人の気持ちが、ようやく分かった。

「なんだか、そんな改まって言われると恥ずかしいよ…」

「その言葉しか出てこなくてね」

「でも、その言葉で十分だよ?」

彼女は、心底嬉しそうに笑った。

僕のお返しは、とても大変なものになりそうだ。

大勢の中のひとりが、谷の方を指差し、騒ぎ始めた。

当然、みんなはそちらへと視線をやる。

見た人が次から次へと歓声を上げ始めた。

僕らもそちらへと目をやる。

そこには、キラキラと星のように輝く何かがあった。

風に舞い、宝石のように輝くそれを雪だと認識するまでに時間がかかった。

ダイヤモンドダストだ。

これを見れる確率というのは、とても低いらしい。

かつて、魔法も奇跡もあるんだよと言った物語があった。

あながち嘘ではないだろう。

「凄いな」

自然と僕から口を開いていた。

「うん」

太陽が昇り、それが見れなくなるまで二人で並んでそれを見ていた。

「僕は、君に何も返すことが出来ないかもしれない。

それでも君は、構わないと言った。

でも、努力をしようと思う」

僕は、僕を。

君は、君を。

それでも、共に。

「返すとかそういうのではないと思うよ。

私たちは、生まれてきた時は誰だって1人。

だからこそ、一緒に行きていこうとする。

それだけの事なんだよ」

僕は、前に進む決意が湧いた。

霧の中の雲のようなそれを掴む決心がついた。

それが、僕の、僕らの進む道だと彼女が示してくれたのだから。







今回の後日談。

と言うよりは、朝日を見たその後とテストの話だ。

どうも彼女は、バレンタインのことを忘れていたらしい。

帰りの新幹線の中でツイッターを見ている時に気づいたようだった。

「いや、その、忘れていたわけじゃないんだけど、今月なのは覚えていたんだけど…」

急に青ざめたような顔でこちらを見てきた。

何のことを言っているのか最初は、分からなかった。

けれど、彼女の性格と今日が何の日なのかを考慮すれば自ずと答えは出た。

「いや、いい景色を見せてもらったしそれで十分だ」

実際それがバレンタインも兼ねているのだろうと思っていたから僕としては、一向に構わないのだが。

「いや、バレンタインなんだしやっぱりチョコレートだよ!」

と、張り切っていた。

未だにサンドウィッチからバリエーションの増えない料理の腕を見る限り、手作りはあまり期待していないのだ。

だから、本当に景色で僕のお腹は満腹であった。

さすがの彼女といえどどこかの物語のように塩と砂糖を間違えるだとか原型をとどめていないチョコレートなんてことは無いだろうが。

その点においては安心してよかった。

新幹線からの乗り換えで降り立った東京駅の地下で少し高めのチョコレートを買ってもらった。

「ありがとう」

「どういたしまして!」

僕が礼を告げると心底嬉しそうだった。

僕の心は、その笑顔だけで満たされた。

「君が、キリスト教のイベントを忘れるだなんて珍しいね」

ふと疑問に思った。

彼女は、そういう点でも抜かりがないからだ。

「いや、だってバレンタインって実際の話とあまり関係ないもの。

きっと、天の国で聖バレンティヌスさんも驚いていることだよ。

だから、ついね。

忘れてしまったんだよ」

「そういうもんかね」

「そういうものなの。

さぁ、次は四月八日の仏生会だよ!」

確かに仏様の誕生日だ。

日本では、もっと認知されていてもいいのではと思うのだけれども知っている人は、少ない。

彼女もきっととある漫画を読んで知ったのだろう。

東京の立川でイエスとブッダ。

二人の神様が、バカンスを満喫する漫画を。

でも、それより先にホワイトデーだ。

ホワイトデーは、なにか考えなくてわな。

こうして僕らは、まんまと製菓会社の戦略に引っかかったのだった。









テストの方といえば、結果は散々であった。

月曜日に受ける教科が、現代文と数学であることを忘れて日本史ばかりを勉強したこの週末。

日本史の成績は、学年でトップ。

と言っても文系は80人弱しかいないのだが。

それ以外は、全然な結果となった。

平均点に達したのが、現代文と日本史だけというのも考えものだ。

それでも僕は、テストの結果とは比べ物にならないものを得たのだから良しとしよう。

季節の模様が、変わり始めた。

冬から春へ。

出会いと別れの季節と謳われる春へとその歩を進めていく。

僕に別れは、訪れるのだろうか。

出会いは、訪れるのだろうか。

全ては、神のみぞ知るだ。

未来を測ることなど僕らにできない。

それこそタイムマシンを持つ頼れる猫型ロボットが、机の引き出しから出てこない限りは。

どう足掻いても等速で明日は、やって来るのだから。

等速でしかやって来なくて、等速でしか去っていかない。

故に楽しいのだ。

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