第5話


大城は、日々淡々と日常を過ごしている。



彼女の上司もどうやら彼をターゲットにしているらしいことが発覚した。



彼女の名は、三輪静。


静という彼女の名を再度目視すると、『静って柄じゃねぇわコイツ……ただちに改名を要求できることなら要求したい』と思う。


べつにキラキラネームでもなんでもないけれど、この人物に『静』はねぇわ。


名付け親の神経を疑うね。どのように育てたらこのような人間に育つのか。


あ、まるでこの三輪という人間に興味を持っているかのような口ぶりではあるが、興味は皆目ない。


むしろ関わりたくない人間である、至極。


『静』じゃないわ、ほんとうに。がさつで、がちゃがちゃとうるさい感じが半端ない。


この冒頭文から滲み出ているように、大城はこの人間、すこしも好きではない。


ふてぶてしさ、顔のでかさ(大きさ)、顔の体積、表面積の大きさ、性格の図太さ、性格の悪さ、容姿の凄惨さ、頭と要領の悪さ、もうすべて兼ね備えている。


三輪は、四十代独身、結婚歴なしである。


まあ、どこかしら(おそらくそれらをひっくるめたすべて)に、問題があるのだろう。


偏見的な目で見ることが少ない大城でも、ひしひしと肌で感じていた。


控えめに言ってみたが、もう偏見でもなんでも良いが、この人間とは仕事でもなんでも、三秒たりとも共空間にいたくはない。


『自覚がある』『自覚がない』で、たちが悪いとかよく言うが、どちらにせよ結婚していないという事実は変わらない。


こんなやつが結婚できるわけがない、という大城の本音を除いて、『結婚しない』と『結婚できない』の違いは、確実にあるだろう。


友だちすらできないんじゃないか、このひと。



まあ、三輪に関して言えば、モテない女性の典型例と言える。


上司にしたくない人間にも当てはまる。


関わりを持ちたくない人間にも当てはまる。



周囲からの評価が散々だったのにも、頭をブンブンと縦に振ってうなずける。


いっしょに仕事をするにあたって、三輪の周囲の前評判は散々だった。



そのため、大城は、三輪と仕事をするのが、おそろしく不安だった。



はじめの数週間は、なぜ三輪の評判が何故そのように散々だったのかまったく理解出来なかった。



しかし、評判と言うのは、あながち外れてはいない。



むしろ、正しい。



三輪には、人間としての欠落している部分が大いにあった。



人に生活を共にしたくないと思わせるような、そういう類いの資質を持っていた。



そういう人間とそれでもいっしょにいるのは時給が発生しているからに過ぎない。


確実にプライベートでの共有時間は避ける。


著しく避ける。


飲みニケーションとかぜったい無理。


三輪と友人関係を築いているという人間がいるのも不思議に思うくらいだ。


「あー、わたし無理。あの人無理、ほんとに無理」



親しいひとにだけ、大城はそう洩らしていた。



心の底から愚痴る。



最初は許せていた部分も徐々に許せなくなってきた。



違和感を感じていた部分が増幅して、我慢の限界に来ている。



「彼を好きだって言うのは、好意の有無は自由だから仕方ないとして良いけれど、仕事に私情はいかんよ」



「ほんとうに、三輪さんって仕事が出来ないんだ。あの年齢で、あの程度って、いったいこれまでの人生なにして来たんだろう」


「大城にそこまで言わしめるっていうのもすごいことだけどねえ」


「高学歴らしいんだけどね、過去の栄光にすがるおじさんと大差ないからね。もう中身おっさんだよね。レディのかけらが微塵も感じられない。それなのに都合悪いときはシャイ気取っちゃって最悪よ。おこちゃまのなかのおこちゃま。結局、学校がすごいだけで、本人はなんにもすごくないと言う……高学歴を自慢するのに仕事できないって、ないよねー」


「わたしの知っている頭のいい人の特徴がなにひとつない」



「嫌みがどのようにしたら嫌みに取られないかっていうことばをめちゃくちゃ探している自分がしんどい。褒めるにしても、褒める部分がもう、あれで、あれだわ」


「業務妨害も甚だしいって?」



友人が茶化すように言う。



「いやいや、これも仕事の一環ですよ。それが苦痛で仕方ない。職場の雰囲気をあくまで悪くしないようにするのは、社員の勤めだからね」



「まったくの嘘も言えない大城らしいね」



「嘘が言えない性質だから言うけれど、彼女、上司って言うより下司」



「下衆?」



「下司。品性のかけらもないわ」



「あちゃあー」




三輪は、「小」がつく部類の人間である。



小狡い、小賢しい、その他諸々……。



「わたしの嫌いな人種だった」



大城は、三輪が最初からそのような人間だと見極められなかった自分に恥じた。



人を見る目というのは、むずかしい。



「いやいや、最初から本性さらけ出すようなこと、しないでしょうよ」



友人に慰められる。



「それにしても三輪って人も、ずいぶんとわかりやすいものだねえ」



「あーやだやだ、三輪さんのことを、どうしてみんなが悪く言うかわからないと言っていたあの頃の自分をぶん殴りたい」



「三輪さんさあ、人をダシにして自分の好感度とか上げようとする人なんだよね」



「ああ、終わってるね。人として終わってる」



「それ、気付いてないと思ってるんだよね。頭いい人ではないね確実に」



「都合のいいように事実をねじ曲げちゃう、生きていくうえでは幸せだろうけれど、他者に迷惑をかける人間だね」




大城がここまで言うのにも理由がある。




「二日間休みもらいます」



三輪が不意に言った。



「はい、どうぞ」



大城はそんな返事をした。



そんな会話が大城と三輪の間で、数日前に交わされた。



大城は、べつに三輪に興味が無いため、「どこへ行くんですか?」というのも問わなかった。



言いたければ自分で言うだろうと思うし、プライベートには関与したくない。



ことに、三輪とはさほど距離を縮めようとは思わなかった。



俄然がぜん、興味がない。どうでもいい。



三輪はただの職場の人と線引きしている。



その時点で、三輪は計画を企てていたのだった。



会社には防犯カメラが作動しており、どこにいても、すべての部署や支店を確認することができる。



(自分のところのカメラの映像は確認出来ない)



担当の者が出勤しているか、応対中なのかなどがチェックすることが可能である。



社員はこれらを有効的に活用している。



三輪は、その防犯カメラの利用が気持ち悪かった。



それはもうストーカーのように、彼を四六時中チェックしており、大城はそれに辟易していた。



職権乱用も良いところである。悪用である。悪用。



大城はというと、あまり直視すると、逆に仕事に支障を来すため、ほんとうに必要なとき以外は見ないようにしていた。



「あたし、この会社に昔から勤務しているじゃない?」



「はあ」



「当時は、自分のパソコンを会社に持って来ていたから、そのパソコンでもこの監視カメラを見れるの」



(うわあ……なんで言っちゃうんだろうこの人)




三輪が二日間の休みを取っている間は、大城にとってのパラダイス、楽園であった。


三輪がオフィスに居るときは、精神が疲弊してしまい、仕方がない。



「あ、あれ……?」



その監視カメラを見ていたときに衝撃が起きた。



本日休みを取っているはずの三輪が、彼のいる部署のカメラに映っている。



そしてなにやら彼と会話しているのがわかる。



あえて注釈を入れるが、大城はべつに彼のいる部署の部分だけを見ていたわけではない。


監視カメラの全体を眺めているときにこの事件は起きた。



「は?」というのが率直な大城の感想である。



あなた、休日やないの?



言いたいことは山ほどあるけれど、この人になにを言っても無駄だと思えば、閉口せざるを得ない。



この職場、最悪である。



恋愛とかそれ以前に、最悪である。



百年の恋も冷めた瞬間とはまさにこの状態だった。




彼が悪いわけでは決して無いけれど、糞にたかる蠅のようにしか思えない。



もう、これは不衛生だ。きたない。気色が悪い。



ないわ、職場恋愛ないわ。この職場での恋愛は、とくにないわ。



ヤキモチなんていうものじゃなくて、なんて言うかけがらわしいわ。



今後、どのような顔をして三輪に接して行けば良いのだろうと大城は頭を悩ませた。



恋心は人を狂わせるというけれど、狂っている人間を間近で見ると、しょうもないとしか言いようが無い。



見苦しい。



見るに耐えない。



ストーリー的にはここで、ヤキモチとか妬くのがベストなのだろうが、そのような感情よりも先立って、いろいろ萎えた。





『恋に落ちる瞬間』を経験すれば、もちろん、『恋が終わる瞬間』も経験する。



どちらも大城にとっては光のように通り過ぎた。



光陰矢の如し。



ハートに矢が刺さった状態を、恋に落ちた状態と意味したりするが、こんな感じなのだろうか。



ハートで留まらず、矢が貫通して通り過ぎてしまうこともあるのではないだろうか。



ハートにビキビキと亀裂が入っていくのがわかる。



思っているより、時間ははやく過ぎ去って行くものだ。



恋愛の賞味期限も切れるのがはやい。






三輪の残念な点を上げるならば、複数存在する。



三輪という女は、まず高学歴を自慢する女である。



女で知性を売りにするやつには、ろくな奴が居ない。



そして人を小馬鹿にしている態度が鼻につく。



敬語や言葉を間違っただけで、ふんと鼻で笑われる。



もちろん、三輪は間違いを指摘しない。



態度で指し示す。



そういう嫌みなやつなのだ。



大城は、下手に出て、やり過ごすしかない。





「三輪さんって何歳なの?」


「そのひとって、きれい?美人さんなの?」



大城が、三輪について話していたりすると、そのように問われる。



そのたびに、大城はことばに詰まる。



あれ、何歳だっけ?どうでもいいわ。何年生きようが、死んでいようが興味ないわ。むしろ息絶えてくれ。職場に顔を表さなくなるのであれば、喜んでお花を摘みにいきましょう。



あれ、あの人ってきれいなのかしら?きれいの概念がわからなくなってしまうわ。顔も見たくないほど吐き気を常時感じていると言うのに。ストレスで腹がキリキリしている。


興味が無いことの極致きょくちである。


意識しないように、触らないように、と厳重に臭いものにフタをしている状態である。


他人から問われたときに、なにひとつ満足に答えられない。



「きれいか」と問われて、大城は日を改めて、まじまじ三輪の顔を観察してみた。


吐き気がした。


うん、べつに客観的に見てみても、きれいじゃない。


これが結論である。



容姿に関して言えば、好みに分かれる部分が多いのだろうけれど、客観性というものがある。



そこに反映されるうつくしさはない。惹かれる部分もない。



まあ、内面から滲み出る部分が大半を占めるのだろうが。



人間性が麗しくない。


これは決定打である。



外見に即して言わせてもらえば、着ている洋服に関しても、センスを感じられるものではない。



トータル的に、大城の好みではない。



そして学べるところも、数少ない。



尊敬出来るところは、ない。



努力して言い換えるのなら、その人間性でよくぞここまで生き抜いて来たなと思う。



そのような人間性だからこそ生き抜いて来れたのかもしれない。



いい人ほど苦労する世の中なのだ。この世は。



「三輪さんって言うひと、頭が良いの?」



と、問われても、



「はい、三輪さんはとても頭がいいです」



とは、答えられない。



愛想と礼儀ではそう答えることも可能かもしれないが、本心は確実に違う。



三輪の言動ひとつひとつをとっても、あまり知的なものは感じられないのである。



大城の考える頭のいい人は、総じて話の切り返しも上手い。



三輪は、人が不快になるようなことしか言わないのである。



流行のKY(空気読めない)人である。



そして驚くべきことに、仕事の効率が良くない。



終業時間間近にほかの仕事を始めたりして、残業を強いるのである。



大城に対する嫌がらせとしか言いようが無い。






「時間になったら帰って良いのよ」



なんて言いながら、大城を試している。



上司であるわたしが仕事をしているのに、まさか帰らないよね?


と言う裏のことばが隠れている。



三輪は外国かぶれで、とくにフランスと言う国が好きらしい。



外国かぶれによくある、気色悪い性質である。



ことあるごとに、フランス語を用いたり、フランスを好きな自分を演出する。



フランスと言う国を批判する気は、まったくないのだが、三輪という人間に好かれているだけで、フランス国の株は下がる。



フランスの悪いところを挙げるとしたら、サービスの悪さがまず挙げられる。



これらはぜんぶ、妄信的に敬愛している三輪にも通ずるものがあると思う。



どこか共通する部分があるからこそ、好きなのだろう。



フランスでは、レストランなどでも、手を挙げたり、視線があったり、声で呼んだりしても、店員さんが来てくれるのは異例であり、期待してはいけない、と言われている。



三輪にも漏れなく、そういうところが見受けられる。



三輪に、なにかを期待しても無駄である。




「フランスって、時間にルーズと言われているけれど、終業時間には的確じゃなかったっけ?」



「まあ、間近に閉めちゃったりするところもあるよね」



「時間にきっちりしているのって日本くらいのものよ」



「三輪さんさ、わたしが5分前とかに片付け始めると、しらっとするの」



「いるよね、そういう人」



「よく考えたら、フランスって犬の糞だらけだよね」



「ああ、問題になってるね」



「何でもかんでもフランスがいちばんだと思っている」



ああ、ぜんぶがぜんぶ、三輪に通ずるものだと大城は思った。



三輪は、自分がいちばんだと思っている。



三輪の世界では、三輪がすべてなのである。



「三輪さんと仲良くやっていくにはどうしたらいいかな?」



「あらえらい。仲良くやっていこうと思ってるのね」



「仕方がないんだよ」



「だいじょうぶ、慣れるよ」



「慣れるかなあ、あれに……あれに?慣れたらこの世の終わりだよ」



「慣れってすごいことだと思うよ」



「他人事やめて」



「行動様式をうまく理解して、それにある程度合わせること。就業中の忍耐だよ」



「自分がすべてっていう人だから、大城のやることに、いちいち小さな口出しはしないんじゃない?」



「どうせ三輪さんっていう人は、彼のことが好きなんだし、大城の彼に対する行動以外は、彼の行動しか気に留めないでしょう」



「適度に放っておかれて、干渉されずに自分のペースで生きていけるというのは、けっこう楽なもんよ」



「そういうものと思ってしまえば腹も……まあ、そのときは立つけれど、あとで笑い話にできるようにはなるよ」



「そういうものかなあ……そうなるといいね」





「慣れるまでがしんどいんだよなあ」



「柔軟に対応することが大事だよ」




そう言って、大城を慰めてくれる友人。




三輪は、プライドが高くて、虚栄的な人間である。



大城は、それを動物園で見ているような心持ちである。



なにか心疾しいことがあると、やけにテンションが高かったり、親切だったりする。



なんと浅ましい人間だろうか。



見ていてこんなに単純であればおもしろいかもしれない。しかしながら、長時間共に居たくはない。



おもしろいと言ってみたけれど、それは共に過ごす時間を苦痛としないための逃げ口上である。




「ねえ、三輪さんからお菓子もらった」




よくある職場での菓子譲渡のやりとり。



大城は、菓子をもらうことは嫌いではなかったが、このような下心ありの菓子は、気持ちが悪くて、自分で食べることはしない。



それにセンスが感じられないし、大城の好みの菓子ではない。



そのまま友人に渡す。



「ああ、なんかあったんだ」



友人はそんな大城のことを知っているため、何食わぬ顔をして菓子を受け取る。



こういうときは、第三者を介するのがいちばんである。




「彼女って行動のすべてが無償じゃないよね」



「ぜんぶ打算なんじゃない?」



「なんかウケる」



「ウケないよ、疲れる」



「ほら、慣れるんでしょ。がんばらなきゃ」



「慣れるのにがんばるもなにも、無いでしょうよ」



「ぜんぶが彼に向かってるんでしょ?一途で良いじゃない」



「ああ、ほんとうにかわいい、純情な一途だったらどんなに良いことか」



けなすことばも見当たらないと」



「うん、なんかねけなすのもかわいそうだよね。なんか、とりあえず見苦しくて、見ていられない」




大城は、三輪と言う人間と居るのが苦痛ではあったが、まあ、無心にしていればなんともないと思える程度であった。



そう、まだ我慢出来る。


そのうち我慢出来なくなる日が来るかもしれない。



それまではがんばろうと自分に言い聞かせている。



相手に気付かれない程度に距離を置いていこうと思う。



それは大城が苦手な人間に出会ったときの処世術であった。



相手を傷つけると角が立つ。



あくまで自然に。



自然消滅は素晴らしい。



いつの間にか、すべての感情が淘汰されているのだから。




職場の時計を見上げる。



三輪が何やらごそごそとまた、あらたな動きをし始める。



大城は、ふかく溜め息をついた。



まただよ。



終業時間間際になって、新たにべつの仕事をしだす三輪。



大城は、それが三輪の嫌がらせだと感づいた。



これまでもそんな気がしていて、こいつ大人げねえなと思いながらも多少は付き合っていたが、もうあまり付き合う義理も無い。



定刻で帰宅させてもらう。



必要以上の親切をする気にもならなくなったのは、大城の負担の軽減にはなった。






また別のある日。



彼の出勤時間がいつもより早かったり遅かったりするだけで、三輪のその日の気性が乱れる。



監視カメラを眺めながら「あ、もう来てる」とかそんなことを言うのである。



迷惑極まりないし、なにより気持ちが悪い。



大城は、気持ち悪!と思いながらも、表面上は冷静を装って、「そうなんですねー」と言う。



内心はどん引きである。



大城の内心は大荒れになってゆく。



大城の胃も大荒れになる。



「ああ、さいきん胃が痛い」



いっそ聞こえないふりをしたいのだが、それでは三輪と同等になってしまう。



三輪は、大城が世間話とも言えるような、場を和ませる話題を提供しようと努力したところで、自分の興味のないことであれば、平然と無視を決め込む。


なにこのクソ女。


大人として、社会人としてどうなの?と思うが、三輪はそういう人間である。




彼が来たり来なかったりで、こちらの仕事の進捗が変化するわけではない。



彼のことをお天気屋と大城は思っているが、三輪という女性の場合は、お天気というよりはむしろただの中年女性の癇癪、もしくは更年期と表現したくなる。



もちろん、最大限の憎悪を込めて。



大城は思う。



三輪は、けっきょく何がしたいのだろう。



このひとも恋愛なのだろうか。


ああ、このひとを救うのが恋愛だとしたら、恋愛さまさまである。


こんなクズみたいなやつも、恋愛という魔法にかかれば、まるでシンデレラのように様変わりするというわけか。


うわー、そんな物語ぜひとも読んでみたい。


そんな路線に自分の想像をすべて変えて行こうか。


いっそ三輪物語をここから展開させて見ようかとさえ思う。


クソ女のクソみたいな物語。


何気に需要はあると思う。しかしながら、供給側に多大な負担が強いられるのは必須である。


大城の思い描いている恋愛とは、かけ離れているようだ。



三輪のことを、周囲の人間が「変わっている」と表現していたのを思い出す。



大城のなかで、「変わっている」は褒め言葉にもなり得る言葉なので、捉え方に苦労した。



「変わっている」は、ことばに窮したときにも使われる。



他と違って個性的、というのは褒め言葉に使えるが、適応障害的な、周りと馴染めない「変わっている」は、良いとは言えない。



ふと、大城が見た三輪のパソコンに表示されていたサイトに、また大城は幻滅を覚える。



「仕事のできない人の特徴と、その対処法」



「気難しい自分との付き合いかた」



「コミュニケーション能力のつちかいかた」



見てしまった自分に後悔する。



ずいぶんと嫌なものを見てしまった。



見なきゃよかった。



よくもまあ、人の感情を逆撫でするものである。


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