番外編8 ドリームカジノで一儲けせよ!〈前半〉【8000PV Thanks!】 ※mission4-14以降




「二千、三千……うーん、そろそろ厳しいわね」


 街道の途中で休憩をしていると、アイラが鞄の中を眺めながらため息を吐いた。


「どうしたのアイラ?」


「実はそろそろ旅の資金が底を尽きそうなのよ。次の街に移動するのに一人二千ソルは必要なんだけど、それを使ったら一日の食費分も残らないわ」


「ええっ、いつの間にそんな」


 しかし考えてみれば十分に心当たりがある。


 義賊というのは安定した収入がある職業ではない。稼ぐ手段はミッションの報酬をもらうか、倒した破壊の眷属が落とす小銭を拾うかの主に二つ。そもそも自分たちの財布が潤っていたら義賊の定義とは何なのだという話になってしまう。


 それに、王族のユナから見てもルカたちの旅は出費が多かった。ミッションのための交通費は自費負担、食費や宿代の他にも破壊の眷属と戦った後は傷んだ防具を修理に出すことが多々ある。おまけにアイラのタバコ代とルカの衝動買いの品々……積もり積もればそれなりの出費だ。


「しょうがない、一旦今のミッションは中止にして、資金稼ぎミッションに切り替えるか」


 そう言ってルカはアイラに目配せする。アイラは「そうするしかないわね」と言ってコートのポケットからサンド二号を取り出した。両手で挟むようにして叩くと、ボンッと音を立てて白煙が湧き上がり、サンド二号が人の顔の大きさくらいまで巨大化した。


「はぁい、アイラ姐さん! 今日はどういったご用件で?」


「ミッションキャンセルよ。代わりに資金稼ぎミッションを用意してほしいの」


「了解! 本部と通信しはる間、ちょいと待っててや!」


 サンド二号の耳がピンと縦に立ち、ぬいぐるみは浅葱色の光に包まれた。


「ねぇ、資金稼ぎミッションってどういうのなの?」


 ユナがルカに尋ねる。


「ああごめん、説明してなかったよな。義賊ってのは割とすぐ資金難になるから、便利屋みたいなミッションで資金稼ぎすることがけっこうあるんだ。その時々で色んなミッションがあって内容によって報酬も様々なんだよ。例えば」


 ルカの言葉の途中、それまで黙っていたリュウが口を開いた。


「俺がこの前にやったのは害虫駆除ミッションだったな。あれはなかなかに手応えがあったぞ。家中に沸く黒光りの甲虫を駆逐するのだ。ただの虫と侮ってはいけない。奴ら見かけによらずすばしこく、危機察知能力にも優れている。俺が殴りかかるとすかさず飛んで応戦し――」


 ユナの顔から血の気が引いていくのに構わず、リュウは武勇伝を語るかのように誇らしげな顔で続ける。


「目に見える虫を全て排除したと思ったが……それは今考えてみれば闘いの始まりに過ぎなかった。奴らは第二陣を軒下に構えていたのだ! そこで俺は奴らを一斉排除すべく床をかち割り」


「それ結局弁償代とトントンになったやつだろ」


「金には変え難い達成感は得られたがな」


 ふんと鼻を鳴らすリュウに、ルカは呆れて肩を落とした。散々な話を聞かされて、ユナの顔は暗い。


「資金稼ぎミッション……大変そうだなぁ」


「ま、まぁ、もっと地道なやつもあるよ。一人暮らしのおばあちゃんの手伝いとか。クレイジーとかは面倒だって言って一回で大金が入る暗殺ミッションをやってるって噂だけど」


 言い終えてルカはハッとした。ユナの表情は更に曇り、じとっとした視線でこちらを見ている。


 その時だった。




――ピーッ! ガーガーガー。ピピッ! ガーッ!




 サンド二号が奇妙な音を立てて口から一枚の紙を吐き出した。ミッションシートが発行される時はここまで変な音は鳴らないはずだが。アイラが故障かしらと言ってサンド二号の背中を叩くと、ぬいぐるみはいつも通り「ひゃん!」と裏返った嬌声をあげた。


「ミッションシート、だよな……?」


 一行はサンド二号から吐き出された紙を覗き込む。



—————————————————

特別ミッション:ドリームカジノで一儲けせよ!


【目的地】

ドリームカジノ(座標不明)


【任務概要】

そこの資金難に苛む諸君!

その運の良さに喜びたまえ!

君たちだけに特別な招待状をお届けしよう。

君たちをいざなうのは――その名もドリームカジノ。

一筋の藁しか持たぬ貧民から、黄金の冠戴く王族まで。

我々は来るもの拒まず、長者を夢見る者全てに門を開こう。

さぁ、一攫千金の機会を掴むのだ!


【支給品】

・ドリームカジノへのチケット

・ウェルカムチップ

・ドリームカジノの正装


【報酬】

運次第


(文責:オーナー・G)

—————————————————



「何これ……? "オーナー・G"って誰よ」


「イタズラか? 怪しいな」


 ブラック・クロス本部から発行されたとは思えないミッションシートを訝しんでいる最中さなか、サンド二号がまた奇妙な音を立てて口から支給品を吐き出した。金色のチケットに、カジノに合うような正装一式、それに緑色のコインだ。ルカはそのコインを手に取って指で弾いてみる。すると……



――ゴゴゴゴゴ……



 地響きのような音がして、街道の地面から二本の金色の支柱が突如現れた。二本の支柱の先端はアーチ状に伸び、そこにはネオンの光で「Welcome」の文字。どうやらカジノの門らしい。


「なんか面白くなってきたぞ……!」


 ルカの方を振り返りユナはぎょっとした。紫色のジャケットに白いシャツ。頭のバンダナはスカーフのように襟元へ。いつのまにか着替えて準備は万端。ルカの好奇心スイッチが入ってしまったようだ。


「カジノと言えば勝負事……! ふむ、己の運勢の強さを確かめる機会か……それもまたありだな」


 リュウもすっかり乗り気で、萌黄色の蝶ネクタイのついたベストを着ている。


「やれやれ……どうして男ってのはギャンブルが好きなのかしらね」


 そう言ってタバコをふかしながら臙脂色のロングドレスに身を包み、長いウェーブがかった髪をまとめているアイラ。


「まぁ……害虫駆除よりはいっか……」


 ユナも流れに逆らうのを諦めて、支給品として届いた薄桃色のパーティドレスに着替える。辺鄙へんぴな街道にはどうにも不似合いな格好だ。


「んじゃ行くぞ!ドリームカジノへ!」


 ルカが意気揚々と声をあげ、門の下をくぐる。門の向こう側からは眩い光が出迎え、ユナは思わず目を覆った。ようやく光の強さに慣れてきて、ゆっくりとまばたきしてみる。そしてそこに見えたのは――





★続く……9000PV到達時に後編をアップします。




〜8000PV Thanks!〜



by Beni Otoshima (2016.11.23)



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