「隠されていた真実」3

それから俺達は学校に戻り、まだ残ってるサークルの人らを片っ端にあたっていった。聞き込みを開始して直ぐ、出逢う前の知らなかった彼女の事を聞くことになる。パズルのピースでも集めていくみたいに、どんどん周りが知る彼女が出来上がっていった。



何故ならば彼女は、このサークルではちょっとした有名人だったから。



「ああ、花姉はなねえ?あの人マジで熱いよ!1度彼氏の相談に乗ってもらった事があるんだけど、話してる途中で本気で切れ出してさぁ、彼氏呼び出して説教し出したんだよ?超焦ったよ」



「花さん?美人だけど恐いっすよねぇ!俺ポイ捨てした瞬間に殴られましたもん。だけど恐いだけじゃなくて説得力あるから、俺は好きですよ」



「七瀬さんって確か、親が居ない子供達のボランティアしてましたよ?その話に胸打たれたサークルのメンバーも何人か手伝いに行きましたもん」



「実は俺、昔好きだっだことがあって告白したんだよね。だけどあっさり“ごめん!”って言われたんだよ。だけどその後気まずくなるような事もなく普通に接してくれて、おまけに女の子まで紹介してくれんだ。今その子と付き合ってるんだけど――。」


「その彼女は、花のことなんか知らない?」


「いや、紹介って言っても、皆で居酒屋に行った時に離れた席に座ってた子で、可愛いなぁって言ってたら花さんがナンパしに行ったんだ」



なんて仰天エピソードまで聞くことが出来た。

とにかく、人望があって熱くて、皆のお姉さん的存在だったんだなと思う。

だけど現在の彼女を知る人には会えなかった。



「まさかこんなにも花が有名だとは思わなかったわ。誰からも聞いたことねーし」


「まあ、OGだし、こっちが花さんを知らなければ語ってくる事もあまりないだろ。それにしても俺は同じサークルだったから、もっと参加しとくべきだったよ」



いまだ居場所はつかめないけど、俺が知る彼女に間違いはなかったという安堵感はある。人を騙して傷付けるような人間ではないという事が確信に変った。



辺りはもう真っ暗になっている。今日はこの辺りで切り上げようと話していると、突然甲高い声で呼び止められた。



「えっと、横山、くん?」



振り返ると誰も居ない。

きょろきょろ辺りを見回し、目線を下に落としてみてぎょっとした。

信じられないくらい小さな女子が居たからだ。恐らく150cmもない。



「ちっさ!」



思わず心の声が漏れてしまうと、その子はビクッと体を飛び上がらせ小動物のように肩を竦め怯え出す。腰の辺りまである長い髪は、くせっ毛なのかふわっとしていて、小さい上に細いからとてもじゃないけど大学生には見えない。

丸くてつぶらな目を泳がせながら、上目遣いで見つめてきていた。



「ごめん、そんな恐がんないでよ。あまりにも身長小さくてビックリしちゃってさ。俺に何か用?」



するとその子はこくんと小さく頷き、神妙な面持ちで口を開いた。



「私、一ノ瀬亜美いちのせ あみって言います。えっと、さっき話してるの聞いちゃって―― 花って、七瀬花さんのことですか?」


「え!?花と知り合いなの?何か知ってる?」


「あ、あの、知ってるというか、私も捜してて。私、WAKI《わき》で部長やってるから」


「ええ!?」



この見るからに頼りなさそうな子が部長?それで成り立つのか?なんて失礼なことを考えた。圭太にふと目線を移すと、同じく驚いたように目を丸くさせている。



「圭太おまえ、部長も知らなかったのか?」


「えーっと、うん」



気まずそうにそう言う圭太を、一ノ瀬さんはハッとしたような顔で見つめた。



「圭太って、もしかしてレアキャラの南田君?」


「レアキャラ?」


「うん、サークルに滅多に現れないから、皆がレアキャラって呼んでた」


「俺はゲームか何かか」



呆れるように笑う圭太を横目に、部長なら何か知ってるかもしれないという思いが過ぎる。



「一ノ瀬さん!」


「は、はい」


「さっき捜してるって言ってたよな?実は俺、その花と付き合ってるんだけどさ、こっちも突然連絡が取れなくなって困ってんだ」



一ノ瀬さんは、驚きと動揺が入り混じったように口をぱくぱくさせる。

そして相変わらずあまり目を合わせずに言う。



「あの横山君が、花さんと?」


「えっと、あのって一体どういう意味で?」


「え、えっと、女の子をもてあそぶ恐い人だって聞きました」



だからさっきから怯えてるのか?だけど圭太に対しても同じような素振りからすると、単純にこういう性格なのかなとも思う。



「あの、いつから付き合ってたんですか?」


「本当最近なんだけど、この夏くらいから」


「じゃあ、花さんが7月の終わり頃に一度戻った時、あの時は大丈夫だったって事?」



戻った?何の事を言っているのか検討もつかず思わず黙った。あの頃確かに1度居なくなったけど、俺の元に戻ったっていう意味じゃなさそうだ。



「えっと、戻ったってどういう意味?」


「え―― 病院にです」


「病院?」



俺の反応を見た一ノ瀬さんは、パッと小さな手で口を押さえた。そして再び怯えるような眼差しで見つめてくる。



「横山君、知らないんだね。あ、あの、私もう行かないと」



そう言って不自然なタイミングで慌てふためき出した。

そしてちょこちょこっと足早に立ち去ろうとする。慌てて後を追って引き止めた。



「待って一ノ瀬さん、俺本気で捜してんだよ。その病院の話し聞かせてくんない?」



俺に掴まれた腕を驚くように凝視した後、顔を赤くして振り解いた。そして何故か圭太の後ろに隠れてしまう。



「だ、だけど、花さんが言わなかったってことは、内緒の事だと思うの――。」


「いいから教えて。一ノ瀬さんも捜してるんだろ?情報共有しなきゃ見つからないって」



圭太はふっと優しく笑い、一ノ瀬さんの肩に手を置いた。



「大丈夫だよ、大輝は悪い奴じゃないから。花さんとは真剣に付き合ってたし」



暫くは不安な表情のままだったけど、恐る恐るといった様子で再び俺の前に立つ。

もじもじしながら言うのを躊躇うその姿は、本当に子供のようだった。

顔を上げた時、いまにも泣きそうな表情に変わる。



「――花さんね、病気なの」


「病気?」


「うん―― 白血病と同じ種類みたいなんだけど、その中でもとても珍しい血液の病気」



頭がついていかなかった。考えてもなかったその真実に驚き、返す言葉が何も出ない。すると、慌てる様子で圭太が割って入ってきた。



「それって助かる病気なんだよね?」


「難しいの――。 さっき言った様に珍しい病気だから、ずっと花さんに合う骨髄のドナーが見付からないって言ってた」



何を言われても全く理解出来ず、つたない口調で話す一ノ瀬さんを見つめることしか出来なかった。

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