第8章 隠されていた真実
「隠されていた真実」1
いつもより長く一緒に過ごしたあの日の帰り、車で家まで送ったことにより彼女の家を始めて知ることになる。自分ん
新しそうな真っ白な外壁の2階建てアパート。周りはやたら空き地が多いし、駅から少し離れていることもあって
「へぇ、此処に住んでんだな。花の部屋見せてよ」
「今度ね。明日こそはちゃんと学校に行かないと」
「残念だけど分かった」
車から降りた時、彼女はふらっとよろけるような素振りで地面に座り込む。
「え?おい、大丈夫か?」
「――平気。君とばかり居すぎたかな?なんだか一気に疲労感が」
「おいおい」
彼女はけらけらと笑い、ゆっくり立ち上がった。
「嘘、最高の二日間だったよ。ありがとう」
「またな。ちゃんと家に入ったの見届けてから行く」
「君ってそんなに心配性だった?」
「いいから」
そう言って早く行けと合図すると、笑顔で手を振りながらアパートの方へ小走りしていった。どうやら彼女の部屋は2階にあるようだ。そこに着くともう1度振り返って手を振ってきた。それに応え、中に入ったのを確認してから車を発進させる。
彼女が言ってくれた“最高の二日間”それは俺にもいえることだった。
帰り道は疲労感よりも、何か物足りないような気持ちになる。長く一緒に居て飽きるなんて
本当は今すぐUターンして、再び彼女を抱き締めたかった。
いつも一緒に居たい。傍に居ないと逆に落ち着かない。そんな感情を初めて知ることになる。だが体は疲れていたようで、家に着いたらすぐに眠っていた。
そして、不思議な夢を見た。彼女が目の前に居るけど、何故か半透明で、何度目を擦ってみてもハッキリ見えない。手を伸ばして触れてみる。
するとそれに応えるように手を握ってきた。そして悲しげな表情でじっと見つめてくる。声を出そうとしても出せなくて、とにかく目を凝らして彼女を見た。
すると彼女は口パクで“ごめん”と言う。
聞き返そうとしても出来なくて、もどかしさと何とも言えない切なさを感じたところで目が覚めた。
翌朝、大学へ向かう途中に彼女にメールを送った。
現実に戻されたように講義を受けながら、昨日の全てが夢だったような気持ちになっている。携帯電話をちらっと見て、返事が来ていないかを確認した。だけど何の変化もなく、なんならこの動作をさっきから何度も繰り返している。
そりゃさすがに疲れたかな、色々な場所に行ったしまだ寝てるのかもしれない。
自分に言い聞かせるようにそう思い、昼に食堂に行くと圭太が現れた。
「おぃーっす、昨日なんで休んだ?」
「ああ、花と居た」
「だと思ったよ。あ、そうだ、花さん怒ってた?」
「何を?」
「デート中に呼び出しちゃったことをさ。昨日の夜に花さんにメールしたんだけど、返事が来ないから怒ってんのかと思って」
「マジ?じゃあ嫌われたんじゃね?」
「おい」
その時は適当にそう流したが、気になったので再び彼女にメールを送った。
だけど、夜になっても次の日になっても返事はない。
さすがに気になって電話を掛けてみたが――
『電源が入っていない為、かかりません』
まただ、またあの日と同じ。突然消えた10日間を思い出し、嫌な予感で胸騒ぎがする。それから何度掛けても電源が入っていることはなく、夏休みが終わって学校も通常通り始まった。
この不安感は一人じゃ抱えきれない。思い切って圭太に話すことにした。
「なあ、花と連絡取れた?」
「え?大輝も連絡取れねーってこと?」
「ああ、なんか知らねーけどいつも電源切れてんだよ」
「うーん、またただの気まぐれならいいんだけど。心配だから俺も掛けてみるよ」
「おう、助かる」
本当にただの気まぐれならいい。だけど、10日間消えたあの頃と状況は違う。付き合ってんのに連絡一切よこさないとは、一体どういう神経してんだ。
そんな怒りを覚えつつも、あの日言った彼女の言葉が頭から離れない。
『あたしは君に、酷い事をしてる』
どんな酷い事だ?正直、付き合っていても彼女の全てを知っていた訳じゃない。
彼女はいつも傍に居た。だけど掴めない様な、何となく遠くに感じる事がある。
付き合えても考えてることは到底分からない。そう思っていたが、1つだけ、付き合ってから分かった事があった。
それは、彼女が俺との未来を終わるものだと思っているということ。
それが凄く腹立たしくて、そして悲しかった。
この苛立ちと悲しみを拭うため、手っ取り早く稼げそうなイベント会場の短期アルバイトに登録した。体動かしてれば少しでも気が紛れると思ったのと、どうしても買いたい物があった。
彼女に指輪をあげたかった。
遊ばないで働くなんて性に合わないと思ってたけど、彼女から連絡がない今、時間をどう使っていいか分からないという思いもある。不思議と彼女以外の女と遊びたいとも思わなかった。そう考えると、働くのが1番時間を有効に使える術に思えた。
仕事中も隙さえあれば、何度も連絡が来ていないかをチェックする。だけど相変わらず折り返しはない。“離婚調停中”と書かれたアドレス帳を開いてはため息を吐く日々が続いた。
本当に一体何のつもりなのか、全く意図が読めない。
こんな日々を送っていると嫌でも思い出してしまうのは、彼女と過ごした日々、彼女の言葉ばかりだ。出逢った日にこんなことを言っていた。
『みんな夢中になるの。別れた男は全員、あたしを求めてバカみたいに追い掛け回してくるのよ』
やっぱり詐欺師なのかもしれない。現に俺はこうして、彼女に指輪をプレゼントしたくて働いている。だけど詐欺師だろうがなんだろうが、彼女に対する気持ちは本気だ。偽りようがない。騙されていると分かったとしても、指輪をプレゼントするだろう。そう考えると、この想いはかなり強いものだと思った。
それに、何処かで信じようとする気持ちがあった。
大丈夫、きっとその内連絡がくる。そう言い聞かせて、真面目に学校に通い、汗水たらしてバイトに打ち込んだ。
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