第6章 彼女との初体験
「彼女との初体験」1
気付けばもう、指折り数えられる程しか夏休みという日は残っていない。
寒い日がこれからやってくるなんて想像も出来ないくらい暑い日が続いた。
飲みに行ったあの日から、圭太のバイトが休みの日は三人で遊ぶという事が日課となっている。彼女は三人で遊ぶのをいつも楽しみにしていた。
が、
ハッキリ言うと、残り少ない夏休みは二人だけで会いたい。
だけど、二人で会っても三人で会ってもあまり変わりはなかった。
何故ならば、付き合ってからも彼女に手を出せないでいたからだ。
ヘタレと言われそうなので、圭太どころか誰にも言えない悩みの種となっている。
そういう気にならない訳じゃなく、彼女に嫌われたり居なくなられたりするのを避けたいという思いからだった。以前は、その気になれないなんてよっぽど彼女に興味がないのだろうと思っていたが、今はそれが間違いだというのが分かる。これまでとは違う真剣な恋愛なんだと気付いた。
だが彼女には謎や秘密が多すぎる。解き明かそうとするとこれまた手強い。
上手いことベラベラ喋って誤魔化すか切れるかのどちらかだからだ。
日に日に彼女の全てが知りたくなっていた。
そんな中、3人で約束していた日に、圭太の彼女の唯ちゃんが
学校もないし1日中一緒に居られる。
この際夏休みらしい場所に行こうと、彼女の要望で遊園地のプールに行く事となった。
俺は今、プールの入り口で落ち着き無く右へ左へと移動している所。
傍ではお待たせと言ってイチャつきながら消えていくカップルがちらほら居る。
彼女の水着姿が楽しみなことは勿論、そんなことよりも心配している事があった。
それは、今日1日何処まで理性を保てるかという事だ。
今まで抑え付けていた欲求が爆発してしまいそうで自分が恐い。
そんな不安感に苛まれている。
「ジャーン!」
突然背後から聞こえた声にビクッとした。振り返るとそこには、水着姿の彼女が居た。花柄のピンク色のビキニで、胸の谷間にくびれたウェストが何にも邪魔されずよく見える。
我慢しようと思っても嫌でも顔がにやけてしまう。
だけどこの気持ちを悟られまいと、なんとかして気丈に振舞うことにした。
「いんじゃね?」
素っ気なくそう言って目を背けると、突然抱き付いてこられた。
「いんじゃね?それだけ?」
ちょ―― 胸当たってるし。まじでムラっとくるから止めろ!そう思い慌てて彼女を突き放した。
「可愛い可愛い」
「感じ悪ーい。もしナンパされたらついてっちゃうからね」
「は?それだけはぜってぇ駄目だから、マジで阻止するから」
こんな可愛い水着姿を他の男に見られるだけでも嫌なのに、ついて行くだ?
ついてったらその男をぶん殴るぞ俺は。
苛付いてきたので、お陰でムラムラもおさまってきた。だがその時――
「好き」
そう言って、軽くだけどキスをしてきた。
ヤバイ――。
このままじゃ彼女を犯してしまいそうだ。
なるべく彼女を直視しないよう、そして接近しないよう心がけた。
だけど嫌でも目が行ってしまう。本当に年上なのか?という程に艶ある肌。
髪を一つに纏め、彼女のうなじが見える。ビキニ姿でニコニコ笑う彼女――
限界が近い。
終始欲望と闘っていたその時、ビーチボールが頭にポンッと当たる。
「いて」
どうやら彼女が投げつけてきたようだ。少し離れた場所からにこにこしながら言った。
「アハハ、ばーか!」
駄目だ!今日は何をされてもムカつかない。
彼女の仕草、表情、言葉、その全てが可愛くて可愛くて仕方なく思える。
「ねぇ、喉渇いた」
「あ、俺なんか買ってくるわ」
チャンスだと思った。自分を落ち着かせる絶好のチャンス。
すたすたと足早に売店に向かった。
少し離れて1人にならないと、このままじゃ本当にマズイ。
無理やり襲ってフラれたりしたら洒落にならない。
ドリンク売り場に着いて飲み物を二つ買った。
直ぐに彼女のもとに戻らず、その場で肩を落としてはあっとため息を吐く。
何度かキスの後そういう雰囲気にはなったけど、いつもはぐらかされてしまう。
嫌われたくないし強引にはいかなかったけど、今日こそは本気でヤベェなこりゃ。
どうしたら理性を保てるかと考え込んだ。
「あのぉ――。」
するとその時、突然見知らぬ女二人に話し掛けられた。
二人とも清楚な雰囲気で、白い肌に黒髪が映えている。
おまけに胸が大きくて、グラビアアイドルみたいな外見だ。
だが頭の中が彼女でいっぱいだった俺は、下心などは感じず、逆に現実に引き戻されたような感覚に陥る。その子達は一見する所同じ歳くらい。なんだか知らないが、2人で何かこそこそ話した後に俺に目を向けた。
「大学生?」
「え?あ、うん」
「どこ校?うちらS女なんだー」
「え、そうなんだ。めちゃめちゃお嬢様校じゃん」
成る程、さすがS女だなと思う。かつて遊んでた頃はS女の女を狙っていた。
俺等の学校ではS女の女といや、可愛いお嬢様ばかりで高嶺の花的存在だ。
だが今はそんなことどうでもいい。
「えっと、何か用?」
そう聞くと、女二人はお互いの顔を見合ってから、意を決したように口を開いた。
「実は―― さっきから格好良いねぇって二人で話してて」
「良かったら一緒に遊ばない?」
女2人を見つめ、まるで時が止まったかのようにフリーズした。
まじで?逆ナン?彼女が他の男に狙われていないかと心配だったので、
まさか自分が狙われていたなんて思わなかった。
やべぇ、S女の女に逆ナンされたぜ?学校中の野郎共に声を大にして自慢してやりてえ。
S女からは何人かタレント、女優が卒業生に居る。その為か読者モデルや女優の卵が多い。この子らもこの外見からして、何かしらの芸能活動をしている気がした。
第一印象通りグラビアアイドルだったりするかもしれない。
色々詳しく話しだけでも聞いて、取り合えず友達になっておこう。
と、まあ、前まではそう考えたんだけど――。
「今、彼女と一緒だから」
そう告げると、途端にがっかりしたような表情を見せた。
「やっぱりー、さっき一緒に居たの彼女だったんだよー」
「えー?じゃあ、友達は?友達になるだけなら良くない?連絡先教えて欲しいなぁ」
2人ともめちゃめちゃ可愛い。だけど不思議だ、全くを持って興味が湧かない。
「や、俺もう行くわ」
「待って、メアドくらいなら彼女も怒らないよ」
ちょっ――。
女が俺の腕を掴んで引き止めてきた。途端にドキドキし出す、慌てる方のドキドキだ。こんな所を彼女に見られて誤解されたらマズイ。
2人とも可愛いし、傍から見たらどう考えても俺がナンパしたっぽいし。
咄嗟に掴まれた手を思い切り振り解いてしまった。そしてそのまま早々とその場を後にした。
「え、酷ーい、連絡先聞いただけで超ウザイんだけどぉ」
背後からそんな声が聞こえる。
だけど本当、何とも思わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます