「出逢い」2

「おい大輝、マズイぞ!」



圭太の声を背に、何事もなかったように扉を開ける。次の瞬間、ちょっとドキッとした。誰に聞いたのか、ストーカー女と今日落とせた女が待ち構えていたのだ。

瞬時に思ったことはただ1つ。



め ん ど く せぇ



酔った彼女の肩を抱く俺を見て、二人は声を揃えて言った。



「「どうゆーこと!?」」



怒鳴り散らす二人と酔った彼女を連れ、クラブの外に出た。

大輝くんだーなんて、外に居る女の子に声を掛けられ笑顔を見せた。

だが目の前の2人は仁王立ちのまま、じっと睨みつけてくる。



「どういうことなの?電話にも出てくれないし!」



と、ストーカー女。

いやいや、そもそも一回寝ただけじゃん?

何でそんな被害者面してるのか理解出来ない。



「この人が彼女って本当なの?彼女居ないって言ってたくせに!」



と、落とせた女。

彼女居ても居なくても、ぶっちゃけどっちでも良くね?

お互いヤリたいと思えばそれでいいだろ。



2人を交互に見つめ、俺の心はどんどん冷めていく。



「大体、そこに居る女は誰なの!?」


「そう、誰なのよ!!」



さっきまで言い争ってた二人が、今度はタッグを組んで俺を責め立てる。

何も言わずに軽くため息を吐くと、怒りの矛先が酔った彼女へと変わった。



「答えないさいよ!あんた誰!?」


「え、あたしぃー?あたしはぁ、七瀬花ななせ はなでぇす」



彼女はヘラっと笑いながら手を振る。

この緊迫した状況でアホな対応をする様子に、なんだかホッとしてしまった。

だけどその態度に腹を立てたのか、女達が酔った彼女に迫り怒鳴り出す。



「名前なんか聞いてねーっつの!」


「おいおい、落ち着けって――。」


「どんな関係かって聞いてんだよ、このヤリマン!」



女がそう叫ぶと、さっきまでヘラヘラ笑ってた彼女の顔が一変、冷たく鋭い目に変わった。俺はそれにギョッとして固まってしまう。

シーンと静まり返る中、彼女は突然笑顔に戻り左手を掲げた。



「この指輪、見える?」



左手の薬指に、シンプルなシルバーの指輪が光っている。

全員がその指輪をじっと見つめた。



「あたし、彼の奥さん」


「え?」



俺は二人の女と同時に彼女を凝視した。

唖然とする中、空気を読まずにそのままベラベラと喋り出した。



「うちの旦那がごめんね?彼いっつもこうなのよね。離婚も考えたけど、やっぱりシングルマザーになるのは大変でしょ?だから子供の為に今は我慢してるの」



大嘘ついているにも関わらず、彼女は悪びれずにどんどん言葉を足していく。



「今日は結婚記念日なのに、何時までたっても帰って来ないから、どうせまた此処に居るんだろうなぁと思って来てみたら、これだもん。もう何回目?って感じ」



そう言って呆れた表情を作った。

女優顔負けの演技力に圧倒され、ある意味釘付けになった。



「あたしと彼が出逢ったのも此処でナンパだったの。彼エッチの時ゴム付けてくれないからすぐ子供出来ちゃって、今に至るってなわけ」



絶句。拍手でも送ってやろうかと思うほど、流暢に話し切りやがった。

俺と一緒に女二人も絶句していたが、我に返ったかのように口を開く。



「こ、子供が居るの?」


「さいってぇー!!」



次の瞬間、二人の平手打ちを順番に喰らった。



「いって!」



女関係で殴られるとか、こんな展開はドラマの中だけだと思っていた。

痛いというよりも、驚きでつい頬を押さえてその場にしゃがみ込む。

こんな目に遭うとは思ってもみなかった。



女達は殴って清々したのか、足早に去って行く。

そんな中、彼女だけがこの場に残り、おまけにくすくす笑っていた。



「信じちゃうんだ?単純だね」



さっきまで酔ってフラついていたのに、今では去り行く女共をじっと見つめしっかりと立っている。なんなら酔っていたのも演技だったのかもしれない。



彼女は長い髪を靡かせながら俺に目を移す。

そして不敵な笑みを見せ、しゃがみ込んで見つめてきた。



クラブの中よりも夜道のが明るいのがこの街。今はハッキリと彼女の顔が見える。

白い肌に長い髪、ふっくらした唇。目力の強い大きい瞳が、じっと俺をとらえていた。



そしてこう言い放った。



「残念な男」



彼女の表情は不敵な笑みのままだ。

何か企んでるんじゃないかと思うほど、何処か妖艶さを漂わせている。



女の言葉なんてほぼ聞いちゃいない。だからこの時は、彼女の言葉の意味なんて分からなかったし、さーっと通り過ぎてしまうほどにどうでもいいことだった。

だからいつも通り、へらっと笑って適当に答える。



「ねー、まじ残念な男だよなぁ。傷付いたから慰めてよ」



この頃の俺は、傷付くという意味もよく理解していない。

きっと彼女は、そんな俺の事を見透かしていたのだろう。

そしてこの後の彼女の発言で、俺達は急接近する事となる。



彼女は頬を押さえる俺の手にそっと触れ、そのまま握ってきた。



近くで見る彼女の肌はきめ細やかで、澄んだ茶色の瞳も見とれるほど綺麗だ。

何もかもに吸い込まれていきそうな感覚に陥っていく。



ぼーっと見とれていると、彼女は日常会話のようにさらっと言った。



「いいよ、ホテル行こっか」



あまりにもサラッとしすぎていて、聞き間違えたのかとさえ思った。



ホテル――。

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