第2話 渚の野望
鈍いってことはさておき、俺も色恋じゃなくなぎさのことは好きだよ。
お前たしか知らないよなぁ。
あいつなんでも小学生の頃あんまりにも喧嘩が多いんで注意されたんだって、(当たり前だ)で、そん時の先生の言ったことがたしかこうだった。
「なぎさが女の子だからけんかしないようにとか先生は言わない。先生もいつも奥さんにはやりこまれているし先生より女子の柔道選手とかのほうが強いだろう。でもそれで楽しいか?力で言うことを聞いてくれる人はしょせんそれまでだ。なぎさが好きな人が、なぎさの言うことを聞いてくれるほうが楽しいと先生は思う。なぎさの好きな人はだれだい?」
ようは女らしくしろを遠まわしに言おうとしたんだろうが、なぎさの返事は先生の考えなんかはるかに上回ってた。
「クラスのみんな」
「はぁ?」
先生は耳を疑ったね、でもすぐとりつくろった。
「そうだね、先生もクラスのみんなが好きだよ」
「よっちゃんは花が好きでやさしいからすき、たいくんはけんかつよくてけんかするとたのしいからすき、みほちゃんはみんなあんまりはなさないけどおりがみすごいうまいよ、けいたはでんしゃくわしいし、それから……」
先生は困り果てた、でもさらに困ることをなぎさは言ったそうで。
「そうだ、先生。わたし学級委員になる!そしたらみんなにいうこときいてもらえる!」
……で、なぎさはガキ大将かつ学級委員という最強キャラになり、そのままおもしろがった先生に児童会とかまかされることとなり、中学のときはその地盤を使って副会長となり、今にいたるって話。
まぁ、たしかにあいつ結構努力家よ。ただもうちょっと別な努力したほうがいいかもだけど。
俺らに対しても、例えば洋に注意するのもやっぱ心配してくれてるのな。
あ、ってことは洋希望持ってていいのかもな。
……まぁ、なぎさがなぎさじゃ進展どうのこうのは無理か……。
なんでお前にそんな話するかってお前が「この高校で一番怖い奴」なんて聞いてきたからじゃねぇか!
それでもあれだな、お前知ってるか、今度から十八歳以上選挙権になって、十八歳以上から政治活動が可になったんだよ。
あれさ、実際「十八歳以上に選挙権を」って運動した高校生たちがいて、そいつらの運動になんでもなぎさが共鳴受けてちょっと手伝ったって話だぞ。
あいつとうとう生徒会じゃ飽き足らなくなったのか。
あぁ、まぁ、そうだな。あいつが人のために働くのが好きなのはわかるよ、たしかにあいつはいいやつだ。でもさ、なんつうかなぎさどっかで威張るのたのしんでねぇ?あ、う~ん、たしかに威張りたい奴には威張らせておいて「あぁそうですか」なんて生返事して見てないところでベロだしてればいいかもしんないよ、責任ある役をやりたがる奴って結構それだけで貴重な気もするし。
ただなんつうかなぎさみてるとガキ大将がそのまんま大きくなってだな、勢力拡大させてるだけなんじゃないかって気もするし、あぁ見えて世界を平和にするにはとかけっこう真面目に考えてる理想主義者だったりするから、(なるかよ)俺らみたいなのに言うこと聞くふりだけしてればいいんだろみたいな扱いされるのってどうなんだろうな。
まぁで、具体的には十八歳以上選挙権に対しなにしたかって?なぎさが?
あぁ、まぁいうほど大したことはしてないよ、主催はだれだったか国際的な運動してる高校生とかだし(って、高校生でか……)あいつのやったことは、そのうわさをどこからかききつけてだな、……フェィスブックでみつけたんだっけ?でさっそく自分もフェィスブックのアカウント作って、そのアカウント友達申請して、なかなか申請受けられなくて落ち込んだり、つうかあいつも落ち込むのな(笑)落ち込むとあいつは問題の解決策を考えて行動してようはいつもよりよけいなんかやらかすんだけど、その行動がなぁ、また。
十八歳以上選挙権を求めて署名集めてって俺らを巻き込むな!あぁ関心ねぇ!なぎさが怖くて逆らう奴がいないのをいいことに職権乱用するな!この際だから言わせてもらうけどなぎさ小学校とか中学はまだいいけど高校は男子化け物いるからな、また喧嘩しても下手したらあれだぞ、だから女らしくしろとはいわないがせめてもうちょっとあの直球ばっか投げるとこやめろ。あぁでもなんつうか相手の様子ばっかみてこそこそ婉曲的にやるのってなぎさじゃない気はするけど……え?本人に言え?言ってるぞ俺は。
まぁ本人に言ったところで「中学から喧嘩はしてない」し「だから生徒会とか体力以外の力つけたの」なんだけど……中学の武勇伝聞いた時点でたいていのやつは「こいつやばい」って思うだろうし女なんだからもっと違う武器だってあるだろ!
え?武勇伝ってどんなのかって?
なんでも、小学生のころよく決闘状を叩きつけてきた奴が、中学になってからあんまそんなガキくさい遊びはしなくなったそうだ(そりゃそうだ)、それはいいけど、違う小学校からなぎさの通う中学に来たやつらが、なぎさをからかったわけ。
女のくせに威張り散らしてるって。
わかるなぁ。
で、なぎさはキレた。キレて、休憩時間、そのグループのリーダーのこと脚持ってひっくり返し、ぼおっとしてるそいつをさらに投げ飛ばした。
って簡単にいうけど今はそいつここじゃない運動強い高校で相撲部に入ってるほど体格いいやつだからな!
中心人物を投げ飛ばされて茫然となったグループを、なぎさは「次はどいつだ!」ってどなってそのへんの机持ち上げて追っかけまわした。……生徒副会長のやることじゃねぇ、そして女のやることじゃねえ。まず女が(いや、俺の好きなタイプの女は)自分から生徒会なんて立候補しないし、みんなにいわれて「私でいいんですか?」なんていうのならまだしも。それから男にからかわれるようなことまずしないし、仮になんかちょっとやっちゃったとしてもだ、それで男になんか言われたら泣いてればいいんだよ、それから……。
そう!まさしくアイドルのARISAみたいに!
あぁごめん俺の好みの大和撫子のこと話しだしちゃったな。
え?じゃあこないだいってた「俺の気になる人」って大和撫子かって?お前もよく覚えてるなぁ。
……違うって言ったらなんて言う。
あぁ!もう!この話じゃない。
なんでこんなになぎさの話ばっかりすんだっけ?わかった、お前さてはなぎさ好きだろ?あぁやめとけやめとけ、あいつ見た目はそこそこだけどいかんせんそういうわけだから、って何?俺がなぎさのはなしばっかしてる?
そりゃお前、クラスの違うお前と共通のかつあたりさわりのない話題だからだよ。
でだ、なんの話だっけ?あぁ十八歳以上選挙権。あれほどどうでもいい話ねぇけどな、だって俺らが何言ったって世間なんか変わるわけないし。
例えばなんか通したい意見があって、声を上げたとしても実際問題多数意見じゃなきゃ聞いてもらえないんだろ?そのうえどうせなんか上の色々な思惑とかなんかで変わって欲しいものもかわんないんだろ?なんかキトクケンエキっていうのを持ってる奴がいて、そいつをおびやかすものならなんであれ通らないって何かで聞いた。権利ってあれか?世界に権利っていうものは限りがあって誰かにあげると誰かのが少なくなるのか?んなわけないってなぎさはいってたなぁ、まぁいいや。権利を誰かが欲しいっていうと通らなかったりするのはやっちゃうと持ってる奴の権利の価値が下がるみたいに感じる奴いるからだろ、たぶん。
そんな話はどうでもいいの、俺のキャラじゃないし、だいたい今のほぼ何かの受け売りだから。
でさ、なぎさってなんか「青臭い」んだ、自分が偉くなりたいだけなら、その「キトクケンエキ」とやらに媚売って「すばらしい意見ですね、同意見です♡」なんていってりゃいいのにさぁ。そうじゃないんだ、馬鹿だよあいつ。
まぁ、でもそうやって「それじゃぁなんにも変らないだろ!」なんていっちゃう奴だから、好きだし、友達なんだろうけど。
でまぁフェィスブックで俺等からぶんどった署名を公表したりするうち友達申請はされたそうだ。なんてことない、フェイスブックとかって本人の更新とかのペースあるからな。
でだ、問題はそこからだ。
なんであいつが政治家になりたいなんて言いだすんだよ!
うん、まぁあれだ、あいつはきっと自分の勢力拡大させて喜んでるガキ大将のまんまなんだよ。でもいきなりすぎるだろ!
こないだ言ってきたんだよ。
「お前らの署名のお陰もあってか十八歳以上選挙権通ったみたいだな、よかった、ありがとう」
「いっとくけど意見が通ったわけじゃないぞ、あれはなんでもアンポホウアンとか言うやつを自民党が通すためにケンポウカイセイとかが必要とかでっていう大人の思惑でそうなったんだからな」
「……あぁ、んまぁ、知ってる」
そう返事するなぎさはうつむいていつもの勢いがない。
「なんだしおらしいな?お前らしくない」
俺の声にようやく顔を上げるとこう言った。
「なぁ、松助、あれか?ネットの掲示板で見たんだけど、若者が何言っても、大人なんて嘘つきだから、どっちにせよ戦争できる国にするつもりなんじゃって噂どう思う?」
あぁ……なんかその「やくそくが違う」感じ汚い大人がやりそうだよなぁ。
「てか、お前でもあの掲示板見るのか?」
あの掲示板な、てかこいつ確かTVもネットもそんなにはくわしくないんだけど。(俺や洋と知り合うまでYoutubeも見たことないとか言ってた)
「いや、たまたま検索したら出てきた、邪魔だなぁと思ったぐらいで、あのなんか、嘘も書いてあるって話のとこ」
こいつパソコン苦手だからなぁ、検索するとき掲示板でないようにする操作知らないと見た。
「で、信じる?」
俺は明快に答えた
「いやぁ、でも自民党のいうこと丸のみも変だろ。なぁ松助、約束破ると信用なくすよな?なんでじゃあみんな自民党なんだろう?」
「現状維持が好きか、自分がかわいいんだろ。噂なんて信じるか?なぁ?」
自民たたきはともかく、こいつは噂なんか信じないだろう、まぁなぎさは単純で周りを気にしないのがいいとこなんだよな。
「でも私今回のことでちょっと考えることがあってさぁ」
「うん何」
なぎさでも考えるのか、なんか考えなしに突っ込んでくイメージしかないけど。
「選挙で投票するのもいい意見表明だな、署名も。でも署名してもそれが通らないことだってあるかもしんない。やっぱり意見をちゃんと聞いてもらうためには国会で言うことかなって」
「国会で言うってお前」
「私、高校卒業したら政治家目指そうかと思うんだ!最終目標は総理大臣!」
俺はひっくり返ったね。こいつとっぴもないことをいう奴だと思ってたけどここまでとは。
「いやお前、そこはもっと他になんかやり方ないか俺もない頭で考えるから、せいいっぱい調べるから、やめとけ、お前の思うような世界じゃない」
「なんだよ、いつもならそこは『面白い、なんかしんないけどやれやれ』っていうとこだろ」
なぁなんでこうなんだ?
俺は話をテキトーに聞いてただけだけどなんで「若者の意見は通りにくいかもしんない」から「じゃあ政治家目指そう」になんだよ!いちおう筋は通っているように思えるけど話が飛びすぎだ!女の話はよく飛ぶっていうよな、けど、だいたいそんな飛びかたはしないしふつうは「仕方ない」で済ますの!
あ?そう言え?あぁ言ったよ。でもなぎさは
「仕方ないって言葉は嫌い」
ってお前なぁ。
「学校レベルの理不尽ならいざしらず、この世の中にはどうしようもないことってのがあんの!」
俺の言葉になぎさは戸惑ってこう言った。
「いや、学校レベルだっていじめとか先生からのセクハラとかどうしていいかわかんない問題はあるぞ」
「……あ?先生からセクハラだ?」
驚いたのは俺の方だった、いじめは……俺の高校には無いと思ってた、まぁでもみさきからかったりする生徒とか……相手の考えすぎかもしんないけど……いじめといえばいじめかもしんないし……。
でも先生が生徒にセクハラだぁ!
それブスの被害妄想だろ、じゃなきゃとっくに新聞沙汰になってら!
ところがそうじゃないって(あぁ、もっと楽しい話に変えたいけど途中だし)
なぎさがいうには、一部女子の間でもともとその大阪先生が気持ち悪いって悪評価だったんだって。なんでって……自分の教え子と結婚したって噂とか、腹が出てるとか、禿げた頭が油ぎってるとからしいけど、んなこといったって先生は先生だろ?でもなんか「経験がある方は……」「ない方は……」とか授業中も冗談とはいえ性的なこと言ったりしてただろ?それだけでも不快なのに、なんでもかわいい女生徒(B組の沙織とか、ほら)にはうんと褒めるのに、そうじゃなかったりちょっと突っかかってくるなぎさとか(またなぎさだよ)にはわざと厳しくしたりえこひいきするとか、まぁそれだってきもちはわからないまでもないよな?
女子だって意識しすぎなんだよ、息がかかったとか用があったから肩を叩いたとか大阪先生がやるとセクハラだなんて……。
ただあきらかに「それはちょっと」もあったな、「面白い本がある」ってHな描写ある小説(高校生はみちゃだめ的な表記はないやつ)を女性徒に貸したり、家出したC組の女性徒はきっとそういう被害にあったなんてきめつけたり、プールの時じっと見たり……。(いや気持ちはわかる)
ってこれみんななぎさから聞いたんだけどな。
まぁなぎさはあぁ見えて一応女だから、だんぜん女の味方だ。まぁ女だってそんな目くじらたてる奴ばっかじゃねえよ?まぁそんなのは笑って流すのが社会で円滑にやってくコツだってこれは大阪先生の意見だった……俺が思うのはな、なんで大阪先生だとセクハラなのに津島先生だとむしろ「こっち見て」なんだよ女子はってことだよ。津島先生だって既婚だぞ。(ちなみに津島先生はロマンスグレイのダンディなおじ様だ)俺ビビりだしそんなことはやんないけど、俺らだったらどうなるんだろうな……。
いやだな事件化したら、事なかれは嫌だし、なんとかなんないかな。
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