渚の乙女
夏川 大空
いや、俺もあいつは好きだよ?そういう意味じゃなく、な。
第1話 大和撫子
なぎさって知ってるか、白浜なぎさ《しらはま》、あ、いや、うちの高校であいつを知らない方がどうかしてるんだったなぁ。
あいつさぁ、聞いた話じゃ小学生のころからあぁだったらしいぜ、いつも喧嘩ばっかしててしかも負け知らず。
なんでもよく下駄箱に決闘状入ってたらしいぞ。逃げるなんて男らしくないって言われてその気になって、で、十人以上を相手に誰かを転ばせて足つかんで振り回す大立ち回りの上最後に一人立ちつくすなぎさ……。
想像しただけでこえぇだろ?俺はほら、平和主義者の名のもとのただのビビりだから、もちろんあいつと喧嘩するなんて考えられねぇな、まぁたまにつるんでるからってのもあるけど……。今ちらっと、俺までこえぇ奴って今思わなかったか?
あ~うわ~。すげぇ誤解、俺、
それがなんでまたなぎさなんかとつるんでるのかって?
あぁうん、あいつ知ってる?
そいつがさ、なんかなぎさのことえらい気にしてて、でまぁ友達の友達みたいな?そんな感じ、あぁ?洋は喧嘩なんかしねぇって!あいつはそれより頭使うの、頭。頭突きじゃねぇぞ。
洋も怒らせたら怖くねぇか?って話脇道にそれちゃったけど、まぁとにかくにも、あったくあの双子は面白いなぁ、なぎさは勇ましくって、みさきはしとやかなの、本当に双子か?
おっ、噂をすれば全校放送だ、なぎさの声がする。
「全校放送です、男子は体育祭の準備のために校庭へ集合してください。」
なぎさは校庭行かないのか、と冷やかす声がする、聞こえたらどうすんだよ、生徒会長だぞ。
「女子は飾り付けを作るために体育館へ集合して下さい、生徒会でした」
弟は体育館か、声はまたからかう。
そう、なぎさは女、みさきは男なんだよな。どんな奴って何だよ!失礼な奴だな。ってなんだなぎさのことかよ。
あいつは一年にして生徒会長!ふつうにすげぇように思えるけどそうではない。なんにしろ目立つから、ネタ票が集まっただけ。よくあるだろそういうの、まぁそうは言っても本人はいたって(自分の興味があることには)真面目馬鹿、俺ら友達だってのにちっちゃな校則違反も見逃さないほどの。馬鹿真面目じゃない、馬鹿真面目は真面目が主だけどなぎさは馬鹿が主だから。
俺も馬鹿だし、類友なんだろ。
時々誤解されるけどせいど……なんだっけ?ではない。ただなぎさは女らしさがなく、みさきは男らしさをなぎさにあげちゃったかわりに女らしさをもらったみたいな、あぁややこしい。
であいつがどうしたって、あぁうん、それがなぁ。
話は一日まえにさかのぼる。
俺はいつもみたいにくそつまんねぇ授業を終えると剣道部の練習をするために体育館へ向かうとこだった。
そしたら洋はまぁいつもどおりとっとと寄り道して帰るって言って、でまぁ一応禁止の喫茶店(古い校則だな、変えろよ、なぎさ)に寄るからクリスによろしくって俺が……。
クリス?クリスは俺の知り合いの外人だよ、英語教えてもらってるの。俺赤点でさ、卒業やばいんだ。
洋が喫茶店行くなんていつものことだけど、いちおう生徒会としては校則違反は見逃せないってんで、またなぎさが洋を注意しにきた。
それほんとうは風紀委員の仕事じゃないか?
まぁなぎさは注意するだけで別にちくったりはしないし、いいけどさ。
肩ぐらいまでの髪を束ねて、自分で校則変えてズボンはいて、眉毛は太いけど顔はよく見れば見れないこともないし胸はでかいしスタイルだって悪くはないのになんだってあんなガニ股なんだろな、あれで随分損してるぞ。そして腕を組むいつものポーズ。
うしろに内股ぎみの格好で似た背格好の(双子だから当たり前)みさきもひっついてる。
「洋、通学路の喫茶店は校則で禁止な」
それだけをいうと生徒会室に向かおうとするなぎさを洋は引き留め壁にドン!とくっつけた。
おぉ、壁ドンって俺初めて見たぞ。
「会長、なんで喫茶店禁止なの?変えてくんない?」
なぁ洋、お前がなんでなぎさに構うのかはしんない、でもそれ少女漫画の見すぎじゃないのか?(まぁ洋は顔が濃いだけでイケメンの部類ではあるけど)こないだお前それ読んで、「女はこういうのが好きなのか」って納得してたよなぁ。
「喫茶店だろ、煙草吸うかもしんないだろ、……だから?」
なぎさは一歩も引かずに、というか「なんだこれ?」ってキョトンとした顔してる、どうも少女漫画はなぎさには効果がないみたいで……。
「うわぁ!壁ドンだ!僕初めて見た!」
かわりにみさきが目をきらきらさせてる。
あぁうん、お前は少女漫画好きで女子ともよく貸し借りしてるもんな。
なぎさは壁ドンを振り払って行こうとする、洋はその手を掴んで逃がさない。
「じゃあなんで煙草吸っちゃだめなの?先生は吸ってるけど?」
洋なぁ、そうやってなぎさの髪を触って囁いたところで言ってることがまるで「俺煙草吸ってます」だから!
「……まだ未成年だから?」
なぎさはしどろもどろだ。どうも洋に迫られてることにドキドキしてとかじゃなく……。
「つうかこれって……カツアゲ?」
ほらやっぱり、なぎさなんだってこう鈍いんだよ。好きじゃない女の髪なんか触りたいと思うか!
そう、なぎさって恋愛ごと鈍くねぇ?
こないだなんかさ、俺がさぁ、あのほら……俺だってお年頃だから気になる女の子いたりするからさ、部活が休みの時に喫茶店でいつものメンバーとだべりながら相談に乗ってもらってたんだよ。
「こないださ、英語見てもらってたんだよ、そしたらさ、見えたんだよ、あれが」
洋はあんま興味なさそうに聞いてたっけ。
「ブラジャーだブラジャー、大きな胸の谷間が服の上からくっきりと、俺目のやり場に困っちゃってさぁ」
下らないっていうなよ、俺には真剣な問題なんだ。
なぎさがその喫茶店に入ってきたんだよ。
「ほら洋、またこんなことたむろして!」
って怒って扉がらって開けて、つうか開けてないのになんでいるってわかったんだか……正解は「いつもいるから」でした。あぁ?いっとくけど俺は洋がそこ気に入っているからいるだけで不良じゃないからな。
お前今さらっと「不良とつるんでるから不良だ」って言ったな……。洋は不良じゃ……ないのかな?あ、う~ん素行良好とはたしかにいいにくいかもしんないですが……煙草吸ったりとか酒飲んだりとかそういうことや法に触れることはしないような……でもグレーゾーンな(俺の悪い頭では思いつかないような!)こととか……あと女遊び(誰にでもちょっかいだすとかそういうの)とかはやるし、すぐ人を小馬鹿にした態度はとるし、う~んごめん俺フォローになってねぇや。いや一応いいやつだと思うよ、……たぶん。
まぁよくある「犯罪ゾーン」はやんないな、「そんなことしてつかまったら馬鹿らしい」だそうで。
あぁで、なぎさがプンスカプンスカ怒ってるのを、洋はにやにやしながら見てたんだよ。
「必死に俺を探しちゃって、そんなに俺に会いたかった?」
って、あぁもう、だからからかうならもっとさぁ……
「んなわけないって、ほら帰れ帰れ、松助もだ」
てなぐあいにむっとしながら流すようなんじゃなくて、誰か別のにやればいいのにな、洋も。
「そこはせめてもっと『そうなの?』とかもうちょっとなんかなぁ……なぎさお前悪いやつじゃないんだがノリ悪いぞ」
俺が一応フォローに回る、なぎさは不服そうだ、
「なんで人が怒ってるのに笑うんだよ、あとノリってなんだ?」
あぁうんそれはほらな、俺は楽しく毎日を過ごしたいわけで、そういうときに生徒会長さんから怒られるなんてあんまりかんばしくないわけで、なんで笑うかって?またなぎさだって思うからだよ、まぁ親しみ?みたいな。
「会長俺のど乾いた、会長は?」
必死に説明する俺を尻目に洋はまたなぎさをからかいだした。
「そのへんの公園で水道水でものんどけ」
なぎさは洋に冷たいなぁ、もうちょっとなんかなぁ。
「カフェサンデーでいい?おごってよ」
洋は何考えてるかわかんない笑みをうかべて平然と普段こいつが女には言わないようなことを言った。なぎさはそんな笑顔には騙されず、やや戸惑ってこう聞いた。
「なぁ松助、洋っていつも女に対してこうなのか?」
っていきなり俺に振るな。
「まぁ?う~ん、違うよなぁ……」
そうなんだ。洋はいざ女を口説くとなったらもっとスマートだし優しいしだからもてるし口説いてから落とすのもはやいんだけど、なぜかなぎさ相手にはらしくないっていうか……。
でもこれ正直に言ってなぎさにわかるかなぁ。
わかんないよなぁ。
「ってことは私女扱いさえされてなかったのか……」
「そうじゃねぇ!」
俺が慌てて突っ込んでも、
「そうかもなぁ、あれつうか女だったっけ?」
なんて洋が笑いながら言うもんだから、もうそれからは二人で罵詈雑言の嵐!(主になぎさが、でそれを洋がこれまたテキトーに流してんの)俺いちいちそれ説明すんのめんどいけれどあえていう。
お前らほんとういいコンビだ。
だってこうなることもうわかってんのにほとんどまいにちまいにち、よくもまぁ飽きずに飽きずに。
なぁ漫研入ってるお前ならわかってくれると思うんだ。
こういうのってだいたい、いつかお互いがほんとうに大切だって気づくパターンだよな。
でもなぎさがそれに気づくかなぁ。
わかんないよなぁ。
だってあんなに明らかに他の女と扱い違うのにそんな反応……。
洋よう、お前も「本気だからいつもみたいにできない」なんて意外と純情みたいなこと言ってないで本気出せよ?お前が本気だせば、なぎさなんか秒で落とせるだろ?
あぁでもなぎさじゃ「あ?なんかいったか?」って言われて終わりかな。洋も気の毒に。
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