第10話 なんだそのイメージは

 さてぇ放課後タイム!いつもの喫茶店だと思いきや、なんと今日はなぎさに怒らんないために特別な場所を案内いたします。

 ……って言っても俺んちだけどな。

 あぁ!今露骨に嫌そうな顔しなかったか?俺んちをなめるなよ。

 俺んちはなぁ、なんと貧乏アパートってこともなく、なんてことない普通の民家でもない、聞いておどろけ、スーパーでよくチラシ見かけるだろ?あの海野剣道道場なんだ、どうだおそれいったか!

 あぁ?あんまスーパー行かねぇ?お前どんな生活してんだ?

 ……家事任されてるって言ってる俺の方がどんな生活してるんだってか、そうか。

 しかぁし!家事をなめるんじゃねぇぞ。全く三食昼寝つきなんて言った奴を俺は殴りに行きたいね。やることなんていくらでもある、どこか抜いたら、やっぱどっかでほころび出るし。

 え?機械にまかせちゃえばいい?そりゃ任せられるところはそうしてるけど、それでも変な根性論じゃなく、機械にできないことはあるよな、例えば洗濯物干し。

 え?乾燥機買え?あれくちゃくちゃになるから嫌だ。何?家事のことなんかどうでもいいい、母ちゃんと話してるみたいだぁ!言ったな、この野郎。

 で、途中でコンビニ寄って。食料食料、食べたい物あったら各自で買えよ。……おっ、ARISAの表紙の週刊誌発見!プライベートショット!?買い買い、買います。

 もうちょっと行ったらミラーがある角を曲がって、そろそろかな、ほら見えたろ?大きな古い日本家屋が。

 そう、そこなんだ俺んち。

「うわぁ!漫画みたいないかにも道場!」

高志が目をきらきらさせてる。

「ねぇおさげの女の子は?四姉妹はいないの?それとも赤い髪の剣士は?あぁ、それから、それから……」

悪りぃ、俺友達を連れてくるたびそれ聞かれるけれど、なんのことかわかんない。漫画なの?へぇ。

 水をかけたら女に……高志からその古い漫画のことを聞いた俺はなぎさのほうをついみてしまったが、一応は最初から女だし……やっぱりどう見てもARISAには似ても似つかない。

「おやじ、ただいま」

「おじゃまします」

俺とみさきが俺の親父に声を掛ける。高志、お前何ビビッてんだ、気持ちはわかるけど。まぁ俺の親父がいかにも日本男児ないかつい外見に似合わず道場休みの時は死んだおふくろの形見のエプロン着てるから?そうだろ。 

 えぇ?違う?人見知り?えぇっ!だってお前初対面の時から俺の取ろうとしたミートボールパンをシュッと先に取って『…僕んです』って言ったあのインパクトはどこ行ったんだよ。あれは忘れられないぞ。

「おぉ、なぎさちゃん。また来たのか」

親父は上機嫌だ、俺となぎさが付き合ってるなんてことは地球上にたとえ男と女が俺となぎさしかいないような状態になってさえないんだが、家が道場と聞いて少年のように目を輝かせたなぎさを無下にもできず(なんでも特撮で道場が舞台なのがあるんだって)親父のいるときにしかたなぁく連れてきて、

「なぎさちゃんの好きなお好み焼き、また作ろうか?」

すげぇ食い気なので、親父にもお気に入り……。あぁ?親公認でそれ付き合ってねぇって?ねぇねぇ!俺んちほら広いだろ?だからほらさ、

「こないだの外人といい、松助の友達が沢山来て家がにぎやか、実にいいことだ」

って親父も言ってるだろ、うん。

「あぁ洋聞いてくれ、高志こいつ俺となぎさが付き合ってるなんて馬鹿いうんだ」

「?」

居間に通された洋はキョトンとしてる

「だって家に遊びに行ったり……」

「それなら俺もなぎさと付き合っていることになるけど?俺もなぎさとゲーセンいったりするし」

高志の声を洋が否定する。

 そうだよなぁ、俺が洋とつるむようになって、洋がなぎさ気にするようになってから、よくみんなでつるんで、でも別に付き合ってはないのでは。

 え?街子?あいつはなぎさんちなら来たことあるって言ったな。

「なんだ?」

先に座って出されたお茶をごくごく飲んでたなぎさが声を掛けた。

「松助が俺となぎさが付き合ってるって」

洋がさらに話をややっこしくする。こいつはこういうやつなの知ってたけど。

「まぁ付き合いはあるけど?」

なぎさがこういうやつなのも知ってたけど。

「そういう意味じゃないって何度言えばわかるんだ!」

「じゃあどういう意味なんだよ?」

「それは俺が実地で教えるしかないか。仕方ない。ねぇ、会長、今晩空いてる?」

「中東関係の報道特集やるから空いてない」

「頼むから会話を成り立たせろ!誘ってはいるがそういう誘いじゃない!」

「だからどういう誘いなんだよ、ゲーム?」

「もっといいこと」

「洋も、お願いだから18歳以下お断り以外の口説き文句を使ってくれ、俺までへんな気分になってきた」

「男も女も……いやぁ罪だな、俺も」

「お前そういう趣味だったのか松助!……雪の知り合いの自助グループ、紹介するか?」

「ちげぇし、洋の口説き文句聞いてると気持ち悪いって意味だ!付き合うってそりゃあ、恋人同士として、だろ」

「そうだな、松助もこういうし、先生にも言われた気がするし、本当に付き合っちゃおか、俺ら」

「?どこが違うんだ」

「……どこが違う出ました。洋先生」

「お互いのことをいつも考えてて、秘密がないことかな。まぁ、そんなになんにも違わない、肉体関係とかさ、くんずほつれつ……それだってたいしたことがない、みんな経験するお年頃だし」

「あぁ、取っ組み合いの喧嘩とか?」

「どこのラブラブカップルが取っ組み合いの喧嘩するんだ、……ありうるかもだけど」

俺はあきれる。

「お互いの気持ちを確認しあって、二人きりの時間を過ごすんだ、いつも相手のことだけを考えている……いいな、いい、いい」

洋はなぎさの隣に座りこみ、なぎさの肩を抱く。

「じゃあ今日から恋人ってことで」

なぎさは肩を抱く手をふりほどくのも洋につっこむのもめんどくさいとみえて、お茶を飲み飲み言った

「気持ちを確認って、友達として意外に『好き』なんて私洋に言ったっけ」

「照れちゃって」

洋のこの超ポジティブ思考はどこから来たんだ。そしてなぎさはなんで肩の手をふりほどかないんだろ。う~ん。

「でさ、全然関係ない話していいか?」

「うん、なんでも話聞くよ?」

もう自分のモノになったと安心したのか、洋のなぎさへの態度がいつもと違う。なぎさの肩に手を回して微笑んでいる、いつもならもっとこう、『そんな色気ねぇこと言うなよ』ぐらい言うのに。

「アメリカ大統領選挙のことだけど」

「うわっ!本当に関係ない話来た!」

俺がツッコミにまわる。

「ヒラリー・クリントンが大統領になったら、女で最初の大統領になるよな。日本だと総理大臣を選ぶ仕組みが違うから、女の総理大臣は難しいって言われてる」

「そうだね、なぎさの夢は総理大臣だったっけ?」

洋が話をあわせる。

「?あれ、なぁ洋、なんかどっか悪いとか?いつものお前なら『当たり前だ』って言ってそこから喧嘩になるのに」

なぎさも眉をひそめてる。洋はそれを意に介さずなぎさにこう返した。

「別に喧嘩してもいいけど、もっと君のそういう話が聞きたいなと思って」

俺なんか寒気が。冬だから?

「じゃあいつも通りやろう、女の総理大臣ってどうすれば可能なのか、私なりに考えたんだけど」

「ねぇ、それより『なっちゃん』って呼んでいい?友達そう呼んでるよね?俺のこともひろぽんって呼んでいいから」

「話題に乗ってこいよ……いいよ好きに呼んで」

なぎさは勢いづいた口調をそらされてげんなりしてる。頬杖をついてため息。

「日本で女性が総理大臣になるには、党の代表になるしかない。今の政権はどっちかって言ったら自民党だから、やっぱり自民党に入るとか……う~ん、それもなぁ、政治的意見変えてまで総理大臣になりたいかって聞かれるとあれだけど、かと言って民主党もなぁ。ここはいっそ、自分で党作って過半数とっちゃうのが一番な気がするんだけど、洋はどう思う?」

なぎさは誰かが買ったまだ空いてないスナック菓子を開け、一口つまんで喰いながら言った。

「ひろぽん、ね」

洋は自分を指さして呼び方を咎める。なんだこの洋どっか壊れてる。

「なっちゃんのいうことももっともだよ、女性だからこそできることだってあるだろうね」

「ちょっと待て松助、こいつどっか壊れてる、直してくれ」

なぎさが洋を俺にぐい、と押し付けて、俺もまぁこんな奴でも友達だしこんな『らしくない』洋なんか見たくないから廊下でこそこそ二人で内緒話する。

「壊れてるなんて。俺をこんなにしたのなっちゃんじゃん。責任とってもらおうかな」

「俺らは高校生だ!そんな話するのは早い!」

「案外そういう人が高卒でとっとと結婚したりして」

「……相手がいねぇ相手が。お前どうした?まさか恋人と政治的意見が違うの嫌?女に男が合せてどうすんだ、逆だろ普通、やっぱ日本男児たるもの、女が黙ってついてくるほどのカリスマ性を……」

「お前古いなぁ、なんで専業主夫になりたいの?」

「お前のいつも言ってることをそのまんま言ってるだけだ!洋お前、女に惚れさせて言うこと聞かせるのがいいんだ、女は惚れた男の言うことならなんでも聞くだろ?って言ってなかったっけか?」

こいつのいうこともなぁ、世界の女性たち申し訳ございませんとしか。

「いや、俺は恋に生きるんだ」

だめだ洋の目が正気じゃない。本当にどうしよう、治んなかったらもうこいつとなぎさの喧嘩見世物にして見物料10円ずつとる遊びは出来なくなるな。

「古い既存の価値観こそが女を、社会を幸せにするんだろ?」

「彼女の幸せが俺の幸せだ」

「女は家、男は社会」

「そうだ、お前みたいに専業主夫目指してもいいかもな」

「資本家に居心地いい社会の方が、めぐりめぐってみんな豊かに」

「資本が循環しないと、資本家が潤わない」

「キトクケンエキサイコー」

「あんまどっかに権力集中しちゃうと、ろくなことにはなんないし」

「うわぁどうしよ俺、そんなあっち側詳しくないんだ。ってかあっち側ってどっち側だったっけ。みさき、パス」

俺はみさきに助け舟を求めた。

「えぇっ!僕に言われても……えぇっと、ごめんね高志くん、任せていい?」

「チャレンジすらしねぇの?」

「そういう話好きなのなぎさだけなんだ、ごめんね」

謝るみさき、いや謝られても洋はうわごとみたいに『最初のデートはどこにするかなぁ』とかうわごとを言って、なんつうかゲームで『魅了』ってステータスの時ってこんななの?って感じだ。

「頼む高志……」

俺は懇願する、 

「じゃぁ……え~っと」

高志はバックから携帯を取り出して、何か検索してる。こんな時に?まぁあっち側の意見聞くのにはいいかもだけど。

「洋君、これ見て」

高志が洋に携帯の画面を見せる、SNSの画面みたいだ。

「洋君が尊敬してるのって、この人だよね?この人が今の洋君見たらなんていうかなぁ……」

洋がびくっとした、いいぞ、効いてる、そのまま、そのまま

「試しに僕のアカウントから話しかけてみようかな、なんて言おうかな……」

「貸せ!……いや止めた。そうだ俺はこの人みたいになるんだった……」

いいぞいいぞ、この人の起こした事件ってどんなのか俺は知らねぇけど、洋の顔がだんだんしゃっきりしてきている。

「でも一人の女に人生捧げるなんて、ロマンチストなところあるんだね、洋君」

「あぁ?俺そんなこと言ったか?」

みさきの言葉に洋がキレた。まだ目が正気じゃない。

「俺は彼女の幸せが俺の幸せだとは言ったが、一人に絞るなんて言ってない!そうだよ、なぎさが俺に惚れてんなら、なんにも優しくしてつけあがらせることないんだ……」

う~ん、言ってることだんだん前の洋になってきてる、つうかなんか前よりひどくなってねぇか?なぎさが洋に惚れてるって……。

 俺はあえてつっこまないことにした。ゲームではいわゆる大事な分岐点の選択肢ですが……こういうなんか誤解とかすれ違いって見てると楽しくねぇか、なぁ。

「うん、そうだね」

高志も話を合わせて、洋、復帰。

 居間ではなぎさがスナックを一袋空にしてグミを空けていた。お前だけはほんとうなんにもしてないな、今回。

「なぎさちゃん、こないだスーパーでチョコケーキが安かったんだ。食べるだろ?」

親父、そんな奴にかいがいしくする必要ないって。

 ところがお皿に載せたチョコケーキ(お買い得の品)をお盆で運んできた親父を見るなり

「……おじさんごめん、チョコケーキしばらく見たくない……」

と断ったではないですか。

「あぁ?お前どっか悪いの?」

とりあえず俺は心配をするふりをしながらコンビニで買った週刊誌を読みだした。

 ARISAのプライベートショットが載っている。

 もうね、このためだけに生きてるね、俺。これがあればやばい薬も煙草もってお前な、俺は高校生だしやばい薬なんか身体ぼろぼろにするだけだろ!ダメ、ゼッタイ。

で、やばい薬以上にやばいんではないかと思われますプライベートショット。

まず一枚目、「今日は山野ホテルに来てます」あぁ、タクシーの運ちゃんから聞いたな。つうか見た。

さらに二枚目、「ここは収録で来ることが多いんですが、静かな場所で今ではお気に入りです」う~ん、あんななんにもないとこ……渋い、だがそれがいい。

 そして二枚目、「ここのチョコケーキは美味しいです」そんなチョコケーキぐらい俺がいくらでもおごってあげるよ、ARISA。

うん?チョコケーキ?

「なぎさ、お前こないだいつチョコケーキ喰った?」

なぎさ=ARISAではないとはいえ、一応確認。

「……こないだの……日曜……」

「?あれ、その日って確か雪と俺らとの約束ドタキャンしやがった日だよな?」

おかしい、なぎさがきょどってはいるが……嘘をついている様子ではない気がする。

「俺らとの約束ドタキャンしてケーキ喰いに行った?」

「誰と?」

やや正気に戻った(前よりひどくなったという説もある)洋が話に混ざって来た。

「……言えない」

なぎさはまた口ごもる。

「貸せ松助、その週刊誌何乗ってるんだ。『女子高生援助交際の実態』……」

そんな特集乗ってたのか、へぇ。

「お前これに乗るようなことしてねぇよな?」

洋がなぎさの目の前に週刊誌を突きつける。

「……」

「……言え」

「……嘘つきたくない、言えない。言わなかったら?」

「もう話さない」

「……それはちょっと困る」

ほら見ろ、やっぱりこいつは俺に惚れてんだとでも言いたいのかしたり顔で洋はすっかりにやけてる。対照的になぎさはすっかりしぼんでしまいなんか……あれ?高志お前どう思う?

 お前なぁ!しおらしいって一番なぎさに合わない言葉使うんじゃねぇよ!そういうのはARISAみたいな大和撫子にこそ使うんだ!

「うん、してる……」

ほらして……えっ?今なんて?

「洋、さっきの話だけど……お前のこと信頼してないってわけじゃない。でも秘密がないってのはやっぱ嫌だ、だから……今まで通り……だめかな……」

えっ?えっ?この流れ何故?

「じゃあ私帰るから!ごめん!」

結局、なぎさは逃げるように席を立って帰ってしまった。

「……あいつ何しに来たんだ」

そう俺がつぶやくと

「ほら、なぎさが泊まったって……」

みさきが申し訳なさそうにつっこむ。

「あぁ!そうだった!」

 それから俺らは勉強会という名目のもと大木先生おすすめビデオの取っ組み合いを見て、もしもの時に備えた。

 いやぁ、あんな技がねぇ、な?


 でもお前な、みさきによるとなぎさは親戚のありさん家に泊まったってことだし、なにしろあんなお堅いあいつが週刊誌に乗ってるようなことしたなんて……なぁ。やっぱ信じられねぇ。

 一応その週刊誌持ってきてるぞ、持ち物チェックどう免れたって、そりゃあれだあれ、制服ん中に隠してきたの。

 えっ?今日のお昼はカレーパンかって?……いやほら、お前の言う通りおにぎりつくんの続かなかった……んじゃぁねぇぞ、昨日はうどんだったし今日は寝坊した、そんだけ。

 あぁ俺こんなんでかわいいお婿さんになれるのかな……。

 屋上にいりゃそのうち洋になぎさとみさき、街子も来るだろ。街子は別にハブにはしてねぇよ?ただ馬鹿やるときなんかノリが悪くって……。同じ趣味の女といる方が楽しいらしいし……やっぱ女だからか?(なぎさは、なぁ)

 あ、来た。なぎさが一人で……。

 俺らに気が付かねぇとか、なんかぼおっとしてるなぁ。

「はぁ……」

うわぁため息なんかつきやがったぞあいつ、そんなキャラじゃないくせに。

「おい」

なぎさに声を掛ける。俺は洋と友達だから、なんでなぎさが洋にあんなこといいやがったのか含め色々と聞きださなきゃいけない気がする……だけかもしんないし余計なお世話かもだけど、まじめバカななぎさをからかってみんなでわぁわぁがもうできないかもしんないってのは嫌だし。

 あ?今まで通りでって言ったからできるだろうって?

 お前馬鹿か!普通は気まずくなるだろう!え?お前ら普通じゃないだろって?そりゃどうも。褒めてねぇって……おしいツッコミだ。

「松助……」

なぎさは屋上の金網に寄りかかってたそがれてる、そういうのはもっとしとやかな女の子がやってこそギャルゲーの一枚絵イベントになるんだろ。

「洋に無視された……」

「当たり前だ」

やっぱ一応だけど男と女の友情なんてさ、そんなもんかもしんない。だいたいどっちかが恋心いだいちゃってさ、めでたく恋人同士になるか……終わっちゃうの。

「一ついいか、お前なんで洋振ったの」

なぎさは俺の声を聞いているのかいないのか、空なんか見てる。

「……やっぱ振ったことになるのかな、うん、そうだな」

それも無自覚かよ、こいつ実は隠れ悪女?ないない、そもそも女だったっけって次元だ。

「洋の何が不満だ?じゃあなんでかばったりなんかしたんだよ、そりゃ勘違いしたってしょうがねぇだろ」

俺が声を荒げる。

「だいたい高校生なんて一人や二人彼氏いて当たり前だって。アイドルだって恋愛する時代だぞ!」

認めたくはない、ARISAが誰かと恋愛なんて、でも仕方ない、ARISAが……幸せなら。

「ARISAだって星とのデート撮られたぞ?」

俺の声に、黙ってたなぎさがようやく反応した。

「あれは本当に演技の話しかしてない!お前ファンだろ、ARISA信じねぇの?」

なぎさは悲しそうな顔になったけど

「今はお前の話だ」

俺はガンとしてつっぱねた。こういうことはやっぱちゃんとしないと。

「洋に不満が……」

「そりゃああるだろ、だってあいつ性格悪いし服のセンス独特だし顔は濃いし……」

俺はまくしたてて、こう言った。

「どうせお前もその辺の女と同じ、『友達にはいいけど恋人には……』ってくそつまんないこと言うんだろ?」

な、嫌だよな、女って。

「じゃあ優しくすんなよ!勘違いするじゃねぇか!かばうなんてもってのほかだ!」

俺だって女の本音をペちゃくちゃうるさい街子やクラスメイトに聞いてればちょっと幻滅する、でもARISAは、ARISAだけは。ってなぎさはARISAじゃねぇけど!なぎさはちょっとはそういうとこわかってるかもって期待してたのに。

「松助もちょっとは私の話を聞いてくれよ!洋に否があるわけじゃない。性格悪いとかお前はいうけど、悪いっていうより……愛情が豊かなのに表現の仕方が普通と違うっていうか甘え方が変わってるとか、そういう感じがする、お前に対してな」

そうだよ、洋は全く素直じゃねぇよ。冗談めかして付き合おうか?なんて、それで乗ってくるような軽い女のなぎさが好きなのか?たぶんちょっと違うよな、でも素直じゃないからこそ冗談めかしていうことしかできないってことだってあるわけで……。

「それと……これ」

なぎさが手渡して来たのはかわいいメモ帳。

「なんでかばったかって、人に見せるもんでもないし隠してたけど……」

『あい』なんて可愛い署名つき、

「そうかやっぱお前そっちなの?」

「読んでから言えよ」

俺はしぶしぶメモを読んだ。


「なぎさ先輩へ

 こないだは美術部のためにありがとー!

 シンナー欲しいなんてそりゃ誤解されるかも、でもあんがと頼んでくれて。

 そして誤解解いてくれて。

 結局別な画材で書くことにはなったけど、企画は成功したよ!それじゃね」


……。

………。

「誰?」

「さぁ?美術部だろ」

「そうか、お前洋でも誰だかわかんないやつでもとりあえずかばうのか……。ってお前なぁ!もういい、お前ってそういえばそうだったなぁ」

俺はあきれ果てた、あぁなんつうか、女にしておくには惜しい、けどこんな男もいない気がする、なぎさって。

「お前さ、実際洋のことどう思ってるの?」

俺の言葉に帰って来たのは、なんともまた、なぎさらしい答え。

「色があるだろ?で、私はあんまり色を知らないから、この色がどの色か知らない。そんな感じで、好きっていうのがどういう好きなのか、洋の求めてるものなのかそうじゃないのか、わかんないんだ……」

俺はあきれつつなぎさを諫めた。

「そりゃまたなんつうか……とりあえず付き合うって選択はお前のキャラ的にないのかもしんないけど。そういえばお前から恋愛の相談とかされたことないな、俺も。いや気にならない、ARISAならともかく」

「何が言いたいんだよ」

しんみりムードが疲れたのか、なぎさはだんだんいつもの調子に戻りつつある

「ようは付き合うってのがピンとこないからってだけ、知らないから怖い。それお前なぁ!ARISAみたいな清純な女の子ならともかく……いいよ洋には俺が言っとく、こいつに今必要なのはそういう知識だ」

俺が教室に戻ろうとすると

「そういうのの知識ってどこで知るんだろうな……」

となぎさが声を掛けてきた。なんともはや、なぁほんとうこいつ別に箱入り娘ではないはずだよな?

「検索しろ!」

俺はそうして屋上を後にした。

 なぁ、やっぱみんなでわいわいやるのがいいよな。

 え?街子?あっ携帯にメールだ、みさきと駅前のファンシーショップに行くんだけど……行くってお前なぁ、俺はいい、行って来い。


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