第7話 たおせ雪大魔王

 20××年、太陽の日、雪大魔王の侵攻に我が勇者軍は必死に戦ったが、その氷属性の攻撃は思った以上に強く、対策は役にたたなかった。

 減っていく体力、最後のたのみはなぎさ姫からいただいた『姫のなみだ』だが……!

 って!そんなゲームみたいな話じゃないし、

勇者ごっこもう終わったって踏んでいい?いいって思う人、ってもお前しかいないしお前スルーかよ……。

 なぎさとみさきはまだか、そういえば洋もまだ来ないな。日曜日の磯部駅はそこそこ混んでるから、どこかではぐれてるか?

 待ち合わせから五分経ってんだけど、しょうがねぇ待ってるか。俺は携帯でパズルをやりだす。高志はアプリって何やる?へぇ、女の子とデートする……それ現実でやれよ!って俺も人のこといえねぇんだった。

 待ち合わせ時間から十分、ようやく洋登場。

「おぉ、魔法使いと戦士はもう来てるか」

えぇっ!その遊びあくまで続ける気ですか?

「おお ゆうしゃひろしよ まおうゆきを たおす かくごは できているか」

高志、お前そのしゃべり続ける気?

「はい、ってかお前ら……それやめやめ、それにしても雪を口説くにはいい日だな」

俺は女をそんなに口説いたことねぇけど(ぶっちゃけ、ゼロ)、確かに小春日和でちょっとした雪ならすぐ溶ける……けどそういう話ではない。

 俺らが下らないことで盛り上がっていると、ようやく待ち合わせから十三分後にみさきが来た。

「あ、ごめんね遅れて、今日は街子ちゃん来ないんだっけ?」

あれ?なぎさはどこだ。遅刻か?しゃあないな。

「男の子だけで行ってきてだってさ」

俺は街子の言葉をそのまま伝えた。ちなみにここでいう男の子になぎさは入っている。

「なぎさは?」

洋の言葉に、みさきは申し訳なさそうに沈んでいる

「……それが」

やな予感、

「今日急に携帯に電話かかってきたんだって、よくわからないけど男の人からみたいだった……来れないって、急すぎて雪ちゃんにも電話できなかったから、謝ってくれって、言われた……」

なにぃ!なぜ主催者が欠席するんだ!つうか、あれ?前にもこんなことが……。

「なぎさはデートって言っていたか?」

洋は俺の疑問を見事にいい当てた

「……知らない、あ、でも磯部駅から数駅行った山野駅で十一時だって」

みさきは何かを決め込んだまっすぐな瞳をしている。

「おまたぁ!ってか電車急にとまっちゃってー!

あ、おっはー、ひろぽんまつっちみさみさ、つうかなっちゃんは?」

ちょうどいいとこに雪が来た、今日もまたなんつうかその、黒のミニに黒いキャミソール?っていうんだっけ?なんか下着みたいなの、アニマル柄のピンクのパーカー、大きなイヤリングにばっちりメイクとギャルですな。って、なぎさ『なっちゃん』って呼ばれてんのか。

「よし、今ならぎりぎり間に合う、山野駅へ行くぞ」

こうして、山野駅へ勇者ひろしは魔王雪を共に真の敵であるなぎさ姫をかどかわした真の敵から姫を救う旅に出たのだった。

 

で、雪は電車でも静かにしてなかったんだが、そして、その相手を俺がすることになったんだが、つうかお前ら俺にそういうめんどくさいこと押し付けるなよ!

いや、雪はいい子だよ?いい子だけど……

「え?なんで山野駅?あそこ基本なんにもなくない?ってかなっちゃんどこいったの?雪とのデートドタキャンってマジ話?なのそれ逆にありえなくない?ねぇなんでなっちゃんこないのー!雪今日完全になっちゃんとデートモードでファッションもメークだってなっちゃんが『かわいい』って言ってくれたのにしたのに!ねぇ松っち知らない?なっちゃんのデートの相手!知らないってことないかだって友達だもんね、でもダメよなっちゃんと雪は運命なの、ってか今そういう話じゃなくない?なっちゃんデートってさぁ、キホンどうなんだろ、つうかなっちゃんを男に取られるなんて雪最大の失敗だから、なっちゃんはビアンの女の子なら誰もが憧れる大人のおねぇ様にするの!そして雪はそのパートナー……。いやぁ照れちゃう!」

……よく呼吸がもつな、そして何気に爆弾発言、俺の隣にいる洋がさっそく突っ込んだ

「雪ちゃんって恋人いなかったっけ?」

さぁ、洋の必殺『女殺し』モード!ちょっと顔に角度つけてかっこつけて、これで落ちなかった女はいなかったとかいたとか、三駅しかないんで巻いてお願いしたいものですが。

「レズって女ならなんでもいいの?」

はい、来ました、洋お得意の『怒らせて自分のペース』作戦。

「えぇっ!?なにそのオスバカノンケまるだし発言!ってかまず前提間違ってる、一人の女役と男役がいればいいって考え自体がまずノンケのってか男が作ったカチョウフセイテキ価値観だしぃ、雪こうみえてけっこうフェミ入ってるからぁ、そういうのちょっとありえないって感じ。そりゃ恋人いるよ?でもそれ言うなら男だって、『付き合ってきた彼女と別れて他の女と結婚』とか普通にするじゃない?雪はね、ビアンにはビアンの……もっとたくさんの女の子たちがシアワセになる生き方があるって思ってるの。って何の話だったっけ。なぎさデートって話?ねぇひろぽんほんとうに知らないの?まずありえなくない?だってさ、雪なっちゃんのことなら何でも知ってるつもりだけど、そんな男の影なんてなかったよ。ってかなっちゃんに手ぇだしたら雪が許さない。だってあんな純な子!ねぇみさみさ、なっちゃんの初恋の相手って誰だか知ってる?実はねぇ……」

雪がひと呼吸したところで

「まもなくー 平野駅ー 平野駅ー」

と車掌のアナウンスが流れる。つうかナイス車掌!え?なぎさの初恋?興味ないね。

「そうか、雪は男が好きじゃないからレズになったんだ?で、彼女いるの?どんな娘?気になるなぁ、雪の彼女ならきっと魅力的だろうな。ってっか……ごめん混ざりたい……」

車掌のアナウンスで雪がちょっと休んだからか洋が抗戦を始めた。あと本音漏れ過ぎ。

「うわっ!なにそのありえないエロ本的オヤジ発想、キモイんですけど。混ざりたいんならイチ◯ツ切って来いって。ってか、あれ?変だなぁ、なっちゃんの話だと、ひろぽんってなんでか知んないけど自分と他の女の子とじゃ扱い違うって言ってて、他の女の子には優しいのにって……もしかしてひろぽんツンデレ?好きな女の子には冷たくしちゃう感じ?でなっちゃん狙ってるとか?うわぁありえないー!幼稚園生じゃあるまいし、やばくない?……いやぁやばいのはなっちゃんか、こんな男も女もとりこにしてってやばみしかないから。あ、でもなっちゃんそんなもてる方でもないでしょ?ってか言われてみればむしろそういうの鈍いかもって二の足踏んじゃう感じかも、でもね、それがまたよくない?何にも知らない乙女を女にする喜び……あぁ……でもひろぽんごめんね、なっちゃんモノにするの雪だし。ぶっちゃけ素直になれない段階でひろぽんの負けじゃない?」

う~ん?なんか他に彼女いるとか、誰もが見惚れる女にするとか。モノにするとかなんとか、どこかで聞いた話ですが。

「まもなくー 裾田駅― 裾田駅ー」

車掌のアナウンスが流れ、雪もひと呼吸置く。

「えぇ、そうかな。俺女に優しいってよく言われるんだ。『いい人オーラ』あったりしない?じゃあまずはお友達からどうかな」

洋はさりげに携帯の番号書いた紙をピシッ!と指で挟んで差し出した、……かっこいいと思ってやってるのか、あれ。

「うわぁ!ひろぽんそれウケる!ねぇもういっかいやってもういっかいやって。もう笑い過ぎてやばみしかないんですけど。ないわー!ひろぽん面白い!友達ィ?いいよ別に、ってかもう友達じゃなかったっけ?ひろぽんねぇ、女に優しいかって聞かれればまだわかんないかな。だってこないだ聞いて、サイアクなんだけど、雪が彼女とデートしてたら男が絡んできて!『カノジョ二人~』だって!まじでむかつくし雪デートなんですけど!って感じで、なんかおごるとか言われても下心丸見えっていうか?そういう下心ないんならいいけど、なっちゃんからきいたけどひろぽん彼女いるでしょ?どうしよっかな、なんか太ももあたりに視線感じるんですけどカンベンしてほしい……。まぁでもいいか、雪も可愛い女の子の色んなとこ見ちゃうかもだし。ってか聞いて、こないだ服見に行くときさ、なっちゃんに付き合ってもらってて、なんかデートっぽくない?で手つないで、可愛い服あったから試着して、なっちゃんにも可愛いの似合うと思うの!あ、同志発見!でね、試着室に乱入しちゃった……可愛かったなぁ、なっちゃんのランジェリー姿……」

うわぁ!洋今眉がぴくっていったぞ!口はにこやかだけど顔笑ってない顔笑ってない。車掌仕事しろ、山野駅はまだか。

「後学のために聞くけど、なぎさ意外といい身体してない?下着ってどんなの……」

雪がひと呼吸おいたのをみはからってあまりにも正直すぎる疑問を口にしたところで

「まもなくー 山野駅― 山野駅ー」

いやぁ、今日の車掌はいい仕事しますなぁ、だって俺なぎさの下着なんて世界で一番興味ない話題かもしんないし、高志お前お笑いのブス枠の下着見たいか?見たくないよな。

 てなわけで俺らは降りた、洋はちょっと呆然としながら誰にともなく呟いた。

「なんか、雪って俺に似てるのかもな……。俺女だとあんな感じ?で女好きなんだ?ありえるな、くっくく……」

うん、そう、それだ。特に人の話聞かないとこがな。


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