第6話 勇者ひろしのぼうけん

 洋の言い分はこうだ。

 雪はレズビアンだ、それは別にいい。(どっちにしろいつか口説いて洋の良さを教えてやるつもり、なんだそうだ)だけどなぎさに手を出した、出したなんてもんじゃなく『女友達』という立場を利用して(少なくとも洋にはそう見える)胸まで触った、つうか揉んだ。

 洋の二つで大事なものを奪った(いつから洋のものになったんだ)まんまるおっぱいいっぱいいっぱい。

 ……いやまて?う~ん。

「なんで俺らなぎさが女で、胸が大きいこと前提で話してんの?」

俺は正直いうと巨乳は好きじゃねぇし、なぎさを女だと思ってねぇからな。

 なんか違和感が。

「……じゃあ何か、お前はこれが男に見えると」

洋が出したのは、いつだったかのデート騒ぎでの姫系ワンピ姿のなぎさが写る写真、……似合ってないってわけではないけど、やっぱ釈然としねぇ。

「見える、なんか少年が誰かをからかってる感じがする」

だから俺は言ってやったね。いや写真のなぎさはかわいいよ?でもなんかこう『女』って感じがしねぇんだ。

「いいから本題に戻すぞ、だいたいなんでなぎさはレインボーパレードとやらに行ったんだ」

レインボーパレードは、東京の大きな公園で恒例になっているらしい。それに行ったからってなぎさがレズってわけかというとそういうわけではない、……みたいだけどどうでもよくね。

「俺、なんかボランティアサークルの見学に行ったら誘われたって聞いたけど」

なんかほら、NPOとかって横のつながりあったりするらしいんだ、時間があっていいことをしたい人を探しているのかな?

「あぁ、まったくNPOだのボランティアなんて良心を食い物にして金もうけるいい手段だからな。あいつらだってカスミ食べて生きてるわけじゃねぇだろ?だいたい施設の借り賃やなんかどうしてんだか」

こういうことは平常運転だな洋、つうかなぎさがいないとバランスとんの難しいこと、『政治意見が偏ってる』ってどっかでレビューされそうだ。

「……洋君はそういう人嫌い?」

みさきがもじもじと恥じらいながら洋に質問する

「みさき、お前女好きじゃなかったっけ?」

洋はみさきを冷たい視線で睨む。

「そうじゃなくって、雪ちゃん。なんか面白い娘だから友達ってのも悪くないんじゃないかなぁ……」

面白い娘ねぇ。

 回想したがあんまり楽しくねぇ、つうかあの鉄砲みたいな一方的なしゃべりをずっと聞いてるんだぞ!……間が持つように気をつかってくれているのかもしれないけれど、それだってこないだ俺と洋でゲーセン行った時なんか一口もしゃべんなかったぞ?でも俺らは友達だ。

 男と女の違いなんかもしんないけれど……つうかそういえばそこになぎさもいたな、別に何もしゃべってねぇけど。っていうかなぎさが俺らに混ざるの日常過ぎて誰も変だと思ってないのな。

 俺が思い出し笑いをしてたら洋に怒られた。

「何がおかしい」

「いやぁなんつったってお前こないだゲーセン行くとき、街子が『男の子だけで行ってきて』って言ったのになんでかなぎさがいたっけ」

洋は俺がなんで笑っているのかまるで理解できないとみえて、眉を顰めている。

「それは俺が誘ったんだ。虹の橋を渡って魔王に会いに行く古いゲームがあったな。そういえば」

洋は携帯でまた検索、……お前の頭ン中だって色々入ってんじゃねぇの?知らねぇけど。

「……うわ、すっげぇ昔だ。俺ら生まれてねぇし。よし、対魔王パーティー組もう」

ラスボス対策ってか、

「じゃあまず氷属性対策」

俺今日滑る日なのな、知ってた。

「でもみさきお前も結構女好きだな、まずはお友達からなんて手段当たり前すぎて俺じゃ考えもしなかったぞ」

と洋、無視ですか、そうですよね。

「あれ?対策って『なぎさに近づくな』ってことじゃなく?」

……でもそれだけならお前がとっととモノにしちまえばいいんだよな、と俺。

「何言ってるんだ、雪っていったな、あんないい女をモノにしないでどうする?だいたい俺の守備範囲にアウトはほぼねぇよ。あれは貞淑な女になるんじゃねぇかな……」

そうですかもう何もいうことはないです。

 で、勇者洋、魔法使い俺(なんでだ)僧侶みさきに戦士高志の対魔王パーティーを組むことになったんだよな。


 勇者ひろしは白い館(学校)に足を踏みいれると、村人(その辺の生徒)からなぎさ姫が呼んでいることを知らされる。

 姫の部屋(生徒会室)に足を踏み入れると、事情から男装している(だからスカートが寒いだけだって)なぎさ姫はその気高い美しさを隠すことなく微笑み、その桜色の唇を開いてこう言った

「勇者ひろしよ聞きなさい、日頃のあなたのあなたの行いにより、大臣・オオサカ(大阪先生)から『フリョウ』という称号をいただいたそうです、しかしなんの問題もありません、あなたは今まで通り、煙草も吸わず酒も飲まない模範的生徒でいて下さいね、信じてます……」

いやだからなこれな、この口調、疲れます。

 ようは洋がなぎさに呼びだされて『大阪先生はお前を不良っていうけど、何もやってねぇよな?』って聞いただけだし、話の流れとはいえなぎさのことを姫とか!美しさとか!桜色の唇!

 ……もう俺お婿にいけない。ぐすん。

 えぇっ!この口調続けんの?俺にファンタジーを求められても……。

 魔法使いまつすけはそういうと戦士たかしと一緒にしばらく白い建物(学校)の中を歩いたが、我ら勇者ひろしは果たして、大臣オオサカからもらいし『フリョウ』といういささか名誉ではない称号さながらに窓辺でたたずんでいた。

「我が友勇者ひろしよ、フリョウという称号を気にしているのか」

魔法使いまつすけの言葉に、勇者ひろしは振り返って口に含んでいたものを窓の外に捨てた。

「!」

 一瞬びっくりしたがキシリトールのガムのようだ。勇者ひろしの制服のポケットからはいくつかガムが見えている。つうかNOポイ捨て。

「大臣オオサカならいつものことだ心配ない……いつまでこの口調なんだ、なんもやってねぇなら胸張れ胸」

まったく、なんつう世話の焼ける奴だ……。うん?洋は何かポケットから二枚紙を出して書いてる、『はい』『いいえ』?

「勇者ひろしよ、心当たりはないな」

戦士たかし、付き合ってくれてサンキュー、あ、洋が『いいえ』って!おいおいおい、俺いつから不良と友達になったの?

 ……いやまて、この場合まず不良って何だ。

お前知ってる?

コミュ障に聞くなってか、で、コミュ障ってなんだ?

う~んそうねぇ、ここはひとつ大臣オオサカに聞くのもありなんじゃないでしょうか。いや俺もあの先生あんま好きじゃないけど、

 一応洋にも聞いとくか

「我が友勇者ひろしよ、お主確かある企業家を尊敬していて、彼の行った有名大学にいきたいと言っていたように記憶した。ナイシンテンに関わるといけないから悪いことはやってないと、俺たちは思っている」

と俺、う~ん、なんか熱血先生にでもなった気分。

「はい」

おっ、洋は紙を見せた。今日はあくまでしゃべんない気か?

「では聞こう、なぜさっき『やった』と答えたか。ちゃちな前科があったらかっこがつかないと言っていたのではないか」

「はい」

俺の言葉に洋はやっぱり『はい』『いいえ』だ、……会話になるのかこれ。悪い高志パス。

「勇者ひろしよ、警察に捕まったか」

「はい」

ピーポーピーポーピーポー、はいこちら現地です。容疑者確保しました、とりあえず靴下が臭くそれでテロを試みたようです。

 現在時刻キューマルマルゴー、はいここに捜査員います、高志捜査員です。

 そうですね、彼の靴下はそうとう臭いですよ、これは匂い付き柔軟剤の出番ですね。

 はい、容疑者確保しました。

 勇者ごっこはどこいったんだよ!

 洋の話を聞かないと、俺らは休憩時間の終わるチャイムが鳴るのを聞くと、昼休みに続きをすることを約束して別れた。


 さて、昼休みだ、親父が俺を『燃費が悪い』なんていいやがるし、実際計算してみたら毎日パン買う金ためりゃなんか別なの買える気がしたんで今日はなんと!二つおにぎりを作ってきたんだ。水筒にお茶もあるぞ。

 高志、そういうのは続かないって言うなよ。

洋は自分の教室でたたずんでいる、あぁやって一人でたそがれてると『不良』っていう指摘もなんか間違ってはいないような気がするけど、とりあえず話を聞こう。……してくれるよな?


 多数決だ 民主主義だ

 自分と同意見で 固めてんだよ

 あいつらのまわり どうせイエスマン

 なにをいおうと なにがあろうと

 セイ イエス


 こんな反権力なラップお昼の放送で流したの誰だよ!俺もうっかりラップ的ポーズ(チョキをクロスさせたやつ)とりそうになっちゃったじゃねぇか!ったく、なぎさじゃないだろうな。

 あぁそうだ、一応洋がまだ『はい』『いいえ』の遊びを辞めてねぇ時のために、空いたノート持ってきたんだ。用意がいいだろ。

……空いてるなんて嘘だ、本当は大阪の国語がどう勉強したらいいかすらわかんないんでノートとるのすら挫折したんだ。

ともかく、


問題はない 関係はない

俺らの問題みんな 見えないんだよ

あいつらの頭 どうせダイヤヘッド

なにをいおうと なにがあろうと

セイ ノー


 ぐっ!ってグーを上げてポーズ取ってる場合じゃねぇ!よくやるな?あぁそうか。俺は面白いか。お前もやれよ!

で、……。………。

よし、ラップは止んだ。クラシックが流れてくる。食べながらしゃべるか、ってかこれフルオーケストラのRPGゲーム音楽じゃねぇか。

おい、その眼はなんだ。高志、何を期待してる?

勇者ひろしがいる、どうする?▽はなす

「おぉ我が友勇者ひろしよ、そなたの罪まことか今一度聞きたい」

う~ん、魔法使いっぽいか?俺?

「はい」

あくまでその遊びを止めない気ですね、よろしい、であれば……。

「この『ノート』にそなたの罪を書くといい」

なるべく立ちしょんべんとかポイ捨てとかどうでもいいやつたのむ。

「あるきゅうじつ つまらないので ぱちんこやのまえをとおった」

はいっちゃだめだぞ、

「すると けいかんに よびとめられた」

高校生がパチンコやったらダメとかかな。

「おれは かおがこい がいじんに まちがえらえれる こともある」

この書き方読みにくいよな。で?

「あなたの こくせきは どこですか と きかれた」

あぁ!お、お前純粋な日本人だよな?ぶっ、くくくく……いやわりぃわりぃ、んで?

「ぱちんこやに ようはなかったが ぱちんこやのまえにいることを とがめられる きがして がくせいしょうは みせられなかった めんどくさくなって にげた」

逃げちゃだめだろ!

「ちゃりんこで おっかけられ つかまった」

なんともはや、それ警官もちょっと悪くねぇか。で……何されたの?

「はんせいぶん かいた」

前科はないのな、まぁ罰を受けたって広い意味では罪かもしんないけど、もうちょっとこうさ、

「ある株買って、ネットに『そこが儲かる』ってデマ書いたりとか。女の子だまして変なとこで働かせたとか。オレオレ詐欺とかはやってないともうすな」

高志お前しゃべったと思ったら何言うんだよ!

全部犯罪だ!やべぇお前洋怒らせたな、どうすんだよ……。

「はい」

ところが洋は特に怒るそぶりを見せず、何も喋らない様子だ。

 ……何考えてるんだ洋?高志、どうすればいいと思う?

おっ!教室の扉が開いた。

僧侶みさきをともなってなぎさ姫があらわれた!

「勇者ひろしよ、こないだの魔王雪がまたこちらに来るという、そちも我と共に来るか」

あぁ、そりゃ『はい』かな?

「勿論、お供しますなぎさ姫、今度こそ魔王雪を倒し、我が理想のハーレムをうちたてましょうぞ」

洋がしゃべった、つうか、なんだ高志?へぇ、イベントムービーに入ったのか。ってか、洋!言ってることがハーレムとかお前が悪役だ!……ちょっとわかる気もしないわけでは。 

「おお勇者ひろしよ、では太陽の日にイソベ駅でだそうだ。お主の話をしたら、たいそう気に入っていたようだぞ」

なぎさ姫は教室を出て行った。ゲームミュージックから当たり障りのない邦楽に変わってイベントシーン終わり。

 ……こりゃ、日曜日、嵐が来るぞ。


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