第5話 逆らい続けるのも楽じゃない?

 で、お前今日小遣いピンチなのか?いや手作りっぽいおにぎりだから。じゃあ喫茶店誘うのよそっか。

 あぁ?喫茶店代浮かすためにパン代節約したぁ?そりゃまたなんつうか……まぁいいか。

「おい、松助、私最近なんつうかこうさ、キレがない気がして、なんとかなんねぇかな」

俺と高志が教室で食べ始めようとすると、同じく手作りっぽいどでかいおにぎりをもてあそびながらなぎさが俺らの教室に入ってきた。みさきもついてるぞ。

「キレ?またずいぶん年寄り臭い悩みを……」

キレといったらあれだよなぁ、なぎさはきょとんとしてる。

「泌尿器科いけ、飛び散ったら掃除のおばさんに失礼だぞ」

「???」

なぁ、キレがないなんてじじぃじゃあるまいし。

「それとあれだな、尿とりパッド、なかったら生理用品でもいいか。あれしとけ」

生理用品はみさきが持ってたっけ?

「……なんか勘違いしてねぇか?最近私の書いてる生徒会新聞のコラム、キレが悪くって困ってるんだけど」

さてと、ようやく俺のボケに気づいたか、

「そうかじゃあ……って泌尿器科の時点で気づけよ!キレ?お前例えばだけど、こないだ大江さん読んでたよな?」

あんなん女子高生が読む本じゃねぇよ、普段女子扱いしてないけど、

「あの人何歳かは知んないけど、まだ現役だぞ?お前キレなんかなくしてる場合か?」

らしくねぇ、アンポがどうの言ってろよ。

 なぎさはちょっとしょげてる、俺はいつだったか雪が言ってた『あぁ見えて繊細』っていうなぎさ評を思い出した。繊細なやつが遊びに来たとき俺の家に一つだけあったプリンを親父に出されて平気で喰うか!プリン返せ!

「そもそもお前大江さんに影響されてそっち系になったの?」

俺は素朴な質問を口にした

「お前の言うそっち系がどっちかわかんねぇけど、EUとかに興味あるってのは、そのなんだ、子供の時図鑑に載ってたから、新書買うようになってから色々調べたら面白そうだな、と。で、調べてみたら面白かったから、中東問題もそう。それでやっぱりヨーロッパとかの人権思想とか平和思想に影響されて、原発は、まぁその……なんて考えてたら大江さんの本に突き当たった」

なるほど、たまたまあってたんだな。

「じゃあついでに聞くが、政治と小説に何か関係あるのか?読む本増やしてどうすんだよ」

これも気になるとこだ、

「それは……政治的な発言したり、政治家になるって作家の人がいたりするだろ?それと、今の国会って女性がすげぇ少ないんだ。で、女性が多くって、意見を何かに書いてくれる……ロールモデルっての?それを作家に求めてるのかも」

あぁ、なるほどなぁ。俺今日は昨日スーパーの値引きで買ったパンがあるし、こうやってなぎさと無駄口叩きながら食おうかな、なんて考えてたら洋が来た。

「なんだ、お前らここにいたのか」

なんか手づくり弁当っぽいの持ってるぞ?

「あれ?お前もしかしていつか雪が言ってたみたいに人の話聞いてない系?そのかわいいうさぎのアップリケのついた弁当袋……みさき……」

「僕じゃないよ、ほら」

みさきはラップにつつんである自分のおにぎりをみせた、……おにぎり?なんかサンドイッチみたいにおかず挟んであるけど。

「おにぎらずっていうんだ、これ」

にぎってないおにぎりとはなんぞや、哲学的な問いを発してしまいそうです。

 なぎさはまだなんとなく元気ない、腹減ってんのかな?俺が食おうとしても「なぁ……」と気のない口調でなんとなくはなしかけてはくるんだがそこから何もはなさない。

「なんだ元気がない、台湾で女性総統が出現したばっかじゃねぇか。いつもだったら『日本もこうなる!』なんて言い出して、ぴーひゃらぴーひゃらうるせぇっつうのに」

洋の口が悪いのはいつも通りだが、つまりなんかいつものバカ元気がないなぎさを気にはしてるんだろう。

 ってか、女性が総統!?じゃあ男はのんびりしていればいいわけで……。

「すごいね、日本もいつかこうなるかな」

なぎさのかわりにみさきが洋と話を合わせる。

「あぁ?んなわけねぇだろ、日本と台湾じゃ色々事情が違うんだ、まず……って話をしようと思ったんだけどな、なんだこの空気抜けたみたいな顔」

そういって洋はなぎさの頭に弁当を乗せた。

落ちる落ちる、俺がちょっとはらはらしながら見てると

「……知ってる、でもなんつうか今そんな話したくない」

なぎさはそういって俺にうさちゃん弁当袋を渡した。

「これ、彼女がつくったんだろ?そまつにしたらだめじゃんか、さて食べたらまた書くかなぁ。あぁ、パンチが欲しい」

シュッ、シュッ、となぎさがシャドー卜ボクシングをする、あぶねぇ!……いや別に俺を狙ってはないんだけど。

「なんだ、キレがない。そんなんで本当に喧嘩強かったとかいっちゃう?」

洋はなぎさの前に立ち、片手で右パンチを受ける

「運動、してる?政治じゃなくスポーツの方」

そういえばなぎさって、一見とっても運動が得意そうに見えて意外や意外、こないだ体力測定でやった800メートルさえも完走できなかったんだ!ある意味すげぇよ、800だぞ800!つうか過呼吸なんかなるなよ!

「お前あれか?おおかた中学の時の喧嘩相手が別の高校に行ってから身体鍛えてねぇんじゃねぇの?」

洋はなぎさのボディにパンチをお見舞いする……ふりをして直前でパンチを止めた。

「……うん」

なぎさは静かにうなずいた。

「あいつと競ってる時は楽しかった?俺じゃ相手になんない?」

「洋ちょっと」

俺は洋を制し、教室の隅に来させて内緒話を始めた。

「何喧嘩売ってんだよ!なんだか食べそびれて昼休み終わっちゃいそうじゃんか!」

俺は半額のシールがついたパンを見せる

「なぎさ、お前のおにぎりってお手製?」

洋はなぎさに声をかける、

「うん」

「よし、じゃあくじ引きだ、とっかえっこしよう」

洋はまた変な提案をした、……何が食べたいか、わかるよな?


 あぁでもあれだな、なぎさその後すぐ洋に

「お前格闘技習えば?」って言われてからちょっとだけ元気になったし、やっぱり喧嘩相手つうかライバルって大事なのかな。

 なぎさから聞いた、そいつの話でもするか?

 いいか別にそんな話は、いやしかし……。

 アイドルの恋愛は幸福追求権ってなんだよ!

 俺は今日これについて話してぇ、だって新しいドラマがどうあれ、ARISAが星と会ってたのを写真に撮られたってのはまず事実だし、しかもまぁお互いに『お友達』ですなんてまぁ!

 なぁお友達ってなんだよ!星とARISAが俺となぎさみたいにお互いの家行き来してプレステやって漫画よんだりどうでもいい馬鹿話やったり?

 まずありえねぇ!

 俺がARISAと友達だったらまず理性が持たねぇ、いや俺じゃARISAとはつりあわないかもしんないから懸命に紳士たれとするだろうが、しかしARISAと釣り合う男ってどういうんだろうな……。まず星じゃないことだけは確かだ。

  あぁ?なぎさならなんで平気かって……?そりゃあれだ、あれ?なんでだろうな。

 いやまて、そんなことよりもアイドルの恋愛は幸福追求権だぞ!

  話を戻すけども、ARISAの魅力って言ったらまず下ネタで笑わない無垢さ、ファンみんなが『穢しちゃいけない』と思ってる清純さ、なんてったって『芸能界の友達は多いんですけれど』だぞ!『まだ私には演劇が恋人かなぁ』なんて!……のわりには大根だなんていうなよ、それがさらに応援したくなるポイントなんじゃねぇか!

 でさ、時々自分でデザインする服がまたいいよな、この男心を微妙にくすぐる……ネットじゃ『童貞を殺す服』なんて言われてるけど、言われてみれば確かに、きわどいとは無縁のデザインなのに……はぁ。

 あれ誰か男がゴースト的に陰でデザインしてるって噂があるけど、俺にいわせりゃそりゃねぇな。ARISAはあんまりにも無垢だから、『見せない』ことが男にどんなことを思い起こさせるか知らないんだよ。

 でもあぁ、本当に『お友達』なのかな……俺そんなに芸能ニュース詳しくねぇけど、それで実は付き合ってたなんてケース前なかったっけ?

 え?星は共演者に手だして週刊誌沙汰になるような奴じゃない?でも現にのったじゃねぇか、週刊誌。守れないのにARISAに手を出すなよ!

 何?事実無恨でほんとうに友達だったらどうするって?

 お前って……あぁいやだだからファンってのは!

「おい高志に松助、暇なら今日喫茶店寄ってかね」

洋が放課後だべってた俺らに声かけてきた。

「あぁ行く!……よかった助かった」

助かったって、高志お前も友達がいない奴だな。


 で、今日俺は部活をさぼって喫茶店レオにいるわけだが、俺と高志を呼んどいて洋は何も話さずアイスコーヒーのストローをもてあそんでいる。

ここの喫茶店有線のジャスとかがかかってんだが、さっきからそれが聞こえるだけ。に手紙を書いたのに無視された男が自殺するという……ってそんな話どうでもよすぎるよな。

 なぁ高志、お前へんな不良に絡まれたらどうする?俺は逃げる。

 お前もか、そりゃそうだ。

 俺らがそんな無駄話してるとようやく洋が口を開いて一言、

「みさきが来たら話すから」

だってよ、まぁ暇だし俺は携帯でパズルゲームでもやるかな、お前はなんだ、喫茶店に置いてあるゲーム雑誌読むの?

 ヘぇ、十年以上前のゲームに続編ねぇ、でそれって俺ら高校生ターゲットにしてねぇだろ?

 だってそんなばかすか次世代機出されて買えるかってんだよ。このやろ俺の小遣い五千円だぞ。

 そんなことを高志とだべりながら、携帯アプリのロード中画面を眺めてるとようやくみさきが喫茶店に来た。

「なぎさ撒いてきたか?」

洋はみさきにそういうと

「うん、今日は生徒会だって」

だそうで

「さて、今日の議題は『雪』だ」

と、もったいぶって俺らに切り出した

「雪っていえばせんべいかアイスだよな」

「僕雪って最近触ってない」

「それもいいけど議会ごっご前やった気が」

なんて俺らはおなじみの『わかっているくせにわざとぼける』遊びをやる。

「お前ら!雪っていえばあのうるせぇ、なぎさの胸なんか触りやがった奴じゃんか」

洋はキレた、そりゃそうだ。そしてこう付け加えた。

「あいつは……危険だ」

この言い方なんか『ラスボスが襲ってきたときの仲間のセリフ』みたいだな!ってそんな話ですか?

「……あいつは、二つも(二つの、じゃねぇの)俺の大切なものを奪っていった。見た目に騙されてはいけない、ちゃんと対策を……」

またその『ラスボスが襲ってきた感』出す!そうかこれはそういう遊びなんだ。よしそうくんなら……。

「雪なら、火に弱いんじゃねぇか?」

……あぁごめん今のいまいちだった!みんなごめん次はちゃんとやる、あぁみんなの目が痛い……。

「……で、ます釈然としないのが」

無視された!うわぁ俺ってばハメ外したりしたから……。

「なぎさにレズの女友達って『あり』なのか!ってことだ」

う~ん、こりゃ専門家の意見が必要ですよ。


 

 

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