第4話 世話の焼ける奴ら
……。
洋の告白に、俺らはただ何も言えなかった。
だってまぁなぎさが鈍いっての知ってたけど!
それはだってデートだろ、な?はいデートって思う人、俺とお前と洋ってみんなかよ!
だけどなぎさの態度はどう見たって恋する女のそれじゃない(と思う)みさき呼ぶの忘れたな、そういえば、みさきはあいつの弟だしなんか知ってねぇかな……。
なんて考えてると、
「でな、俺思ったんだ。こいつを口論でコテンパンにのしちまえばいつか尊敬が恋に変わるんじゃねぇかって」
あぁ、なるほどなぁ
……なんだ高志?何か言いたそうだな。
俺あんま女ごごろってわかんねぇけど、それでもいわせてもらえば俺みたいに波風立たせくあんまいい人過ぎても「いい人なんだけど」(街子談)になっちまうしいい案なのかなぁ、う~ん。
あぁ!思い出したら腹立ってきた!なんだよ「いい人なんだけど」って!なぁ高志お前は女子になんて言われたことある?
……え?女子になんか言われたことなんてない?緊張してろくにしゃべれねぇのか、よくある話だな。
「……でも」
意を決したみたいに高志は口を開いた。
「僕ネタ的に面白いから女性向けゲームやるんだけど、それだと男の子は女の子ちゃんとほめるんだけど……」
あぁ?なんだそれギャルゲーみたいなもんか?ってかそんなホストじゃあるまいし自分ほめてくれる男なんてギャルゲーの女ぐらいありえねぇから。
……いやでも、俺の好みの大和撫子みたいなキャラなら現実にいても……。
「女ほめたって何になるっていうんだよ、つけあがるだけじゃねぇか。松助、お前だってそう思うだろ」
「でも、僕の知り合いのお姉さんは女をおとすならほめなさいって」
高志は負けない
「俺はその辺ノーコメントで」
俺はちょっとやばそうな話の流れになりそうなんで席を立った。大和撫子なら、男をほめて立てる、そうなんだけど……
悪い携帯鳴った!高志、お前洋の話し相手になってやってくれ、俺帰る。
あぁもしもし親父……。
こないだは勝手に帰っちゃって悪かったな。
あぁなんだよ、親父が豆腐買って来いって言ってきたんだって。
え?なんだよ、英語のわかんないとこなんて俺に聞くな!自慢じゃないが俺は英語万年赤点!家庭教師つきのご身分よ、ほほほ。
あぁ?だから聞いたんだって?そういうのはもっと別なやつに聞け!
「……何?そうすると恋愛感情がないんじゃなく恋愛に関する知識がないんじゃねぇかってお前は言いたいのか?」
洋とみさきだ、ちょっとかわったとりあわせだな。
「だってさ、いつも携帯で話してんのいとこのありさだよ。あんまそういうことくわしい子じゃない」
みさきはなぎさがいないとなんとなくいつもよりよけい女っぽい、よってなぎさとみさきは身体取り替えること!以上!
「そんな本いくらでも売ってるし、ネットにだってうんと情報あるぞ?」
洋はみさきに唾を飛ばさんばかりにかみついた、でもなぎさそんな本買うわけねぇって。
「……それが、僕も好きな女の子いたときに恋する女の子がどんな気持ちになるのか気になるから読んだんだ、その手のハウツー本。なぎさもちょっとみたんだけど……」
もうわけわかんね、なんで恋する女の子の気持ちをみさきが知りたがるんだかも
「でも、下らないって大笑いしてたよ」
なぎさのあんまりにも繊細さを欠いた言動も!
「で、時になぎさはどこ行った?」
「図書室で調べものだって」
あぁなんだ、どうせイスラム国がどうとか調べてんだろ。
さて、図書室でやっぱりなぎさは固っくるしい俺なんか見るだけで頭痛くなりそうな大江健三郎なんか読んでるな!
あぁ知ってる?大江さん。ほら……憲法守れーの原発ハンターイの障害者の人権うんぬんのいわゆるそっち系の人。
「お前そんなの読んだらなおさらそっち系になるぞ、俺みたいな現実維持派の意見も聞いてくれ」
大江さんなんていちばんそっちよりじゃねぇか、俺は読んだことないけどさ、新聞での意見とか。
「でもさ、そっちもあっちの意見も聞かないと。みんなの意見をまとめんのが生徒会長の仕事だし、政治もそうかなと思って」
なんつう地道な作業を、つうかこいつ意外といえばあまりにも意外だけど自分の意見だけでつっぱってくとか(生徒会では)あんましないらしいんだ。
その制服のズボンも、確かに言い出したのはなぎさだけど、前から他の女子から「寒い」とか「男子の視線がキモイ」って意見がいくつかあったんだって。
そういうこといってる奴に限ってお前のなんかみたくねぇ!って面してるよな、それはともかく
「いいから現状維持させてくれ、政治も学校も、無理にもっとよくしようとしてくれなんて思わない。よくも悪くもこんなもんでいい」
俺は結婚して専業主夫になるのが夢なんだ、奥さんに養ってもらって、俺は細々とやって、卵が安いとかそういうこと考えて平凡に暮らしたいんです。
いや働く気ないってんじゃねぇけど、なんて俺が高志とだべってたら、なぎさがちょっと眉をひそめてこう言った
「お前なぁ、簡単にいうけどそれが一番難しいんだぞ」
そう言ってなぎさは俺らにちょっとついてこいと促した。
どっかでぼこぼこにするつもりじゃねぇだろうな。
俺らのついて行かれたのは生徒会室。
「昼休みが終わるから手短に話すけど」
生徒会室に入っても別に屈強な男たちに囲まれぼこぼこにされるわけはなく、なぎさは机にファイルを置いて俺らに読めという。
……なんか円グラフだの棒グラフだの、パソコンで書いたらしい表にいくつかの注釈、なんともまめなことする奴がいるもんだ。大雑把ななぎさとは大違い。
「へぇ、書記ってこんなことするのか?」
俺が嫌味たっぷりに言ったら
「それ、みんなを説得するとき私が口弱いからなかなか説得できなくって、先生にデータを見せればいいって言われたんだ。……作ったのは私だ」
なんと!いやみはきかなかった!
ってそんなことより!まぁ前からこいつ懲りだしたら結構止まらない性格なんだろうなとは思ってたけど、時々蛍光ペンで書きこまれた字が大きくって雑だってことを除けばむしろ綺麗なほうじゃんか、これ。
「で、なんだって?」
俺がそんなことはおくびにも出さず平常を装っていると、なぎさはその書類をパラパラとめくった
「最近一部の生徒……とくに運動部から、帰宅時の飲食禁止はきついって意見があって」
そう言って見せたのは円グラフ。
「で、アンケートをとったんだけど、帰宅途中に飲食したことない生徒なんていなそうに思えるだろ?」
あぁまぁ腹減れば買い食いはするよな、特にお前とかお前とか、お前とかが。
「でもふたを開けてみてびっくり!けっこうな割合で『下校中に飲食してない』って答える奴がいるんだ」
あぁ、そりゃ生徒会でそんなアンケートとればなぁ、
「それ、俺も『やったことない』って答えた」
俺はつい白状したけど、そんな俺をなぎさは咎めることはなく満面の笑みでこう言った。
「お前自分の常識に自信あるよな?」
「あぁ、俺が卵買いにいけばその日は卵買いにいく主婦の行列でごった返している。俺がやることはだいたいみんなやることで、みんなやることしか俺はやらない」
だって目立つのは嫌だし、冒険もできない、やっぱ普通が一番だ
「で、そのデータ本気にした顧問の先生、見回り強化するって言いだしそうになったんだぞ?知ってるか?」
何っ!それは聞き捨てならないなぁ。
「慌てて『守られてるんならいいじゃないですか』って言ったけど、『守られてるかどうかチェックする』とか言い出して」
うわぁうぜぇ先公!それでどうなったんだ?
「結局顧問の先生止められなくって、お前らの喫茶店には私が行った、そゆこと」
あぁよかったぁ!つうかお前わりとそういうとこ融通きくの好きよ。
「お前らが喫茶店でだべってて私が注意するだけの日常にしろ、普通ってのは、結構絶妙なバランスで成り立ってんの。憲法改正に反対派がなん%賛成なん%、購買のパンには塩何グラムって。それにもっとよくなると思うんだけどな、この学校」
なぎさが燃えてる、こりゃ今日は生徒会の会合で喫茶店はこねぇな。
俺は今日、部活があるから。
昨日家でくつろいでたら洋から電話が来た。
「よお松助、あいかわらず童貞か?」
「洋か、今日あったばっかでどうやって童貞捨てんだよ!お前はあいかわらず馬鹿か」
「そういうこと言ってるから童貞なんだよ、でも考えてみれば俺らって馬鹿かアホとかしかいないんだったな」
「まともなやついねぇじゃねぇか!馬鹿話ならあした学校でしてくれ」
俺は電話を切ろうとしたが
「ちょっとみさきにも聞いたんだけど……相談に乗って欲しいことがあってな」
洋は妙に真剣な口調だ、
「俺の友達がな、気になってる娘がいるみたいで、でもそいつは他のことでいっぱいいっぱいで、なんていうかみんなに愛をあげちゃうらしいんだ。……なんとか独り占めできねぇかなってぼやいてたんだけど、お前どう思う?」
……あぁ、友達ってかそれお前のことだろ!まぁいいよ口には出さないでおくから、それにしてもあれだな、
「うんそうか友達がな、で、お前の今カノってショートボブのなんかきついかんじの娘だったっけ?」
「俺じゃねぇ!ダチだダチ」
つうか洋、照れてんのバレバレだし
「あれ?OLさんだったっけ?まぁいいか。時にお前どんぶりなんばいいける?」
俺はもっと洋を怒らせてみたくなった
「関係ねぇだろ!……二、三杯?」
まず、俺は恋愛に関して人にどうこういえるほどいろんな経験つんでねぇよ、0って言っていいぐらいだろ。
でもな、『俺はこれしかしないけどお前はあれもこれもしろ』ってのは変だよな。
「じゃあ洋、お前のキャパはどんぶり三杯で、お前の愛情はその彼女さんが主に独り占めしてる、ここまではいいか?」
俺はさも関係ない話をしているようで、これでもちゃんと洋(の友達)の悩みを聞いているんだよ、友達だしな。
「……あぁ、でもそれが何だ?」
洋の声がイラついてる、親父が風呂からあがったらしく俺を呼ぶ声が聞こえる。早くしないと。
まったくさ、なんで俺こいつと友達やってるかって思うと、結局こういう不器用なとこ、ほっとけないのかもな。
「じゃあ洋、思われ人の愛情がめちゃめちゃご飯でいう喰いきれないぐらいの、炊き出しぐらいとかもっともっとだったらそれでも独り占めするのか?」
「ものの例えがおかしい、松助、愛情は腐らない」
俺がしたり顔なのがわかったのか、洋はさらに腹立ってる。いいぞいいぞいつもと逆だ。
「それに彼女の愛情だったら何人前だろうが喰ってやる!……っていうと思うぞ、そいつ」
あぁいいよそういうことならそういうことで
「だいたいな、その友達がどうか知んないけど、お前の愛情彼女がほぼ独占状態だろ?友達のはどうなんだ?それでもその人が欲しいんだ?」
な?不公平だろ。
「……そいつに言っとけ、今のうちは、まだ見込みがあるんだ。じゃ俺風呂だから」
そう言って俺は電話を切った。
次の日洋にさんざん嫌味言われたのはいわずもながだが、でもあいつ「こないだはダチが世話になったな」って宿題見せてくれたぞ。
まぁ、あいつも誤解されやすいけれど、それなりにいいとこあるんだぞ。
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