第11話 あいつの正体!?

 嫌だ!俺は慌てて定期券に入れたARISAのプロマイドを出した。

 これはCDの初回限定についてたやつで、白い麦わら帽子をかぶり清楚な白いワンピースを着たARISAが渚で波と戯れてる、……やっぱり、違う。

「……あの、さっきから聞いてるけど」

あれ?おっ!高志!お前だんまりだと思ってたらようやくしゃべったなぁ。

「……その生徒会とかに出るのにいそがしいんじゃ、なぎささんがARISAっていうのは、やっぱり違うんじゃ……」

待ってましたぁ!俺もそう思ってたとこ!

「……確かに」

「そうです裁判官、俺気づいたんだけど、鼻の形がちょっと違う気がします!」

俺は自分のお宝プロマイドと洋のお宝になるであろう姫系ワンピのなぎさが写るデジカメ写真を並べた。同じ趣味なんて、やだよ。

「ほら、ようく見て下さい!それに犯人は確か、ワクセイジャーのファンでした!星と会ってファンまるだしで特撮話でもするんですか?それはデートじゃない!」

な、そんなことは二重にあっちゃならないことだ。

 だいたいなぎさ笑ってたじゃないか。『その週刊誌にはほんとうのことなんか一つも載ってない』って。あいつは確かに反権力だけど、新聞の丸飲みやばいとか、教えてくれたのはあいつだし。

「……女は化粧で変わる」

洋はまだ意見を変えない、なぎさはなぎさであってほしいし、ARISAには星なんかよりもっといい相手がいるはずだ。

「意義あり」

俺と高志が口をそろえた。

「……松助と高志の意見を聞こう、なぎさはARISAじゃない」

ほら見ろ!

「しかし裁判長!それでは認めるのですか?」

みさきはつらそうに口を開いた。

「犯人がデートしていた可能性があるんですよ!」

……あぁ、言っちゃったよ。

 洋……固まってる。


 喫茶店でだべる俺らを、マスターはいつものことだと思っているのか、とくに何も言わない。

 口を潤す水がぬるい、新しいのと取り換える。

 しばらく経って、高志が素朴な疑問を話しだした。

「……そもそも、その写真の人ほんとうになぎささんなの?誰か声かけた?」

あぁ、その可能性、ねぇ。

「……そういえば、声をかけそびれた」

「それ、洋の役割だったはずだけど」

俺のそのつっこみに洋は悪びることはなく、開き直って弁解を始めた

「だいたいだ、なぎさが携帯で『デート』って言ったからなんだっていうんだ。誰かのデートに付き合わされて、『わたしの友達』として紹介されただけかもしんないだろ。それに、俺は、俺のためにあんな服着てるなぎさじゃなきゃ、声は掛けない」

うわぁ!ウルトラメガトン屁理屈!

「……一理ある?かな?」

「可能性は0ではないとは思うけど……」

みさき!高志!お前ら騙されるな!こいつの屁理屈はA5ランク級だぞ!

「だいたいなぎさがほんとうにデートだと思うんなら、それこそその転送されてきたとかいう電話番号にかけてみれば?」

せいいっぱい平気なふりをしてるが、ようは「なぎさとデートしてる奴だれだ出て来い!」なのまるわかりだから、それ。

「……」

みさきは黙ってる、つうか、そんな馬鹿な提案、誰がのるかって。

「……じゃあ、洋くんかけて」

のるの?俺もうなんつうかもういいや。

 電話のコール音が鳴る。

 みさきの話から、生徒会とかは抜いて、友人らしいけど誰かは知らない名前にかけることに。「光」確かそいつはそういった。

 ……あれ?星って「星 光」じゃなかったっけ?いやよくある名前だけど。まさかのARISA=なぎさ最上?

 いやしかしなぎさには生徒会もあるし……。

「そういえばなんていうんだよ?みさきとなぎさじゃ番号違うだろ」

洋は馬鹿な事を言い出した

「携帯の番号変えたとかじゃね?」

「それじゃオレオレ詐欺だ!」

「なぎさの友人の洋ですけど、とか」

「だから詐欺っぽい、それ」

「俺の女になにすんだ!ぐらい言いたいかな……」

「脅迫だ!だいたいいつなぎさが俺の女になったんだ」

「言うだけただじゃん」

「あぁそうかよ……」

電話はなかなかつながらない。

「……遅いな」

俺は洋に声を掛けた。

「……黙れ、今一所懸命なにいうか考えてるとこだ」

洋にはこのコール音が、ずっと長く感じるんだろうな。

「………」

「………」

あぁ、沈黙が重い。

「何いうか決まったか?」

俺がそういうと同時に電話のコール音が止まった。

「静かに!」

洋は俺を制した。


 次の日、俺はいつもより低めのテンションで昼休みを迎えようとしていた。

 だってARISAがなぎさかもなんて、あぁ今日のお昼の情報番組にARISAがでるんだけど、携帯でTVみれるのに見る気もしない。

 それに、結局昨日洋があれだけ気合いいれて出た電話は留守番につながったし。(いや、出たら出たで何話していいかわかんなかったらしいけど)

 ミートボールパンは売りきれですって購買に張り紙あるし。

 ……えっ買ってある?二つ!高志お前いいやつだ。

「おう松助、お前最近そいつと仲いいな?」

あ、来た、頭痛の種が。

「会長はそうすると日曜はずっと図書館で?」

洋もいる、なんだってまぁ、あんなにあんな奴気にすんだろな。

「まぁ、だって色々勉強することもあるし」

う~ん、そういうこといかにもいつものなぎさだけど

「ちなみにこういう写真あるんだけどどう思う?」

取りだしたのはあのミニスカワンピを着たなぎさ(と思われる写真)

「……!」

なぎさが一瞬びくっとしたが、

「……それがなんだっていうんだ?」

高志!あの秘密!いっちゃえ!いっちゃえ!なぎさのタンスに!

「……いや何、かわいいなぁ、と……」

洋にキレがない。まだ自分の為じゃないショックを引きずってるんだろ。

「こういうの、着ないのかな?とか、なんで?」

「着て行く場所がない、なんで図書館とか松助んちにそんな服で行くんだよ」

ですよねー!

「それに一応私も女だから、その写真どうこう言われたって、べつに恥ずかしくはない、露出度も低いし」

あぁ、まぁ。(隠してるからこそのロマンもあるだけどもう黙ってよう)

 十二時十分のアラームが鳴った。

 俺はあわてて携帯を取り出しARISAの出る番組を見た。

「今幕張スタジアムから生放送です!今日はARISAのライブに……」

……うん?生放送?

 そうだった!そうですよねぇ。

 あぁ、やっぱりこうじゃなきゃ、なぁ。

 俺は思わず涙ぐんで、なぎさにこう言った

「そうだ、お前ワクセイジャーの星ってどう思う?」

俺の期待してるのは特撮ファンらしい反応で。

「?どうって、あの手で重いものもてるのか?喧嘩弱くねぇ?」

斜め上の、でもこいつらしい答えが出てきたからほっとした。

 携帯のTVには生放送のARISA、やっぱこうじゃなくっちゃ。

「でさ会長……そのさ、星と会ったらどんな話する?」

洋は俺の携帯のARISAを確かめると、だんだんいつもの調子に戻ってきた。

「……政治じゃないだろうし、特撮の話はされ飽きてるだろうし、えーと?つうか会って話す機会なくね?ワクセイジャー終わった今イベントもないし」

そうだよな、うん。

 なぎさにひっついてたみさきが「なぎさはジャージでもかわいいんだから」って言ってる。

 本当変な双子だな、なぎさは男っぽいし、みさきは女っぽいし。

 俺は財布からARISAのプロマイドを出した。

 この渚の乙女が、なぎさのわけなかったんだ。うん。

 やっぱ、女は大和撫子。髪は黒く長く、肌は白く。男をたて、おくゆかしくつつましく……。なぎさじゃ撫子はなでしこでも「ナデシコJAPAN」って感じだしな。

「……お前はお前でいろよ」

わざと聞こえないように小さく呟く洋を見て、俺はこいつと同じ女を取り合うようなまねをすることになんなくって本当によかったと思ったんだ。


 

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