第10話 ……デート?あいつが?

 ……というわけで、尾行は失敗した。

 でもそんなことよりショックなことが俺にはあったんだ、聞いてくれるか?

 これ、今週発売の週刊誌。

「安保反対これだけの理由」

お前まで反体制かって、ちがうその特集じゃない、じゃあ何かってその……芸能面だよ。

「アイドルARISA、元ワクセイジャー星と密会デートを激写」

星!あの野郎!女みたいな顔して前から気に食わないと思ってたんだよ!

 え?星くんはブログにその日はまだ公開できないドラマの打ち合わせだって書いてた?でネットの掲示板じゃ「そのドラマにARISAがでるんじゃないか」って噂がある?

 だからARISAと星くんは特になにもない?

 まぁお前がそういうなら……。

「よう、お前もその週刊誌読んだのか。やっぱ安保はおかしいよな」

来たか反体制派が。

「にしてもこの週刊誌……ほんとうのことなんか何一つかいてねぇな、ひでぇの」

何が面白くって笑ってるんだ、俺がこんなに傷ついてるのに。

 うん?ほんとうのことが書いてない?

「安保反対の理由以外にか?」

この週刊誌、他にも特集があるしな、それとか

「あぁ、もちろん、特に芸能人がどうとかもう下らなくって」

自分の世界とは違いすぎて?恋愛自体にそんなに興味ない?

「いや何、実は……おっと危ない危ない、これ特にお前には絶対言えないなぁ」

なんだよその態度腹立つ!

 こうなったらなぎさが生徒会忙しい日狙ってこいつ抜きで反省会するぞ。

 お前も来い!


「よし、とりあえず要点をまとめよう」

いつもの喫茶店で、洋はどこからかホワイトボードの小さいのを取り出し、そこにマーカーで人のマークを書きだした。

「まず、犯人は電話であきらかにデートだと言った、磯部駅に日曜十時、しかしその日現れた人物は犯人かどうか疑わしい、ここまではOKだな?」

犯人とか容疑者とか何事かと思うだろうが、俺らは真剣だ。

「意見があるもの?」

「はい」

おっ、お前なんだ?

「ジューンボーイを受賞後、舞台の脇役から始め、オーディションでワクセイジャーのレッド役を射止めた努力家の星くんに否はないと思います」

あぁ、ファンってこれだから、

「じゃあARISAに否があるっていうのか!あんな清純で嘘がつけない、『恋愛の歌を歌うことが多いんですけれど、経験がないんです』なんて言っちゃう子が!」

「……どっちもどっちだな」

逆上する俺を洋がたしなめる、今日は洋が突っ込むのかなぁ。

「あの掲示板の信憑性はともかく、じゃあ週刊誌に載ってるのは星とARISAだと思うもの?」

「はい」

「はい」

俺も高志も手をあげた。

「そうだな、あの写真は合成ではなさそうだし、……じゃあ、なぎさはどこに行ったんだ?今日の主題はそこだ、星もARISAも関係ない、付き合ってようがそうでないかどうでもいいものとする」

洋はつとめて冷静にことを進めるつもりだろうが……ようはなぎさが心配なのがばればれだしそれに

「意義あり!」

そんなスキャンダルは俺も高志も許さない、俺の声に

「僕も意義あり!」

あれ、みさきか、なんだよ。

「……これ、どうしたらいいかなぁ、言ったほうがいいかどうか迷ってたんだけど」

もじもじと口ごもってる、

「みさきは実弟であるから一番犯人に近しい、よって法廷はできるだけの証言を求める、協力の際は何かしらのお礼をしようかと思う」

洋はあくまで裁判ごっこを続ける気だ、お礼?誰の金で?

「……いいやいっちゃえ。あのね、いつもなの」

うつむきがちに、おどおどしながらみさきは話し出す

「何が?」

俺はあんまりいい予感がしなかった、やだよARISAあんな女みたいな顔の奴となんか

「……いつもね、なぎさがかわいい服着て、つかれて帰ってくると、ARISAのことが週刊誌に……」

なぁにい!!!そいつは大問題だ!

「よく言った!」

洋はポン、と手を打って腕を組み話しだした。

「ということは関連があるのか?それともたまたまか?多数決を取ろう」

多数決がいつも正しいわけじゃないって、ここになぎさがいたら言うだろうなぁ。

「まず、たまたまだと思うもの?」

俺しか手をあげないとか……あぁもう!

「理由を述べよ」

洋はホワイトボードをなんかあの司会者がもってるような金属の棒でぽんぽんと叩いて言った

「だってそんなのたまたまとしかいいようがねぇじゃんか、なぎさが実はARISAでした!とかならともかく」

そんなことはないはずだってのに

「……一理あるね」

……はい?なんだってみさき?

「そうだ、ちょうどその可能性について話そうかと思ってたところだ」

洋まで!あんたがた何いっちゃってくれてんの!


 洋はコーヒーには口をつけないでしゃべる、なんであぁいう討論番組とかってだいたいそうなんだろうな。

「いいか、これが私の独自に入手した、その日バスから降りる姫系ワンピを着た犯人だ」

あぁ、デジカメで(殴られた)

「そしてこれが松助が我々に見せた週刊誌に載ったARISAの写真」

あい変らず可愛いなぁ、同じ服着てようがなぎさとはまさに月とすっぽん。

「そう、同じ服だ」

ふと見ると、洋はあきらかに不機嫌になっていた、顔を崩さないようにしてはいるものの、眉尻がちょっと上がってる。一生懸命口角をあげてるのがまるわかり。

「……そもそもなぎさは誰のためにこんな服着てるんだ?男か?そんなはずは……」

ぶつぶつと、洋らしくない歯切れの悪い言葉。

「裁判官!そのことで意見があります!」

みさきが身を乗り出した。

「確かにこれは同じ服です、でもこれはARISAがデザインして、女性のファッション雑誌にも載った人気モデルです。高価なもの、それなりに流通があり、それだけでは同一人物である可能性は非常に弱いと思います」

そうだそうだ、俺はみさきの尻馬にのる、そんなことがあってたまるか漫画じゃあるまいし

「……でもじゃあなんでそんな高価なものをなぎさが持ってるのかは、『もらった』としか聞いてないんだ。洋くんは『そんなはずはない』と言ってるけど、松助くんみたいな清純派好きな人がいるところをみると、これは男受けがすごくいい服だ、僕も好きだよ。……あんまりこういうことは言いたくないけど、男性からもらったのかも」

前言撤回だ、なぎさが男からそんな服もらって、着てる?だぁ?そんなんもっとありえないから。制服でさえ「寒い」って言ってズボンにしたのに!

「な」

洋が動揺して必死に訂正した

「親戚のおせっかいおばさんが、『もっと女の子らしい服着ろ』って言って送ってくるだけかもしんないじゃないか!」

洋らしくなくあせってるが、みさきに言わせるとそれには理論性がない、

「でもなぎさはこれを着たとこ誰かに見せたいんだよね?おばさんの家行く時はやっぱりジャージかジーパンだけど?」

ほら、やっぱり。

「ってことはだよ、やっぱり誰か見せる人がいるんだよ」

みさきの推理は止まらない、顎に手を当てて、まるでほんとうの探偵みたいに(もっとも俺らはドラマでしか探偵を知らないけど)意味もなく立ちあがって小さくそのあたりを往復して歩き始めた(なんでだ)

「いや!こないだの雪みたいな知り合いがいてだな!『デートしよ』なんて電話かかってきて女同士で遊んでるだけかもしんないだろ!」

洋の唾が飛ぶ……汚い。どうも洋は『なぎさが男とデートしてる』って可能性を否定したいみたいだ。

「……あいつを女にするのが俺の一番の楽しみなんだ。誰だかわかんない、携帯の番号知ってるだけのやつにそんなこと、されてたまるか……」

なぎさは女だけど、洋の言ってるのはそういう『女』じゃないんだろうな。いくら俺でもそんなことわかる、洋のフォローにまわろうと口を開く俺よりみさきが早く穏やかに話した。

「そうだ、共犯者は犯人の携帯を知ってる。この事実にちょっと注目したいと思う」

顎を手で支え、腕を組む探偵みたいなポーズ、あれ、なんでだろうな。

「いいか、犯人はみなさんご存じのようにあまりデジタル関係に詳しくない、それで、こないだ僕が機種変した時、番号が変わった時に」

あれ、微妙にふべんだよな、知らない番号から掛かってきた!と思ってビビってたら知り合いかよ、みたいな

「誤操作か、赤外線通信で電話帳ごと送られてきたことがある。つまり、僕は犯人の電話帳を知ってるとしたら?」

な、なんだってーーー!!!あいつどれだけそういうの苦手なんだよ、普通やるかそんなの。

「探偵さん、それで犯人の電話帳は?」

洋の声に、みさきはうつむき、ほんとうにくやしそうにこう言った

「……残念ながら、特定の男性の存在を匂わせる番号はなかった。僕に松助に、生徒会の面々、ボランティアのNPO、雪など他校の友人、親戚、家族、以上だ」

あいつ携帯を携帯してなかったりとか普通にするからな、もともとそういうのにしがみつく方じゃないけど、それにしてもまぁあっさりした電話帳だ。

「……とすると、あまり考えたくはないが、こういうことはないか?」

洋は苦虫をかみつぶしたみたいにしている。

「いとこのお兄ちゃんとか、生徒会の先輩とかに……その、なんだ」

あぁ、ついに認めちゃった、大丈夫だ洋、お前モテるんだし。

「その可能性はない、それに、今の本題は犯人がARISAである可能性のはずだ」

そうだったっけ、つうかなぎさがデートとか、ARISAかもとか、なんだよそんなの両方ないから!

「まず、いとこのことだが、いつも犯人と仲がいいのは同世代のありさだ」

あれ?ありさ?なんかきいたことあるんですけれど?

「彼女はとてもまじめで、あまり目立たない感じの娘だ。雪のように、『デートしよ』などと電話をしてくることはあまりないだろう。そもそも僕は、ありさが『なぎさちゃんは男の子の友達が沢山いていいなぁ』というのを聞いたことがある。彼女はつまり異性に興味があり、レズビアンではない。だがいつも大きな目立つ眼鏡をかけておさげの似合う引っ込み思案な彼女にはあまり男性の友人がいないと思われる。ARISAと同じ名前なのも、コンプレックスに感じてるそうだ」

……なんだ、ただおんなじ名前ってだけか。

「次に先輩、確かに前会長は男性で、いわゆるイケメンだった。だが電話番号が電話帳にない。だいたい、前会長は犯人のことを『パワフルだね』と評するのを聞いたが、それ以上の感情を持っていた様子はなく、特に生徒会以外のことで犯人と一緒にいるところを目撃した人もいない、もしそんなことがあれば、たちまちうわさになってるはずだ」

どういうこと?

「……僕には、正直、この週刊誌が事実で、犯人がARISAとなり星とデートしてた可能性しか見えない」

そんな馬鹿な!嘘であってくれ!頼むから!


 

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