第8話 愛に性別は関係ないとかなんとか

 なんかなぎさの話ばっかしてるような気がするし、俺がなぎさ好きみたいに思われるの嫌だから、今日は違う話するな。

 ほら、街子。あいつ腐女子なんだけど、絵は上手いんだ。いや腐女子だから必要に迫られて絵がうまくなったというべきか……。

 それで、BLっていうの?そういう……男どうしのからみがある……エロ本書いてるんだけど、こないだちょっとそれ……見ちゃったんだ。

 街子が女友達にノートに書いてたそれ見せてて、机の上に置いて、俺英語の単位やばかったから、「ノート見せて」って声かけたら、たまたま……。

 男と男が裸で……まぁ少女漫画だなぁとは思った。

 でもさ、言っていい?

 ……なんかそのキャラ、俺と洋に似てるんだ。いや……俺と洋だ。

「お前これ!」

エロ本を見てしまった照れくささから顔を真っ赤にしながら俺は声を荒げた

「……愛しあってる絵だよ」

「それは知ってる!なんで洋と俺なんだ!」

こいつの趣味もどうでもいいけど、さすがの俺でもこれは見逃せない。だって髪型もそうだし顔つきも名前まで(さすかに松介まつすけひろしとかになってるけど!)

「……だって仲いいじゃない」

「いや、そうだけど」

街子は最初口ごもっていたが、やがて逆ギレしてきた

「片方はできない子で片方は文句なしハイスペックで女の子とっかえひっかえ、いけてない子をイケメンが気にするの、BLじゃない」

「俺は大迷惑だ、つうか洋彼女いるし」

俺と洋の名誉のためにもこんなものはもう書かせないようにしないと

「遊びの恋と本気の愛は違うなんてテンプレじゃない、……っていうかたぶん本当はもっと他に気になっている人がいるんじゃないの?洋くん?」

うわっやばい!そうつっこまれるとだな……

「だとしても俺じゃねぇ!」

大慌てで訂正させようとしたものの

「本気の愛に戸惑って博は松介をからかってばかり、そこに気づかず友人のまま接しようとする松介。届かぬ思いに身を焦がした博はしかしある機会からその思いを松介に気づかれてしまうのよ。最初は友人でいようという松介もやがて博への愛に気づき……」

パラパラ、とノートのページをめくり、街子はうっとりと喋りだした。

「ついに結ばれると思いきや!博のまわりをを大人の考惑が取り巻く!博はちょっとしたアイディアを実現したことからステーダムにのしあがり」

「ステーダムってなんだ」

なんかどっかで聞いたような話だ、と思いながら俺はいつものようにつっこんだ

「ついには、それを狙う女と周りの大人の思惑から婚約させられるのよ!松介にたいするその女の嫌がらせに疲れた松介は博と二度と会わないと誓わされそうになるが」

「まて、婚約って俺ら高校生、高校生」

みさきに読ませてもらったことあるけど、なんで少女漫画のライバルってあんな意地悪いんだろうな、あんな女ほんとうにいるのか?

「その時!二人の理解者で共通の友人である岬が一肌ぬいだの!もちろん岬もほんとうは松介のことが……でも涙をこらえて岬はついに、洋の婚約者である女の嘘を見抜いたわ」

みさきまで……もうしっちゃかめっちゃかだ、俺があきれてつっこめなくなってると街子は続けた

「でも松介は博の立場を考えて女の嘘を公に暴かなかった。それに気づいた博はついにその真実の愛に気づくと、再会した博と松介は二人で愛し合うのよ」

うっとりとした街子の瞳は輝いてる、俺は一所懸命考えた、けれど

「……それ、俺と洋である必要性は……」

としか言えなかった。

「もちろんあるわよ、いつもは悪口しか言い合わない二人だからこその、この絆なのよ」

「……あぁそうか、でもなるべくさ……」

あきれて魂が抜けそうになってる俺は、それでも「じゃあ洋にはなぎさのほうが」とは言いにくかった。そんなことを言ったらおしゃべりな街子は誰かれ構わずしゃべくりまくるだろうし、「そんなこと言って照れちゃって」なんて言われたら茫然とするしかないからだ。

 ってかだ、なにもそんな時に

「なんだ、俺と松助がなんだって?」

って洋が来るかなぁ!

「洋くんって松助くん好きよね?」

街子もうこれ以上それ前提に話さないでくれ。

「……うん?それ何て答えればいいわけ?」

ほら困ってる、すると街子の漫画を読んだ女子の一人が「好きだから友達なんでしょ」と洋に耳打ちした

「うん、俺と松助トモダチだったっけ?」

「いつもつるんでるでしょ?嫌いなら傍にいないもんねぇ」

洋らしい返答に女子は食い下がる。

「うん、まぁ……」

「ほら、やっぱり!」

それからの街子含め女子のうるさいこと、俺は必死で訂正したけど、聞いちゃいねぇ。あぁもう!お前慢研でそういう漫画読んだことある?え、普通に面白い!?……なんでだ、あぁ、お前だけはまともだと思ってたのに……。あぁそうか、ありえないから面白いってな。

 俺なんか、大事なもの失った気がした。


 え?何?だいぶ前に俺が言ってた「気になる子」ってどんな子だって?

 いいから、あとミートボールパンあんがと、今日も屋上行くだろ。

 なんか街子がお前気に入ってるみたいでさ、こないだの話みたいにホモ漫画のモデルにされるんなら勘弁してもらいたいだろうけど、まぁあんな奴でもいいところも……あったかなぁ。まぁあんなんでも女だから俺も女の気持ちわかんない時街子に聞いてもらってるし、え?なぎさ?あいつは少年だから。

 おおそうか、街子に気に入られて嬉しいのか。よかったな。

 街子と洋、それになぎさとみさきまでいるわ、屋上。

「高志君!星くん今度舞台だって!一緒に見に行こう!」

おお、行っとけ行っとけ。

「ごめん……その日塾だ……」

あぁ!融通つかないやつだな、塾なんか休んじゃえよ。つうか塾行って何したいんだ?

「……そうなの、残念」

ほらっがっかりされた、これじゃあなぁ。

「その代わりといっちゃなんだけど、星くん公式ツィッターで取り上げられたマフィンの美味しい店のHPわかったから、教えたいんだ、メアドいいかな?」

おっ、いいぞいいぞ。押せ押せ。

「あ、いいよ。フリメでいい?」

街子はメモ紙にメアドを書いてる。

お前ら青春してるなぁ、俺なんか変なガイジンに振り回されてそれどころじゃないってのに……。

「それ、クリスのことだろ?」

うわっ洋!聞こえてたのか!なんか悪い笑い方されてるぞ俺……あの顔、絶対なんかたくらんでる。

「洋!お前変なこと高志に言うなよ!街子!お前もだ!」

あ?クリスなんかどうでもいいだろ、あのウルトラ馬鹿。でも馬鹿ってもう一人いたんだよなぁ。

「おい松助、お前総選挙って言えばアイドルだっていうこの街頭アンケート結果どう思う?」

なぎさ、お前のことだよ。このメガトン馬鹿。(メガトンとウルトラってどっち大きいんだ)

「……なぎさ、今青春の話題なの。もっと違う話ないか?」

俺のつっこみ、まぁ恒例の行事ですよね。

「そうだなぎさ、お前も好きな人ぐらいいるだろ?」

おっ洋!どうしたお前今日はいくなぁ!それ俺も気になってた!

「……いっとくけど、『みんな』なんてのはなしな。……恋人にしたいっていうこと。あれ?男女交際禁止の校則なんてなかったよな?」

またあの笑顔だ、洋のなぎさをからかうときのすげぇ楽しそうな、悪い笑顔。……どことな~く瞳が優しい気がするのは洋のなぎさに対する気持ちを俺が知ってるからだろうか。

「えぇっ!」

なぎさはおおげさに片手を跳ね上げたまま、かるいパニックで固まってる。……どうもありゃ考えたことないって感じだなぁ。

「……考えたことない?大好きな人がいてさ、誰か自分を"好きだ"って言ってくれる人がいてさぁ。一緒にいろんなとこ行ったり、楽しいよ?」

まるでなぎさを誘うような口ぶりで、洋はたいていの女ならころっと参ってしまいそうな視線をなぎさに送っている、……なぎさじゃ戸惑うばかりだけど。

「それ、友達とどう違うんだ?」

視線をはずしてまじまじとなぎさは答えた、……あぁ、やっぱり。

「まぁそりゃあいちゃいちゃしたり、それから……なぁ?」

うわぁ!洋が照れてる。なぎさの顔まっすぐ見れないとか、なんだろ、洋、お前まかりまちがってなぎさと恋人同士になったらお前案外だけど

「松助なら知ってるよな、恋人同士だったらすること」

ってうわぁ俺に振るなよ!俺は真っ赤になって答えた。

「俺実技経験0だから……そうだみさき!お前少女漫画読んでるだろ!あれだとどうなの?」

無難なとこに落ち付いてくれ、頼む。

「えっと、裸で……抱き合う。つまりそういうことだね」

もうだめだー!!俺少女漫画なめてた!そうだ俺みさきの部屋でなんとなく少女漫画パラパラとめくったことあったけどそういえばそんなシーンあったよな……。

「いや今なぎさの好きな人の話だから!そうだ、好きな男性芸能人は?」

俺は話を戻した、うん、こういう質問は好みのタイプを聞くのにいい。

「藤岡 弘、」

はい、駄目でした。

「いやそこはさぁ、せめて星くんとかどう思う?」

なんとかしないと、なぎさ藤岡さんとかそれ「初代ライダーだから」ってだけだから!

「えぇっ!星くんは私のだもん!」

街子もそこに混ざって話しをややこしっくするな!

「……星くんみたいなのがいいんだ」

高志お前強く生きろよ、アイドルにきゃあきゃあいうのと恋愛感情は別……だといいな。そういう俺もアイドルのARISAにもう夢中だけどこれは恋だと思うんだ。

「……松助、お前がつっこまないから収拾がつかなくなってるぞ。で、私の恋人になる人?う~ん」

誰もが自分の話ばかりしている中、なぎさが俺を注意した。

なぎさが次に発する言葉を聞きのがさないように、皆が急に静かになった。

誰かが息を飲む音が聞こえる。

「そうだな……。まず顔がどうとかはどうでもいい。一緒にいて落ち着く人かな、まずは。それと静かな人、あんまうるさいと、私が話聞いてほしいほうだから。あと、包容力?」

おおっ!なんか割とリアルな意見が聞けたぞ!しかし!洋!

「そうか……まぁがんばるかな……」

ってぶつぶついいながら鏡見て髪型なおしてるけど!「男性」って言ってないから!

 女かもだから!

 ……あれ俺変なこと言った?

 だってこないだネットで「好きな人はって聞かれたから優しい人とかあたりさわりもない答え言った、でも私レズです」なんてのを見たもんだから。

 って俺のギャグはただすべったみたいね……。

「……それ、私を馬鹿にしてんのか、レズを馬鹿にしてんのか、両方か?」

ってなぎさにつっこまれて……暴力いけない暴力反対。

 なぎさのつかんだ拳から逃げる。俺ってきっと、ネットじゃ「マイノリティへの配慮が」ってまっさきに叩かれるタイプなんだろうな。

 だって普通、同性愛者の友達っているか?考えないよな?

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