第7話 校則守れよ、会長

 なんでまた政治とか社会ネタなんだ。

 俺は平凡な男子高生ライフを満喫したいんです、与党も野党もどうでもいいです、右でも左でもありません。いいですか。

 だからこないだニュースでやってた辺野古のことだってどうでもいいし安保だってしかるに

「松助大変だ!」

なぎさが大慌てで新聞の切り抜きを片手に走ってくる、やな予感。

「戦隊ものが中止になったとか?」

俺はあんま利口じゃないから、わかるネタであってくれと願いを込めて言った。

「それはこないだの話、じゃなくってこれ見てくれ」

新聞の記事は"強姦事件 非親告罪化へ"

 ……。

 ………。

「俺にどんなコメントを期待してるんだ」

うんそうだ、なぎさなら心配がない……といいなぁ、ほら喧嘩強かったらしいし一応弟も俺も洋もいるし。

 なぎさはそんな俺の良心をしってか知らずかうんとまっすぐな瞳でこう言った。

「なぁ、なんでこの記事"事件化するのを嫌がる人もいる"でまとまってるんだ?悪いことした奴は捕まえた方がいいだろ」

あぁ……ってお前な。

「……それは女のお前の方がわかるんじゃ?」

言い淀んだ俺はあんまこの話題は好きじゃない、(この話題、好きな奴ってどんな奴だ)なぎさには青くさいとしかいいようがないまっすぐな正義感しかないのはわかるけど、けど。

「?」

キョトンとしてやがる、こいつ絶対このままじゃあれだあれ、なんだろう~ん。

「そういうのは女のお前が言うな、危ない目にあうぞ」

まぁこんなことでもいっとかないと収拾がつかないっていうか。そうだよ女のこいつがそれ言っちゃうと……。

 でも女ってのはそうじゃないらしい。なぎさだけかもしんないけど。

「これは新聞の投書欄かなんかで読んだ意見で、私の意見じゃない。その上で聞いて欲しいんだけど」

なぎさは神妙な顔になり、そして一呼吸大きく息を吸うとこう言った。

「そういのが嫌だっていえば『嫌ならわざとしちゃえ』って言われ、嫌じゃないって言えば『ならやっちゃえ』ってなり、黙っていれば『だったら』となり、どっちにしてもみたいなとこないですか、だって」

 これがなぎさの意見じゃないのはわかる、なぎさは経験ないから、想像するしかないわけで……だからなんでこういう話題になるんだよ!なぎさお前いつもみたいに中東平和にするとか夢みたいな楽しいことだけ考えてればいいんだよ、こんな問題誰かに任せちゃえ。

 いや中東問題だってめんどくさい、それも誰かに任せちゃえ。

 楽、しようよ。

 でもその叫びをなぎさは意にも解さなかった。

「だって誰かがやるんだろ?難しい問題なら手は多い方がいい」

だから、お前のそういうとこが……いや、だからこそのお前なんだろうけど。

「その問題まだ続くか?」

頼むからもっと楽しい話題にしてくれ、と俺は願った。

「あぁ、あとこないだ家出したあの子」

あぁ、あのいじめと親との不和Wで来たC組の子な。

「そういう被害にあってないのに、あっただろうって言われた。否定してもそんな目で見る人がいる、これじゃちょっと。そういうのを止めて欲しいって言ってた」

すんません……俺に何ができるんですかそれ。

「あ、そういえばこないだ新作のロープレが」

話題をそらそうとしたけど

「お前一般常識には自信あるだろ?常識じゃどうなの?」

戻された、つうか、あぁ、お前が求めてる俺の役割って主にそれなのな。

「お前はねぇのか、常識」

「あったら聞いてない」

なぎさは腰に手を当てて高らかに笑った

「あっけらかんと言うな!常識ぐらい身につけろ!ったく……」

こいつに突っ込むのが俺のいつもの日課で

「常識って誰が決めてんの?」

とそれをさらに非常識で返すのがなぎさで、こんな感じの毎日で。

 これで話題が政治とか社会ネタじゃなかったらなぁ。

 まぁこいつに月九とかそういう話題期待するほうが間違ってるけどさ。

「いっとくけど!普通男は愛のある行為を望んでるのが多いんだぞ!男は敵だとか、わけわかんない思想に染まるなよ!」

とだけ釘さしといたら

「つうか、そんな考えに染まってたらお前とこんな話しない」

だって。まぁなぎさにはエロ本取り締まるような変なおばさんになってほしくないと思ってさぁ。

 もうこれからは普通の高校生ライフ期待しての会話お前に頼んでもいいか?

 今度駅前の定食屋でさぁ……。


 いやでもな、やっぱりなぎさは高校生なんだよ。

 こないだ生徒会でせっかくバイト禁止の校則を「高卒で就職する奴には足かせでしかない」って改正の署名集めたのに、「学生の本分は学業」とか「夜遅く帰るのは」とか保護者のなかでも保守派の反対にあって(その反対のされ方もまた高校生らしい)それに対して「親の収入で子の経済状況が左右されるのは」ってなぎさが反論したけど、なぎさは口は弱いから丸めこまれたって話。

 生徒会長が無能だから、とはあんま思わない。

 口が得意な奴が言ったって、大人達は俺らのことをまだまだ子供だと思ってるのは事実だし。我ら生徒会長は口が弱いからこそ多数派の意見も少数派の意見も聞こうとするだろ。

 で、土曜日に波止場モールの専門街で俺らは反省会という名のなぎさのやけ食いに付き合わされた。

 反省会って生徒会でやるんじゃないかって思った?俺も聞いたよ。

 そしたら生徒会の反省会は食わないからそれとは別にだって。

 おい、帰宅途中の飲食は禁止じゃないか、いいのか会長。

 まぁいいや、ソフトクリームを食いながらなぎさは言った。

「今回は反省すべき点が沢山あった、まず生徒会新聞をPTAに見られて、アルバイト禁止の校則の是非についてアンケートを取ったことが知られた。あれはもっとなんかみつかんないようにやるべきだった」

そういう話しかしたくないらしいな、なぎさ。普段俺に携帯かけてくる時は「あのボスどう倒した?」とかどうでもいい話しかしないのに。

「アンケートの結果はアルバイトがしたいが二番目に多く、次にしたくない、最後に一番多いのがどちらでもないだった。このどちらでもないが曲者だった」

興奮してしゃべるな、ソフトクリームが飛んでるぞ

「したくないんでもしたいんでもない、個別に聞いてみるとどうも『なんでやらなかったの?』って就職試験の時聞かれるのが嫌らしい、就職するんだし今のうちは学生ライフを満喫したい、でもみんながやってるとなると……ってとこらしいな」

なぎさ、ソフトクリーム食うの、早っ!もうコーンしか残ってないぞ

「そういうこと言う人の意見が生徒会でも取り上げられて、一体ほんとうにアルバイト禁止の校則を廃止にするのがいいのか、とか、その校則も破るのがいるし、形骸化してないかとか」

お前が今買い食いしてるみたいにな。

「ただ形骸化してるけど、校則で禁止だから面接でアルバイト経験を聞かれないって利点はあった。そこを見逃してたな……まぁアルバイトから社員になるって話もあるだろうけど、とにかくだ、今回のは社会体験授業もあるしそれを就職面接に生かさばいいんだから……って言われた。あと、アルバイトで得たお金を何に使うつもりだとも突っ込まれた」

俺なら普通に生活費になっちゃうけどな、

「あまり高校生らしからぬものを欲しがったりされると悪い影響がある、そうだ。そうだ松助、お前に伝言だ、あんま変なビデオをみるなって……でもなんで?」

ソフトクリームのコーンを食いながらなぎさはしゃべった

「俺の見てるのはただの映画だから大丈夫だって言っとけ!(もちろん、そんなわけはない)それはあれだな、18禁だからだろ。それと、あんまPTAに俺のこと話すな、ばれちゃまずいことやってないつもりでも、気分が悪い」

「ばれちゃまずいことなのか?」

なんでこいつこういうこと知らないんだろ、

「お前は知らないだろうけど、そういうものなの!」

俺は例のごとくなぎさにつっこんだ

「お前みさきとそういう話してる時楽しそうだったじゃないか。そういうものなのか?」

納得してないらしい、あい変らず、世事に疎いやつだ。

 もうこんな馬鹿はほっといて俺もなんか食べよう、たこ焼きにしようかな。

「なぁ会長、アルバイト禁止の校則、形骸化してるって言ってたな?」

洋はたこ焼き屋の前にあるベンチになぎさを座らせて言った。

「……あぁ、破っても罰則がないっていうか、先生がもう破られるの仕方無いってあきらめてる。何屋とかで働いて、もっとやばい仕事にはつかないんならいいだろうって」

なぎさはふさいでる、こいつがふさぐとか……。

 膝を抱えてるなぎさを洋はどこか愛おしそうな瞳で見ながらこういった

「もっとやばい仕事ってどんなんだろな?」

洋、お前それをなぎさに言わせて何考えてんだ

「えぇっと、なんか制服でマッサージしたり散歩したり?」

ほら、しどろもどろだ

「なら、今もバイト代もらわなきゃ」

洋は本当に意地の悪い笑顔で楽しそうに笑った。まぁ確かに今もなぎさは制服だし散歩してるけどさぁ……なんか違わないかそれ……。

「いや、マッサージしてないし」

ほら、さすがになぎさでも気づくだろうが。ところが

「そうか、それじゃマッサージしないと、おい松助」

そして洋はやおら椅子から立ち上がり俺の肩を掴むと、それをなぎさに向けてこう言い放った

「こいつの肩叩いたら、たい焼きおごってやる」

なぎさは下を向いた顔をあげて鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔してる、つうか、洋よう、JKビジネスってそういうなんか子供のお手伝いみたいなもんなんですか。

「……やらないよな、なぎさ」

俺が言ったが、たい焼きの誘惑に負けたのかなぎさは

「……まぁ一応やってみるか」

とだけ言うと、ほんとうに子供が親の肩叩くみたいに(ただし力は強い)トントンと俺の肩を叩いた、……うそだろう?うわぁやめてくれなんかむずがゆくなる!

「わかった、もういい!」

俺は笑いをこらえるのに必死だった

「もういいって、なぎさ」

洋の声になぎさは手を止めた。なんだこれ俺に対するなんかの罰?すくなくともうれしくはない、新手のいやがらせとしかいいようがない。洋言わないけど俺になんか腹立ててるのか、それか俺が前世で何か悪行でもしたか。痛いとかじゃなく心が痛い、HPとMPにダメージ。

「お前自分の肩叩かせたらいいじゃないか洋!」

くすぐったさに腹を抱えながら精いっぱいつっこんだけど、洋はどこ吹く風

「なぎさ、松助がたい焼きおごってくれるって」

と言って視線を外した。まぁあいつはなぎさに自分の肩叩いてもらったらたい焼きどころじゃないだろけど。

「悪いな、松助」

なぎさのいつものなんにも考えてないみたいな笑顔を見ながら、俺は洋のほっとしたように息をするのを聞き逃さなかった。

 そういうことするから、またいつもみたいに冷たくさせるんだろうに……。

 それにしてもたい焼きおごったらほんとうに元気でるとか、単細胞が。


 

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