第4話 仲がいいほどなんとやら
え?こないだのカラオケどうだったかって?
いいけど、お前も暇だなぁ。カラオケいくならともかく、カラオケの話聞きたいとかねぇ。まぁいいか。
磯辺駅のとこにあるだろ、そう、そこのカラオケ屋になぎさの携帯で日曜日に呼び出された俺らいつものメンバーは(洋は俺が誘ったんだけど)しかたな~く二時間もカラオケするはめになったんだ。
まぁ楽しいからいいけど。
え?俺何歌うかって?そりゃアイドルARISAのヒットソング!……っていいたいけどキーが合わないの!わかるだろうふつう!であるからしてここは普通にですね、コミックソングなんかを歌うんですよ。
そうあの「栗とリスの物語」とか「おしりあいになりたい」とか。
だってもりあがるじゃん、まじになって歌うなんてキャラじゃないし。
いつものメンバーだとトップシンガーはなぎさなんだけど、その日もなぎさだった。なぎさが何歌うかって?まぁ男性ロックにアニソンとかだな。声高いしまぁそこそこうまいんだよ?でもそのなんつうか……。
立って、体全体を使ってノリノリで大声だして歌うのなんでだろうな、……まぁいいけど。
街子は普通に女の歌とか(知らない)アニソン。
みさきはなんと男性アイドルグループの歌、……まぁ女友達と盛り上がるにはあたりさわりもない選曲だよなぁ。
そして洋は、あの有名男性低音ボーカルの歌を主に。
一時間ぐらいは普通に持ち歌を披露、宴もたけなわとなってまいりました。
でだ、カラオケってだんだんと歌う歌なくなってだれるよな。
しかるのち、洋が変なことを言い出したんだ。
「なぁ、いつもこのメンツで、歌う歌もだいたい決まってる、これで二時間持つかな?」
またなんかたくらんでる顔だ。ろくなことにならないような気がする。
洋は鞄をごそごそやると、メモ帳を取り出して数枚破いた。
「で、考えたんだけど」
洋はメモ帳を短冊みたいに手でちぎってる、俺は慌てた。
「王様ゲームならやんないぞ、こないだ『王様と4番キス』とかいって俺とお前がキスするはめになりそうだったじゃないか」
洋がそんなこという魂胆、わかるよな?キスはなんとか回避したけどさ……。
「なのその私得情報」
と食いつく街子を放置して洋は話を進める
「いや、そんな古い遊びやんないよ?それに今日はカラオケなんだろ?みんなの持ち歌以外の歌も聞きたくない?」
みさきはトイレだし、なぎさはポテトに夢中、街子は「ねぇ、なんでキスしなかったのー!ねぇ、なんでぇ?」としつこい、ようはだれも洋の意見なんか聞いてないわけだが、洋はその静寂を賛成と捕らえたようだった。
「この紙に各自一曲ずつ曲名を書くこと、ぐしゃぐしゃにまるめてまぜちゃえば誰が誰のだかわかんねぇだろ」
そんなドヤ顔で言われてもなぁ、よくある遊びだし。
「えぇ?別にいいけど……」
「何の歌でもいいのか?あぁでも自分に当たる可能性もあるのか」
ぶつぶついいながらも街子となぎさは他にやることもないとみえてしぶしぶ書いてる。
みんなの飲み物のお代わりを持ってみさきが戻ってきた。ほんと、お前気がきくよな。みさきにも事情を説明する。
俺もしぶしぶ、洋はほんとうに悪い笑顔で何か書いてる。……何書いたんだよ。
で、各自書き終えたら紙をぐしゃぐしゃにまるめてテーブルの上へ。
洋は一番最後に、なぜかあきらかに「罠」な香りがするほど大きめにまるめて「だれが見ても洋のとわかる」ように置いた、反則じゃねぇのか?あれ?
「よし、じゃんけん」
最初はグー、勝った順に紙を取ってく。洋→みさき→街子→俺→なぎさ。なぎさ、じゃんけん、弱っ!!皆あきらかに罠な洋のを避けてくんで、必然的に洋のはなぎさに行った。
「じゃあ俺から、『BOY』?あぁなぎさの選曲か」
洋がなぎさの好きな男性ロックバンドを上手に歌う。
「僕だね、え?『ともだち』?女の子の歌ってことは街子ちゃん?」
なぎさはとまどいながらその高い声でなんなく女の歌も歌いこなし、
「私のは『女純情北峠』……うけ狙いの演歌って……松助君ね?」
街子は俺をにらんだけど、この演歌はそこそこ有名なので、やっぱみんなにうけた。
俺は、というとみさきのが来たんだ。『一年目の君へ』男性アイドルってあぁみさきのか。この歌なら知ってる。
「松助君ちゃんと歌えば上手いじゃない」
街子の声に俺がいい気になったところで、「のこり十分です、延長しますか」と内線。
「……ってことは私が最後か」
意を決した表情で、なぎさがマイクを持つ。洋、なんて書いたんだ?
「これ松助の選曲じゃなかったのか……『わたしのすきなひと』ARISAで」
えっ!?あのヒットソングを!!
いやそんなことじゃなく……。
「なぎさ、かわいい……」
「嘘う?上手くない?」
なんだなんだなにが起きているんだ。
しいていえばライブ会場、幕張中野サンプラザ東京ドーム。ちゃんと振りつきで、ってどこで覚えたんだなぎさ。
「ださいけど♪」
「ださくても!」
と俺も思わずあいの手を入れてしまうという。
……洋は黙って携帯をいじってる、録画してんじゃねぇだろうな。
ともあれカラオケは終わった。
帰りぎわ「ちゃんと女の子の歌歌えばうまいじゃん」と洋がなぎさをからかって肘鉄くらったのは言う間でもない。
つうかなぎさ、TVあんまみないらしいのにそれをどこで……。謎が深まるなぁ。
なぎさになんで洋が構うかは、俺もわかんない。
俺は洋と女友達(あんなのは友達で十分だ)の街子、三人でよくつるんでるんだけど、なんでも洋の携帯にはこの高校ほぼ全員の番号が入っていて、「女じゃない」と洋が言う街子となぎさ以外はいつだってみんな呼び出せるってうわさがあるんだって?
そりゃ、かぎりなくうそに近い本当だ。
どういうことかというとあいつにも守備範囲ってものがあり、たとえばこないだのはなしのオランウータンは……なんと一応知ってる。じゃあB組の雅は?あの名前に反して目立たない?なんとこれも知ってるんだって、でもなぎさと街子以外にも何人か抜けはあるみたいなこと言ってた気がするなぁ。
そうだ、ついでに街子がどんなやつかをいうよ、太めで、うるさい、腐女子だ。
な、まぁ友達ならって感じだろ。
でも洋はなんてったってなぎさとは政治的意見が正反対で、なぎさが
「日本にもクオーター制度が導入されないかな」
といえば
「そんなのやったって抵抗されるだろ、せいぜい女の意見は参考程度でいいんじゃねぇの?」
だし(クオーター制度ってなんだって?知らねぇよ)
「憲法九条は大事だよな」
ってなぎさがいえば
「あんなおしつけられた法案、廃止して、戦争できる国にすればいいのに」
だなんて、けんか売ってるとしかいいようがないだろお互いに。
なぎさはヨーロッパとかEUとかに傾倒してるからどうしても意見がそうなる。
で、洋は現実主義っていうか、ちょうどなぎさと真逆、そっちよりの新聞ならまっさきに叩かれるタイプだな洋……。
けんかがどうなるかって?まぁだいたい洋がなぎさからかってなぎさがキレて洋が笑って終わり。なぎさ口は弱いからな……。
理想が高いのはいいけどもっと理路整然としろよ、ったく。
んでさぁ、なんの話だっけ?あぁ洋がなんでなぎさからかうかだよな。
洋にこないだ聞いたんだ。
「なぁ洋、お前もう何人目かはともかく彼女いるよな?なんでなぎさにちょっかいだすんだ?」
「あぁ、今カノならまぁ、なんとなく遊んでるだけ」
今さらっと大変なこといったぞ洋、いつか女に刺されるぞ。モテない俺には関係ないけど。洋はちょっと考えて言った。
「……なぎさだけなんだ、俺がちょっかい出して落ちねぇの」
「それだけか?」
「そういう意地もあるし、あともったいないなぁ……って」
「何が?」
「なぎさって、ちゃんと女らしくすればすげぇいい女じゃねぇの?とかお前思わない?」
驚いた。ちなみに俺はそんなこと全然思わない。なぎさは俺らと遊ぶ時いつもジーパンにシャツとかジャージとかだし、あぐらはかくし、こないだなんかまわりにみさきふくめ男しかいない状況で平然と寝てた。(Hな意味じゃない、なんでそうなったかって夜遊びしたわけじゃねぇぞ)大食らいだし、行動力あるのはいいけどハタ迷惑だし、わりと動じないし、化粧っけはないし。
で俺は言ったよ勿論、俺はそう思わないって。
でも洋はガンとしてゆずらなかった
「……あぁいうのが案外一旦恋すれば誰もが見惚れる女になるんだ、そしたらまぁ、なぁ?」
って言ったきり話題そらしやがった、その遊んでるくせにいがいに純情なのはなにか、洋、お前もしかして……だめだ俺の悪い頭ではいい悪口が思いつかない。
そうだツンデレとでも言おう。そうしよう、ツンデレよくわかんないけど。
しかしお前もあれだな、そんなに何か面白いか俺?
こないだ見たんだよ。またあいつらか、本当飽きないなぁ。
「とにかく戦争なんかなくなるか、ジョンレノンみたいなこといいやがって」
「でも、平和な社会の方がお前の好きな経済だって上向くと思うんだけど」
洋となぎさだ、なんだってお前ら仲いいよな。内容も相変わらず政治ネタですか。
「……これがそう見えるか、やっぱり女って感情的だな?」
でた、洋お得意の怒らせて矛盾つつくいつものスタイル。
「洋お前そういうけど、『戦争なんかなくならない』だって感情的じゃないと言い切れなくないか」
なぎさは負けまいとするが
「ほら出た感情論、やっぱり女だ。現実がわかってない」
そういって洋は携帯を取り出し、海外のニュースサイトを読ませた。
「いいかなぎさ、世の中にはすげぇ金持ちってのがいて、そいつが権力持ってる、ここまではわかるよな?」
洋はわざとなぎさに同調するようなことを言った
「で、そいつが戦争をする国や団体に金だすだろ、こんなことも知らないの?」
なんだそれ、漫画じゃあるまいし。なぎさは懸命に反論を試みる。
「納得できない……そいつの目的が金儲けだとして、なんで戦争しなきゃなんないんだ?例えば一つの戦争で戦死者が十万でたとして」
「十万じゃたりない」
洋は確実になぎさのぼろをつく。
「そんなに戦争のリアル知らないのに、戦争いくないとかいっちゃって?」
なぎさは思わず感情的になる、あ、こりゃまた負けたな。
「たとえはたとえだろ!十万人の人が死んだとしてだ、その十万人が生きてればいくら使うと思う?そしたらそいつだって潤うよな?そういう経済効果だってあるだろ」
まぁそうかもしんないけど……
「それは二つの意味で間違ってる」
感情的ななぎさと対照的に、洋はすっかり得意顔だ、
「まず、お前は経済を知らない。俺のこの携帯、最新モデルでみんな欲しい、でもみんなもっちゃえばこの携帯値下がりするよな?」
洋はとりだした携帯をしまった。
「そんなふうに、富を持ってる人は一人占めしたいの、そうすればもっと貧しいやつの上澄みをすすっていられる。自分の富だって相対的な価値が上がる。なかよく半分こなんて、子供の世界じゃあるまいし、お前体育でバスケやるだろ」
洋はうすら笑いをしている
「ボールは一個しかないの。半分こなんてできるか、ゴールに入れるかボールを奪うか、資本主義ってそういう世界なの」
洋らしいニヒリズムだ、こうやって頭の悪い俺なんかのことは考えもしないで、こいつはなんか人と違う人生を歩きそうな気がする。
「……でも、体育はバスケじゃないこともあるよな?」
なぎさが反論を始めた
「?社会主義ならやめとけ、とっくに失敗がわかってる」
洋はさも当たり前に言った。
「……そうじゃなくって、けんかでは相手のやり方にのらないのが基本だ、ペースに飲まれる」
お前今まさしく負けそうだしな。
「いかにして自分のペースで、得意分野で。相手のボールが奪えないなら、もう一個ボールを持ってきて別のコートでやるとか、なんかそういう方法があるはずだ」
洋はさも得意げに言った。
「ほら、女はそれだ、資本主義が悪い?もっと私らしく?そうやって資本主義から抜けて、ロハスな生活なんかしちゃったって負け組まるだしなの。結局、ある特定の人々がそういうひとの取り分を『これももらい』って太るだけ、なんの解決にもなってやしない」
あれ?なぎさはそんなこといったっけ?
「私調べたんだけど、資本主義って『自然発生的に』つうか、もともとは働くのが尊いって考えから産まれたんだ。……なんかキリスト教が関係するとか?んでさ、私思うんだけど、もっといいやりかたがあっていい」
こいつ馬鹿なのか頭いいのかわかんねぇな、おい。
「馬鹿か、Wikipediaと違うぞそれ。だいたいそんなのがあったらみんなとっくにやってる、今のところ資本主義が、一番いいやりかたなの」
洋は全く相手にしないが
「お前のいってることやっぱり変だ。悪いことするっていうより、いいことするっていった方が人も集まるんだ。私の言いたいのは」
なぎさは懸命にそんなに強くない口げんかに負けまいとする。
「例えば、バスケにも大会がある、勝者がいて敗者がいて……」
「それが社会だ、けんかも一緒だろ?」
洋は勝利を確信したように得意げに話す。
「でも、これは経済の話だろ?お前の携帯を同じ値段で買うんじゃなくて、似たようなのを探したり、それこそ同じのを作ったりしてもいい」
洋は大笑いだ
「これだからったく、そんなことしたらデフレがだな」
洋はあぁ見えて勉強してんだな、俺何いってるかさっぱりわかんない。案外『なぎさに負けてたまるか』ってこっそり勉強してたりとかすんのかな。
「でも、いいことするって言った方が人があつまるじゃん。そうやって人集めて、なにか作るし食べるよな?経済じゃん。そしたらお前のいうキトクケンエキももっと得すると思うんだけど」
なぎさってなんでこう、すぐ「世の中もっとよくなる」なんて言い出すんだろ。世の中なんかかわんねぇし、どうにかうまくやってくしかないの。
「じゃあお前こないだの『女子高生と○○《マルマル》する人』ってネットに書き込みあって、騒ぎになったのどう思う?」
(◯◯って、そりゃ、勉強とかだろ)洋はわざと、なぎさが嫌う話題を振った。
「ひとなんて悪い事もしたいの。だって弱いやつが自分にかしずくの気持ちいいじゃん。悪いことだって人が集まるの」
洋は本当、なんであんな悪ぶるんだろう。実際は万引きだってやったことないくせに……。(ちなみに誰かにそれを指図もしない)
「それだって捕まったじゃんか。社会的に地位のある社長さんとかお前の尊敬する人にだって、ちゃんと募金とかやって社会貢献する人だっているよな?」
なぎさは引かない、洋は反論する
「それだって結局それでその会社人気が出て、結局そこが募金なんかより得するんだよ。馬鹿じゃねぇか、あぁ馬鹿にからまれて昼休み損した」
洋はなぎさを馬鹿にして、昼休み終了のチャイムが鳴った。
俺は思ったよ。あぁなんだって今日もパン買いそびれた。
なぎさは「あぁ今日も負けたのかなぁ、まぁいいや、練習だ練習」とあまり気にはしていないようだ。
「……もう一つボールを持ってくる?人を集めて?それ会社じゃねぇ?」
洋は洋で、なぎさの言うことに関心はしてないものの何かヒントを得たようだ。
やっぱり仲いいよな、お前ら。
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