俺は日記を書く。正確には物語を書くように…
俺は、革貼りの日記帳にここまで書き記しながら、少しだけペンを止めた。
それはにわかに雨の匂いを察知したからだ。
中性ヨーロッパを彷彿とさせるアンティークに囲まれた室内。
俺の今居る机のすぐ前のアーチ型の窓にチョコレートのように四角い柵が入り左右に止めたカーテンがついた、可愛らしい窓には、夕飯時の夜の景色が映し出されていた。
その空を見ると、何となく茶色を帯だような明るい藍色の空になっていた。
それがどんどん増えて深くなるのだ。
「雨雲だな…」「空が明るい…」
ぼんやりと呟いた。
ちなみに俺の魔法の属性は、水。その為に他の属性よりも水の気配には敏感だった。
「降るかな?」
察した気配を探る。
空気中に漂う水分を体に吸い込み、その水分量を目を閉じて計る。
「research(リサーチ)!」
自分の体に魔法をかける。
身体中に赤紫のオーラが一瞬立ち上ぼった。
ふるん♪
風が鳴るような音がして、計測が始まる。
再び、オーラが体の周りに集まり辺りに満ちていく。
心地よい風の流れに任せて、俺は両手を膝に置きじっと目をつぶる。
目を閉じると力の流れがよく分かる。目を閉じるとそこは黄金色の世界で緑や深緑の光が取り囲み通り抜けて頬を撫でていく。
風が髪を揺らし心を暖かくする。
そう力を解放するということはとても気持ちのいいことだった。
ーーなんて、心が洗われるんだ…
何とも、恍惚とした気分にされされた。
少しすると計測は完了した。
ーー相変わらず、計測になると遅い…
自嘲じみて口元を緩ませながら、目をゆっくりと開く。
誰も見ていないのに、俺一人だったが何故か恥ずかしくなって苦笑いをする。
[降水確率は90%です] 妖艶な女性の声が響き渡った。
俺は二三度瞬きをすると、
「やっぱりこれから雨か…」
と溜め息混じりに一人言を言ったのだった。
「迎いに行ってやった方がいいよな?」
まあ、俺の助けなんか望まないだろうけど、あの人は本当に美しくて尊い大切な人なんだ。
ーーアリシア…
この国で一番強大な魔力を有していると言われ、その力ゆえに世間から冷遇されて虐げられている…
そう彼女をいじめている人達は彼女が死んでも構わないのだ。
だから、処刑されるような垂れ込みを言って彼女を陥れようとするのだ。
それもすべて根も葉もない、デタラメを並べているだけに過ぎないのに…
アリシアの力を恐れた役人たちは、それを鵜呑みにしてはよく調べもせずに、アリシアを糾弾するのだ。
彼女の家族は彼女に優しいが、一歩外に出れば世間は冷たく背を向ける。気心知れた仲間や友人と云う人もいなくて、常に誰かに狙われていることを恐れないといけなくて、軽い人間不信になっている…
そんな辛い人生を送っている人が、今の自分の姉となると守りたくもなるだろう…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます