起動する力…
冬の歌姫が力を使い、凍てつく氷の地帯に一面を変えたその頃と同時刻。
ここ、西ルレルバスタル大陸の東側の第三王国にある、音楽聖堂の第2司令室で、大気の変化に気がついた武力を司る夏の歌姫が、春夏秋の歌姫のまとめ役であり、総司令官の春の歌姫に、その変化を報告しに来ていた。
「冬の歌姫が、アーク・ソールと共に、聖地カナルを歌で凍結させました」
恐れていたことが起きたと言わんばかりに冷静に報告しているつもりだったが、その声に震えが含まれていた。
六面の大型電子パネルが埋め込まれ、いろんな場面が映し出されていた大型コンピュータの前に立ち、夏の歌姫に向き直っていた春の歌姫はその報告を聞き、ついに起きてしまったと今にも泣き出しそうに痛ましく顔をしかめて肩を落とし、夏の歌姫に背を向けた。
「ついに起きてしまったのね…」
パネルのキーボードに崩れるように寄りかかり、憮然としていた。
あの地帯は、五十年前に閉山したエレメントエネルギーの採掘場だったのだ。
今は、別の場所で採掘されているエレメントクリスタルは、地下2000メートルの層から採掘される、最初は岩石ような物質で、直に触れれば人を即死させてしまうほどのエネルギーを放っているだけだが、操縦者になるエレメンタル能力者の血肉を与え、鍛えることでそれは人が直接触れても無害なメインコアと呼ばれる虹色に輝く、人を守るエネルギーになるのだ。
それは、アーク・ソールという名の人型魔闘兵器のコアになるのだ。
歌姫の空位の時代が続き結界の力が弱まり、魔族が召喚する絶対的な悪の力を誇る魔物『混沌の化身』を操り攻め云ったときに、その圧倒的な邪悪の前に人々は屈し掛けていた…。
でも、最後まで諦めなかったから、あの伝説の戦場の歌姫によって、エレメントクリスタルが生まれ、アーク・ソールが誕生し、魔族を結界の外へ追い出すことに成功したのだ。
そして正式な春夏秋の歌姫が選ばれると、戦場の歌姫は、夏の歌姫の一人に、すべての有事を託して、何処かへ去った。
アーク・ソールを残して…。
その冬の歌姫とアーク・ソールが凍らせた場所が、一番始めに戦場の歌姫の力によって、エレメントクリスタルが生まれ採掘された場所だった。
今は、エレメントクリスタルが採掘できなくなり、閉山してしまい。遺跡として自然公園のようになっていた。
そこは、魔闘士に取ったら、聖地に値する場所…
彼女は、いや彼らは、そんな大切な場所をどうしょうというのか…
春の歌姫は、不意に彼らを思い出して目を上げる。
力を奪われしもの、罪人たち。
ナガラク彼らは、日の当たらぬ最下層の世界で生活していた。
それがある日、あの事件が切っ掛けで…
彼らと新たに誕生した冬の歌姫に、土地を与えると…。魔法大臣のアリアンセリオルタンチアテーシャ・ナリアナの独断専行で決まった。
あの柔らかなウェーブがかった淡い金髪の誰に対しても優しげな印象とは裏腹に、彼はあの冬の歌姫に恋い焦がれて…独断的になり、我々には高圧的な態度を剥き出しにし、古からの鉄の掟をいとも簡単に破り捨てた。
魔法大臣がそこを納めるように命令したとはいえ、彼女は我々を嫌い、少なからず阻害されていことへの憎しみを捨てきれずにいることを知っていた。だから、そのような行動を取ったのだ。魔闘士たちの神聖な場所をまるで封印するかのように、凍結させた…
「何度も交渉しましたが、彼女は我々を信じてはくれませんでした…」
夏の歌姫が無力さを噛み締めるように苦しく言う。
「…でも、こちらにも負い目があるから、あまり強くは言えないのよね…」
春の歌姫がそう呟くと、夏の歌姫は悲しそうに眉を下げるのだった。
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