ファンタスティックメモリーズ~俺の異世界日記~

石川夏帆

氷の歌姫の支配…

[chapter:歌う凍てつくお姫様!]


30メートル以上の高層ビルくらいの大きさと思われる、自立歩行ロボットのような人型の巨体建造物は、コンクリートと岩と砂の塊の不毛な土地に接近していた。

水分がないのか、その地面は激しい砂塵を巻き上げながら風が唸り声をあげていた。

その巨大な人型は、飛行機のような翼を持ちその後ろの縁から光を灯しながら、まるでそこを見渡しているように、しばらくその土地の空で旋回している。


人型飛行物体が旋回する度に、翼の光が尾を引き、粒子が舞う。


その人型の周囲に丸いバリアを張りながら、白いペチコートがついたワンピースを着て、飛びまわる一人の若い女性がいた。


ーーまるで隔離された場所…


何一つなく、まっさらな土地…


サングラスをかけて謎めいた雰囲気の女性は、そのコンクリートの土地を見詰めて、不意に視線を険しくした。


しばらく黙っていたが口を開く。


「あなたも捨てられたのね…」「採るだけ取られて…」


切なくそう言うと、一回目を伏せて、また視線を戻した。


「まあ、いいわ!」「歌ってあげる…」


氷のように冷たく弾く声で言い捨てると、何処からか白いタクト出すと下ろしていない長い黒髪を払うと、片手を耳に手を当てた。

手を当てたそこから、白い光に包まれたヘットセットマイクが生まれて、左側のヘッドの部分に氷の結晶が連なったしだれが現れた。

数秒もかからずにヘッドセットマイクが装着されると、そのヘッドセットマイクはすべてが氷の結晶に包まれ、日の光を吸い込んで光輝いていた。


彼女は指揮者のようにその人型に指示を出すようにふり、それから深く深呼吸をすると静かに呟く。


「ミュージックスタート」


すると何処からともなく音楽が鳴り始めた。


彼女はその音楽のリズムに乗りながら目をつぶった。


伴奏の音楽が始まると、メカニカルな重装備だった人型に変化が生まれ始めた。まるでパズルゲームのように、どんどん装甲の下へと収納されていき人らしい滑らかなスタイルに変化して、天使そのもののような形になっていくのだ。肩から胸へ腰にかけて襷をかけるように薄い綺麗な羽根と水晶のような結晶がはえ、収納された飛行機のような翼の代わりに大きな二つの翼が生えて白鳥のように羽を伸ばす。

胎児の姿勢になった人型の中心に、やがて光が集合してくる。

数秒もかからないうちに、楽器のようなものへと光が集合していく。


そして、その人型が構えたのは、ハープだった。


伴奏の音に合わせて、人型は、人間らしい仕草でハープを弾き始めた。


そして次に目を開くと、素っ気ない態度とは裏腹に、優しく温かみのある声で包むように歌い始めた。


「歌うあなたの傍で~♪」「あなたの涙 私に拭かせて~♪」「泣き疲れるまで一緒に泣いてあげるわ~♪」


人型はハープを弾き、彼女が歌い始めると、周りの気候が次々に代わっていく。


気温が下がり、雲一つない青い空が、何処からともなく現れた雲に覆い尽くされた。

彼女の力は、禁断の力"冬"だった。


だから、彼女の力によって、気候や気温天気に変化を能えていく。


呼び起こしたのは雪雲で、冷たい木枯らしを軽くふかせると、深々と牡丹雪を降らせ始めた。


彼女と人型は、踊るようにその地帯の上空を飛び回る。


優雅にそして可憐に…


数分もかからないうちに、真下の不毛な土地を白く覆った。


しばらく演奏会は続き、彼女が歌と人型のハープの演奏を終える頃には、その地帯すべてが雪と氷に閉ざされた。


白く反射する土地を見下ろして、満足そうな声で詠うように呟いた。


「やがて訪れる来すべき時に、あなたは目覚め、私と踊る…」


彼女は、優しく笑うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る