第3話 助けないと。
辺りは暗くなって来た。
結局、エリシアの足取りは掴めなていない。
俺には臭いなんて分からない。ただ場所を探し回っているだけだ。
ラミナはどうなったんだろうか?
俺が今いるのは、俺たちの住む地域よりひどく貧しい人達が住む地域だ。
帝都唯一の貧民街。
明らかに浮浪者などの姿が目立つ。
餓死したのか、もう人なのか疑問に思うほど痩せ細った姿で倒れてる人を見かけた。
心臓の打つ音がうるさい。
不安に駆られて涙で視界が歪んでくる。
一端立ち止まり、深呼吸をして落ち着かせた。
考えられるず、思考力が鈍った状態で助けられなかったなんてなったら後悔してもしきれない。
エリシアは、エルフである。不幸中の幸いであるが、エルフはお金になる。殺される事はないだろう。
ただ、早く見つけた方が良いのは絶対だ。
奴隷にされるのだけは避けなければならない。
奴隷への絶対服従魔法。命令に従わなければ激痛が走るようになる魔法だ。あの魔法を施されれば奴隷として生きていくしかなくなる。奴隷にされて俺が運よく買えればいいが、そんな可能性は万に一つ。
エルフの奴隷の需要は高すぎる。破格な値段であるし、この国の貴族の連中がこぞって買い求めるからだ。
人間が編み出した魔法の中で、最悪の魔法だと思う。原理は分からないけれど。
奴隷商人には渡されてはならない。
盗賊に襲われたのは初めてだが、盗賊のやつらに連れてかれていた子を助けた事はある。
ずっと日陰の暮らしをしていた為、裏の情報にも詳しくなってしまった。
この辺にひとつアジトは確かあった筈だ。
あの時は短い間の内に夜、行動を起こしたから、俺の事を覚えてる可能性はほとんどいないと思う。…覚えていたとしても、俺の今の様子は大分違う。
でも危険度はかなり高い。
まず、盗賊達の根城に向かう時点で相当危険だ。近づくだけでも、最悪何されるか分からない。
だが、一縷の望みに賭けて行ってみる事にした。
我が身を気にして、エリシアを助けないなんて俺には出来ない。
近づいて行くと、あの時、家に近づいた時と同じような感覚がした。
喉が詰まるような。
なんだろう。この感覚は。
そして、あの時より今の方がかなり強い。
あの時は、気がつくのが不思議なくらいだったけれども、今は意識すれば気付くぐらいだ。
空間が少し、ほんの少し密度が高く重いような気がする。
体は何ともないのだけれど。
魔力の感じに似てるのか?
ウルノドには、確かな属性全部使えるのは驚かれたが、才能があるわけじゃないと言われてるし。確かなことは分からないのだけれど。
でも、その感覚を信じて行ってみる事にした。
何となく、いや、確実にここな気がするのだ。
もしかしたら、亜人狩り専門の盗賊達なのかもしれない。
最悪、狙われていた可能性もある。
ただそうなると、帰ったら、家を出る必要があるかもしれない。
最悪だ。
まぁ、2度も同じ所を襲撃するようなやつは普通いないけれど。
多分、あんまりやらせたくはないが、全員で攻撃をしかけたら追い返せるかもしれない。
家の裏口側には結構な数の死体があったし。
あれは、エリシア達がやったのだろう。
普通より大きい盗賊団でもあれだけの被害を受けたら、結構ダメージは大きい筈だ。
それに、ここら辺の盗賊団の規模はあの時、小さかった筈。
俺も、日陰の方で暮らしてたからか、こういうのに詳しくなってしまった。
盗賊団がアジトにしているだろう建物が見えてきた。
俺はそこから咄嗟に隠れた。
何故我が身分かったのかというと、明らかに見張りをしている奴がいるからだ。それに、あそこだけつくりが悪くない。家の作りがしっかりしている。
一見、ボロボロに見えるのだがよく見るともろそうな場所もちゃんと補強されていた。
ここから見えるのは、3人ほど。
1人は、建物の入り口に居て、2人は見回っている。
服装は、まんま盗賊という格好だが、俺が追いかけたりした盗賊より体格が良い。
油断した様子が殆どない。
ん?と疑問に思う。油断した様子もないが、代わりに、特段警戒した様子もない。
何となく、違和感がある。
盗賊がアジトの周りを見回るだろうか?
確かに、攫ってきた後だし警戒はするだろうけれど。
逆にもし彼らが犯人なら、はいそうです、と言っているようなものである。
ほんの些細な違和感だが、雰囲気が違う気がした。
おかしいと思ってると、その違いは結構気がする。イメージとの違いだから確信は持てないのだが。
まず、歩き方。
盗賊にしては、歩き方が規則的な気がする。一定のリズムが存在するような感じだ。
姿勢も、盗賊とは思えない。
背筋を伸ばし、まるで兵士のような歩き方だ。
確かに、兵士崩れの盗賊などはいると思うが、彼らがその姿勢を盗賊にまでなって守るか?
守るとしても、最近戦争の話なんて聞かない。
それにここは帝都である。兵士崩れの盗賊がこう固まるのか?
とにかく、あの場所を確かめる事は絶対である。
そう思うと、緊張とかで体が硬くなっているのが分かった。よって、静かに深呼吸をする。
あいつらはどうするべきか?
具体的に見回りはどうするべきか?
警戒はされない方が良いのは確かだ。
魔法で仕留めるとすると、声を出されるのは最悪。
ラミナと一緒に戦った相手の場所には、あの後人が集まって来ただろう。
火の原始魔法は最悪だ。
これが、相手の体内に魔法を発動出来たら良いのだが、それは出来ない。
何か媒体となるものが体内にあれば良いらしいが、そのままは不可能だ。
土の原始魔法は残念ながら使った事がない。
エルフは一応、全部使えるのだそうだが、風しかほとんど使えないのだそうだ。
かなり難しかったそうだ。それに練習しても使っている間は本当に効率が悪いらしい。
エリシアとウルノドが火の魔法が使えたのは、その必要に駆られて練習したからだ。
未だ会ったことはないが、火の原始魔法を使えるえるのはサラマンダーという種族の人達だけらしい。
エルフの火の原始魔法の効率の良さは、風に対して、1対10ぐらいなのだとか。
ウンヴィーネのアルテナのおかげで水の原始魔法は使える。あの娘は確か十二歳だった。
暇なときはよく引っ付いてきて、何かとよく相談にのったりお喋りしたりする娘だ。
そのとき、俺が水の魔法に興味をしめしたら教えてくれたのだ。
声を出させない為には水を口の中に突っ込んで窒息死させるのが一番か。
あの娘が教えてくれたことをこんなことに使うのは本当に申し訳ないが。
そんな事を考えていたら、他の盗賊の奴が向こう側の道にいるのが見えた。
やばい。アジトのすぐ周りだけじゃなくて周辺事態を見回っている。
危機感に駆られて、俺自身の周囲もいないか探してが、幸い見つかっていないようだった。
これは、このままここにいるといつか見つかる可能性がある。
ん?いや、待てよ。逆にチャンスじゃないか?
離れて見回っている奴から情報を聞き出せば良い。
追っている相手と対峙した時は情報を聞き出す暇なんて無かったが、今回はそれが有用であるかもしれない。
盗賊達がいる建物から一旦離れる。
隠れながら、あの盗賊の格好をした奴がいないかと探していると、2人の奴がペアになって見回りしているのが見えた。
やはり、ここまで警戒する盗賊なんているのか?という疑問が脳裏を掠めるが、行動に移す事にした。
まず 使うのは、やはり風の原始魔法にした。
これが、一番教わった事があるもので、一番得意だからだ。
エリシアとウルノドは人肌は普通に切り裂く風の刃のような物を出せるけれど、俺には出来ない。魔力の出力はあってもあんなに繊細に薄く風を高威力で出す事が不可能だ。
だが、無力化する方法は、少人数を奇襲ならその限りではない。
あの、エリシアとウルノドの使える風の刃は戦闘でも奇襲にも有用だから、あれに越したことはないけれど、やりようはある。
魔力を手に集めて、そして操れる空気を作った。
2人の盗賊達がこちらに歩いてくる。
人気のない場所に来たところで、彼らの、その顔の鼻と口に向かって、思いっきり風叩きつけた。
相手がよろめく。
何が!?と盗賊の格好をした男2人は驚愕、困惑したような顔をしたが、自分の仕事を思い出したのか叫ぼうとした。
だが、その開けた口に再度高出力で風を入れる。
彼らは蒸せ返るような仕草をしたが、それも出来ない。
空気が喉に入ってきて呼吸が出来ないからだ。
一旦止めると彼らは、叫ぶ前に空気を求めて空中に手を伸ばすような動作する。
だが、そのまま空気なんて吸わせてあげるわけがない。
口を開けたままの彼らに水の魔法で口の中に水を叩き込む。
すると、2人はいきなり口に入ってきた水を思いっきり吸い込んだ。
肺がやられたのだろう。胸を押さえて2人して崩れ落ちた。
俺は駆け出す。
2人は、地面に転がって暴れている。自分に生じた痛みに周りが見えていない。
彼らは、ぜーっぜーっと空気をなんとか取り入れようとしていた。
あの様子なら、数分したら肺は両方はやられていないだろう。多分、水を含んだだけじゃすぐに回復してしまう。
2人いれば、証言の信用性が出るが、そんな余裕はない。
1人のほうに、火を口の前に灯した。
それを吸い込み、肺に火傷を負った男は力を失って倒れこんだ。
そして、もう1人のほうに近寄って上から押さえつける。
驚愕した男は、腰に手を伸ばしたが、それを警戒していた俺はその手を力を込めて踏みつけた。
座った状態で力も本気では入らない。骨を砕くには至らなかっただろうが、変な音がした。
そして、その腰に向かって手の先の物を取り上げる。
剣。
盗賊が使っているような短剣ではなかった。
普通にの大きさである。
妙な真似を出来ないように、もう片方の手も思いっきり踏みつけた後に、 隣でぐったりしてい
る男の事を剣で首を切った。
雑な切り方。血が噴き出る
目や口には入らないように水の魔法でこっちに飛ばないように幕を作った。
「ま、魔法、つか…」
下の男が喋ろうとしたので、首筋に剣を当てて黙らせる。関係ないことでも、騒がせるわけには行かない。
剣を突きつけた男の顔は、怯えの一色に染まっていた。
「おい、エルフを攫ったのはお前達だな。」
自分でも驚くほど冷たい声が出たのがわかった。
「た、助け…」
再度、男の首筋に突きつけた剣に力を入れる。男の首筋に少し食い込み、すーっと血が流れた。
「黙れ。助けるか助けないかはお前の返答次第だ。質問に答えろ。さもないと殺す。理解出来たのなら頷け。」
男は怯えた表情で頷いた。
「エルフを攫ったか?」
男は首を縦にふる。
まぁ、この返答は嘘をついてはいないだろう。嘘なら首を縦に振る必要がない。
エリシアとはまだ決まってないが…そう確信した。
「じゃあ、あの建物に入るにはどうすればいい?答えろ。返答次第では生かしてやる。」
そう言うと、男は希望を見つけたのか、喋りだした。
「わ、分かった。と、扉の所にいるやつに言えばいい。あ、あいつの名前はトルガ。い、言えば、信用してくれる…。」
嘘をついているかは分からないが…多分そんな雰囲気はない。怯えたいて、聞いて直ぐに内容を話出したし、目を離さなかった。
「全員で何人いる? 建物の中の人数を教えろ。」
「な、中には12人だ。普段は、もっといる。だけど、今は頭と出かけている。」
頭っていう時に違和感があった。
「いないやつらの人数は? 全部で何人だ? 中はどうなってる? そいつらの居場所は?」
「全部で30人だ。今は、俺たちみたいな見回りが6人、建物の周りを4人だ。地下室の牢の見張りが5人いる。後は上で待機してる筈だ。部屋は地下室と後一部屋しかない。そこは誰もいない筈だ。そこは、食料とか置いてある。」
「お前の名前は?」
「グテットだ。」
こいつは、素人の俺では嘘を言っているようには見えない。でも、喋り過ぎじゃないか?
余計な事も言ってた気がする。
「おい。嘘ついてないだろうな? 何か黙っていたら殺すぞ? 聞いた事は全部話せよ?」
「、ない。」
?返す前に少し間が空いたな。
「本当か?」
「あぁ。」
そう言って男は頷いた。
嘘だ。嘘をついている。
「おい。嘘をつくなと言っただろう? さっき見ただろ?俺は魔法使える。嘘を見抜く魔法ぐらいある。嘘をつくな。話さないと殺す。」
もちろん、そんな魔法はない。
見抜いたのは目線からだ。
昔、心理学の本で得た知識だけれど、目の意識空間配置というのを読んだ事がある。
結果は統計学から得たものなので確実なものとは言えないのだが、右上の空間が創作物や嘘を考えている時に向く空間。左上が事実を思い出している時に向く空間だと読んだ事がある。
この男は、俺から向かって左上を向いた。すなわち男は自分から向かって右上の空間を向いた事になる。
「おい、答えろ。やはり、死にたいのか?」
そう言うと、男は「ひぃっ!」と怯えて喋った。
「あ、と、トルガに隊のやつだって証拠に俺の剣を胸の位置に掲げなきゃならない。」
「本当にそれだけだな?」
「こ、これで全部だ。」
今度はそんな兆候を見せなかった。
俺は男の上からどいて、水の魔法を使って、再度窒息させる。
このグテットとかいう男は、意識を失った。試しに首に剣を突きつけて触れさせる。
起きる気配はない。
狸寝入りの可能性は低そうだ。
俺は、こいつが着ていた盗賊風の服を脱がせ自分から着ていく。
下に何か硬いのがあると思ったら、グテットという男は軽装の鎧を着てのか。
何故だ?と再度考えると疑問に思う。
盗賊が鎧?しかも、見回りに出るような奴が?
それに、さっきの盗賊の人数だって多すぎないか?大規模とは言わないが、帝都でそんな盗賊団が存在し続けられるとは思えない。
アルキス帝国では、かなり治安が良い筈だ。
他の都市に行った事がないから分からないけど、ここまで発展した都市にスラムとは言えそんな盗賊団が…?
俺が、家にいる奴等を助けられたのは盗賊達がそこまで人数いなかったからだ。
過去に聞いた帝国の物でも、多くても10人いかなっただろう。
それに隊?
疑問も持ちながら、鎧も拝借して、着込んでいく。
もう少し、聞けばよかったと思うが、気を失ってしまった。
まぁ、一応、侵入して必要な情報は貰っただろう。素人だし、足りないものもある可能性もあるが。
鎧の下にはただの服しかなかったので、後は、腰に下げていた袋、剣を貰って腰につけた。
完全に盗賊の出で立ちである。
鎧の下のプレートとやらも確認済みだ。銀色の掌に収まるぐらいの板だ。
さっき来た道を戻っていく。
作戦としては、この状態偽装しであの建物の中に入るつもりだ。
咄嗟に思いついた作戦なので、正直穴はあるだろうが。
そう言えば、この服はそこまで臭くない。あの追っていた盗賊の奴等は、汗の臭いなど刺激臭だった。
こいつは、臭うもののそこまでではない。
エリシア。絶対に助けるからな。
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